10-13 クロエの活躍
ご愛読、ありがとうございます。
今回は主にクロエの活躍です。最後にあの人が来ます。
敵に先手を取られて、手出しの出来ない状況に追いつめられたレオン。大胆な仮説を立てて、敵の真意を暴く。
〇ゴルツ子爵領へ続く街道の上空 <レオン>
ヴァイヤール王国の西側には北に旧聖金字教国、南にドワーフの国エルハイホ共和国がある。ヴァイヤール王都からはそれぞれに続く街道があり、今俺達が居る路はその街道と街道を繋ぐ道だ。通行量自体は少ないがこの近辺に領土を持つ貴族には重要な道で、持ち回りで管理しているので盗賊や魔獣はまず出ない。道も頻繁に補修され、綺麗な道だ。
日の有る内と違って、しずしずと街道を行く賊たちは、よく訓練されていると見えて私語を発しない。
この行き届いた兵達はゴルツ子爵の私兵とは思えない。やはり彼の背後には大物がいると見て間違いない。俺はそれをウラノスだと思っている。まあ、その正体はまだ欠片も分かってないがな。
「レオン様、どう対処しますか」
コトネがそんなことを聞いてくる。いい手があったら指示してるって、聞かないで欲しい。
今までの戦いは敵に人質をとられたことはないので、どうすれば良いか解らない。エリーゼやアンナを守りながらと言うのは逢ったけど、今回は人質を無事に助け出すことから始めないといけない。
正面から行っても人質を使って来るだろうからやりようがない。
せめて人質がどこに居るかが特定できれば。
「私一人なら人質の場所を特定できるかもしれません。行かせてください」
クロエが提案してくるが、見つかってしまえば生きては帰れない。そんな危険なことをさせられない。
「あまりに危険だ」
クロエの能力なら出来るのか?彼女の隠形はアンナの探索も掻い潜る。
「大丈夫です。見てください」
バッと服を脱ぐと下には兵達が着るマイクロビキニが・・・。
ビックリして凝視してしまった。クロエが体をクネクネともだえる。
「あんまり見られると恥ずかしいです。さっき下に降りた時、離れていたのを殺して奪いました」
自分で見ろと言っておいて恥ずかしいは無いだろうと思いつつ、これなら目に入ったとしても誤魔化せるか?
「分かった、危なくなったら森に逃げろ。夜目が利くお前なら逃げ切れるだろう」
ボウガンは装填に時間が掛かる。一発目は装填してあるとしても、人質用にのこすから使わないはずだ。
「はい、獣人もたくさんいたので、バレないと思いますよ」
獣人の兵もいるのか正規軍にはほとんどいなかったが・・。
「私も行きます。私は軍の中には入れませんが、いざと言うとは手助けします」
コトネもメイド服を脱ぎ去る。いつものと違って黒い革のブラとショートパンツだ。
「夜戦用に作って貰いました」
コトネは肌が白いのであまり効果は無いかなとは思うが、それでも頼もしい。
「アンナ、お前は奴らの前に立って魔法で攻撃して貰う。そうだな火が良い、なるべく派手な奴、それで慌てた時に調べろ」
「それは駄目です。敵はここまでレオン様の行動を読んできています。裏をかかれる危険があります」
「では、どうする」
「敵の探知外に離れて頂き、静かに待っていてください。私が居なくなったのを探知されないように。
コトネはやめておいた方が良いですね。あくまでも見つかる可能性を低くしたいです」
単独での潜入に挑む、クロエの覚悟が伝わって来た。思わず顔を伏せる。
「私は今まで悪い事の為に忍者の能力を使って来ました。レオン様の元で、正しい事の為に自分の能力を使えるのは嬉しいのです。ですからそんな顔をしないでください。忍者の使命は得た情報を必ず仲間に伝えること。私は必ず、生きてレオン様にマリア様達の位置を報告します」
俺は悲壮な顔をしていたらしい。こうなったらクロエを信じて送り出そう。
〇敵の行軍内 <クロエ>
さて、オリンポスの情報がどこまで反映されているのか?ヘルメスの情報では私ペルセポネはギガンテスと死んだことになっていたはず。まあ、私の能力が上層部に報告されていたとは思えないけどね。
一旦、敵の探知外までレオン様達と一緒に離れて、隠形を使って森から敵の中に潜入することにした。
アンナは敵の探索が解るらしいからその範囲も認識できるらしい。私らから言わせれば探知できるだけでも反則なのにな。
そうそう、探索と言えば、アンナにお願いをした。
ノルンさんを降りると森に入り、隠形を唱え、木の影に入る。
幌馬車が来るまで敵の列をやり過ごす。敵は所々にライトの魔法を浮かべ、明かりをとっている。
敵の兵は二m感覚位で綺麗に並びながら私語一つせず、頭を回すことも無く歩いていく。
これは肉の壁だ!
こいつらは自分の敵が目の前に現れないと、声を出すことも、歩く以外の動作もしないように命令されているに違いない。もしかすると昔の私みたいに、隷属の魔道具を使われているのかもしれない。
歩く以外の動作を全くしない人形のような女達の列を見送って、最初の幌馬車を待つ。
来た!。
森を飛び出して、馬車の下に飛び込む。
馬車の床板を止めている木を確認し、体を逸らして手指と足指で掴み、しがみ着く。
その間一秒も掛かっていない。
誰にも見つかっていない様だ。自分の技術に満足する。
顔を横に向け床板に耳を当てる。私の聴覚は忍者の里で魔法で強化された。
幌馬車の中は普通の者なら馬車の音に邪魔されて何も聞こえないだろう。私は馬車の音を消して呼吸音に集中する。アンナの話では御者台に二人、幌馬車の中に四人の人が確認できたようだ。
幌馬車の中では四人の人がいる。呼吸の音の位置の高さから座っていることが解る。
違う!この中に人質はいない。
私は片側の手指足指を離し、体を捻りながら手足で着地する。体に土を付けると見つかった時に言い訳しにくい。
すぐに馬車の下から出て森に隠れる。この間に人に聞こえる大きさの音は出していない。
次の幌馬車を待つ。
次の馬車の下に入り、床板に張り付く。
座った四人の呼吸音と一人の床に伏せた呼吸音。
え!一人!
想定外だ。人質はどうなっている?もしかして?いや!
心を乱すな隠形が破れる!集中しろ!今、私が見つかるわけには行かない。
作戦ではここでアンナのアクティブ探索で魔力のピンを撃って貰い、反応を確認するつもりだった。
ピンに普通の人間は反応するが魔力を遮断している人質は反応しない。それで最終確認をするつもりだった。
人質の一人は次の馬車に乗せられている。それを確認しなくては。
ピンを撃つにはこちらから従者通信を送らないといけない。流石に二回もやれば私に気付くだろう。
よし、ピンは撃たない。そう決心して次に移る。
私は再び馬車の下から抜け出す。
森に入った私は疲れていた。流石に人前で長時間隠形を使うのには、多大な精神力が必要だ。
手を胸の前に組み九字を切る。
”臨、兵、闘、者 、皆、陣、列、在、前”。
心の中で唱えながら、一字一字に合わせた印を結ぶ。忍者の精神集中の秘技だ。ってコトネもやってたか。
程よく精神が集中される。
来た、すぐに次の幌馬車が来る。
また潜り込んで音に集中する。
やはりここにも四人の座った人と、一人の床に伏した人が居る。
ちょっと気が休まる。
二人共生きてる。
ハッ!気を抜くな!
私はこれを敵に見つからずにレオン様に伝えないと使命を果たしたことにならない。
馬車の下を脱した私は森に隠れ、行軍をやり過ごす。
闇が周りを覆ったら、行軍とは逆方向に走る。
『敵の探知を外れたよ』
アンナの従者通信で私は止まった。敵の探知は五百mくらいだ。
〇ノルンの背中 <レオン>
「真ん中と後ろの馬車の中にはアンナが探知した四人以外に寝た状態の人が一人ずつ居ました。恐らく人質だと思います」
「ありがとう。よくやってくれた」
俺はかなり疲れた表情のクロエに礼を言った。クロエは少し嬉しそうな表情になったがすぐにその表情を引き締めた。
そうだ、まだ人質の位置が解っただけで取り返す算段は付いてない。
ちょうど日付が変わる頃、行軍が停止した。休憩を取るようだ。
俺達は敵の探知距離を外れた上空に居る。
「どうだ、敵の状況は?」
「止まっただけで配置は変わってません。少数の兵が馬の世話をしています。残りの兵隊はその場で座って休憩してるようです。」
コトネが下を確認して報告してくれる。
どうする俺達が居るのは解っているはず。それなのに休憩するのは誘っているのか。いや父上を待っているのかもしれん。ああ、今回ばかりはどうしていいのかさっぱり分からん。
従者たちは俺のこんな優柔不断な所を見て、どう思っているのだろうか。
人質、そう言えば漁村でヘスティアに人質がとられたことがあったな。
あの時は見張りは少なかったし、弱かった。それで強行突入出来た。
今回は俺達より見張りが圧倒的に多いし、強さも結構強そうだ。
「あのう、兵隊なんですけど、ガルドの村で隷属魔法を掛けられてた人に似てます」
コトネが懐かしい少年の名前を出す。そう言えばヘスティア率いる海賊が村人を隷属化していたな。確かにあの時の魔法にかかった村娘の感じと似ているか。なら何とかなるか。
隷属化の魔法使いは護送中に攫われて行方不明になっているが、解除魔法の魔法陣は手に入れている。
「そうか隷属魔法を解けば、兵隊に混乱が生じるか」
ただ解除の魔法陣を百人一人一人に掛けるのかと言う懸念はある。
「しかし、百人の隷属化を解くのは大変だぞ」
「私がやるわ。魔法陣を強化して全体に効くようにすればいいのね」
アンナが任せてと胸を叩く。
「あ、動き出した。休憩が終わったみたい」
アンナが報告する。下を見るとすでに行軍は始まっていた。
「この速度で砦跡にはどれくらいで着く?」
「そうですね。まだ5,6時間は掛かるんじゃないですか」
クロエが頭を捻る。まあ、そこまで詳しくは解らないか。
「問題は仕掛けるタイミングだ」
「後2,3時間待った方が良いと思います。このまま何も無ければ、相手の気も緩むと思います」
「そうだね。こちらは仮眠でも取りましょう」
コトネの提案にクロエも賛成する。
「じゃあ、オイラが奴らを見張ってるよ」
眠る必要のない幻獣のゴロが見張りをすると言ってくれる。
「ノルンは大丈夫か?」
「私はまだ二日や三日、なんてことはない」
精霊のノルンも眠る必要が無い。
俺達はゴロやノルンに後を任せて仮眠を取ることにした。
昨日の昼から休憩なしで追跡していたから、結構疲れていた。
従者娘達は横になるとすぐに寝たようだ。俺はさすがに人質の事が頭から離れずに眠れないでいたが、目を閉じて横になっているだけで、体力が回復するような気がする。
それからどれくらい経ったのだろうか。ゴロが叫ぶ。
「誰か来た!後ろからすごい勢いで近付いて来る!」
俺は飛び起きてアンナを呼ぶと同時に下を眺めた。騎馬がほぼ全力疾走で近付いて来る。
「アンナ、アンナ、起きて、近付いて来るのが誰か確認してくれ!」
アンナは目を擦りながらその場で女の子座りをした。
「え、え、フ、フリードリヒ様?」
アンナは俺の父親の名前を言った。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
やって来たフリードリヒ=イエーガー伯爵の活躍をご期待ください。