10ー14 首狩り伯爵
ご愛読、ありがとうございます。
今回はフリードリヒとレオン達が人質救出に戦います。
母親のマリアと妹のカタリーナ(愛称リーナ)が誘拐された。追跡をするレオン達は巧妙に行動する敵に手出しが出来ずにいた。そんな時、真夜中の闇の中を駆けてくる騎馬が居た。フリードリヒ=イエーガー伯爵その人であった。
「親父が何で、北部方面司令部に居たはずだ。早馬で知らせても夜だそれからすぐに馬を走らせてきたのか。それにしてもどうしてここが」
理解できないことは多々あるが、現実を見て対処しなければ。
暗闇の中、俺の目には見えない父親がここに居る。ならばどうする。俺の頭はフル回転する。ああ、仮眠を取っといて良かったよ」
「クロエ、ゴロに乗って親父の元に行って状況を説明して来てくれ」
「アンナは残って、魔法陣を出すから指示したら増幅して、兵達の隷属魔法を解除してくれ。コトネと俺はノルンを降りて親父を援護する。解ったか!」
「「「はい」」」
クロエはちょっとビビってゴロに跨る。ゴロの針は後ろは堅いが、背中は柔らかいから心配いらないぞ。
「クロエ、親父がどうするか判ったら連絡をくれ」
ゴロに乗って暗闇の中に飛んで行くクロエに命令した。
闇の中からハイと返事が聞える。
〇<クロエ>
フリードリヒ様はあと数分で敵に届く距離を駆けていた。
敵の行列はライトの魔法で明るいが、彼の駆けている場所はまだまだ暗い、猫獣人みたいに夜目が利くのだろうか?。私は暗闇の中、彼の横を飛びながら近づいて行き、声を掛ける。
「フリードリヒ様!私はレオン様の従者でクロエと申します。状況を申し上げます」
フリードリヒ様は馬の速度を落とすことをせずに返答された。
「レオンは既に来ていたか。状況を説明せよ」
「はい、敵は三台の幌馬車で移動、周りを百名の兵が守っております。兵の武装はボーガンと剣、幌馬車には御者台に二名、中に四名の敵がそれぞれ乗っています。人質は真ん中と後ろの馬車に一人ずつ魔力遮断の魔道具で拘束されているものと思われます。馬車に乗る敵は東洋人風で気功を操ると思われますが詳細は不明。レオン様、コトネ、アンナの三名が大鷲に乗って待機中。フリードリヒ様の行動に合わせて戦闘に入ります」
「うむ、良く調べた。俺はただ突っ込んで行くだけだ。うまいことやれとレオンに言ってくれ」
フリードリヒ様は大きくうなずいて返答された。
「はい」
私は従者通信でレオン様にフリードリヒ様の言葉を伝える。
〇<レオン>
俺達は親父の突入タイミングに合わせるため敵の前数十mに降り立っていた。すでに探知されているはずだ。
「うまいことやれか、ペーターの言う通りだな」
ペーターは親父と共に戦ってきた傭兵団の生え抜きだ。今は旧イエーガー領の代官をしている。
「レオン様それはどういうことですか?」
既にビーストグローで変身したコトネが、俺の言葉に興味を持ったのか質問して来た。
「ペーターは知っているだろ。よくガキの頃、親父の武勇伝を強請ったのさ。彼が言うには『いつも、後ろは頼んだって言って、一人で敵の真っ只中に突っ込んで行くんだ』って言ってたよ」
ペーターは誇らしそうに言ってたな。
「レオン様にはフォローを頼んだんですから頼りにされてるんですよ」
ペーターの様に誇らしそうに言うコトネだった。
『レオン様、もう十秒でフリードリヒ様がボーガンの射程に入ります』
クロエから従者通信が入った。
『アンナ、解除魔法だ!』
敵の上空にノルンが急降下する。アンナが保持して来た魔法陣を敵の上に置く。
「範囲指定!隷属化解除!!」
アンナの叫びと共に、直径二十m程の巨大な魔法陣が現れる。
淡い光が敵に向かって放たれる。
光を浴びた兵隊がキョロキョロし始める。
隷属化が解除されたので、ここにいる意味さえ分かっていない。
御者台から飛び降りた東洋人風の女が何か騒いでいるが、さっきまでと違って兵達が訳が分からずに右往左往しているのを統制できない。
「俺達も突っ込むぞ」
「はい」
前の馬車を無視にて脇を通り抜ける。
兵隊はレオン達をただ見送るだけだった。とにかく真ん中の馬車へ向かう。
「逃げるぞー!!」
前の馬車に真ん中の馬車の御者が叫ぶ。
外に出かけた東洋人が中に引っ込み、前の馬車が加速を始める。前に居る兵たちをはね飛ばしながら。
コトネは真ん中の幌馬車に飛び乗ると、幌の天井部分を霊力の爪で切裂き、中に踊り入る。
〇<コトネ>
中に飛び降りると真下に袋に入れられた人質、前後に二人ずつ東洋人風の女が居た。
私は人質を跨ぐ形で降り立った。ついでに対角線上の二人の女をタイガ―クローで斬った。
二式単戦で止めようとしたようだが、ビーストグローの虎の爪は止まらない。シールドごと切り裂いて黒い衣に包まれた胸に突き刺さる。
残る二人は正拳突きで顔面を殴って来たが何のダメージも無い。頬に張り付いた拳ごと振り返った私は、前の女の胸を爪で抉る。
後ろの女が殴ったり、蹴ったりしたが蚊が刺したほども感じない。怯える顔を向ける女の顔面に爪を突き立てる。
私は非道な奴らには情けは掛けないよ。
〇<レオン>
俺は霊力で魔剣と化した刀で御者を斬り、返す刀で隣に座っていた女を斬る。
こいつらは二式戦ぐらいは使える様だが、俺の敵ではなかった。
幌を切裂いて中を見ると、袋に入れられた人間を跨いで立つコトネの周りに四人の東洋人が伏していた。
間合い数十cmでの戦闘はコトネの得意分野だ。
「どうだった?」
「はい、拳で戦おうとしたようですが、私のスキンアーマーには効きませんでした」
「そうか、後ろに行くぞ。クロエ、人質を頼む」
後ろから心配そうに覗いていたクロエに人質を頼んで、後ろの馬車に向かう。
〇<フリードリヒ>
この力を使うのは久しぶりだな。俺がまだガキの頃、目覚めた力、人はオーラとか言うけど良く解らん。
うん?、兵隊たちが右往左往している。ボーガンも構えてない。誰が敵か分からない感じだ
「どけー!!」
兵隊たちに言うと新兵が恐れるような顔で左右に分かれて、幌馬車までの真っ直ぐな道が出来る。
レオンが何かしたかな?まあいい、好都合だ。
腕を水平に降って不可視の刃を放つ。幌が裂け、上半分が空気抵抗で翻り、こちらに飛んでくる。
馬車の中に居た奴が立ってこちらを見た。四人だ。こいつらがマリア達を攫った奴らか
馬の上に立ち、跳んでくる幌を跳び越える。馬車の中が見える。袋に詰め込まれた人が見える。よくも、俺の家族に!!
俺の右手にオーラの渦が出来る。四人が剣を抜いた。人質に危害が及ばないようにオーラのパンチを放つ。
普通の人間には見えないが、直径三m程のオーラの塊が飛んで行く。
四人の驚愕する顔が見える。こいつらはオーラを感じることが出来るらしい。
悲鳴と共に四人の上半身が吹き飛ぶ。
まずい、やり過ぎた!御者の首も吹き飛んじまった。馬が暴走する!
〇<レオン>
後ろの馬車に向かうといきなり気の塊が飛んできた。これは親父が?
慌てて四式を発動させ、逆向きのエネルギーで相殺する。
気をまとった拳を突き出すと親父が放った気とぶつかり、静かになるが、荒れ狂う気を感じた馬が棹立ちになる。
ヤバイ!今馬車には人質が居るはず、暴走させると人質の命に係わる。馬を殺すか?!
その時、コトネが飛び出して二頭の馬の背中に立った。
コトネから波動のような物が出た。馬は徐々に落ち着きを取り戻して静止した。
ビーストグローは獣の王になる技だ。獣に命令する力でも持っているのかもしれない。
「コトネこちらは頼んだ」
前の馬車を捕まえて事件の詳細を白状させないと。
「レオン様ー!」
アンナが上から呼んでいる。
「どうした!」
上を見上げると幌馬車を足爪で掴んで飛んでいる巨大フクロウが・・・。
「逃げようとしてたから捕まえたよー」
まるっきり緊張感のない声が聞えた。
終わった。ここまで十秒も掛かっていない。
そう思ったら日は出ていないものの、東の空は明るくなっていた。
人質の二人を解放してやろう。
真ん中の馬車の方はクロエがすでに拘束を解いていたので、リーナが無事な姿を見せていた。
「お兄ちゃんが助けてくれると思ってたよぉ」
リーナが俺に抱き着きながら泣き始めた。さぞ怖かったのだろう。
後ろの馬車では母さんも袋から出されていた。
こちらには親父とコトネが付いている。
「コトネちゃん。ありがとうね。あんたには散々悪い事をしたのに助けてもらうなんて、本当に私は馬鹿だったよ」
こちらも涙を流している。
二人には収納庫から出したクロエやコトネの服に着替えて貰って、少し休んでもらう。クロエとアンナが付くから大丈夫だろう。
前の馬車に乗っていた六人のうち五人は拘束した。一人は御者台に居た男が上空から落ちて死んでしまった。
こいつらは地べたに座らされていた。全員白の上下、黒の袖なしの上着を着ている。
「おまえら、少森寺か?」
親父が聞いた。なんだ少森寺って?。
「少森寺を知っているのか?」
賊の一人が言った
「ああ、シンタン国を建国する際、陰で暗躍したモンク寺だろ。お前達喋る気はあるか?」
モンクとは武闘派の修行僧の事だ。
五人共口を結んで下を向く。喋る気は無いと言う事だろう。
「そうか、じゃあ、軍に拷問でもされてくれ」
そう言うと親父は興味が無くなった様にコトネに手招きをした。
「おい!お前ら!こちらに集まれぇ!」
ガヤガヤと周りで話す声が聞こえる。兵達がなにが起きているか判らずに集まって来た。
「この方は北部方面軍司令、イエーガー伯爵中将閣下である。整列せよ!」
え、コトネ、親父の横で何やってんの?。
「責任者はだれか!!すぐ前に出ろ」
コトネが叫ぶ。お前、ホントに何やってんの。
兵達はどこかの軍に籍を置いているのだろう。軍人は階級に弱いので、駆け足で整列を始めた。
「この隊の責任者、エルガード中尉であります」
整列した兵達の中から二十台後半と思われる女性が出た。ヴァイヤールだけあって人間だ。獣人ではない。
階級章を探したところ、左胸の小さな布と同じような面積の階級章が着いていた。
胸を集中的に見て居ると、コトネがゴホンとカラゼキをして、睨んできたので目線を逸らした。
コトネは最近、ヤキモチを焼く様だ。
「所属は?ここで何をしていた」
親父がコトネに耳打ちしてコトネが質問する。
「はい、ゴルツ子爵の領軍であります。ここで何をしていたのかは分かりません。申し訳ありませんが、ここまで歩いて来たことは覚えているのですが、目的や命令など全く分かりません」
「ここは何処か判るか?」
「多分、アルゴル街道の中程と思います」
王都側からアルバート男爵領からゴルツ子爵領まで通っているので、アルバート=ゴルツ街道と呼称され、通称はアルゴル街道と呼んでいるようだ。
「ふむ、場所や歩いていたことは解るのに、命令を受けてないとはどういうことだ?」
「父上、それは隷属化魔法だ。その魔法に掛かると、命令者として登録した者の言う事を何でも聞くようになる。今回は戦う寸前で隷属化魔法を解除した」
俺が説明すると親父も解ったようだ。
「そうか、分かった。お前達はここで待ちなさい。馬車に食事や水は積んであった。2,3時間したら国軍が来るだろうから、状況を説明して、この賊を引き渡しなさい。わかったね」
「はい」
エルガード中尉は勢いよく返事をした。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は戦後処理の予定です。