12-6 イブキ(4)
ご愛読、ありがとうございます。
今回はアルカディア城に到着したイブキ達の話です。
〇アルカディア城 <イブキ>
シャオリンと分かれた翌日、私達はアルカディア城に到着した。
巨大な城だ。隣は教会だろうか、負けずと巨大なものが作られている。街はまだ建築中の建物が多いが、道路が広く、工事の人々の声が明るい。城って普通は相手に攻められないように道は細く分かりにくくするのが普通じゃないのかしら。
上様と伯爵夫人の紹介状を見せるとすんなり城の中に入れた。
確か、上様と別れて約三年、どうやったら貧乏貴族の三男坊が、こんな大きな国の王様になれるんだろう。
待合室でそんなことを考えていると扉が開いて、可愛い猫獣人のメイドさんが顔を出した。
「お待たせいたしました。陛下の執務室にて面会いただけます。私に着いて来てください」
この娘、私より年下だよね。スカートの穴から出た尻尾を歩くたびに左右に揺れる。ちょっと触ってみたい。うん、この娘出来るわ。シグレやカスミより上かも?
「陛下、ホウライ国の使者、イブキ=ホウジョウイン様、シグレ=コノハ様、カスミ様で御座います」
執務室の扉を開けると奥の執務机に私と同年代の少年、左脇に二十歳ぐらいの青年、右隅にさらに子供の狐獣人メイドが居たが私達を見ると奥の部屋に入って行った。
私達は執務机の前に跪いて自己紹介をした。
少年が立ち上がって挨拶をした。
「アルカディア国王、レオンハルト=アルカディアだ。遠路はるばるご苦労であった。疲れたろう。座ってくれ」
私は上様からの手紙とアヤメ様の手紙を出して手渡した。それからメイドの指示でソファーに腰掛けた。
「ふむ、コトネ、アヤメさんからだ。ここはアンナに任せて読んで来るが良い」
猫獣人のメイドがアヤメ様の手紙を受け取ると急いで部屋を出て行った。
あれが、アヤメ様の弟子か。カスミが会いたがってたな。
カスミを見るとコトネと呼ばれた少女を目で追っていた。
先ほど部屋を出た子供がお茶を盆に乗せ運んできた。
「粗茶ですが」
私達の前にお茶を並べてくれたのであるが、それがほうじ茶だった。
テレジアスに着いてからこちらの飲み物と言えば薄めたワインか紅茶だった。
ホウライ国の日常を思い出し、ちょっとセンチになっちゃった。
陛下が手紙から目を上げると私達に話し掛けた。
「ヨシムネ先生の事を教えて貰えるかな?」
私が話そうとした時、シグレがそれを遮った。
「陛下、陛下の母上と妹君を誘拐した者の残党を見つけました。私達の仲間が追っています」
王様はちょっと考えてた。その隙に隣の青年が私達に話し掛けた。
「誘拐犯は全て死んだか捕まったはずだ。仲間だと言う証拠はあるのかい。それとも何か悪い事をしたとか?」
「いえ、少森寺を犯人と一緒に脱走しています」
「それじゃあ、こちらが捕まえる訳には行かないねえ」
「まあ、アキラさん、もう少し聞いてみようよ」
青年は頷く。陛下は優しくシグレに聞いてくれた。
「そいつらは誘拐犯の脱走を扇動した奴らで、色帯で腕が立ちます。今、ハーヴェル方面に向かうキャラバンの護衛をしているようです。残り五人の内、二人を見て居ます」
「それだけではただ護衛をしているのか、ハーヴェルに目的があるのか分かりませんねえ」
青年は困ったように話す。
「正教会本部を二日前に出たのなら、ハーヴェルにはまだ一週間以上は掛かるだろう」
「狙うとしたら工場だと思いますが、どうしますか?」
青年は陛下に聞いた。
「まだはっきりしたことが解らないから軍隊は動かしたくないし、ジェリルに行って貰います。それからアンナ」
「はい、」
右隅に戻っていた子供メイドが返事をする。
「お前はゴロを呼んでその残党の確認と、追い掛けている少女とコンタクトを取れ」
「はい、そのお友達のお名前は?」
子供メイドはシャオリンの名前と特徴を聞くと部屋を出て行った。この子供がどうすると言うのだろう。もう相手は二日の向こうに居ると言うのに。
入れ替わりに猫獣人のメイドが部屋に入って来た。王様って子供好きなのかしら。
「あなたがアヤメ様に忍術を習ったコトネさんですね」
珍しくカスミが標準語で喋る。
「はい、仰る通りですが」
「アヤメ様があなたの事を褒めて居たわ。一度私と手合わせして貰えませんか」
「まさか、私は出来が悪くって怒られてばかりで、手紙にもあれは出来たか、これはってお小言ばかりで」
コトネは隙を見せない。しかしそれは忍者のそれじゃない。もっと次元の高い武芸者のものだ。カスミはそれが解らないのか。
「カスミ、失礼ですよ」
「大丈夫ですよ。私達は陛下の従者ですが、特別な身分は御座いませんので。ただ、私の武術はアヤメ様より、陛下の影響を色濃く受け継いでいます。それでもよろしければ、あとでお相手致しますが、どうでしょう?」
あくまで優しく、相手を慮って返答してくれる。
「コトネ、そろそろ昼だ。先に食事をして貰ったらどうか」
「そうですね。では先に食事の用意をします。こちらでよろしいでしょうか?」
陛下は
「ああ、こちらの方が怖い人がいないから」
何のことでしょうか?。そんなに怖い人が居るのでしょうか。
陛下は食事中はホウライ国での上様とアヤメ様の様子を所望され、私とカスミからお話ししました。
食事が終ろうかとした時、私達と同じくらいでしょうか、威厳のある風体の少女が現れました。
「食事に来ないと思ったら、何でこんなところで食べているんですか?」
「いや、ホウライ国から将軍の使者が来たから、接待してたんだが」
私達の方をジロっと睨む少女、美しいのだが威厳がある分ちょっと怖い。
「あのう、こちらの方は?」
勇気を出して紹介をして貰おう。
「ああ、俺の婚約者でリヒトガルド帝国の第二皇女フェリシダスさん、今、この国の財務を手伝って貰っているんだ」
陛下はにこやかに紹介する。私達は思わず立ち上がった。
「十月に陛下と結婚して第一王妃となるフェリシダスです。今は違いますのでお掛けください」
自分も陛下の隣に腰掛ける。
「ヨシムネ先生の話を聞いていたんだ。ほら君にも話したことがあるだろ」
「ではなぜ私を呼んでくれなかったのですか?」
「今回は先生の私用で来てもらっただけなので、あまり大事にしない方が良いだろ」
どうにも陛下の方が尻に敷かれているような・・・そう言えば第一王妃って、他にも王妃になる人が居るんだろうか。知りたい、知りたいけど質問するのは怖い。
「そう言えばミラがまた来たって聞いたけど」
「仕方ないだろ。ヴァイヤールの王都を救った時の約束なんだから、話しただろ」
何か陛下が小さくなっていくような。
「それでアンナちゃんが今しがた、ゴロ君に乗って出かけて行ったけど、何か問題があった訳じゃあないんでしょうね」
「それが・・・・」
陛下は誘拐犯の残党について説明した。
「だからオリンポスの黒幕だったウラノスが、糸を引いてると思っているんだ」
「オリンポスもそのウラノスも目的がはっきりしないね。最初ヴァイヤール王国を狙って、次は聖金字教国とエドゥアルト王国、ハーヴェル諸国連合、バルドゥール王国を狙って、バルドゥール王国が失敗したら放り出しちゃって、今度はイエーガー伯爵の家族を誘拐して、今度はハーヴェル工場群なの。でもよく考えると皆、貴方が妨害してるじゃない。どういうこと?」
フェリシダス様は首を捻る。これだけのことをしているなら王様になっても不思議じゃないのかな。
「それで今はイエーガー家への嫌がらせ?ハーヴェルの工場群を狙ってると考える訳ね」
「うん、それが一番俺達がダメージを被るからね」
「この人たちが居なかったら判らなかった訳か。ありがとうね」
訳の分からない話をしていたので黙っていたが、いきなり礼を言われたので愛想笑いをした。
ちょっとまずかったかな。
「それでどうするの?」
「取敢えず、今尾行している人をクロエの部下と代えようと思ってる。ハーヴェルにはジェリルに行くように指示した」
「それで大丈夫なの」
「神狼族娘二人もいるし、到着する日には俺達も行くよ」
「あんたはもう一人じゃないんだから、無理はしないでね」
「大丈夫です。私が無理はさせません」
横合いからコトネさんがフェリシダス様の言葉に返答する。
コトネさんは従者と言っていたし、陛下に心酔しているのだろうな。
「もう、あなたは獣人の星なのよ。自重してよね」
良く解らないけどコトネさんも重要人物の様だ。
それなら。
「私達も武芸者の端くれ、どうかお手伝いさせて下さい」
そう言って遅ればせながらシグレとカスミを見る。二人は大きくうなずいてくれた。
「本来なら、跡を付けて居るシャオリンと言う娘の任務ですが、我々も友人として手伝いたいのです」
シグレはシャオリンと最初に試合した。そのことで友情を深めたみたいだ。
「あのー、敵はここからドンドン離れてます。どうやって追付くんです」
カスミが恐る恐る質問した。そうよね。替え馬でも用意しながら走っていくんだろうか?
「大丈夫、空を飛んで行くから」
陛下は簡単にいった。どういう事かしら。
私達の顔が面白かったのか、陛下が笑った。
「もうすぐ来る時間だから、自分の目で見てくると良いよ」
コトネさんに目で合図をした。
「皆さん、私の跡に着いて来てください」
「は、はい」
一体何を見せてくれると言うのだろうか?
後ろでフェリシダス様と陛下が話している。
「私も戻るわ。頑張ってね」
「ああ、君も無理はしないでね」
結婚前から仲が良いんだ。こちらではそうなのかしら。
案内されて来たのは北側の広いベランダだ。
「何が来るのだ?」
シグレが聞く。
「この時間は北東の方角から来ます」
コトネさんの言葉に北東の方向を見る。
「あ、もう少し上です」
コトネさんの言葉に視線を上に向ける。青空が見えるだけ・・。
何か黒いものが見える。
「あれは何だ!」
「え、どこ?」
「鳥やないか?」
「鳥だ」
そう口走った。そう鳥だ、しかし有り得ないくらい大きい。
「なにあれ、見たことが無いくらい大きいんだけど」
「大丈夫?食べられたりしない?」
「大丈夫です。あれは受肉精霊のノルンさんです」
目の前に大きな黒いワシが降り立った。そして寝そべってワシの背中から一人の少女が降り立った。
代わりに将校が背中に向かう。
「ロンメル准将、帝国ですか?」
「ああ、元帥閣下が顔を出せとうるさくって。明日には帰って来るよ」
「行ってらっしゃい」
コトネさんが手を振ると手を振り返した。手慣れたものだ日常的にこの鳥で移動しているのか。
「この鳥で帝国に行くだと?」
私はこちらの地理に詳しいわけではないが、帝都までとすればハーヴェルまでの二倍以上ある。それを明日帰って来るだと。
「おーい」
降り立った少女がコトネさんに声を掛ける。
「ジェリルさん、ハーヴェルへ行くんですよね?」
「まあ、そう言うな。強そうな奴らが居たからよお」
百八十cm以上の身長、来ているポンチョからはみ出した手足は筋肉で武装している。そして背中には巨大な剣。
こりゃ化け物だな。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はハーヴェルへ対決に行く予定です。