13-1 獣人国の使者
ご愛読、ありがとうございます。
第十三章が始まりました。この章は主人公はあまり出てきません。コトネが中心に活躍します。
アルカディア城 <コトネ>
あれからイブキさんとアテナさんはエドゥアルト城に行ってもらいました。彼女達は訓練大好きですから、ジェリルさんときっと仲良くなれるでしょう。
シャオリンさんは町で暮らすと城を出ていかれました。支度金を貰ったそうです。
アリスさんの戦闘用義体ですが、ユグドラシル聖皇国の宝物殿で見つかったそうですが、ハーヴェルに持っていきました。ですが、マサユキさんがアリスさんの換装を嫌がっています。なぜでしょう?。
アンナがしたり顔で「男って女が強くなるのを嫌がるから」とか言ってましたがそうなんでしょうか?。
ルシーダさんはこれからも夏休みまでは戦士を送り込むつもりみたいです。
レオン様は五式のための修行だとかに、役行者がガララト山に連れて行きました。アキラさんは悪魔に負けると国の存続が危ぶまれるので、一か月の王の留守を我慢して承諾したそうです。
私達も当然一緒に行くものだと思っていたのですが、行者様に修行の邪魔だと言われて置いてきぼりです。
私はと言いますと断ったはずですが、レオン様と何故か結婚することになっていて、夫人のふるまいなどを勉強させられています。
ちなみに王のお嫁さんですが、アルカディア王国では王妃は定めずに、第一夫人から第三夫人がその役目をします。
第一夫人のフェリ様は帝国とその他、第二夫人のエリーゼ様はヴァイヤール王国、私は第三夫人で獣人関係でそれぞれ王妃の役目をするようです。
それと側室がありますが今は空席で、いずれ帝国とヴァイヤールから最低一人ずつは来るはずです。この人たちは夫人に子供が生まれないとき、不慮の事故などで夫人の役目を果たせなくなった時には夫人の代わりをします。私の代わりはアンナでしょうか?。
それから愛人がいます。原則として城に居住せずに自身が通うか、王が通う形で過ごします。ミラさんがそれにあたります。彼女は男の子ができたら魔人の王に育てます。この前、妊娠したと聞きました。
ルシーダさんも立候補していると聞いています。ハイエルフになるのに夫は不要だけど子供は欲しいそうです。ジェリルさんも恋人ができないので狙っているみたいです。
戴冠式の時に結婚式を挙げるのは第一から第三夫人です。私が強く断れないのは結婚式をやってみたいという思いからです。女の子の夢ですよね。
結婚式には白いドレスを着るそうです。綺麗なんだろうなあ。フェリ様はスリムだし、エリーゼ様はグラマラスで・・私はチビガリのくせに筋肉質なんで勝てませんよねえ。いいです、勝てなくても・・
「お姉ちゃん!ほうきによっかかって何してるの!掃除するならちゃんとしなさいよ」
いっけない、妄想が止まらくなっちゃった。アンナが部屋の入り口で、腕を組んで怒ってる。
「もう。レオン様がいないからって気を抜きすぎだよ」
そんなに汚れてないから適当でいいよね。
「コトネ様、いらっしゃいますか?」
ドアがノックされ、私を呼んでる。
「はーい」
ドアの近くにいたアンナが、ドアを開けるとアキラさんの秘書をやってる人がいた。
「コトネ様、また掃除をしてたんですか?そういうことは下働きの者にさせてください。またメイド服なんかを着て、あなたはもう召使ではないのですよ」
ああ、もううるさい。
「私は陛下の従者です。一生陛下のお世話をするんです!」
これは譲れない。私とアンナの仕事なのだ。
「あ、フォーマルな衣装に着替えて謁見室に来てください。すぐですよ」
誰か来たのかしら。フェリ様じゃなく私ってことは相手は獣人ね。
でも獣人が謁見室を使うことがあるのかしら?。
アンナに手伝ってもらって服を着替えた。シックな薄墨色のスーツだ。
髪を結った頭には質素なティアラを付ける。姿見の前に立って身だしなみをチェックする。
「アンナ、おかしくない?」
「大丈夫、馬子にも衣装だよ」
ニシャっと笑うアンナ。失礼な奴だ。
謁見室に行くと玉座にフェリ様が座っていた。あれ、フェリ様がいるのになんで私が呼ばれたのかしら?。
「ご苦労様、可愛いわよ。夫人席に座ってくれるかしら」
フェリ様に言われて夫人席に着く。その横にはアキラさんがいる。
「獣人国からの使者が来たの。前触れもないって、ちょっと変わってるわね」
フェリ様はあからさまに罵ることはしなかったが、気分を害していることは間違いない。
「何の用か分かりますか?」
「さあね、知らないわ。あなたの担当だけど練習と思っておいて」
フェリ様はご機嫌斜めだ。
獣人国と言うのはテーレ川をはさんでアルカディアの北側にある国だ。エドゥアルトとバルドゥオール王国に挟まれている中くらいの国だ。国交もないのでどんな国かは知らない。噂ではかなり野蛮だとか。ジェリルさんに任せた方がいいかも。フフフ。
「あなた初めてでしょう。余裕あるわね」
フェリ様に私が微笑んだのを見られたみたい。
「いえね。あまり野蛮ならジェリルさんに代わってもらおうかと思って」
「フフ、それは案外いい考えかもしれないわ」
フェリ様も微笑んだ。
使者が入って来た。二mはあろうかという犬獣人と小さな犬獣人が後ろに隠れるようにやって来た。
大きい方は金属鎧を全身にまとい兜を小脇に抱えている。小さい方は普通の貴族服だ。
「獣王国の使者、正使ガルフ男爵と副使バウさんです」
侍従がこちらに知らせる。うん、跪かない?正使の方が立ったまんまだ。
「ガルフ殿、王妃様の前です。跪いてください」
「俺は俺より弱いやつには跪かない。分かったか!」
ガルフはいやらしく笑う。
「跪かない奴の言うことなんか聞く必要ない。アキラさん、仕事に戻るわね」
フェリ様は気分を害したのだろう。すっと立つと退席してしまった。誰も唖然として止めることも出来なかった。
私も立とうかなと思ったら、アキラさんに駄目って言われた。
「おお、ちょうど玉座が空いたじゃねえか。俺が座ってやるよ。どうせここの王は運よく出世できただけのガキだっていうから、俺が王になった方が国民も喜ぶってもんだぜ」
ガルフはそう言って大股で玉座に近づく。
もちろんその時の私はキレてたよ。私は立つと玉座の前にすっと寄る。
「なんだ、姉ちゃん。俺に惚れたか?残念だが俺は色っぽい姉ちゃんが好きなんだ。ガキはどいてな」ガルフは私の肩に手を伸ばす。私はその手を取って引きながら足を払う。
哀れ、ガルフは宙を舞い、背中から床に落下する。
「ゴホッゲホッ・・よくもやりやがったな。レベル6の俺を怒らせたな。どうなっても知らねえぞ」
せき込みながらも立ち上がったガルフは、とてもレベル6には見えない。
「それでレベル6なんて嘘でしょう」
オリンポスのアーレスがレベル6だったか。もっと強かった記憶があるが・・・。
「こぉむぅすめえ!!」
右手でストレートパンチを私の顔面に繰り出してきた。私は左手でパンチを右に流して、ガルフの体を回す。背中から倒れてくるガルフの体の下に、自分の体を入れて持ち上げる。内気功で強化した体はこれぐらい簡単なのだ。
「バカなあ!!俺と鎧で百五十kg以上だぞ?!!」
そのままぶん放り投げる。また背中から落ちたガルフは気を失った。
私はもう一人の使者バウさんの目の前に立つ。
「これが獣人国の礼儀かしら?」
「ヒイィ・・・」
真っ青な顔をしてる・・。泡を吹いて気絶しちゃった。
「アキラさん、こいつらどうしますか?」
「ああ、預かるよ」
アキラさんも結果が見えてたみたいで焦ったりはしていない。
部屋に戻ろうとすると王族の出入り口で、フェリ様とアンナが悪い顔で笑ってた。
「レオン様にチクっちゃおうっと」
アンナがそういうと。
「コトネちゃんの株がずいぶん下がりそうね」
フェリ様が答える。
二人で私をからかうつもりだ。
「ふんーだ。レオン様は分かってくれるもん」
二人は大笑いしている。
うん、あの使者何しに来たのかしら。まあ、いいか。
「獣王国か。どんなだろうね。獣人だけど考えたことなかったわ」
今はアンナに初等部の勉強を教えている。来年は無理でも、その次ぐらいには学校へ行かせたい。
「そうねえ。あんまりいい噂は聞かないけど」
アンナにはおりにつけ勉強はさせていたので、中等部くらいでもいいくらいだけど、同じくらいの年齢の子と同じ空間で過ごす経験はさせておきたい。
またドアをノックする音がした。嫌な予感がする。
「コトネ様、使者が目を覚ましたのでおいでください」
あーあ、やっぱりか。まだ使者の口上聞いてないから、呼ばれるんじゃないかと思ってたよ。
「分かりました。アンナも来る?」
「行くよお」
私はスーツのままだから良いとして、アンナはメイド服でいいのかしら。まだ無役だし良いよね。
また謁見室に行く。今度は跪いているし、鎧も脱いでる。ちょっとは反省したのかしら。
私が王妃席に着くと謁見が始まる。
「先ほどは失礼な真似をして、申し訳ありませんでした」
副使が喋って、二人は平伏する。
「なに、戦争を吹っ掛けに来たのかと思った」
「いえ、何分にも領土を出るのが初めてですし、田舎者の戯言としてお流しください」
なーに言ってんだか。許すわけないじゃない。
「許す、許さないは別として。使者の本分を果たしてください」
「はい、実はわが領土より農民が逃散しており、貴殿の領土に来ているのではないかと思われます。つきましては農民を返還していただきたく、よろしくお願いいたします」
なるほどね。正使のガルフさんではまともに話せないのね。獣王国の人選ってどうなっているのかしら。
「農民ねえ。うちが移民の募集切ったのって三か月も前ですけど。いつの話ですか」
「はい、そのぐらいのことではないかと思います」
えー、いついなくなったとかもわかんないのぉ。
「農民の人数は、名前は、年齢は、性別は、リストがありますか?」
「いえ、はっきりしたことは分かりません。千人ぐらいではないかと思います」
実は二万人ほど来てるのよねえ。なんてずさんな管理なんでしょ。
「それをうちが調べろとおっしゃるの?」
「はあ、調べていただけるとありがたいのですが」
調べるわけないじゃん。実はアキラさんに回答のカンニングペーパーを貰ってるのよねえ。多分その話が来るだろうと、さすがね、その通りだっだ。
「うちには各所から十万人の移民が来ています。はっきり言って、獣王国の出身者だけ、三か月以上遡って調べることは不可能です。お諦めください」
「そんな、それでは私たちが来た意味がございません。なにとぞご翻意を」
知るか!
「あ、そうそう。あなたたちの無礼について詰問の使者を貴国に出します。王様にお伝えしてね」
「それは困ります」
お前らが勝手に来たことは分かってるんだ。覚悟しておけよ。あ、私も勝手に言っちゃったからアキラさんが焦ってる。ごめんねえ。
「使者を受け入れて貰えないと、四万人の兵が攻め込むかもよ。ハーヴェルから一万、エドゥアルトから一万、ここから二万ね」
獣王国の兵数は全部集めても一万人行くかどうか。ビビりなさい。
「そ、そんな」
バウも、ガルフも顔面真っ青である。ついでにアキラも。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はコトネが獣王国へ?