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12-7 アリス(2)

ご愛読、ありがとうございます。

アリスが千年前の大災厄について語ります。

 〇シンタン国 カカザン

 ここはシンタン国の東の方にあるゴウライコク、ひと際高くそびえる山はカカザン。

 その山の上にある宮殿。玉座に座っているのは猿獣人。そこに立派な角を生やした牛獣人がやって来る。

「大聖様、西大陸に悪魔の兆候が発見されました」

「兄貴、その敬語はやめて貰えませんか」

 明らかに年上の牛獣人の言葉に猿獣人が嫌そうな顔をする。


「いえ、我々神獣人の格付けは強さで決まります。大聖様は恐らく世界一の強さ、私が謙るのも仕方が無い事」

 牛獣人は跪いて言った。かれこれ、この主従は千年の間同じような問答をしている。


 猿獣人の名前は斉天大聖、牛獣人は平天大聖と名乗っていたが今は牛魔王、東大陸を守る神獣人である。

 千年前の大災厄で大きく力を伸ばしたのが斉天大聖で、牛魔王は平天大聖の名乗りを捨てた。以後牛魔王は斉天大聖に従者として仕えるのである。


「ところで、西大陸はどうしましょう」

「西大陸大陸には、竜、虎、狼の神獣人が居るはずだ。彼らが何とかするだろう。放って置いても良いんじゃないか」

 どうも牛魔王はお人好しで、自分達の管轄外の西大陸の心配までしている。

「しかし、虎と狼には復活の兆しが見えません」


「まあ、大災厄までには復活するだろう。それよりこちらの体制は大丈夫か?」

「はい、主だった戦士には目星をつけて、悪魔に手出しをさせないようにはしております」

「大災厄を防ぐ主役は人間でなければならん。千年前の西大陸の様に神獣人がやり過ぎると次の大災厄に備えられんからな」

「その通りで御座います」

 そうして、彼らは魔素があふれ出るカカザンの宮殿で大災厄に備えるのである。



 〇ヴァイヤール王国 グリューズバルト侯爵邸

 クロノスは自分の執務室にウラノスを呼んだ。

「ウラノスよ、少森寺の連中をハーヴェルへ派遣したのか?」

「はい、このままでは王室に知られそうだったので、外に出しました。御都合が悪かったですか?」

 このクロノスはウラノスことグリューズバルト侯爵の長男であるハインリッヒである。


「いや、そうではない。だが、レオンハルトには知られてしまったみたいだ」

「しかし、もう二日ぐらいでハーヴェルへ到着するはずです。我々には連絡手段がありません」

「奴の部下の狐獣人が毎日のように嗅ぎまわっているぞ。すでに目的は知られたと思って良い」

 クロノスはいかなる方法でそのことを知ったのだろうか。


「しかし、打てる手がありませんな」

 抑揚のない声で会話する二人。事務的な会話に聞こえた。

「そろそろ、悪魔の力を見せるのも良いか」



 〇ハーヴェル工場群 

 ハーヴェル城の近くにその工場群は在った。ここには数千人の人間が働いて、アルカディア王国の収入の殆どを稼いでいた。ここに攻撃を食らうことはアルカディア王国の破産を招く。今現在の最重要拠点なのだ。

 敵の狙いだが少人数の攻撃であるため、重要人物の殺害が目的と思われる。マサユキやキラ、コニンさんを中心としたドワーフ、ヘパイストスなどを殺害されれば工場を止めるしかない。


<コトネ>

 私達は敵の到着より一日早くハーヴェルに来ていた。

 マサユキさんの工房に併設された会議室に集まって大災厄について話をしています。

 メンバーはレオン様、マサユキさん、アリスさん、キラ君、コニンさん、イブキさん、シズクさん、カスミさん、シャオリンさん、ジェリルさん、ナルさん、ロッケさん、アンナ、私です。


「東大陸では斉天大聖様が守ってくれるので安心です」

 シャオリンさんが自慢げに言いました。


「ホウライ国は全員が戦士のような物です」

 イブキさんが負けじと言いました。

「西大陸はバラバラでソーンも参戦してくれるのか疑問だ。それを今何とかしようとしているんだ」

 レオン様が自身なさげに言いますが、私は頑張っておられると思います。


 パワーアップしたと言うアリスさんが、マサユキさんに何か言えと言う仕草をしていますが、マサユキさんが首を振ってます。

「どうされたんですか?」

 私がアリスさんに聞くとマサユキさんが言いました。

「いや、アリスがとんでもないことを言ってるんだ。俺は怪しいと思って、皆には話してないんだ」


「大災厄についてですか?千年前の考え方が解るのなら、教えて欲しいです」

 レオン様がアリスさんに話すように促します。アリスさんはマサユキさんの顔を見ます。アリスさんはマサユキさんをマスターに設定しているので、彼が止めている場合、彼の許可がないと話せません。

「いや、聞かない方が良い」

 マサユキさんはちらちらと私やアンナの方を見ます。


 そう言えばアリスさんがパワーアップしたのはずいぶん前です。マサユキさんはずっと話すことを禁じていたと言う事です。どういう事でしょうか。私達に関係のあることでしょうか。

「私達、獣人に関係することですか?」

 思わず聞いてしまいました。


 マサユキさんは俯いたまま首を振った。

「コトネやアンナに聞かせられない事なら出て貰いましょうか?」

 レオン様はマサユキさんに言うがマサユキさんは変わらずに首を横に振っている。


 私達に関係していることは間違いありません。

「私は聞きたいです。どんなことになっても私の心は変わりません」

 アンナも私の服を握りながらも大きく首肯する。


「お願いします。聞かせてください」

 私はマサユキさんにお願いしました。だって自分達の事なのに、自分が知らないなんて我慢できない。

「マサユキさん」

 レオン様が優しく促します。

「分かったよ。アリス、頼む」


 アリスさんが立ちあがりました。その顔は最初に見た時に比べて凛々しく自信にあふれていました。

「私を初めて見る人もいますから、自己紹介をします。

 私は約千年前にリヒトガルド帝国の位置にあったノクト連邦で作られたAIです。ノクト連邦自体は千年前の大災厄で滅んだようです。


 私は悪魔と戦う要塞を維持管理するために作られましたが、大災厄の前に火山の噴火により要塞自体が火砕流に飲み込まれ、かろうじて地下施設で細々と生きてきました。従って、私の中には前回の大災厄の記録は一切ありません。今から話す内容は私が作られた時点で判明、推測したことです」

 東大陸から来た四人は初めて聞く内容なので驚いた表情をしている。まあ、アリスさんは人間にしか見えないものね。


「まず悪魔の正体ですが、人間です」


 今度は全員が驚きました。私も理解できずに思わず質問をしようとしてしまいます。


「続けます」


 アリスさんの静かな威厳ある言葉に全員が息を飲みます。


「悪魔は彗星が来た時に現れる。これは正解です。正確には彗星の尾に含まれる瘴気が地球に降り注ぐことに依って発生します。この瘴気は薄ければ魔獣の発生位で済みますが、濃いと人間の負の感情を増幅して悪魔にします。


 悪魔になると身体能力が著しく増強し、素手で鎧騎士を簡単に倒せるようになります。なかには背中に蝙蝠のような羽根が生え、空を飛ぶものもいます。悪魔になったものは二度と人間には戻りません。


 悪魔には上級、中級、下級の区分があり、基本的には上級悪魔の命令によって動きます。中級は現場指揮官のような仕事をします。


 中級、上級の悪魔は魔法を使います。使う魔法も人間とは桁違いで山を吹き飛ばすほどと言われています。作戦を考える上級悪魔は数体しかいないはずです。その中で最高の位に着くのが悪魔王です。これは一人です」


 一気に悪魔の事を話したアリスさんは、いったん間を開けました。

 今まで漠然とした敵、悪魔が身近に感じられ、相手が人間であること、自分が悪魔になるのではないかという恐怖を感じました。

 誰も話し掛ける者もおらず、またアリスさんは話し始める。


「悪魔に成りやすい人ですけど、戦争、内乱、奴隷や貴族主義で虐げられた人々、現体制に大きな不満を持つ人が成りやすいと思われています。

 対策としてノクト連邦は奴隷制度の廃止、貴族主義の廃止、それと資本主義、機械文明の廃止です。資本主義、機械文明は生産効率は上がりますが、富の集中で貧富の差が広がり、不満を抱える人が増えてしまいます」


 これってオリンポスが企んだこと?レオン様が立ち上がらなければ、帝国もヴァイヤール王国も混乱の渦に叩きこまれていた。じゃあ、ウラノスは悪魔の味方?。


「それから二千年前の人間は人間の遺伝子を組み替える技術を持っていました。その対策は悪魔になりにくい人類を作る。最初、手工業に向いた人種ドワーフ、狩猟生活に向いた人種エルフを作ったけど、人間の不満は変わらなかったので、悪魔になりうる人間を減らすことは出来なかった。


 そして不満を晴らせる人種として獣人が作られました。

 獣人は人間に虐げられるために作られました。区別がつくように獣の耳と尻尾が付けられた獣人は、悪魔にならないので、いくら虐げても大丈夫という理由で、最下層の仕事を割り振られました」


 私達は人間が虐げるために作られた人種?。私達が今まで受けて来た差別は当たり前と言う事?。


「その後、拡張しやすい獣人の遺伝子を使って、対悪魔兵器神獣人が作られました」

「ばかな!、斉天大聖様が西大陸で作られただと?!」

 シャオリンさんが叫びました。良く解りませんが斉天大聖様というのが神獣人らしいです。

「はい、十二体の内猿、牛、猪、蛇の四体の神獣人が大災厄の東大陸で活躍したとハーヴェル城の書籍で確認しました」

 シャオリンさんは納得できていないようです。


「西大陸に神獣人は残っていないのか?」

 レオン様が質問します。

「竜の神獣人がエルハイホ共和国に残っている記述は見られましたが、他の七体の神獣人は不明です。なにせ帝国の記録では、アレクサンダー=リヒトガルドの記録しか残っていません」


「神獣人が居ないと悪魔には勝てないのか?」

 再度、レオン様が質問しました。

「正直、難しいと思います」


「今度の大災厄はどうなると思う?」

 西大陸の南部はレオンハルト様の活躍により悪魔の発生は少ないと思いますが、北部はかなりの人間が悪魔に変わると思われます」

「北部の人口は比較的少ない。南部の兵で戦えないか?」

「悪魔は下級戦士でレベル4か5の力を持っています。普通の兵では対処できないでしょう」


 私の頭からは獣人は虐げられるために作られた。そのフレーズが頭から離れなかった。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は少森寺との戦いになると思います。

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