11-6 遺跡調査(4)
ご愛読、ありがとうございます。
今回は必死の脱出劇です。
コトネ達が止めるのも聞かずにギュンター博士が非常用スイッチを押した。たちまち遺跡は警報が鳴り響く、警戒モードに移行してしまった。
〇遺跡内部 <レオン>
「一般人が入れるところの非常スイッチだ。大した事無いだろ」
マサユキさんが言うが、今の状態ではどうなるか分かったものではない。
『通信切断を確認、外部カメラ、センサー類停止、内部のカメラセンサー類も多数停止、非常事態モードを発動。CS(戦闘用コンピューター)を起動』
AIのものではない音声がする。
「スピーカが壊れてるはずなのに、何でだあ!」
キラの疑問にAIが答える。
「非常用の拡声魔法です」
「このモードは止められないのか?」
レオンはAIに鎮静化を頼んだ。
AIは困った顔をして言った。
「CSは私の上位システムなので止められません」
「ええい、この役立たず!!」
キラがAIに罵声を飛ばす。
『連邦IDを持たない人間の存在を確認、排除します』
なんか怖い声が聞えて来た。
「俺達を転送しろ」
キラがAIに命令する。
「CSが転移システムを封鎖しました」
AIが泣きそうな声を出す。
「ああもう、本当にポンコツ!どういうことか説明しろ!」
「千年寝てたら目隠しの上、両手両足縛られてたって感じでしょうか?」
AIは変な例え話をする。
「つまり警報で起こされたら、外部カメラやセンサー類はオシャカ、内部には連邦以外の人間が居て、破壊工作をしてると判断した訳か」
「そう、それです」
「お前が真実をCSに伝えれば良いんじゃないか!」
「私も本体に戻れないので、敵認定されているようです」
キラとAIの掛け合いが終わったところで、事態が改善されてない、不毛だ!。
その時、俺達の反対側の通路に四つの魔法陣が浮かび上がる。
「転移魔法陣です。戦闘ロボットが来ます」
AIが叫ぶ。
フェリ、お前安全だって言ったよな。無事に帰ったら見てろよ。・・・なんも出来んわ。怖くて。
「お前の後ろに居れば大丈夫だろ」
マサユキさんがAIの後ろに隠れる。
「私はただの義体なので、容赦なく襲ってくるかと思います」
「お前、何の為に居るんだよ!!」
「ごめんなさあい」
AIは泣いている。
「アンナの後ろに隠れて!アンナ頼むよ」
俺は皆に指示する。
「ラジャ―だよ!」
最近、アンナは変な言葉をどこかで拾ってくる。
アンナは俺を除く、全員が後ろに来たことを確認した。
「霊力の壁、スピリチュアルシールド!」
これでかなりな攻撃が来ても大丈夫だ。
魔法陣からは四体の四つ足の犬型ロボットが出て来た。
俺は三式で迎え撃つ。
「ハァーッ!!三式戦!『飛燕』!」
両手を水平に振り、三日月形の霊力の刃を放つ。ロボットは各々素早く躱す。
チッ、なかなかの性能だ。
こうなれば接近戦だ。俺は収納庫から刀を出す。
ジェネレーターを壊したくないから出力はセーブする。
ロボット犬は背中から棒状のものを出すと、先端から火花が散った。
ダダダダッ
四匹の銃撃は迫力あるものだった。
これが銃と言うものか?音速をちょっと超えたくらいの金属片が飛んでくる。
俺達は部屋の反対側の通路まで後退していたから距離は三十m位だ
ジェネレータの有る床は通路より下にあるからジェネレータは大丈夫だ。
俺の霊力の盾もアンナのスピリチュアルシールドも当たっても影響はない。
この部屋はほぼ正方形で、四方の壁に沿って幅二m位の通路が作られている。
敵は銃で倒せなかったので直接攻撃を選んだようだ。両端の二匹は左右の通路から、真ん中の二匹はジェネレーターの中を通ってこちらに走って来た。
先に部屋を突っ切った二匹が飛び掛って来た。首の所から槍のような鋭い刃が生えている。
しかし、俺の魔剣の敵ではない。正面から斬り下げ少し遅れて来たのを左から切り払った。
二匹のロボット犬は縦と横に斬られて床に落ちて停止した。
今度は左右から来る二匹だ。ほぼ同時になりそうで一匹をアンナに任せることにした。
「アンナ右を頼む!!」
「ラジャーだよ。サラマンダービーム!!」
赤い光線が奔る。ロボット犬は光線に貫かれて、そのままの勢いで縦に回転、アンナの前で停止した。
もう一匹は走ってる勢いでそのまま飛び掛ってくる。フェイントぐらい入れろよと思う。
斜め後ろに避けながら真っ二つにする。
俺は一つの疑問を抱いた。
「キャーッ!!」
AIが悲鳴を上げた。
「どうした!!」
俺が聞くと通路の奥を指差した。
そこ壁にはアンナのビームで開けられた穴があった。
「超硬コンクリートの壁が・・・」
「まあ、緊急時だ、許してやってくれ。ジェネレーターは無事だぞ」
マサユキさんがフォローする。
しかし警報は鳴りやまない。
「まだ何かあるのかねえ?」
「ガードロボを壊してしまったので次の段階へ行くと思います」
AIの言葉に反応したのか拡声魔法が言った。
『ガードロボットが機能停止しました。当要塞は機密保持のため三分後に自爆します』
「えー、もう諦めちゃうの。もっと粘ろうよ」
アンナが呆れる。
「どうする?転移は封じられてんだろう」
不安を煽るマサユキさん。
「キラ、ゲートで外に出られないかな」
「無理、ミラみたいに早く出来ないから」
「緊急の脱出路は無いの?」
「そんなのありませーん」
「取敢えず、ジェネレーターを無くそう。魔力が供給されなければ、自爆出来んだろ」
マサユキさんが俺に言う。
俺はジェネレーターとついでにリペアロボット、ガードロボットの残骸を収納庫に入れて行く。
「ああ、私のジェネレーターが・・」
AIが地味に鬱陶しい。
『爆発まであと二分』
「止まってねえじゃねえか!」
マサユキさんが大声を上げる。
「CSには当然、予備のジェネレーターがあります」
AIの回答に切れるマサユキさん。
「そう言う事は先に言え!!」
「アンナ、壁の薄いのはどっちだ!」
「こっち!」
ちょうど俺達の居る方の壁を指差す。
「人はいないな!」
「居ない」
俺は右手に霊力を集めた。
俺の右手に霊力が集まり渦を巻き始める。
「ちょっと、あなた!ここを手に入れるとか言ってたじゃないの!壊しちゃ駄目!」
要塞を壊されると解ったAIが止めようとする。
「こんな設備じゃ悪魔は止められない!」
俺の思った疑問は設備のお粗末さだ。
仮想敵をレベル3くらいに置いてる。これじゃあ勝てない。
俺は壁に向かって霊力を放つ。
ドカーンと大きな音と共に大きな穴が空く。
がれきが多く、開いた穴を通るのに苦労した。
出た先は左右に伸びる通路に出た。
通路を駆けて行くと大きな机が並んでいる。さっきまで調査員が閉じ込められていた避難所だ。
『爆発まであと一分』
くそー、焦るぜ。
壁が見える。行き止まりだ。ここも転移が出来ないと外に出られない。
「アンナ!どっちだ」
「こっち、でもお姉ちゃんが居る」
多分最初のホールだろう。
「コトネ!!外に出ろ!!穴を空ける」
コトネに向けて従者通信を送る。
俺は霊力をまた集め出す。
『爆発まであと三十秒』
無常に時は刻まれていく。
「レオン様!あれ」
アンナが後ろを向いて指さす。
そこかしこに爆発魔法の魔法陣が描かれていく。
あれが描き切られて魔力を込めれば爆発する。
「お姉ちゃんが脱出した」
アンナが叫ぶ。
俺は壁に霊力を放つ。
ドカーン!!
穴が空き、がれきが飛び散る。
ホールに出るとホールも魔法陣だらけになっていた。
『後十秒、九、八、・・・』
秒読みが容赦なく進んでいく。
がれきが邪魔をして進みにくい。
「行くぞ!」
残ろうとしていたAIを小脇に抱えると走り出す。
「私はようさ・ギ・・ギャ・・」
AIを抱えて走っているので、彼女が何を言ってるのか良く解らない。
『三、二、一、零』
ギリギリでホールを出た俺達。
「スピリチュアルシールド!!」
アンナが遺跡の入り口をふさぐ。
巨大な爆発音と共に、山が至る所から吹き飛び始める。
何とか爆発の影響のない所まで避難した俺達をコトネが迎える。
「レオン様あ!」
コトネが抱き付いた。
やべ、抱えてたAIを落としちゃった。
コトネが俺を抱きしめたまま泣きじゃくる。
いつも冷静なコトネが珍しいな。
大体、彼女は涙することはあっても、声を出して泣くことは無かった。
多分、アヤメさんにそう躾けられていたのだろう。
あの人は師匠に迷惑になることを極端に嫌っていたからな。
「どうしたんだ?」
いつまでも泣き止まないコトネに聞いてみた。
「警報が鳴って、エグッ・・ホールで待ってたら、グズッ・・急にレオン様が出て来ない・ンン・・じゃないかって不安になって、・・・」
そうか、今までは一緒に戦っていたから・・俺の姿が見えないから不安になったのか。そうだよな大人びた性格をしてても十三歳の女の子だ。そう言う事もあるのか。
俺は愛おしくなって、グッと抱き締める。
ドドーン!!
凄い音と振動が伝わって来た。
要塞の空間が潰れたみたいだ。山がすごい砂埃を上げて崩れている。
ああ、あそこを脱出できなければ、ペッチャンコだったな。
「ウエーン。私の本体があ!!」
今度はAIが地べたに女の子座りをして泣き出した。
「お前達が壊したのか!!」
ギュンター博士が怒鳴って走って来た。
「その声は!!お前だな非常スイッチを押した奴はあ!!」
AIが博士の声を聴いてすっくと立ち、睨み合った。
「お前が非常スイッチを押したからCSが暴走して自爆したんだぞお!。あれほど触るなと言っただろうがあ!!」
今度はAIが暴走し出したらしい。ギュンター博士の胸元を持って持ち上げる。
部下の男たちが必死に引き剥がそうとするが、AIは全く動じない。
「ぐ、苦しい。誰か、た、助けえ・ろ」
「AI、それぐらいにしておけ。ケガさせると問題になるぞ」
前調査員と遺跡の管理人達が周囲に集まって来た。AIはギュンター博士を話すと、またへたり込んだ。
俺は遺跡の調査の経過を全員に説明した。
「それじゃあ、アンタ達が来なければ、私達はまだずっと閉じ込められていたのか」
「ギュンター博士が調査を邪魔したって事か」
「そういや、触るなって連呼してたもんな」
ギュンター博士は風向きが悪くなってきたので、そーっと帰っていくようだ。
みんなに見られていたから誤魔化しようも無いしな。
後で皇帝にもチクって置こう。
コトネを泣かせたのが一番の罪だ。
もう日が西に傾き始めた。
今日はアキラの店に泊って、明日は帝城に報告に行くか。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は皇帝に調査の報告に行く予定です。