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13-5 辺境伯処刑とコトネのピンチ

ご愛読、ありがとうございます。

今回はオラン侯爵がいない。どうしよう。

 コトネは獣王国の王太子を国に戻ってもらうように説得した。


 獣王国は数百年前に虐げられていた獣人を救うため、初代獣王が建てた国である。

 百年程前に北の国から侵略を受け、東、西、南からも圧力が掛かり、時の獣王は四つの貴族家に独自の自治権を与える非常事態法を発令した。四家は王家に匹敵する軍事力を持つに至った。

 脅威が去った後も四家は自治権を離さずに、王家を圧迫した。王家は何度か是正しようとしたが、四家が結託して、かえって力を奪われることとなり、ついには獣王の地位は一伯爵家並みになり、王家は有名無実化して今に至る。



 〇アルカディア城 

 朝から王太子を迎えに行ったコトネ達は、まずアルカディア城に行った。

 王太子の奥さんと子供達をフェリ様に預けた。獣王城は敵勢力が潜んでいる可能性があるからだ。

 王太子を王族風の服装に着替えさせると、地下牢からドーベルマン辺境伯の次男達を処刑場に引き出した。


 処刑場に座らされ、後ろには処刑人が立った状態で、次男は王太子を見た。

「お前は王太子!生きていたのか!?」

 次男は叫ぶが王太子はそれには返事をせずに話し始めた。

「お前達は王家に無断で他国に攻め入った。よって死罪だ」

「逃げていたくせ・・・」

 次男の言葉は最後まで言えなかった。

 次男達とガルフ男爵の首は落ちた。


 次は川に浮かぶ兵達だ。王太子を乗せた船で拘束されている兵の近くまで寄せた。

「ドーベルマン辺境伯の兵達よ!私は王太子だ!君たちの上官はすでに処刑された。私に忠節を誓うなら釈放しよう。嫌な奴は手を挙げろ」

 王太子の声はアンナの風魔法で全兵士に届けられた。

 もちろんここで手を挙げるやつはいない。

 全員を釈放してドーベルマン城に帰るように指示した。



 〇ドーベルマン城

 従者通信で連絡されて、すでに処刑の準備が整っていた。

「王家に無断の戦争行為を行った罪により死刑だ」

 ここには獣王国民がいるから罪を読み上げる。

 王太子によりドーベルマン辺境伯の長男及び縁者は、女子供を除き処刑された。

 財産はすべてクロエにより抑えられており、王家の資産となる。


 この処置は獣王と話し合って決めたものだ。王太子も納得してくれた。

 女子供は国外追放となるがアルカディアで解放する。

 ドーベルマン辺境伯は農民を農奴化して資産を増やしていた。ちなみに辺境伯親子の甲冑だけで金貨千枚の価値があるそうだ。

 おそらくほかの貴族連中も同じだろう。


 城の管理は残った者から選んで、一時的に任せることとなった。後で王城から人員を派遣することになっている。

 コトネ達はノルンに乗って王城を目指した。


 〇獣王城 謁見の間

 コトネ達が到着し、王太子は久々に獣王と会った。

「父上、長い間苦労を掛けました。これからは獣人国の民のため、身を粉にして働く所存です」

「おお。よく帰ってきてくれた。わしがふがいないばかりにお前には不自由をさせた」

 二人は抱き合った。


 コトネ達はその間に柱に拘束していたドーベルマン辺境伯を、二人の前に引き据えた。

「お、俺をどうするつもりだ!」

 かなり消耗していて、立つこともできないが口は元気そうだ。


 獣王と王太子が近付いてきた。

「ドーベルマン辺境伯!、お前は長年に渡り、我が政権を奪取し、領民に塗炭の苦しみを与えた。よって辺境伯家は改易、財産は没収、縁者諸共死罪を申し渡す」

 獣王は辺境伯を指さし、叫んだ。


「た、頼む、子供達は助けてくれ」

「すでに縁者の処刑は終わっている」

 辺境伯は哀願するが、王太子の言葉を聞き突っ伏して泣き始めた。


「お前たちはわしの次男三男を奪いながら、自分の子を失うと泣くのか!」

 貴族たちにとって不利な考えの王子達は暗殺されたそうだ。王太子の逃げ出すきっかけになったようだ。

「もう殺してくれ。俺がアルカディアに手を出したのが間違いだった」

「王太子よ、この者に死を」

 すべてを失った辺境伯は己の死を受け入れた。


 貴族達の処刑は獣王国がやる。あくまでこの内乱は王家の政権奪還が主目的である。アルカディアはそれに手を貸す形なので処罰は行えないのだ。


 辺境伯を処刑場に連れて行くとクロエとイブキが、一人ずつ犬獣人を連れてきた。

「こいつら、辺境伯のスパイよ」

 実は昨日のうちにドーベルマン城で長男達を拷問してスパイがいることが分かっていたのだ。

「お前達、裏切っていたのか。お前たちも死刑だ!」

 獣王は叫んだ。


「ちょっと待ってください。こいつらにはやったことを白状させなければ」

「そうか、そうだな」

 獣王と王太子はこの政権奪還という、言わばクーデターを成功させないと今度は自分たちが危険になる。そのためには敵を倒すことも大事だが、大儀、つまり正義がこちらにあることを示すことも大事なのだ。

 だから情報収集して敵の悪を暴くことも重要なのだ。


 辺境伯の処刑は済んだ。

 アンナの様子がおかしい。沈痛な表情をしているのでコトネが声をかける。

「アンナ、どうしたの?」

「お姉ちゃん、どうしてこんなに人を殺すの」


 ドーベルマン辺境伯達の処刑には寄子の貴族たちも連なっている。彼らは直接アルカディアを攻めたわけではない。それを言いたいのだろう。


「アンナ、今回の戦いはアルカディアへの侵攻だけが原因じゃないの。獣王国の獣人たちが奴隷にされて働かされている、その人たちを解放するために戦っているの。そのためには貴族の責任を果たさなかった人たち、善良な人たちを不幸にした人達にも罰を受けてもらわないと、解放できないのよ。

 今まで私達も力不足で見過ごしてきたことを、獣王様の力を借りて成し遂げようとしているの。解る?」


 アンナも今まで盗賊や敵対する勢力と戦って、その多くを殺してきている。でも直接自分に関係ない人々を殺すのには抵抗があるのだろう。

 それはコトネも一緒だ。でも多くの獣人を幸せにできるのならと頑張っている。


「よくわかんないけど、貴族が獣人の人達を幸せになるのを邪魔してるんだね」

 アンナも完全に理解はできていないものの自身を納得させたようだ。

「そうだよ。自分たちが贅沢するために、農民からぎりぎりまで税を取ってるんだ」


「おーい、そろそろオラン侯爵の城に行くぞってさ」

 コトネたちが話しているうちに、王太子のこちらでの仕事が一段落したようだ。



 〇ヴァイヤール王国 グリューズバルト侯爵邸

 クロノスは執務室で机に座って暇そうにしていた。

 そこへウラノスが入ってきた。

「急ぎ作ったヴァンパイアの情報ネットですが、面白い情報が入ってきました」

 クロノスはレオンが精霊通信によって、情報をやり取りしていることに気が付き、眷属通信のできるヴァンパイアにネットワークを作らせた。


「何が起きたのだ?」

「はい。昨日、獣王国がアルカディアに侵攻しましたが、反撃されて敗走したようです」

 クロノスは興味を持ったのか、座りなおして聞く姿勢を取った。


 ウラノスはそれを見て続きを話し始めた。

「昨日、獣王国がアルカディアに攻め入り・・・(中略)・・・今日朝ドーベルマン辺境伯の次男が処刑されたところまでは確認できましたが、獣王国には連絡員が居りませんので、後のことは分かりません」

 アルカディア側から見た戦況を報告した。


「レオンの従者たちが王太子を獣王国に連れて行ったのは、政権を王太子に取らせるつもりだろう。そうすると邪魔なのは獣王国を牛耳る四貴族だな。それで従者達が向かったわけだな」

 うーむと考え込むクロノス。

「いかがなされますか?また上級悪魔の三人を向かわせますか」


「あいつらは瘴気切れでしばらくは動かせんよ。それよりレオンはどうした?」

「どこかは分かりませんが、ホウライ国から伴ってきた男と一緒に特別な訓練をしているのだとか」

 クロノスの顔がパーッと明るくなる。

「特別な訓練それは特訓というやつだな。そうか、無理をして上級悪魔を送り込んだ甲斐があったというものだ」


「はあ?」

 ウラノスにはクロノスの考えが分からない。

「解らんか?好敵手と書いてライバルと読む。それが私に勝つために特訓を始めたのだ。血が熱くならんか。熱い血とは熱血なのだあ!!」


 ウラノスにはクロノスのこういうところが解らない。

 クロノスは数千年前に現れた上級悪魔が人に憑依して、瘴気が無くなった後も生きていけるようになった。そして今はウラノスの息子に憑依している。

 千年のうち数か月しか悪魔として行動できないわけだから、戦いにその魂を昇華したくなるのも解る気がする。


 だからと言って相手を自分たちの領域まで引っ張り上げようと考えるのは、おかしいのではないだろうか。

 千年前科学技術の発達したノクト連邦を、完膚なきまでに壊滅させたのは求めるものと違ったからなのか、解らない、理解ができない。


「このまま獣王国を手に入れさせるのも美しくないな。今使える駒はあるか?」

 ウラノスは妄想に耽っていたのでビクッとなったがすました顔で答えた。

「アテナが同行しておるようですので裏切らせますか?」

「まだ早いな。完全に信用させてからのほうが美しい」

「奴らに対抗できるような手駒はもういませんが?」


「そうか、ならヴァンパイア族を呼べ。俺が強化してやる」



 〇オラン城

 オラン侯爵の住むオラン城に近づいたコトネ達は、ドーベルマン城と同じ作戦を取ることにしている。

 国境で敗れた兵が戻るのが早くても明日、もう一度軍を編成して国境を攻める力はないだろう。


『コトネ、オラン侯爵は城にいない』

「そうなの!?」

 城に忍び込んでいたクロエからコトネに従者通信が入った。


『国境近くに陣地を築いて、そこにいるらしい』

「どうしよう??オラン侯爵は国境近くの陣地にいるんだって!」

「なんだよ。下調べしてなかったのか!?」

 ジェリルがコトネを責める。


「ではオラン侯爵は今どこにいるのだ!!」

「わかりません!?」

 王太子も焦ってきた。

 国境警備隊の話では、敵は陣地も引き払って撤退している。


「森の中を逃げてる三千人の中から、オラン侯爵を見つけるのは無理!」

 アルカディア領もそうだったが、この周辺の地形は平坦で森が多い。オラン城から国境まではほぼ森だ。

 森の中をバラバラに逃げる敵軍の中から、普通の人間であるオラン侯爵を見分けるのは。アンナをもってしても難しいのだ。


 彼らが焦るのには明日になると王太子の動きが、貴族達に伝えられ始める。そうなると防御を固められ、それを破るには彼女達の力をもってしても多くの人死にが出るし、逃げられるかもしれない。多くの時間と労力が必要になるのだ。そんな不安を抱えたまま、大災厄を迎えることはできない。


 どうする!コトネ。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。


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