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13-10 アンナの戦い

ご愛読、ありがとうございます。

今回はジェリルの戦いの結末とアンナの戦いです。

 神獣人の協力でダイエットに成功したジェリル、果たしてその成果とは?


 筋肉を絞って半分くらいの体重になったジェリル。

「何これ、軽ーい」

 ヒュンヒュンと消えるように動いて見せる。

「お前何をした。本当にジェリルか?」

「私じゃなければ誰だって言うのよ」


「筋肉をなくして力も無くしたか?」

 パンチを繰り出すシュビ。

 それを両手で受け止めるジェリル。

「おのれ、放せ」

 ジェリルがグッと力を入れるとシュビの両腕は砕ける。


「グウヲオオ!!前以上の力を!」

 シュビは後ろに飛んで距離を取り、両腕を振ると砕けた腕は再生していた。

 シュビが気付くと目の前にジェリルがいる。

「おのれ!」

 今まで以上の移動速度に驚いたが右手で顔面にパンチを繰り出す。


 シュビのパンチは何もない空間にあり、反対側から顔面にパンチを受ける。

 シュビが振り返るとそこにジェリルがいた。

 いやもういない。

 いかん、翻弄されている。距離を取らねば。シュビは走る。俺の方がはるかに速いはずだ。

 ふと振り返ろうとすると真横にジェリルがいる。


 シュビは驚いてジャンプして部屋の隅に立つ。

「おまえ、俺と同じ速度で走れるのか!?」

 シュビはレオンの味方の大剣使いを倒すために、クロノスに高速で動けるように強化された。それなのに敵がいきなり痩せたと思ったら自分と同等かそれ以上の速さになっている。


『どうだ。筋肉を絞った気持ちは?重さが半分で加速度が四倍、投影面積が半分で空気抵抗が四分の一だ、まあ、エントロピーも増大してるが、それでも十倍くらいの速さになってるはずだ』

 神獣人の魂がおそらくどや顔で言ってるのだろう。見えないが。

「何言ってるのかよく分からんが十倍になったんだな」

 ジェリルには難しい説明だったようだ。


 ジェリルは剣を握り直すとシュビに近付き振りかぶった。

 反応の遅れたシュビはジェリルに叫んだ。

「なぜいきなり強くなれるんだ!そんなのひどすぎるだろう!!」

 ジェリルは剣を止め、考え込んだ。


「アタイは自分が強くなりたいから戦っている。でもそれには故郷の奴らが豊かになれるようにだとか、獣人が幸せに暮らせるようにだとかも考えてる。でも弱い人間を虐げる奴にはつかない。それがアタイの最低限の正義だ。そんなことをしていると頼みもしないのに、お節介を焼いてくれる奴が出てくるんだ」

「お節介で強くなったのか?」

 シュビは呆れている。


「そうだ。故郷にいるご先祖の神獣人の魂が手伝ってくれたぞ」

「そうか、俺は強くなったがその力を自分のためにしか使おうとしなかった。だから誰も助けてくれないのか。当たり前だな。俺の負けだ。やってくれ」

 シュビは悟ったように言った。


「改心するなら助けてやってもいいぞ?」

「いや、俺が人のために生きられるとは思えない。もう終わらせたいんだ。今度生まれてくるときはこんな呪われた種族でないと良いな」

 ジェリルはシュビの言い草に腹が立ったが、言っても詮無いと思い彼の首を落とし、魔石を割った。



 〇アンナ対ガビ

 ガビは数分に渡って魔法を浴び続けていた。クロノスに貰った能力”魔法吸収”のおかげでダメージはないが、少し前の自分なら数秒で死んでしまう攻撃に恐怖で体が動かなかった。

 ガビは会議室に入った時、待ち構えていたメイド服の少女に言った。

「お前は魔法を使えるが、接近戦はできないんだろう。俺は魔法を吸収できる。さあ魔法を打ってみろ。途切れた時がお前の最後だ」


 それからずっと魔法を受け続けている。いったいどれだけの魔力や霊力を持っているというのか。

 しかも風・火・土・水の属性を交互に打ってくる。

 吸収もできたのは最初の十秒くらいだけ、あとは分解した魔力や霊力があたりに漂っている。

「やめろー!!どれだけ打てば魔力が枯渇するんだ!!」

 ガビはついに我慢しきれなくなって叫んだ。


「あら、途切れるまで待つんじゃなかったっけ。まあ、私は龍脈を繋げられるから枯渇はないよ」

 魔法を止めた狐耳の少女は、一番奥の会議机に脚をぶらぶらさせながら腰かけていた。

 龍脈とは地球の奥底でエネルギーを蓄えた魔素が束になって地表近くに上がってくる現象だ。龍脈は地表近くで地表に平行に流れ、そのエネルギーを失うとまた地球の奥底に帰っていく。アンナはその龍脈を自分に繋げられると言っているのだ。


「馬鹿な、神獣人だってそんなことできはしない。それにあの方もお前のことは、ただの精霊使いだとしか言ってなかったぞ!」

 ガビの周囲は分解の時のロスで気温が急上昇している。ガビが一歩を踏み出した。

「こっちに来ないでね、暑苦しいから。それからあの方ってどなた?教えてくれる」

 アンナは両手を前に出す。近づけば魔法を打つと脅しているのだ。


「妖魔のくせに人間と暮らせるわけがなかろう。俺たちに味方しろ。お前なら幹部にでもなれるぞ」

 魔法を打たれればその圧力でガビは身動きが取れなくなる。しかし自分を殺すまではできないはずだ。彼はそう思ってアンナを懐柔してみることにした。


 アンナは少し呆れ気味に言った。

「私は妖魔じゃない。ただの獣人だよ。妖魔の魂は私の中で寝てるだけ。だから私はお姉ちゃんとレオン様と一緒に生きていく。お前達と交わることはないよ。もう一つ言っておくとお前を殺す魔法はいくらでもある」


「ではなぜ殺さない!はったりはやめろぉ!」

 ガビは打開できない状況にイラついていた。

「お前達がしつこいからさ、いい加減元を断ちたいんだよ。お前達を送り込んだのはどこの誰?」

 興味なさげに脚をぶらぶらするアンナ。


 ガビは思った。一か八か接近戦に持ち込んでみる!!

 ガビは地面をけった、約三十mの距離を一瞬で駆け抜ける。

 アンナは机から降りるとスカートをまくり上げる。


 まだ第二次性徴の途中の腰には、やっと履けたローライズのピンクのパンツ。まだ細い両の太ももに下げられたナイフを引き抜く。

「戦闘メイドのスカートの中を見た奴に死を」

 自分で見せておいて、ずいぶんな言い方である。


 突っ込んできたガビの両手をナイフで受け止め、右足で顔を蹴り上げる。

 吹っ飛ぶガビ。

「おまえ、接近戦はできないんじゃあ?」

「レオン様の近くにいて接近戦を練習しないわけないじゃん。今までは必要なかっただけ」

 アンナは左半身を前にして右手を顎の下に置いて、左腕をL字に曲げて前後に揺らす。

 まるでフリッカージャブでも繰り出しそうである。


 しかし、魔法に比べれば勝率は高そうだ。そう感じたガビはアンナに飛び掛かった。

 彼女の腹にパンチを入れた。さすがに霊力で防御しているので。防御を分解する間にパンチの勢いは相殺されるが、俺には魔力吸収がある。

 ガビは得意になっていた。がしかしである。彼の魔力霊力のキャパシティは先ほどの魔法攻撃で飽和しており、アンナにダメージを与えられないことが分かったのだ。


「まずい、勝てる目がない」

 ガビは気付いてしまった。こうなれば逃げる一手である。

「あれ、もう終わりなの?」

 攻撃をやめ固まっているガビにアンナが尋ねる。


「ゴホン、私は思うのだが、君と私が戦う意味があるのだろうか?もはや我々がこの国をどうこうできることもなくなったし、私はこのまま帰った方が良いのではないか?」

 咳払いしたガビがアンナに不戦を解き始めた。

「確かにあんたらの部下は全員死んだけど。まだ二人、ジェリルさんやお姉ちゃんと戦っているよね」


「ウッ、いや、だから、二人を私が説得するのはどうだろうか?」

 ガビは何とか逃げようと必死だ。

「あ、ジェリルさんと戦ってたやつが死んだ。もう止めるのは無理みたいよ」

 シュビは負けたのか。まずいな、逃げる理由がなくなってきた。


「逃がしてあげてもいいよ」

「本当か?」

「その代わり、あなた達をここへ派遣した奴の名前と今いる場所を教えて頂戴」

 そんなことができるか。喋ったら残った同胞がすべて殺されてしまう。俺自身も生き残れはしないだろう。ガビは追い詰められた。


「それはできんのだ。俺の同胞はまだ数十人いる。人間と強さの変わらないやつばかりだ。俺が喋ればそいつらは殺されてしまうんだ」

 流石の俺も種族の廃絶に手を貸したくはない。ガビはもう戦うしかない。そう思った。


「ふうん、でもあんたの実力は脅威だわ。生かしておくわけにはいかない」

「やはり戦うしかないか」

 右手を霊力の防御の分解に集中して、左手で奴の心臓を抉る。それしかない。ガビはその一手に全てを賭けることにした。


 もしかしたら生き残ることができるかもしれない。ガビは最後の一手に高揚さえ感じていた。

 今までの人生が無に感じるほど、生きている実感を感じる。

 ああ、俺はこのために生きてきたのか。

 ガビは右手を突き出して、手を開いて渾身のステップでアンナの左胸に抉りこむ。


 アンナは左手のナイフでガビの右手を切り裂き、右手のナイフでガビの目の間を貫く。

 死を覚悟しているガビはその程度では止まらない。

 アンナを覆う霊力の壁はガビの右手によって剝がされていく。

 アンナのメイド服や下着がちぎれ飛んでいく。

『今だ!!!』


 後方に準備された左手はナイフより鋭く尖っている。それが防御を剝がされたアンナの左胸に音速を超えて加速する。

空間断裂ディメンションエッジ!!!!」

 ガビの左手が届いた瞬間、アンナの魔法が発現する。


 ガビの両手と下半身が空間と一緒に斬られる。しかしガビは充実していた。

「俺は勝ったぞ!これくらいなら時間を掛ければ再生できる。俺の左手は斬られたと言っても音速を超えているんだ。防御壁の無くなった奴の心臓を貫いたはずだ」

 ナイフで抉られた目に視力はないが、アンナの倒れる音は聞いた。彼の頭の中で切り離された左手がアンナの体を貫いていく映像を見ていた。


「悪いけど、生きてるわよ」

 立ち上がって、ガビの充実した顔を眺めてアンナは言った。

「なぜだ!避ける時間はなかったはずだ!」

 驚いてガビが叫ぶ。


「あんたの右手が頑張りすぎたのよ。私の服を破って素肌を晒したわ」

 アンナは胸のふくらみが半分ほど見えている服の破れを見る。

「え、・・・あ、スキンアーマーか!?」

 ガビもその可能性に気付く。


「まあ、狭い範囲にしか張れなかったから、あばらの二三本は逝っちゃったけどね」

「そうか、俺の命がけの攻撃も通じなかったか。・・・止めを刺してくれるか?」

ガビはすべてを諦めて顔を伏せた。

「分かった」

 ガビを仰向けにしてナイフで胸の奥の魔石を抉る。人間と違って肉体の結合力に小さい妖魔は、死後、形を維持できずに魔力や霊力となって霧散する。


「本当は逃がすと面倒だから、立ち向かってくるようにしたんだけど。自分がケガしないようにしないとレオン様に叱られちゃうな」

 アンナは少し寂しそうに呟いた。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はコトネとラビの戦いです。

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