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13-7 現れたヴァンパイア

ご愛読、ありがとうございます。

クロノスが用意したヴァンパイアが出てきます。

 コトネ達はレッドベア辺境伯領の様子を見るため城の近くの村に降り立った。


 〇レッドベア辺境伯の城の近くの村

 助けた女の子が腹が減ったというので、コトネは収納からパンと肉と野菜のスープを出して与えた。

 霊力で体調は戻っても胃の中は空っぽのままだから仕方がない。

 霊力で血や肉・骨ができるなんて知らなかった。

『もしかして私も大きくなれる?』


『この子が大きくなったのはもともとこの子が持っていた成長する力だ。まともに食事が摂れなくて小さかったから霊力で元に戻っただけだ。お前に霊力を供給しても胸は大きくならんぞ』

 そこまで聞いてないのに・・ロキさんに聞いたら言われた。


 今回、私もクロエ姉ちゃんも役に立たなかったから霊力供給の練習をしとかなきゃ。


「おい、そこで止まれ!」

 ジェリルさんが二人の男を止めている。

いつの間にか二人の男が間近まで来ていた。アンナも治療で探索をやめていたらしい。

 一人は年寄りでもう一人は壮年の男らしいが、痩せているし、汚れているし、服もボロボロでよく分からない。


「わしはこの村の長だ。お前らはナニモンだ!その子に何をしている!」

 老人が私達に向かって言った。

「あ、とおちゃんとじいちゃんだ。とおちゃん、この人たちに飯をもらった」

 女の子がすっくと立って、男の方に駆けていくと二人の男が驚く。


「お前は誰だ!シドをどこへやった!」

「えー、オラ、シドだよ。忘れたのかあ」

 壮年の男の方もシドと呼ばれた女の子を見ても、あの倒れていた女の子とは思えないようだ。

 そこで私が死にかけていたので治療して、体を洗って、服を着せたと説明した。


「余計なことを」

 私は村長がそう呟いたのを聞き逃さなかった。

「何が余計なことなんですか?!この子は死にかけていたんですよ!」

「チッ」

 村長は舌打ちをしたまま黙った。


「済まねえな。どうせ生きてたってすぐに死んじまうから、そう言ったんだよ」

 壮年の方がこっちを見ずに諦めたようにそう言う。

「食べ物がねえんだよ。この子は俺の愛人の子だ。そいつは無理やり兵隊にされた。そんな奴の子供に回す食べモンはねえんだよ。判ってくれよ」

 壮年の男は泣き始めた。


 この世界で愛人とは、女が男の三倍いるので結婚できない女性が出てくる。子供が欲しい働いている独身女性は既婚男性と愛人契約を結び子供を産む。男性にはその子の養育義務はない。この子のように母親を失えば飢え死にも仕方がないという風習だ。


「兵隊の給料で何とかならないのですか?」

「兵隊に給料なんかあるもんか」

 私は呆れてしまった。ここの領主は兵隊を奴隷のように扱っている。


「私達は獣王様から貴族の政治を糺すように言われております。レッドベア辺境伯の年貢はどの程度ですか」

 村長はすぐに怒った顔になり言った。

「全部じゃよ。作った物は全部持ってかれる。かろうじて生きられるくらいの芋だけ残される」

 二人の姿を見る限り本当のことだろう。


「あと、成人の独身の女は兵隊にされる。今までは子供がいれば免除されたんだが」

 シドの父親が怒りながら追加した。相当腹が立ってるみたいだ。

 だからシドの母親が連れていかれたのか。残された子供のことなんか考えていないんだろうが。

 ここの領民はまさしく奴隷だ。いや、奴隷以下かもしれない。


「兵隊ってこっちで戦争があったの?」

「いや、ここじゃなくて東と南で新しい国に攻め込むんだって言ってた」

 疑問を聞いてみるとアルカディアへの侵略戦争だった。

「この子の母親は戦争に行ったの?」

 南なら全員無事だが、東では戦死者が出てるはずだ。


「いや、どうだろう。城で雑用してるかもしんねえし」

 それなら・・・いや、この子には悪いけど、今はこの国全体を救うことを優先しなければ。

「分かりました。レッドベア辺境伯のやりようには許せないものがあります。獣王様がきっとあなたたちが豊かに暮らせるようにしてくれるでしょう」

 二人は信じられるかという顔をしている。

 調査は済んだ。やはりこんな貴族は滅ぼすだけだ。


「おい、コトネ、あれを見ろ!!」

 手持ち無沙汰にしていたジェリルさんが叫んだ。

 彼女の指さす方向を見ると何本かの煙が見える。

「あれはレッドベア辺境伯の城?」


 私達がここにいるのに城を誰かが攻めた?。

「コトネ!戻ろう!」

 クロエ姉ちゃんが叫ぶ。早急に情報を取得するべきだ。


「ちょっと待ってくれ。この子を連れてってくれないか。あんたら獣人のくせにいい服して健康そうだ。この子ぐらい養えるだろう」

 父親がシドの背中を押しながら言う。多分父親の情はあるのだろう。しかし村のために情を隠していたのだ。


「私達が無事なら明日また来て話を聞くわ。それまで預かっておいて」

 そう言ってすでに走り出していたクロエ姉ちゃん、ジェリルさん、アンナの後を追った。

 王太子様が待つノルンさんのところに着くと、すでに煙のことは知っていた。


「なぜ、城から煙が上がっているのだ」

 王太子様が焦った様子で私達に質問するが分かるわけがない。

「分かりませんが、今から城に行きます。ノルンさんに乗ってください」

 王太子様をここに置いていくわけにもいかないので、全員を乗せてノルンさんが飛び立った。


 すぐに城が見えてきた。やはり煙は城のあちこちから上がっている。

「どうする、私が行こうか?」

 クロエ姉ちゃんが言うけど、危ない気がする。

「ちょっと待って、中で戦ってるとしたら危険よ」

「それを調べに・」

 その時、城からこちらに向かって火柱が上がった。


 ノルンはグッと体を傾ける。王太子についてきた人達から悲鳴が上がる。

 火柱はノルンをかすめるように通り過ぎた。

 火柱の上がったところから人間が飛び上がってくる。

 いや、背中に蝙蝠のような羽が生えている。普通の人間じゃない。


「お前達はレオンハルトの眷属だな」

 私達を知っている。いったい何者だ。

「私達を知っているお前は何者だ!。ウラノスの手の者か!!?」

 相手は答えずに手を前にして魔方陣を描き始めた。


「ゴロ!行くよ!!」

「がってんだあ!」

 アンナがゴロに飛び乗って、ノルンさんの背中から飛び出していく。


「アンナ気を付けて!!」

「ラジャーだよ!」

 アンナは振り向きもせずに相手と距離を詰める。

 アンナ以外は接近戦に特化した戦闘スタイルなので空中戦、しかも魔法の打ち合いとなるとアンナに任せるしかない。


『あれはヴァンパイア族じゃ。人間の霊力や魔力を根こそぎ吸って殺してしまう。人間よりは強いが大人数の人間には負けるので、夜しか行動しなくなった妖魔じゃ。それがこのような大胆な行動をするとはどうしたことじゃ』

 ロキさんが従者通信で敵の説明をしてくれた。妖魔か、じゃあ魔法を使うんだね。さっきの火柱がそうか。


「水の精霊よ!氷の矢、アイスアロー!」

 敵が魔方陣を描き切る前にアンナの精霊魔法が発動する。

 1mくらいの氷の矢が数十本、ヴァンパイアに向かう。

 普通の魔法より精霊魔法は発動が早い。

 ヴァンパイアは避けようとしたので魔方陣は消え、数本をその身で受けてしまう。


 ヴァンパイアは錐揉みしながら落ちていく。

『油断するな!奴らは回復が早い』

 アンナは上空から様子を見ている。

 追撃の必要を感じてないみたい。あまり強くはなさそうね。


 その時もう一体の人影が城の中から現れ、落ちていくヴァンパイアをキャッチした。

 落とされたヴァンパイアを城に置いてその人影は蝙蝠の羽を広げた。こいつもヴァンパイアだ。

 そいつは飛び上がった。


 目の前にいる!!なんて速さ!。

 私は王太子様の前に移動、イブキさんとアテナさんも王太子様たちを守る。

 ジェリルさんは三式を、クロエ姉ちゃんは手裏剣を放った。


「私はヴァンパイア族のラビ。レオンハルトの眷属のお前達と話がしたい」

 三式と手裏剣はラビに当たる寸前で勢いを失って届かなかった。

 ラビは中性的な顔をして背が高く、胸は平坦、黒い神父が着るような服を着ていた。


 私はノルンさんに停止してもらって話をしてみることにする。

「みんな、攻撃をやめて。話を聞いてみるわ」


「お前達が汚いまねをして国を作ったことは知っている」

「私達は正々堂々と戦ってきた。あなたに詰られる覚えはない」

 私の言葉にラビの顔に感情の変化はない。


「まあ、良い。我々は人間に虐げられてきた。我々は我々を守るためにここに国を作ることにした。お前達には手を引いてもらいたい」

 虐げられているのはロキさんの説明通りなら自業自得なのだが・・・。

「何を言っている!ここは獣王国、我々獣人が治める国だ!」

 獣人がいないような言葉に王太子様が吠えた。


「力も持たない奴が何を言っても空しいだけだ。口を閉じよ」

 ラビの表情に変化はない。王太子様のことは眼中に無いようだ。

「あなた方がこの国を治めることになったら、獣人達はどうなるというのです」

「心配をするな。我々は国民からは穀物も金も集めない。今よりいい生活ができるだろう」


 どういう意味、確か彼らは・・・。

「その代わりに霊力を集めるつもりね」

 霊力は魔力を加工してできるもの。それは人間の体内でしかできないこと。

「守ってやるのだ。死なない程度の供出は必要だろう」


 彼らは獣人を餌にするつもりだ。やはり彼らに獣人を任せるわけにはいかない。

「獣王国とは軍事条約を結ぶ予定です。それにあなた達に同胞を任せられない」

「交渉決裂か。まあ、そうなると思っていたよ。では明日決着を着けよう。王都に昼頃来てくれ」

「なぜ、先延ばしする。今ここでやればいい」

 ラビの後ろで攻撃態勢を取るアンナを見て言った。


「フフフ、やはりお前達は卑怯だな。各個撃破するつもりだな。そうはいかんよ。お前達が今襲ってくるつもりなら近くの村を私の眷属が襲うぞ」

 どっちが卑怯だよ。と思いつつ。各個撃破だと?。

「ヴァンパイア族はほかにもいるのか?」


「今、四貴族とその兵を滅しに行っているよ。ちなみにこの城にもう人間はいない」

「なぜ、そんなことをする?」

「国を掌握するのに邪魔だと思ったからだよ。ああ、獣王は生かしてあるよ。国民にヴァンパイアが主人となったことを説明してもらわないと、掌握が遅れるだろ」

 オリンポスと同じようなことをするのね。でもあの時は掌握に時間がかかったから、今度は獣王に説明させて反抗の芽を摘もうというのね。


「ああ、城の掃除が終わったようだ。では明日王都で待っているぞ」

 ラビは部下を引き連れて飛び去っていった。


「どうしよう?」

 私は明日の戦いを考えると目の前が真っ暗になるのだった。

 空を飛んで戦えるものがいない。

 遠距離攻撃ができるのはアンナだけ。


「ねえ、どうしたらいい??」

 もう一度皆に聞いてみるのだった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は今までの戦い方が通用しない相手にコトネ達はどう対処するのか。

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