12-10 ホウライ国へ
ご愛読、ありがとうございます。
今回は前回の続きでレオンが決断します。
〇街道からハーヴェル城
悪魔達が去ったあと、レオンはコトネとジェリルの治療にあたる。
コトネは額が陥没しているし、ジェリルは顎の骨が折れてる。
ビーストグローのスキンアーマーをここまで破られたのは初めてだ。
治療魔法の魔法陣を出し、治療魔法を掛ける。
二人のケガは治ったが目を覚ましてくれない。
取り敢えず、医療設備のあるハーヴェル城に運ぶことにした。
揺らすといけないのでジェリルはゴロの上に乗せて、コトネはレオンがお姫様抱っこで運ぶことにした。
レオンは二人を医療室のベッドに寝かした。
「君たちも休憩してくれ」
上級悪魔の出現に衝撃を受けているイブキとシグレとついでのかすみにメイドを付けて休憩室に行かせた。
アンナとゴロはコトネの、ナルとロッケはジェリルのベッドに付き添っていたので、そのままにしておく。
「先生、二人はどうでしょう」
レオンは二人の状態を診た医者に尋ねた。
「起きてみないと詳しくは分からないですが、多分大丈夫だと思います」
二人とも頭部に大きな打撃を食らった。頭の中は外から眺めただけでは分からない。
治療魔法はケガは直すが、機能を保証するものではない。
レオンは無事であってくれと祈るしか方法はない。
アンナがビクっと顔を上げる。
「レオン様、大きな魔力が近づいてくる!空から!?」
レオンの頭には上級悪魔の顔が浮かぶ。
「こっちに来るのか?いつぐらいだ?」
「速いです。一分もかからないくらい」
「屋上に行く!」
イブキ達も騒ぎに気付いて出てきた。
いずれにせよ上級悪魔なら勝てる見込みはない。
レオン達は駆け出した。
「これって、おっさん?」
「そうね、あの山で会った」
走りながらアンナとゴロが話す。
「なんだ?」
レオンが二人に聞く。
「グリフィンさんです」
「なんだ。彼なら敵ではない。安心してくれ」
中等部時代にゴロと会った山で会った幻獣だ。ヤヌウニさんを紹介してくれた。
イブキ達に説明した。ナル達はジェリル達を医療室で看てくれている。
屋上は中央がゆるい傾斜の銅板の屋根、その縁に歩けるぐらいの通路が作ってある。
上り口の所が少し広くなっているので、そこで待っていると南の方から近づく影があった。
見る見るうちに大きくなった影は、上半身が鷲、下半身がライオンのグリフィンだった。
降り立ったグリフィンにレオンが話しかける。
「グリフィン殿、お久しぶりです」
「やはり小僧であったか・・うん?、お前もしかしてヌエか?」
レオンは認識したようだが、ゴロを見て驚いている。
「オイラ、雷獣に進化したんだぜ。すごいだろう」
「まあ、良い。悪魔の反応に気付いて、ここまで来たのだが、何があった?」
ゴロをスルーしてレオンに問いかけた。
レオンは工房に襲撃を掛けた少森寺の奴らが、悪魔に変貌したことを伝えた。
「ふーむ、おそらくそいつらは瘴気が不足していたので、お前たちとまともに戦わなかったのだろう。多分、顔見世のようなものだな」
顔見世ってどういうことだ。敵の意図が分からないレオン。
「どういう意図があると思いますか?」
「お前達への注意だな。今のままでは勝てんぞ、ということかな」
うーん、レオンは頭をひねる。敵の目的に見当が付かないのだ。
「悪魔はな、瘴気のあるところでしか活動ができん。彗星が来ても一年ぐらいしか活動ができないのだ。だから好敵手を求めるのだ」
レオンを見て補足してくれるグリフォン。
「もっと強くなれということですか?」
「それもあるが強いやつを連れて来いということだ。まあ、神獣人のことだな。奴らは上級悪魔と戦うために作られたのだからな。ちなみにどこにいるか聞かれてもワシは知らんぞ。奴らは粗暴なので付き合いたくないのだ」
神獣人の話はあまりしたくないみたいだ。レオンは思ったことを聞いてみた。
「人間では無理ですか」
「そうだな。お前なら中級悪魔にも勝てるだろうが、上級となるとな。今まで人間のまま上級悪魔に勝てた奴を知らない」
ビーストグローのコトネはレベル7の人間にも勝てるだろう。それがまともに戦うことも出来ずにデコピン一発で倒された。普通に考えればあと十か月ぐらいで、何とかなるとは思えない。
「ワシ達、幻獣は悪魔と戦うつもりはないから、巻き込まんでくれよ」
そういってグリフィンは去って行った。
「オイラは一緒に戦うからな。レオンも負けるなよ」
「ああ、ありがとうな」
ゴロの声に少し勇気を貰ったレオンであった。
その頃、医療室ではナルが叫んでいた。
「ジェリルさん、起きたんですね。私が分かりますかあ?」
「え、ジェリルさん起きたの?」
ロッケはジェリルに寄り添ったナルの反対側からジェリルの顔を眺める。
「うん、ナルとロッケじゃないか。何の用だ?」
ジェリルの答えに飛び上がる二人。
「私達の名前を呼んでくれましたよ。これってもう大丈夫ってことだよね」
ジェリルががバッと上半身を起こす。
「ふん、どこも痛くはねえな。アタイはどうなっていたんだ?」
「ジェリルさんは大剣を折られ、ビンタを食らった時にあごの骨が砕けてました」
自分のあごを両手で撫でまわすジェリル。
「レオンさんが直してくれましたよ」
「そうか、それでか。・・コトネはコトネはどうなった?」
ジェリルは自分より先にやられたコトネのことを思い出した。
「コトネさんはそこに寝てますよ」
ナルは指を差す。その時にはコトネも上半身を起こしていた。
「コトネさんも起きたんですね。私たちが分かりますか?」
「分かるよ。ナルさん、ロッケさん、ジェリルさんでしょ」
ナルは大仰にほっとする。やはり頭に強い打撃を食らっていたので心配していたのだ。
「コトネ、お前どうすんだ?このままじゃああいつらに勝てないぞ」
ジェリルは自分の不安をコトネにぶつける。
「どうするって、強くならなきゃ仕方ないじゃない。それ以外に何かあるの」
ジェリルの年上とは思えぬ言葉に、コトネは何を言ってんだと言う感じで言い返す。
「お、おう、そうだな」
その強くなる方法を聞いたんだけどなとジェリル。
その時、屋上からレオン達が降りてきた。
「二人とも起きたのか。痛いとか気持ち悪いとかはないか?」
レオンは起きた二人を見るなりそういった。元気そうに見えたが心配はしているようだ。
「大丈夫だ」
「大丈夫です」
「そうか、でも今日は一日おとなしく寝ていろ。いいな」
レオンはそう命じると看護師に後をお願いして部屋を出た。
アンナとナルはしばらく二人についているそうだ。
「お姉ちゃん、そこは頭が痛いですう。とか言ってレオン様にしがみつかなきゃ」
アンナは抱き着く動作をする。
「バカ、レオン様に嘘つけるわけないでしょ」
コトネは真っ赤になって否定する。
「ハイハイ、横になって、今日は静かにしてるんだよ」
アンナは横になったコトネのシーツを直してやる。
別の部屋に移ったレオン達。ロッケはパトロールに、ゴロは薬草を取りに行った。
「さて、シャオリンの用事は済んだわけだな。これで戻れるのか?」
「はい、一度少森寺に戻りたいと思います。そのあと、またこちらに来てもいいですか?」
珍しくシャオリンが敬語で話したので、回りが驚いている。
「なんだよ、俺が敬語で喋っちゃおかしいか」
ホウライ国人三人が首を縦に振る。
「それは構わない。仕事が必要なら用意してもいい。あとの三人はどうする」
代表してイブキが答える。
「私たちはイエーガー伯爵の手紙を頂かないと帰れません」
レオンは少し考えるとこう言った。
「じゃあ、明日送っていきますよ。今日はもう遅いので、帰りが暗くなる」
「それは飛んで行って貰えると言うことですか?」
シグレが驚いて言う。
昨日は定期便に乗ってきたので、考えていなかったが、あの大鷲による運送はアルカディアの重点施策である。それをヴァイヤール王国へイブキ達のために変更するというのだ。
「かまわないよ。教会本部と王都は近いからね。運行時間の変更は伝えておくし」
気軽に言うレオンだがイブキ達は納得できない。
「連絡ってどうするんですか?」
彼女たちは従者通信も精霊通信も知らないのだ。
「まあ、そこは深く考えないで、実は俺もホウライ国に行こうと思ってるんだ。先生に教えを請いたい」
ホウライ国人の三人は腰を抜かすほど驚いているが、シャオリンは平然としている。レオンの先生だったヨシムネは、現在ホウライ国の最高執政者である将軍であるからだ。
とはいうもののレオンも実はアルカディア王国の国王である。できて半年にならないので、威厳も何もあったものではないが、まごうことなき本物である。
「上様に会われるつもりなのですか?」
イブキが恐る恐るレオンに聞いてみる。
アルカディアと違ってホウライ国は数百年の歴史のある国だ。他国の王でもおいそれと会えるものではない。レオンが会うと言った場合、その手配の煩雑さに気が遠くなるほどだった。
「心配するな。先生はこれを見せれば、会えるようにしておくとおっしゃってくれた」
レオンは刀を収納庫から出した。
「拝見いたします」
鞘から刀身を抜くイブキ。ハバキの部分に燦然と輝く紋は、間違いなく将軍家の紋。
シグレはともかく、身分の低いカスミは土下座をする。
それほどなんだ、と舌を巻くレオンだった。
「わかりました。でもそんなに長く国を離れても大丈夫ですか?大災厄も終わってしまいますが?」
船で行く場合、旅程は片道十か月は見ておく必要がある
「何を言っている。大鷲を使えば一日で行けるぞ」
レオンはさも当然という顔で言う。
ノルンの最高速度は旅客機並みの時速千km、ホウライ国までおよそ一万km、ジェット気流に乗れば十時間も掛からない。
イブキ達はあきれるほかはなかった。この人は普通の感覚で測っては駄目だ。何段階か上にいる人だ。
結局、使者の仕事が終わったら一緒に帰ることになった。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はホウライ国へ出発します。