10-15 誘拐事件のその後
ご愛読、ありがとうございます。
今回は誘拐事件のその後です。
誘拐された母親と妹を助け出したレオン達。帰ろうとしたら・・・。
俺達は暫くこれ以上の進展はないし、後は親父たちに任せば良いと思い、帰ることにした。
「おう、コトネも俺の家に帰るんだろう。あの鳥に俺達も乗せて行けや」
親父が俺の肩を後から掴んだ。
「えーと、馬は暴れるので乗せられませんよ」
ここまで来たら仕方ない。母上も疲れているだろうし、何より、リーナを連れて行かないと後が怖そうだ。
父上は兵隊に馬を頼むと、母と妹を連れて来た。
「ええ、これに乗るのぉ?」
「大丈夫かしら、落ちたりしない」
リーナと母上は警戒気味だ。安全な乗り物だから、心配いらないよ。
「ちょっと待ってくださいね。ノルン変身だ!」
フクロウの姿をしていたノルンが黒鷲に変身する。
「フクロウは夜戦用なので、より速度の出る黒鷲に変身させました」
俺はノルンの形態を簡単に説明して、高性能であることをアピールして置く。
親父達は説明を聞かずにコトネやアンナに頼んで、ノルンの背中に乗り込んでいる。
くそー!
最後にゴロが一番前に飛び乗る。
「これって幻獣だよな。お前が飼ってるのか?」
「オイラはペットじゃない」
親父の言葉に反応してゴロが怒る。
「わ、びっくりした。喋れるのかよ。ごめんな」
「オイラは面白そうだから、レオンの従者になったんだ」
「話は良いから飛ぶぞ。ノルン頼む」
透明なシールドが俺達を包む。これで風や落下を気にしなくて良い。
俺はノルンに飛び上がらせた。
「わー、すごい。もうこんなに高い」
リーナはすぐに順応したみたいだ。
「下は見ないで。遠くの景色を見てると怖くないよ」
水平飛行に入ると揺れもほとんどなく快適なもんだ。
「あのー、伯爵様。私、王太子様が止めるの振り切って来ちゃったんですけど、帰っても大丈夫でしょうか」
コトネが心配そうに聞く。
「どうせあいつのことだ。人質を犠牲にしてでも解決しようとしたんだろ。構わないよ。俺が言っとく」
「ありがとうございます」
親父は気楽に請け負った。もう王室派の重鎮って感じだ。
「他の貴族と違って、お父さんはお母さん一筋だから死なれちゃ困るよね」
リーナが親父をからかうとみんなが明るい雰囲気になった。リーナはイエーガー家のアイドルだな。
「父上、どうやって現場に来れたんですか?」
俺は親父がなぜ犯人の所まで来れたのか、それが不思議だった。
「俺にマリアを隠せると思っているのか」
「あ、あなた」
長姉に乗った親父が言った冗談を母さんがすぐに窘める。お、母さん、赤くなってるよ。
「まあ、司令部から替え馬を連れて乗り継ぎながら、屋敷で状況を聞いて追っかけてきたら国軍が夜営をしてたから道を聞いて来た。ああ、俺は夜目が利くから夜でも走れるぞ」
国軍も脇道に入ったことは戻って調べたんだ。
「それはずいぶん急いだのですね」
「それはお前、国軍に任せて置いたら、人質を助けようとはしないから仕方ない」
コトネが王太子様にイエーガー家の絆を説いた時に言われたそうだが、その通りだな。
「伯爵様、少森寺のモンク兵は霊力を使う割に強くなかったのですが、あんなもんなのですか?」
コトネはあまり手ごたえを感じなかったようだ。
「ああ、あいつらは雑兵だ。それでもレベル5くらいはあるんだが、帯に色がついてなかっただろ。底辺の奴らだ。色付きは恐ろしく強いらしいが、こっちには来ないと思うぞ」
そうなのか、強い奴とは会いたくないのでそれでいい。
でもレベル5が雑兵なんて、強さのインフレがとんでもないな。白百合荘で会ったレベル5は二十人くらいと戦っていたよな。
「王都が見えた!」
「え、もう?」
「王都の人達を驚かさないように、手前の広場に降りるから準備して」
俺が皆にそう言うと親父が言った。
「屋敷まで行け。お前の力を見せるのだ。ヴァイヤールが同盟を結びたくなるようにな。俺は今回の件でお前に大きな借りが出来た。何としても同盟を結んで見せる。お前もそのつもりで居ろ」
「は、はい」
親父が同盟を手伝ってくれるって、これは儲けた。親父が外交にどれくらい力を持つのか不明だが、今回の同盟は軍事同盟に近いし、親父の意見も通し易いかもしれない。
まだ朝が早いからか、あまり騒ぎにならずに屋敷に到着した。それでも柵に4,5人の見物客が居た。
親父、母上、リーナ、コトネの四人を降ろし、戻ることにする。エリーゼ様を教会に置きっ放しだから怒ってるだろうな。
「コトネ、事件のあらましが解ったら連絡をくれ」
「はい」
多分貴族派のゴルツ子爵が実行犯だろうが、背後にウラノスが居るのだろう。
その時、門番をしている従士が子供を連れてくる。
「あ、伯爵様、この子が手紙を持って来まして、事件に関わることならと思いまして、子供を確保したのですが」
やっぱり人質解放の条件を描いた手紙だろうな。まあ、中身は大体想像できるし帰るか。
「レオン、屋敷で休んで行きなよ」
母上が優しい言葉を掛けてくれるが、俺には仕事が待ってる。
「ありがとうございます。でも俺には国を造る仕事が待ってます」
まだ登城してなかったルーカス兄さんと多分屋敷に泊ったニコラウス兄さん、レナ姉さんが出て来た。
「母上ぇー!!、リーナぁー!!」
五人が抱き合って喜んでいるのを見て、俺も嬉しくなった。
今頃やっと母上とリーナを救ったのだという実感が溢れて来た。
「ああ、レオン様泣いてるう」
アンナが俺をからかう。
「馬鹿!埃だ。埃が目に入ったんだ」
「ふーん」
目を波目にして微笑んでいた。
「レオン様、事件を解決しなくて良かったの?」
「ああ、母上たちが無事ならそれでいいさ。後はヴァイヤールの仕事だ」
ノルンが羽ばたくとリーナが駆け寄って来た。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「オー」
俺は返事を返して、エリーゼ様の待つ聖金字教会本部に向かった。
〇砦跡
四人の色帯を付けた人間が人質の到着を待っていた。そこに連絡を持ってきたものが居る。マイクロビキニを着けた兵の様だが中身は東洋人らしい。恐らく兵の中に紛れていたのだろう。
「人質が取り返されたらしい」
「なに、小僧は人質の安全を優先して仕掛けられないんじゃなかったか?」
「親父の方も来たらしい」
「首狩りの到着は、早くても今日の昼ぐらいと言ってなかったか?」
「まあ、想定よりも奴らが優秀だったと言う事だな」
「首狩りとやりたかったが仕方ない。引き揚げよう。まだ私達が居ることを知られる訳にも行くまい」
「そうだな。しかし、ウラノス殿を出し抜くとはイエーガー家の奴らは油断できんな」
〇ヴァイヤール王都 グリューズバルト侯爵邸 謁見室
奥の高くなった段の中央に置かれた椅子に座る若い男と、その前に跪く中年の男が居た。
「イエーガー邸に大きな鳥が現れ、救出された人質を確認しました」
報告する中年の男はグリューズバルト侯爵その人である。
「そうか少森寺チームは失敗したか。奴らは無事か?」
若い男は抑揚のない声で問う。
「はい、イエーガー伯爵、レオンハルトと従者三名と幻獣が一頭、全員が無傷です」
「まあこの時間だ。砦までは行っていまい」
「そのように思われます」
二人共作戦の失敗を惜しんでもいないようだ。
「ところであの男はどうした」
「はい、イエーガー伯爵に手紙を渡したようです」
「あのようなことがまかり通ると思っているのが滑稽だな」
「もう、この世にはいません」
公爵は冷たい声で言う。
「仕事が早いな。しかしこれで分かった。やはり、今回はレオンハルトがそうだ」
「千年前のアレクサンダー=リヒトガルドの役ですか」
「そうだ。今回は奴と俺の戦いになる」
「まだこのようなことをなさるなら、コードネームを決めた方がよろしいかと」
侯爵は恭しく若い男に話す。
「それなら考えていた。クロノスでどうだ。ウラノスの子はクロノスであろう」
「私はギリシア神話と言うものを存じませんが、良き名かと思います」
「そうか。ククク」
ハインリッヒ=グリューズバルトその人である。
〇アルカディア城建設予定地 <レオン>
ここはハーヴェル城、エドゥアルト城、聖金字教会本部からほぼ等距離にある、川のそばにある森の中だ。
俺がアンナを連れてここに居るのは、新しい国の拠点になる城を造るためだ。
国として前の国家の拠点を使うにしても、各々の距離が遠すぎるので、新しく国都を造ることにした。
川の近くにしたのはヴァイヤール王国から旧聖金字教国と旧エドゥアルト王国の国境、旧ハーヴェル諸国連合国とバルドゥール王国の国境、帝国に流れるテーレ川を利用して貿易を行うためだ。今まで国同士の諍いが有って、貿易には利用できなかったが、同盟が結ばれればその問題も無くなる。
本来なら街道を造ってから建設するつもりだったが、同盟までに即位する必要があるので、パッパと居城を造ってしまおうと思ったのである。
そんなに簡単に城が作れるかと思うだろう。俺にはアンナが居るのだ。
帝都の有名な建築技師に設計を依頼して、出来た図面がここにある。
一緒に来た工兵達にまず基礎の範囲を縄張りさせる。
「さあ、アンナ!あの縄を張った中の地面を固めて平らにしてくれ」
俺が頼むとアンナは精霊を合成し始める。
「土の精ノームよ!地面を固めて平らにして!」
アンナが唱えると縄張りの外の土を持ってきて堀を造りながら、土を盛るととズンズンと沈み始める。
土を増量して押し固めてるらしい。
暫く経つと堀に囲まれた平らな地面が出来た。
今度は土台だ。堀と通路と建物の下に石板を敷き詰める。
「土の精ノームよ!石板を敷き詰めて!」
二十cmの厚さの石が、まるでカーペットを敷くように継ぎ目無く敷き詰められる。
現実を見て居る自分が信じられない。こんなに人間に都合良い魔法なんてあるのか。自分が命じたのに出来て行く過程が信じられない。
堀の内側に二十mの高さの石の塀が出来る。一階部分の間取りに合わせた柱と壁が出来る。
天井ができる。二階部分の柱と壁と天井、三階部分の柱と壁と天井が出来て完成である。
朝から初めてお昼で、まだ内装や建具が残っているが、建物は完成した。
後は庭園用のふかふかの土を入れると城の出来上がりだ。
今日は城下町の基礎作りまでやって置く。
各都市からの街道については、既に農閑期の農民や大量の移民や、農民の子供で独立をしたい若者に日銭を渡して工事をしている。まあ、貧困対策だ。
聖金字教会のアルテミスが教会を造りたいと言って来ている。出来れば戴冠式の出来る教会をとリクエストして置いた。ヤヌウニさんがいる限り、国教は聖金字教会にするつもりだ。あの人が指導している限り、悪い方には転ばないだろう。
帝国は既に同盟に賛成している。アルカディア王国の軍より俺と従者たちの速さと強さを当てにしているみたいだ。ヴァイヤール王国もこないだの誘拐事件で俺達の力を思い知ったのだろう。かなり前向きに検討を始めた。
お昼の休憩をしているとアンナが俺の脇をつつく。
「この間のあの事件はどうなったの?」
「ゴルツ子爵が死んで、少森寺の五人も自殺したらしい。それでゴルツ子爵が犯人で解決らしいよ。コトネが言ってた」
俺は少々呆れながら説明した。
「明らかに黒幕いたよね」
アンナが口を尖らせる。
「闇の中だね」
まあ、ヴァイヤールは闇を突いて、とんでもないものが出てくることを恐れてる。
その代わり同盟の話が進みだしたのでそれで良かったことにしておこう。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は同盟の話の予定です。