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12-3 アリス

ご愛読、ありがとうございます。

今回はマサユキとAIのお話しです。

 〇ハーヴェル マサユキの工房 <マサユキ>

 俺はアラサーの男である。一般常識としての政治は知って居ても、実践方法など欠片も知らないのである。それをアキラの奴がやれと言って来る。

 アキラとレオンには恩義があるので、何とかしてやりたいとは思うのであるが、実力が伴わないのは遺憾ともしがたい。


 今日も今日とて、理由を作っては城から抜け出し、工房に籠っているのだ。

 アキラも政治向きなことは苦手なはずだ。それでも一生懸命レオンを支えている。奴にはシャラと平和に暮らすと言う夢があるから頑張れるので有って、俺には理由が無いのも問題だ。

 俺もこの女の溢れる世界に来て、良い話の一つや二つあっても良いんじゃないかと思う。


「マサユキ殿、ジェネレーターの修理は完了したようだ。これをどうするのだ?」

 喜色満面の美しい笑顔で俺に聞くのは、遺跡から付いて来たAIだ。

 ジェネレーターの修理はリペアロボットを二台修理したら勝手にやってくれた。ついでに残っていたリペアロボットも全部直っている。ガードロボットの部品が修理に役立ったみたいだ。


「今の所は、お前を動かすために一台は据え付けたが、後は帝国に二台据え付けねばならんし、こちらの拠点にも置きたい」

 これらのジェネレーターの作り出す魔力はキラが開発中の魔道具で、照明やコンロ、湯沸かし器などの熱器具の動力源として使おうと思っている。


 俺達はその知識をこのAIから得ようとしていたのだが、うまく行かない。

「その問いに関する答えは、高機能モードを起動して高位知識エリアの解放が必要になります」

 だと、しかもその高機能モードとやらを起動するには、滅びたノクト連邦のIDが居るらしい。

 つまりはこのAIはポンコツのまま、在り続けるらしい。


 他に引き取り手もいないので俺の工房に居る訳だが、最近は使い方が解って来た。

 こいつは目で見ただけで製品の寸法や角度などを正確に測れる。工具なども持って来いと言えば持ってきてくれる。以前に居た獣人の助手に比べても間違えないし、便利だ。何と言っても仕事が無い時に放って置いても文句を言わない。記憶力や簡単な事務仕事も出来るので政務の秘書みたいなこともやって貰っている。ちなみに獣人の助手は政治活動が多くなった時に工場に移動して貰った。


 そうなると必然的に二人きりになることも多い。俺もさすがに生物ではない彼女に劣情を起こすことも無いのだが、周りで彼女の正体を知っているのはごく僅か、俺の嫁みたいに思われているらしい。


 季節は初夏を迎え、周りの森の木々も若葉の色に染まって来た。

 俺は都会に住んでいたから、季節の移り変わりを自然から教えて貰うような生活はしていなかった。

 エリーゼ様とエイト君は学生生活を開始して、休みにはアルカディア城に遊びに来ているようだ。

 フェリ様も財務の大臣としての業務にも慣れて来て、アルカディア王国も軌道に乗って来た。

 俺の政務もこの世界の人間に引き継がれて行った。


 秘密なのだが俺とキラは大災厄で、やって来る悪魔向けの兵器を開発している。

 帝国の初代皇帝のアレクサンダーが勝ったと言うので、然程強力なものは必要ないのかなとも思うが、文明の破壊とかを考えると大勢力であったことは間違いない。

 いずれにせよ文献には敵の様子や戦いの記録がほとんど残っていないので想像するしかない。

 遺跡の要塞の武器を調べられれば、もう少し具体的な脅威が解ったかも知れない。AIも今のモードでは説明できないみたいだし、諦め気味である。


 そんな時にノルンに乗って一人のエルフが現れた。ノルンは帝都ーハーヴェル城ーアルカディア城ーエドゥアルト城ー聖金字教会本部を一日一往復しているのだ。以前は一か月以上掛かっていた距離を少人数だが数時間で到着できると大好評である。尚、帝都が含まれるのは顧問団が居るからである。必要な書籍や道具を送ることが出来るのだ。


 エルフはルシーダと名乗り、フェリ様の学友兼護衛だと言う、一応、ゴロに見て貰ったら本物だと言うので話を聞くことにした。

「あなたは遺跡でAIを手に入れましたね?」

 ルシーダはそう切り出した。

「ああ、AIは俺が預かってる。それがどうかしたか?」


「私は大災厄を戦う戦士を探す者です。AIもその資格を持つと見ました」

 俺は笑った。あいつが戦士?あのポンコツが?。

「そう今の彼女では戦士とは思えないでしょう。でもこれを使えばどうでしょう」

 そう言って彼女は厚手のカードを取り出した。


「なんだそれは?」

 俺にはその黒い硬質なカードが不気味なものに見えた。

「ノクト連邦のIDカードです。これにあなたのデータを入れれば、彼女を戦士として覚醒出来ます」

 本来なら喜ぶはずの申し入れに俺は不安が沸き起こった。


 この不安は何だ。自分の心を覗いてみる。彼女を失うのが怖い。彼女が別の物になる。

 何だこの子供のような不安は?思春期はとっくに終わってるぞ。

「俺のデータが入れられるのか?」

「そうです。あれ、あなた魔力回路が無いですね?」

 ルシーダが驚いた顔をする。


 こちとらこの世界に落ちる前から、そんなもん持っちゃいねえよ。

「無いと駄目なのか?」

「いえ、無かったら作ればいいんです。ちょっと動かないでくださいね」

 ルシーダは俺を立たせて上半身を中心に手をかざして念を込める。

「エルフはね。こう言う事は得意なんですよ。まあ、魔力回路が無い人って珍しいから知られてないんですけどね」


 俺は魔力も感じられないし、なんか体の中がむずむずするんでビビっていた。

「魔力回路って行っても何かある訳じゃないんです。魔力を通す経路と溜めるものを作ってやるだけですから」

 彼女は俺に向けた手の平を上下させながら、俺の周りを回る。

「はい、出来ました。ついでにID登録しちゃいますね」


 彼女はカードを水平にした俺の右の手の平に乗せる。

 カードから俺の中に触手が伸びるような感触が有る。俺は驚いて手を引こうとしたが彼女が手首を持って固定している。すぐに感触は無くなったので安心した。

「これで登録完了かな。何せ昔に死んだエルフの記憶だから良く解んないのよね」


「昔の記憶が解るなら千年前の大災厄の様子も解るのか?」

「ごめんなさい。つらい記憶なのか読めないのよ」

 私も知りたいのよと言いたそうな顔をする。

「AIを呼んでくれる?カードを読ませればモードが変わるはずだわ」

 彼女は気楽に言ってくれる。


「ちょっと待ってくれ。俺のカードを読み込ませたらどうなるんだ」

 彼女は何を当たり前のことをといった様子だ。

「それはあなたの指示で動くようになるんじゃない?」

「それはあいつがあいつでなくなると言う事じゃないのか?」

 俺はAIの人懐っこい様子が好きだった。これがスマホやスマートスピーカーのような事務的な対応になるのは嫌だった。


「さあ、それはやってみないと解らないけど。本人に聞いてみれば良いじゃない」

 俺が乗り気にならないもんだからイライラし始めたようだ。

「あのね、私は大災厄対策のために、一日エルフの宝物庫をひっくり返してようやく探し出したんだから、喜んでもらえると思ったのに」

 ヤバイ!遂にキレて来た。


「わ、分かった。今呼ぶからちょっと待って」

 不安だから駄目だとは言えなくてAIを呼ぶことにした。

「おーい、AIこっちに来てくれ」

 工房に待たせていたAIを呼ぶとすぐに応接室に来た。

「はい、何でしょうか?」


 AIは俺の手にあるカードに気が付いた。

「それは、ノクト連邦のIDカードですか?」

「そうらしい」

 俺は頷く。AIは喜んでいるようだ。口角が上っている。

「この娘、感情があるの?機械なのに?」

 ルシーダは顔に驚愕を貼り付けた。


 ルシーダにAIの感情の話をしても仕方ないし、俺自身も良く解っていないのでスルーする。

「AI、カードをどうすればお前が高機能モードになるのか、教えて欲しい」

「はい、マスターが私のスロットにカードを入れて、私の手を握り、コードネームを付けてください。それから高機能モード開始と唱えて頂ければ、私は高機能モードとなります。注意点として高機能モードは魔力の消耗が激しく、一日一回の魔力補給が必要です」

 AIは高機能モードの起動方法を教えてくれたが気になることがあった。


「コードネームとはなんだ?」

「はい、私を個別に認識するために着ける名前です。義体での高機能モードは複数体の重複が可能なのでコードネームを付けて識別します。普通女性の名前を付けるようです」

 なるほどな、同じ顔の義体が並んでいる様子を思い浮かべた。まあ、AIと言えばあれだよな。


「魔力の補給時間はどれくらいかかる?」

「三から四時間でしょうか。ジェネレーターが近くにあれば補給しながら活動できますし、マスターが就寝中に補給すればマスターが受ける影響は少ないと推測します」

 ふむ、スマホの充電みたいなもんか。そうすると低機能モードはガラゲーみたいなもんか。


「高機能モードで出来ることは何だ」

「メモリの全開放、演算速度の向上、学習能力の向上、要塞を一人でコントロール等々ですね。大体今の百倍程度は優秀に成ります」

 やっぱりガラゲーとスマホの差か。


「なんで低機能モードで居たんだ?」

「それはジェネレーターが次々と停止して、要塞の維持をするために省魔力のモードへ移行しました。今回自分用のジェネレーターを用意して頂いたので高機能モードに移行できます」

 やっぱりか、じゃあ、自分で低機能モードに変えられるんだ。


「あのう、そろそろ高機能モードにして下さい。私も忙しい身なので」

 ルシーダが催促して来た。

「ち、仕方が無い。AIどうすれば良いんだ?」

「部外者に見せる訳には行かないので、そちらのエルフの方に出て貰うか、私達が場所を移すかしてください」


「ルシーダさん、済みませんがここで待っていてください。AI、工房に移ろう」

 流石にお客さんを工房に居れる訳に行かないから、俺達が移る。

「分かった」

 ルシーダの返事を聞いて隣の工房に移る。


 工房のあちらから覗かれても見えない部品置き場に来た。

「さあ始めるか」

「ちょっと待ってください」

 AIはブラウスのボタンを外し始める。

 俺は慌てて彼女の手を止めた。


「何やってるの」

 彼女は不思議そうな顔をして俺を見つめた。

「服を脱がないとスロットを出せません」

「もしかして胸にあるとか?」

「はい」

 またボタンを外してバッとブラウスの前を広げる。


 下着は着けておらず、こんもりと大きな鏡餅が二つ。

 目が離せない。突起は無い。ツンツルテンののっぺらぼうだ。

 まあ、用途から言って突起は必要ないよな。

「なんでこんなに再現度が高いんだ?」

 俺は船が単に隆起しているだけだと思っていた。鏡餅が再現されてるなんて。


「義体は本来、避難民の誘導用なので、優しい女性に見えるように作られています」

 なるほどね。そう言う事だったか。

 彼女は左の鏡餅を持ち上げる。その下からカードを入れるスロットが出て来た。

「カードの矢印を合わせて、入れてください」

 俺はカードを差し込む。カードはひとりでに飲み込まれていった。


「両手を握って下さい」

 鏡餅を離した彼女の両手を握る。

「マサユキ=ヨシムラのIDを確認、コードネームを登録します。コードネームをお願いします」

 コンピューターのような一本調子で話すAI。

「コードネームはアリスだ」

「コードネームはアリスでよろしいでしょうか」

「それでいい」

 AIと言えばアリスだよな。・・暴走するかな?


「コードネーム アリスは高機能モードを開始します」


「高機能モードに移行完了しました」


 アリスに表情が戻った。

「マスター、あなた達の悪魔対策は間違っています」

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はまた新しいキャラが出てきます。

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