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12-13 進化の課題

ご愛読、ありがとうございます。

12章を終わります。

 レオン達はヨシムネの師匠に会うためにフジ山にやって来た。


 〇アオキガハラ樹海 <レオン>

 アンナの探知能力には感謝するしかないな。こんな一面鬱蒼とした樹海から対象を探し出すなど何か月かかるか、いや何年かも。

「そろそろお前が言った場所だ。どうだ解るか?」

「さっきぐらい強く魔力を出してくれると分かりやすいのだけど。この森、魔素濃度が濃くって」

 そうか、さすがに魔力を垂れ流しにしている奴はいないか。


「じゃあさ、魔獣とかはいるんじゃないの?」

 コトネの言葉を聞いてハッとした。魔素濃度が高いということはダンジョン内と同じことか。まあ、今更魔獣に遅れは取らないけどな。しかし捜索の邪魔になることは間違いない。

「魔獣がいるのですか?」

「いるよ」

 イブキがアンナの言葉に息を飲む。彼女は対人ばかりで、魔獣相手はやったことがないのかな。


「感じたあたりに目印を見つけて、その周辺を探ってみよう」

「分かりました」

 アンナがノルンに話しかける。

「あの枯れ木の周囲、百m位を回ってみて下さい」

 早速枯れ木を目印にしたようだ。


「霊力が‥危ない!避けて!!」

 大急ぎで回避したノルンのすぐ横を”飛燕”が通り過ぎる。

「敵と間違われてる?」

 ノルンの風防を取っ払って声が聞こえるようにする。今の高度は五十mくらいだ。



 俺が大声で叫んだら聞えるだろう。

「おおい!俺達は役行者えんのぎょうじゃ殿を訪ねて来たんだ!敵じゃないぞ!」

 こんな所に居て、気功を使うんだ。役行者本人か関係者だろう。

 イブキが手をメガホンにして叫ぶ。

「ヨシムネ様の紹介で来ました。あなたが役行者殿ですかあ!!」

 また”飛燕”が飛んでくる。大きくノルンが揺れる。イブキが小さくキャアと声を漏らす。

 コトネが立ち上がり、”飛燕”で相殺する。


「私が行きます!」

 コトネが服を脱いでアンナに渡すと、飛び降りる。

「ああ、大丈夫ですか?」

 イブキは心配するがコトネは猫の獣人だ。空中でのふるまいは、誰より知っているはず。

 それに今更助けようがない。


 コトネは太い木の枝に降りると、枝をしならせて落下速度を相殺する。

 枝から枝へ飛び移って上からは見えなくなる。大したもんだ。

「お姉ちゃんと気功使いが相対しました!」

 無事というか、目標の場所にたどり着けたようだ。


『レオン様、オーガです。気功を操るオーガがいます』

 コトネの従者通信はそれだけで途切れた。

「戦闘に入ったみたいです」

 アンナが不安そうに報告する。


「アンナ、行くぞ!」

 俺はコトネの元へ行くことにした。俺が会いに来たのだ。俺が行かなくては解決するまい。

「待ってました」

 アンナは俺より先に飛び降りた。あいつは短距離なら風魔法で飛べる。


「俺が飛び降りたら、風防を戻してやってくれ」

 イブキのためにノルンに頼むと俺も飛び降りる。

 アンナが場所を知っているはずなので、後を付いていく。

 気功を操る以上、魔獣ではないはずだ。多分、ノルンと同じ受肉精霊か?


「話を聞けえ!!」

 コトネが相手の攻撃を避けながら叫んでいる。オーガの身長はコトネの倍だ。

 相手のオーガが武器を持ってないからなのか、コトネも刀は抜いてないし、ビーストグローも使っていない。


 オーガは一切返事をせずに右拳をコトネに振るう。その速度はすさまじいがコトネの方が一桁速い。

 コトネはオーガの拳に両手を付き、伸身の半回転二回ひねりでオーガの顎を両足で蹴る。まるでドリルのようだ。オーガは左手でコトネを捕えようとするが、もうそこにはいない。地面に降り立ったコトネは空手の中段突きの要領でオーガの腹を突く。地響きを立ててオーガが倒れる。


 俺は慌てて止める必要を感じず、アンナの中にいる精霊ロキに聞く。

「ロキ、奴に精霊通信で話は通じるか?」

『試してみよう』


 オーガは上半身を起こして、あたりを忙しく見渡し始めた。近くに警戒するコトネがいるのだが無視している。

『言葉は通じるようだ。役行者の眷属なのか聞いてみよう』

 オーガはまっすぐにアンナを見始めた。ようやく誰が話しかけているのかが分かったみたいだ。

『彼は普通の会話は出来ないが、行者殿の所へ案内してくれるそうだ』


 立ち上がったオーガはコトネにお辞儀をした。謝ってくれたようだ。

『コトネ殿に謝っている。獣人を見たことがないので、魔獣だと思ったらしい』

 ロキがオーガの通訳をしてくれた。一応感情も理性もあるようだ。

「名前とかはあるのかな。行者殿の所まで案内してほしいと頼んでくれ」

 俺はロキにオーガへの通訳をお願いした。


『名はゴキ、案内してくれるそうだ』

「アンナ、少し霊力を分けてあげなさい」

 ゴキがコトネとの戦いで霊力を消耗しているようなので、霊力を補給してやろう。

「はい」アンナが近づくとゴキが両手を前に出して拒絶しているようだ。


 ロキがゴキと何か話しているようだ。

『そんな小さな子から受け取れないと言っていたので、この子の霊力はお前の何十倍もあると教えてやった』

 アンナ霊力を供給するのを、ゴキは小さくなって受け入れている。いいやつなのかもな。


 ノルンを降ろしてイブキも一緒に行くことになった。

 ゴキが先頭で歩いていく後を俺、イブキ、人間になったノルン、アンナ、コトネの順番で付いていく。

 三十分ほど歩くと草地の中に木と草で出来た家があった。


 ゴキが行者殿の都合を聞いてくるというので、外で返事を待つことにした。

 数分後、ゴキとさらに大きいオーガと老人が出てきた。

 老人はシンタン国の昔の絵画に出てくる仙人のような恰好をしている。


「おぬしがヨシムネの弟子か?」

「はい、レオンハルト=アルカディアと申します」

 老人に問われて頭を下げて答えた。

「何の用じゃ。こんな山奥まで来るとは、余程の事なのじゃろうて」


 俺はここに来た理由を話した。

「上級悪魔と戦うつもりか、剛毅じゃのう。

 長くなりそうじゃ。中に入るが良い」

 家の中は板間が一間だけというシンプルなものだ。

 オーガ達は、行者の後ろに控え、俺達四人がその向かいに座った。


「神獣人がいないと言っておったが、そこのお嬢さんに神獣人の魂を感じるのだが、違うか?」

 行者はずばり言い当てた。

「私は神獣人にはなりたくない。あくまで人間として戦いたいのです」

 すぐにコトネは神獣人になることを否定した。


「そっちの小さなお嬢ちゃんも何か飼って居るようじゃ。精霊と妖魔かな?」

 アンナに宿ってるのはロキだけじゃないのか?

「妖魔って何ですか?」

「超強力な精霊じゃよ。おそらくシンタン国の前の前の国を滅ぼしたと言われるダッキ、そしてこのホウライ国ではタマモノマエと呼ばれた九尾の狐と言う妖魔じゃろう」


 本当なのか?確かにアンナは魔法に覚醒する前だというのに、精霊魔法を使っているし、霊力の受容量もすごいけど・・・。アンナの顔を覗き込む。

 青い顔をして汗が噴き出てる。俺の顔を見なさい・・・。これは知っていたなあ。

『ご主人!許してやってもらえぬか。アンナはこの件で非常に悩んでおって、ご主人に愛想をつかされるのではないかと』

 ロキよ、お前もか。だが、それくらいのことでアンナを捨てたりはしないぞ。


 アンナの顔が唐突に無表情になった。これはロキか?

「ご老人、ご主人、ワシはこの娘の中に住む精霊ロキ、この件でアンナを責めないでくれまいか。彼女は自分の体を妖魔に乗っ取られはしまいかと、いつも怯えておったのだ。自分も恐れるものをご主人が受け入れてくれるとは思えなかった気持ちを察してやってくれ」

 ロキはそれだけ言うとまたアンナの中に沈んだ。


 俺はアンナを責める気持ちはなかった。ただ秘密にされたことはショックだった。コトネの神獣人のことも解決出来なかった俺を、信頼してくれと言ってもむなしいか。

「アンナ、心配するな。俺とコトネはずっと一緒だ」


「ごめんなさい。私、自分のことばっかりで、あなたと向き合えてなかった」

 大粒の涙を流しながらアンナに抱き着くコトネ。

「お姉ちゃん・・」

 抱き返すアンナ。


「行者殿、この子達のままで、強くなる方法はありますか?」

 俺が聞くといきなりの青春群像にやや呆れ気味の行者が口を開いた。

「無いことは無い。すべてはこの子達の主人であるおぬしが握っておる」

「それは?!」

 俺は藁にもすがる気持ちで飛びついた。


「五式じゃ。五式を会得せよ。五式は五色ごしきに通じ、五行で言うところのこの世界のすべて、すなわち森羅万象を司ることも可能じゃ。神獣人や妖魔の意識を抑え込むぐらい簡単にできるじゃろう」

 行者は両手を広げ、顔を上げ、五式のすばらしさを説いた。

「先生も五式は無敵だとおっしゃっていました」


「ヨシムネか、やつは五式を会得できなんだ。お前はヨシムネを軽く超える才能を持っておる。五式を会得してワシに見せてくれ」

 え、あんた会得してんじゃねえの?ちょっと不信感が・・・。

「何を難しい顔をしておる。五式はいまだかつて誰も会得したことない能力じゃ。わしも会得方法を編み出した時にはすでに肉体を失って居った。それ以来会得できる者を探しておったのだ」


 なるほど、だから才能ある先生を鍛えたのか。でも肉体を失ったってヤヌウニさんと同じ受肉精霊なのか。え、でも・・・。

「先生ができなかったものが私にできるでしょうか?」

「不安そうな顔をするな。これまで教えてきた経験でわかるのだ。お前なら間違いなく会得できる」

 そういわれてもこの不安は払しょくできないよ。


「私は王です。教えてもらうにも時間があまりありません。それにすぐに国に帰らないといけません」

 そうなのだ、俺に許された時間はあと二か月もないのだ。戴冠式や結婚式も迫ってきているし、来年からは国を運営していかなければならない。

「心配するな。一か月だ。お前の国にも行ってやろう。ここには水も食い物も無いからな。ガハハハハ」


 ということで半ば押掛け師匠がアルカディアにやってくることになった。



 〇シンタン国少森寺

「なんすかあ!少女二人が減って魔獣とお爺さんが増えてるっす」

 シャオリンを迎えに行くとそう言って大騒ぎだ。


 彼女をノルンに乗せて一路アルカディアに向けて飛ぶ。

「全員が死んだことを報告したっす」

「そうか、幹部連中は何か言ってたか」

「何にも。だってあいつら鼻つまみ者だったし、でもおかげでタダで、寺を抜けられたっす」


 少森寺の僧兵二十数名が脱走して西大陸で起こした事件は、静かに幕を閉じた。彼女たちが何を思って西大陸まで来てウラノスの手先となって事件を起こしたのかは今となっては分からない。



 〇アルカディア城

 城に戻るとルシーダが待っていた。

 彼女はアテナとおっさん三人と大きな箱を持って来ていた。

「やっとアテナを人前に出せるように教育できたから連れて来たわ。それから就職斡旋を頼まれた三人、顔見知りでしょう。それからこれがすごいのよ」


 アテナは礼をする。

「こんにちは、悪魔との戦争に使ってください」

 おお、アテナが普通だ。苦労したんだろうな。

 三人のおっさんは魔獣狩りのおっさんとサーコートの二人だった。魔獣狩りが終了したので就職したいらしい。ロンメルに丸投げしておこう。


「それでこの箱は何だい」

 人一人が入れるような箱が置いてある。

「これが取って置き、アリスさんの戦闘用義体よ」

 ええ!?。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は11~12章の登場人物設定紹介をやります。

13章は獣王国編になります。コトネが主に活躍します。

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