12-12 先生とその師匠
ご愛読、ありがとうございます。
今回、レオンはヨシムネと会います。
〇次の日の朝 <レオン>
イブキは早朝登城して、先生に手紙と我々との面会を上奏してくれる。
我々はホウライ国の街を散歩しようと家を出ようとしたが、インエイ殿に止められた。
「従者の方々が嫌な思いをせぬように用意しました。着替えてください」
用意していただいたのはホウライ国の女性用の着物と笠だ。
東大陸とホウライ国にはほとんど獣人がおらず、ホウライ国は特に獣を忌避する風俗があるようだ。
「わあ、綺麗。こんなの私達が着ても良いのですか?」
アンナのテンションが一瞬でマックスになった。
アンナの着物はピンク、コトネの着物は水色の地に花をあしらった振袖だった。
「イブキが幼少の折に着ていたものです。どうぞ遠慮なさらずに」
「おじい様、ありがとうございます」
イブキのおばあさんとお母さんが着付てくれた。
「レオン様、どう綺麗」
「ああ、とっても。ありがとうございます」
レオンは三人に深く頭を下げた。
「ごめんなさいね。この国は獣人に慣れていないから、いやな思いをしないようにね」
「本当、こんなに可愛いのに」
笠は真ん中が盛り上がった市女笠と言い、植物の葉を編んだものらしい。顔が見えないように薄布が縁から下がっている。
「もし良ければ、着物は持って帰ってください。ホウライ国の土産も買う暇は無いかもしれん」
「おじい様、本当に貰っていいの?」
「ありがとうございます。大事にしますね」
「散歩から帰ったら着付をばあさんから習うと良い」
インエイ殿は目を細めた。
レオン達は城を一周して帰ってきた。
「ホウライ国のお城って綺麗ね」
「本当に優雅だわ」
それから二人はおばあさんの指導で、着付の練習をしていた。
昼食前にイブキが帰ってきた。
「わあ、コトネちゃん、アンナちゃん似合ってるよ」
二人の着物姿を見てすぐに褒めてくれる。
「陛下、上様が午後一に会いたいとおっしゃっています」
イブキは俺の方を振り返ってそう言った。
「早かったな」
「上様はせっかちなので、一時間ほどしか空いてないのですが」
そういえば先生はせっかちだったなあ。よくアヤメさんに窘められていたっけ。
先生に会うのが楽しみだ。
あの十二になったばかりの日、父に学業を諦めろと言われ、先生を紹介された。
先生は失意のどん底にいる俺を励まし、導いてくれた。
「何の後ろ盾もなく大きくなるには学業だけでなく、武芸も必要です。私は君の野望を達成するお手伝いを少しだけしますから、あとは君が自身で大きくなりなさい」
先生の言葉を胸に学業と武芸を、それこそ一日中休みなく続けた。
諸島太中等部の勉強をした。兄の教科書を使って。先生に剣術の技を教えてもらって近所の子供とけいこをした。
そのおかげで今の俺があると思っている。
先生は王になった俺を褒めてくれるだろうか?。
〇イド城 中庭 <レオン>
コトネとアンナは城内は駄目と言われて、イブキを案内役に二人で城内に入った。
なぜか面会は中庭で行われるそうだ。
俺達が庭の池の近くで待っていると、護衛二人とアヤメさんを引き連れて先生がやってきた。
白をベースにして金糸で刺繡をした豪華な羽織袴を着ているし、頭もちょんまげだ。
挨拶しようとしたら護衛が折り畳みの椅子を用意してくれた。ちなみに床几というらしい。
全員が着席すると先生が挨拶してくれた。
「遠路はるばる、ご苦労であった」
「お久しぶりでございます。お元気でしたか?」
俺はにこやかに挨拶したが、先生は顔色一つ変えなかった。
「君の活躍は手紙を読んだ。王にまでなったそうでおめでとう」
将軍というのは感情を表に出してはいけないのだろうか?とにかく感情が動かない。ヴァイヤールにいたころの先生はとてもにこにこしていたのに。
「ありがとうございます」
「それで君の用事とは何だね」
言い方も冷たい。
「はい、手紙にも書きましたが、上級悪魔と戦いましたが負けました。
自身も最近上達が感じられません。何か方法はないでしょうか?」
先生は大きなため息を吐いた。
「君も成長したと思ったがまだ子供のようだな。
大災厄の対処を自分が中心になってやるようだが、相手の強さも調べなかったのかね」
ガーン、そこまで言われるとは思ってなかった。だってオリンポスとの戦後を平和裏に進めるのと俺の権威を付けるために仕方なかったんだよ。
「申し訳ありません。周辺国の大災厄の対処の遅れを是正するために仕方がなかったのです」
言訳だな。西大陸の文献は帝国の初代様が悪魔を追っ払ったことになってる。
本当は上級悪魔と戦ったのは神獣人だ。
生き残ったのは竜の神獣人のみで、虎と狼の神獣人は魂になってる。
虎の神獣人の魂はコトネに、狼の神獣人の魂は神狼族に引き継がれている。
「そうだな。もう私では君を強くしてやることは出来ん。そこの池に架かる橋の頂点に立ってみたまえ」
先生は池の橋を指さした。アーチ形に作られた橋で中央は両端より一mくらい高い。
俺は先生に言われるまま、橋の中央に立った。
「西を見たまえ。山が見えるだろう」
山が見える。左右対称の綺麗な稜線で頂が平たくなっている。かなりかすんでいるから距離はありそうだ。
「はい、見えました」
「そこに私の師匠がいる。探し出して教えを乞うて見るがいい。機嫌が良ければ何か教えてくれるだろう」
「ありがとうございます」
俺は橋を降りて先生に深々と頭を下げた。
〇イド城 <ヨシムネ>
「上様、先程の応対は何ですか?レオン殿が委縮してしてましたよ」
レオンとの対面を終え、控えの間に入ったアヤメがいきなり話しかけてきた。
「彼は俺に褒められたかったと思うのだ」
アヤメはあきれたという顔をした。
「素直に褒めてやればよかったではないですか」
俺にも女にはわからぬいろいろなことがあるのだ。
「何人か陰で聞いていたろう」
「言ってもらえれば始末しますが?」
アヤメは命令しなければ、危険のある相手以外は放置だ。
「そんなことしたら、オワリ家やミト家の人がいなくなるだろ」
「朝廷も狙ってるって噂ですよ」
え、俺は振り向いてアヤメの顔を見る。人の気も知らないで、涼しげな顔をしてる。
「兄貴が死んだときに将軍になればよかったのに」
俺の父と兄は流行り病で次々と死んだらしいけど怪しくなっちゃうな。
「あの時は、オワリやミト、朝廷でも将軍になれるような人が、次々と流行り病で死んだらしいですよ」
「そうなの」
じゃあ、父や兄もそうなのかな?・・・
「今は大丈夫らしいですよ。流行り病で死ぬのはやめようって、協定ができたらしいですから」
なんで協定ができたら流行り病で死なないんだよ。
「じゃあ、なんで俺を見張ってるの?」
「足を引っ張るのは自由ですから」
「それでコトネを呼ばなかったのか」
「さすがに獣人をイド城に入れると、弁解が聞きませんからね。ああ、私は会いたかったんですけどね。レオン殿は西大陸で王をしておりますから、弟子が王になるって美談じゃないですか」
「じゃあ、会いに行けばいいじゃないか」
「暗殺は無くなったとはいえ、こんな敵だらけの所に上様を一人にするなんて出来ませんよ」
「お前の代わりっていないの?」
「今のところ信用できる者が見当たりません」
俺の周りって敵だらけなのね。
「ですから上様には早く跡継ぎをお願いしますね」
頑張ってはいるんだが、今のところ娘しか出来てないのだ。
〇ホウジョウイン邸 <レオン>
「ではフジ山に行かれると申すのか?」
イブキのお爺さんがびっくりしている。そういや父親に会ってないけど・・まっいいか。
「はい、明日の朝旅立とうと思いますので、今晩もよろしくお願いします」
そんなに驚くことかなあ。
「あの山は近くに見えるが、麓まででも二週間は掛かりますぞ」
あ、そういうことね。
「私達は、空を飛ぶ従魔を持っています。一時間でいけますよ」
「なんと、そういうことでしたら宜しいのですが。周辺には何もございません。水と食料は準備しておいてください」
親切なお爺さんだ。
イブキにもお別れをしとかないとな。
道場に行くと鍛錬をしているイブキがいた。
俺が声をかけると鍛錬を中断して俺のそばに来た。
「先生からフジ山に行くように言われた。明日朝ここを発つことにした。今までありが・・」
「ちょっと待ってください」
俺は言葉を遮られた。なぜか必死な顔で訴えてくる。
「私はレオン殿についていきたい。このままでは父が本貫のヤマトから帰ってきたら、すぐに結婚させられます。結婚したらもう武の道を行くことは出来ません」
そういうことか、こちらは俺たちの国に比べると男尊女卑が激しいのかな。本貫って武士の苗字の発祥の地だっけ。修行でもしているのかな。
でも家族がどう思っているのだろう。暖かく迎えてくれたここの人を、裏切るようなことはしたくないなあ。
「俺はいいけど、お爺さんはどう言っているんだい?君の意見は尊重したいけど、彼らを裏切りたくもないよ」
後からすごい圧がかかってきた。コトネとアンナは彼女を応援しているらしい。
「今から、確認してきます」
イブキはお爺さんのところへ走って行った。
俺達は自分達の部屋に戻った。
「結婚したら武の道に居てはいけないなんて酷いです」
コトネが俺に突っかかって来た。俺に言うなよ。
俺の国では結婚しても働けるようにしたい。女性は子供を産み育てるという業務があるからな。でも育てるのは夫や他の妻達と分業すれば、もっと楽できると思うんだよな。
廊下を走る音が近づいてくる。イブキだな。
ふすまがバーンと開いてイブキが顔を出した。
「お爺様の許可を取りました!!連れて行ってください!!」
そんな叫ばなくても聞こえるから。
少し遅れておじいさんがやって来た。
「レオン殿、こいつは女の幸せを捨てても武の道を歩みたいと言っております。欲目かも知れませんが
こいつは歴代の継承者を超える力を持っていると思います。どうかよろしくお願いします」
「私は女性も結婚しても働くことを選択できるようにしたいと思っております。お嬢さんが武も幸せもつかめるような国が私の理想です。イブキ殿、ともに頑張ろう」
イブキとうちの娘達が抱き合って泣き始めた。俺はこういうの苦手なんだよね。
まあ、建国の理念を再確認した俺だった。
〇アオキガハラの上空 <レオン>
俺達はノルンに乗ってフジ山の麓に来ていた。鬱蒼とした森が広い範囲に広がっている。地元の人は樹海と呼ぶそうだ。
三十分程探索したとき、アンナが叫んだ。
「強い霊力反応があります。右二十度、距離三km」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
ヨシムネの師匠が課題を出します。