11-2 探索前
ご愛読、ありがとうございます。
探索に行く前のレオン達です。
金が無いとぼやいていたら、ルシーダに遺跡探索の仕事を紹介されたレオン。さてどうする。
高等部寮の談話室に差し込む晩冬の午後の日差しは、かなり浅い角度になっていた。
「もう少し、詳しく聞きたい」
レオンは話を聞く姿勢を取った。
「前見た遺跡は尾根に挟まれた谷に在りました。新しく発見された遺跡はその尾根に有ります。
ギュンター博士によると尾根全体が遺跡になっているのではないかと推測されています。千年前の大災厄で使う予定だった要塞ではないかと言っておられました。
入り口は谷の一番奥に出入口と思われる大きな扉があります。その扉の奥に四つの小さな部屋がありまして、部屋にはそれぞれ自動的に開閉する扉が付いています。扉の横にあるボタンを押すと扉は開きますが、部屋の中に人間が入ると自動的に扉が閉まり、扉は開かなくなります。暫く待つと扉が開いて部屋の中には誰もいなくなっているのです」
ルシーダは一気に話した。
レオンは苦渋の決断をしようとしていた。これまでの戦いは人の命を救うことに重点を置いて来た。もし、遺跡で戦うことになれば国のためとは言え、節約すれば戦わずに済むのではないか。この戦いに従者達を巻き込むのは違うのではないか。レオンの王としての自尊心を満足したいだけではないか?
「レオン!その顔はどうせ従者を危ない目に会わせたくないとか考えて居るのであろう。お前は大人の社会を知らなさすぎる。もし、対外的にアルカディア王国を認めてもらう戴冠式に手を抜けば、招待された国はアルカディア王国を不安視する。だってそうだろう。お前達の事を知っているのは帝国とヴァイヤールくらいじゃ。
それにじゃ、お前達は今年の税を免除して大々的に移民を募集して居る。これも周辺諸国から見れば相手国の国民を奪っているように思われる。そこで節約して居ればアルカディア王国は無理をしてまで、国民を奪っていると思われる。じゃからお前は余裕のある姿を相手に見せねばならん。
決して、ワシの結婚式が疎かにされることを憂いた訳ではない」
フェリは鼻の穴を大きくしてのたまわった。
「更にはじゃ!」
え、まだあるの。のじゃ言葉が復活したフェリに、少し落ち込んでいたレオンはさらに落ち込むことになる。
「王は民を愛しすぎてはいけないのじゃ。民は管理せねばならぬ。民の事ばかり考えていては国が立ちいかぬ。ひいてはお前の理想とする万民が、差別されぬ社会など夢のまた夢じゃ。
今回の事もそうじゃ。お前はオリンポスが奪った財を民に返した。そして税金が無くても一年間過ごせる金があった。しかしじゃ、お前の甘い見通しで戴冠式が出来ないと言う。それならインフラ整備や土地の開拓を後回しにしろ。
お前は工場で作る製品が安いから飛ぶように売れると思っていたのであろう。しかしオリンポスにひどい目に会った民の財布のひもは固いぞ。どうするのじゃ。秋の収穫も国には届けられぬ。来年の収穫まで国は持つのか?移民で増えた人口は容赦なく国の財産を食っていくぞ」
レオンのHPは一桁まで落ちて、口から魂が抜け出そうだ。
コトネは初めて見る主人の悲惨な姿にどうしてよいのか、オロオロしている。
アンナは内容が難しくて首を傾げている。
「どうすれば良いですか?」
やや回復したレオンがフェリにきいた。
「ふむ、まずは遺跡の探索をやれ、今度の探索は力よりも頭が居るぞ。そうだなキラとマサユキと言う奴を連れて行け。使える魔道具や武器があれば、帝国に買い取らせる。それとワシを財務担当大臣として雇え」
驚いたのは入り口近くに控えていた近衛のアデライーデとウェルバルだ。
「フェリ様、学校はどうなされるのです」
「来年度は休学する。ワシは小さい頃から皇帝に成る為政治を学んできた。その中では財務は得意分野じゃ。任せるが良い」
フェリが護衛相手に豪語しているのを見て、コトネが我慢しきれずに質問する。
「フェリ様、フェリ様は危険だと言った遺跡に、なぜレオン様を行かせようとするのですか?」
今までフェリに対して謙った態度しか取らなかったコトネが、いきなりきつめの言葉を吐いたのですこし驚いたように返した。
「そ、それはじゃ、ルシーダの話を聞いておって思たのじゃが、遺跡の目的は明らかに市民を対象にしている。なのに危険な罠とかが仕掛けられている訳はないと思ったのじゃ。そうじゃろ」
幾分自信のない所があるのか、同意を求めるフェリ。
「なるほど、ではフェリ様はその小さな部屋が市民向けの仕掛けと推測される訳ですね。だから魔道具に詳しいキラや異世界の機械に詳しいマサユキさんを連れて行けとおしゃったわけですね」
レオンが感心するとフェリは態度が大きくなる
「ふふ、ワシの優秀さが良く解っただろう。ワハハハハ」
休憩室はフェリの笑い声に埋まった。
〇ハーヴェル城
アキラの店でエリーゼとエイトに明日の受験のエールを送ってから、ハーヴェル城にやって来た。
「そう言う事なら、行くぞ」
キラは即答だった。この世界の千年前に滅びた技術に興味津々である。
「俺の仕事なんてあるのかなあ。まあ、いい経験になると思うからお供するよ」
マサユキは根っからの機械屋なので、この魔法世界では持っている技術を生かせていない。自信の無さはそこらから来ているのだろう。
二人から同行の許可を得たレオンは、精霊通信でアルカディアに居るアキラを呼ぶ。が手が離せないと言う事で折り返しの通信を待つことにした。
「なあ、レオン。お前、無理してないか?」
ミラが執務机に座って頭を抱えているレオンの方に手を掛ける。ミラはレオンの拠点を教えてもらうため着いて来ていた。
「大丈夫だ。そりゃ慣れない事ばかりだから疲れるけどな」
ミラはレオンに一目惚れをした。初めてダンジョンの中で彼を見た時、心臓が飛び出るのではないかと思ったぐらいだ。本当は人が居るダンジョンに行って、姉が魔獣に襲わせた村の生き残りを預けるつもりだった。ダンジョンで戦うレオンの雄姿を見て、惚れてしまったのだ。会う時に彼女はテンパっていたので、表情が解らないように仮面を着けたほどだ。
ちょうど彼女は地上に愛人を探しに来ていたので、彼を自分の近くに呼び寄せて絆を作るためにアンナを預けたのである。
姉もそうだったが好きになると一途にレオンを想ってしまう。魔人の性なのか、そう言えばコトネもエリーゼもフェリも、皆レオン以外を見向きもしない。レオンにはミラのような女を引き付ける何かがあるのかもしれない。
ミラは優しい目でレオンを見つめる。
「無理をするなよ。私に手伝えることがあれば言うが良い」
「ありがとう。本当に大丈夫だ。ミラにも苦労を掛けるな」
ズキューン!!
ミラはレオンの優しい言葉に心臓が爆発するかと思った。後ろに居たので気付かれていない様だ。
膝に力が入らず、近くの椅子に倒れ込んだ。こんなのでレオンに抱き締められたら、私はどうなってしまうのだろうか。ミラは火照った顔をレオンに見られないように俯くのだった。
そこにブラウニーが天井から現れ、アキラから通信があると報告した。
「アキラさん、済みません。明日朝、そちらに行って相談したいことがあります。スケジュールは大丈夫でしょうか?」
レオンがブラウニーに話す、ブラウニーはアルカディアにいるブラウニーに精
暫くするとブラウニーが話す。
「遺跡探索とフェリ様が財務管理をしてくれるそうです」
またちょっと待つとブラウニーが話しだす。
「分かりました。待っています」
ブラウニーが姿を消す。いちいち隠れなくても良いんだけどなあ。どうも小人妖精は人に隠れているのが好きみたいだ。
一応、アキラさんのアポは取れたし、飯でも食うか。レオンは食堂に向かった。
食堂にはキラとマサユキが話し合っていた。
「おお、陛下!良い所へ来た。例の遺跡だけど解る範囲で教えてくれるかい」
マサユキ達は遺跡の調査依頼について話し合っていた。
レオンはルシーダから聞いた内容を話した。
「コトネ、伝え忘れは無かったか」
当然のように俺の後ろをついて来るコトネに聞いた。
「はい大丈夫です」
隣でアンナも頷いている。
「その四つの小部屋だが、俺にはエレベーターとしか思えねえ。日本では割と見る風景だ」
ドアが自動で開閉される並んだ小部屋は、エレベーターを連想するそうだ。こちらの世界ではエレベーターはあるのだが大抵一つで、扉はエレベーターガールが手で開閉するので思いつかなかった。
「うん、マサユキの思い付きは素晴らしいよ。俺もその部屋は移動するために使われているのだと思う」
子供のなりで偉そうに言うのが実質六十歳以上の受肉精霊のキラだ。元はミラと同じ魔人だ。
「うん、その要塞とやらの構造が解らないから、正体は全く分からんがな」
「でもある程度予想しておいた方が調査がし易いよ。アンナのアクティブ探索である程度の構造は解ると思うし」
「そうだな、調べてから動かないと、前に入った奴らみたいに行方不明になっちまう」
マサユキはレオンの意見に賛成した。
その日はハーヴェル城で過ごし、次の日の早朝、アルカディア城にアキラを尋ねた。
アキラへの報告が終わった後、ジェリルに捕まってしまった。
「なんでアタイを連れて行かないんだよお」
神狼族娘達は山賊退治のため、ここアルカディア城、ハーヴェル城、エドゥアルト城に常駐させている。軍が力を着けてきたらアルカディア城で俺の親衛隊という本職で活躍して貰うことになっている。
旧聖金字教国(まだ名前がきまっていない)は聖騎士が居るので神狼族娘達は置いていない。正規軍はアルカディア軍に編入された。ちなみにレベルアップの魔法は効力が既に切れている。
ジェリルには今回は戦いは無く、調査だけだと説明したら途端に興味を失った様だ
少し遅れたが帝国にある遺跡に向かって、レオン、コトネ、アンナ、キラ、マサユキの五人はノルンの背に乗った。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は探索に掛かれると思います。