10-11 レオンファミリー出撃!
ご愛読、ありがとうございます。
今回は誘拐事件解決に向かうレオン達です。
レオンの母親のマリアと妹のカタリーナが誘拐された。警らの捜査に疑問を持ったコトネは自らが捜査を行う決心をする。アンナはノルンが出かけているのでこちらに来るのに三時間かかる。自分が捜査する時、広い範囲を操作できる足が要る。馬を借りに王太子の所に来たコトネ、その頃。
〇エドゥアルト城 <レオン>
アンナとコトネの報告を受けた俺は焦っていた。さっきから執務室の中をぐるぐる回っている。
恐らく賊は母さんに魔法を使わせないようにすぐに目隠しと手の自由を奪ったんだろう。そうすれば魔法使いなんて魔法陣が描けないから普通の人と同じだからな。リーナを人質にされたのかもな。
とにかくヴァイヤールに行くことを考えないと。
ノルンはこちらに寄らせると時間が掛かる。直接コトネの所に行かせる方が良い。
なら俺はどうする、母さんとリーナが誘拐されてると言うのに、ジッとしてて良いのか。
ゴロを途中で降ろしてこちらに来させるか。いやゴロの速度では今日中に付けない。それならノルンに迎えに来て貰った方が早い。
相手は追跡している警官をすべて殺している。相当腕が立つとみて間違いない。コトネとアンナだけで大丈夫だろうか。
相手は馬車で西に走ったという話だよな。あそこらの貴族派の土地に行くなら二日は掛かるだろう。
いや、そこまで時間を掛けるだろうか?もしかして王都内にアジトを作っているかもしれん。
そうだ、俺とコトネがノルンで馬車を追って、アンナにはゴロに乗って王都を調べて貰おう。王都内ならヴァイヤール軍に頼ることもできるだろう。
待てよ、ヴァイヤールに二人を安全に助け出す能力があるんだろうか?お父さんぐらいしか無理だと思えて来た。大体お父さんは北部方面軍司令部に居るはずだから、連絡で一日、駆け付けるのに一日掛かる。全然間に合わない。
どうする戦力は俺とコトネとアンナで足りるのか?相手をレベル5以上が十人とすると二人を守りながらだと危ないか?しかし、山賊被害とかが治まらないから神狼族娘は連れて行けないよな。国民と家族を天秤に乗せる訳には行かないからな。
とするとここから連れて行けるのはクロエくらいか。
後はなるべく早くヴァイヤールに行く方法だな。
・・・・・・。
もしかして四式戦で飛べないか?まだ一時間位時間はある。特訓してみるか。
四式戦”疾風”は体の周辺の気を操る技だ。横に速度を上げられるのなら、縦にも出来ないかと考えた訳だ。俺は練兵場に走った。
〇ヴァイヤール王国 某所 <リーナ>
ここは何処・・・・。目が覚めたが何も見えない。え、目隠しをされてる。
喋れない。口に何か布のような物が・・・。手も足も動かせない。縛られてる?
私、馬車に乗ってる。振動と音が聞こえる。馬車が結構な速度で走ってる?
あ、お母さん、どこ・・・。お母さんの背中?私の顔のすぐ前にある。暖かい、生きてる。
そうだ、買い物に馬車で出たら、急に馬車が止まって、馬車の扉が開いたと思ったら人が入って来た。
そうよ布を顔に押し当てられた所までは覚えてる。
私はもしかして誘拐されてる?
「娘の方が起きたみたいだ」
上の方から声が聞こえる。
「放って置け。何も出来ないさ」
女の声だ。女が二人以上一緒に居る。
「静かにしてろよ!」
軽く蹴飛ばされたみたいだ。背中に痛みが走る。
お母さんも私の様に体の自由を奪われて、まだ眠らされてる?
体を動かそうとするがだるいと言うか、まだ眠ってるような感覚だ。薬を嗅がされた?
怖い、いきなり恐怖が襲ってきた。私はどうなるの。お母さんも動けないみたいだし。
体が自由だったら大声で泣きわめくだろう。実際には「ウー、ウー」としか言ってない。
また蹴飛ばされた。
私は動くことを諦めた。
助けて、ねえ、誰か私とお母さんを助けてよ。
私の脳裏には一緒に暮らすお父さんやお兄さんではなく、遠くに居るレオン兄さんの顔が浮かんだ。
〇ヴァイヤール王城 <コトネ>
私は執務室の椅子に座らされている。
「お願いです。マリア様とリーナ様を探しに行かせてください」
正面に座る王太子様にしつこいぐらいお願いしている。
「コトネ、お前は子供だ。しかもヴァイヤールの組織に所属している訳でもない。捜査はヴァイヤール王国に任せて貰おう」
『レオン様、あなたの指示通りに王太子様の所に来ましたが、身動き取れなくなりました。
王太子様にはこの部屋に居るように命令されています。
帝国と違って私の実力が評価されていないのが原因と思われます』
従者通信でレオン様に報告する。
苦痛に満ちたリーナ様の顔が頭に浮かびます。マリア様はちょっと痛い目に会えばいいとか、DQNなことを考えたりしてます。
『コトネ、今、アンナとゴロがハーヴェル城を出た所だ。そちらに近付いたらゴロを送るから脱出しろ』
レオン様からまた指示が来ました。
『外交とか大丈夫でしょうか?』
『母上とリーナの命に代えられるか!!』
私が下を向いて小さく呟いているもんだから、何か勘違いした王太子様が声を掛けてくれる。
「何、大丈夫だ。王都軍から百人、騎兵で追いかけさせている。犯人も今日中には捕まるだろう。
それにしても馬鹿な奴らだ。イエーガー家を狙うとはな。いくら金が欲しいとは言え狙うところが悪すぎる。
だからお前のような子供が手伝わなくても大丈夫だ」
犯人が達人級の腕を持っていることを想像できないのだろう。分析が甘いと思う。レオン様の近くに居るせいか評価が厳しくなる。
「王太子様、私は犯人の狙いはお金ではないと思います」
ウンと言う顔をする王太子様。
「ならば何が狙いだと言うのか?」
「はい、イエーガー家の凋落、レオン様からエドゥアルト王国の権利を奪う事を目的としていると思います」
私はハッキリと言ってやった。
「え、嫁と末娘の命と引き換えにするような物じゃないだろ」
王太子様は呆れる。そう普通の貴族なら無視するような取引であるが、イエーガー家は違う。
普通の家族なら女の扱いは悪い。当主や嫡男ならともかく、嫁や結婚相手の決まっていない娘を誘拐しても脅しには屈しない。
「イエーガー家の家族の絆を侮っています。恐らく明日、犯人の要求がイエーガー伯爵になされると思います」
「馬鹿な。イエーガー家の愛情を逆手に取った、貴族派の策略だと言うのか。」
「証拠にルーカス様はまだこちらに戻りません」
そう、心配で警らを離れられないのだ。王太子様が許せば、自ら捜索に赴くだろう。
「むう、どうすれば良いと思うのだ?」
王太子様は私に問うてきた。
「はい、レオン様はあと二時間ぐらいでこちらで捜索に掛かると思います。私もそれに合流します。
犯人は手練れが十数人と推測されます。騎兵が追付いても返り討ちになる可能性があります。
犯人の処理については私どもにお任せください」
王太子様はムッと怒りを顔に出す。私達が戦ってきたオリンポスの事を考えれば、普通の兵が対処できる訳が無いのだ。
「ええい、そんなことを許す訳が無かろう!事件はヴァイヤール王国で起きているんだ!それを他所の人間に任せるなど!ましてやお前みたいな子供に何が出来る!」
「ではニコラウス様をお出しください」
「馬鹿な!奴は近衛の副隊長だぞ。民間の事件に駆り出せるか!」
ニコラウス様はレベル7のレオン様のお兄様だ。この国では二番目に強いと言われている。
一番目は当然、レオン様のお父様フリードリヒ=イエーガー伯爵その人だ。
しかし、お父様は任地から帰るのが早くても明日の夕方、ならば王都に居るニコラウス様を出さざるを得ないのですが・・・。警官が返り討ちに会ってるのに何で強い人を当てようとしないんだろ。
あくまで敵戦力の過小評価をやめるつもりが無いのですね。
こちらも神狼族娘達を連れて来れないのは厄介です。少しでも強力な戦力が欲しいのに。
敵が館や砦などに入るとまずいですから、早く対処が必要なのに。
ヴァイヤール王国での王室関係では、王太后の事件ぐらいしか私は活躍してないから、侮られるのは仕方ないけど、もうあなた方を当てにするのはやめます。ゴロ、早く来て。
〇旧エドゥアルト王国、旧聖金字教国国境付近
「ヒイイイーッ!レオン様ぁ!た、助けてぇ」
「静かにしろ!クロエ!真っ直ぐ飛ぶのは難しいんだぞ」
クロエを背負ったレオンが空を飛んでいるのだが、航空力学を欠片も知らないレオンである。
気を操って何とか飛べたレオンではあるが、背中でクロエが足をバタつかせるたびに錐もみに入ろうとするのを、何とか両手をバタバタと動かして安定させようとしていた。
「ひ、人は飛べるようには出来てないんですう」
レオンの背中で叫ぶクロエ、しがみ付いているので、コトネの倍はある二つの胸の膨らみは、レオンの背中に押しつぶされていた。
「こら、首を絞めるな。落ちるぞ」
レオンは膨らみを楽しむ余裕はなく、ただ飛ぶだけに全神経を集中せねばならなかった。
『レオン様、こちらでレオン様達を捕捉しました。進路を東に向けてください』
レオンからはまだ見えないがアンナがレオンを見つけたと従者通信で連絡してきた。
『了解、進路を東に向ける』
アンナに返答して進路を南から東に向ける。
やがて追付いて来たノルンの黒鷲の背中に着陸した。
「やっぱり飛ぶときはノルンさんの背中がいいです」
クロエはぐったりと座り込んだ。
ノルンは合流するため落としていた速度を加速して回復した。
しばらく飛ぶと聖金字教国を横断してヴァイヤールとの国境を飛び越える。
「ゴロ、王城にコトネを迎えに行ってくれるか」
「オウ、任せとけ」
ヴァイヤールの領地に入るとゴロをコトネに差し向けた。
「このまま街道に沿って、母上達を探す。アンナ頼むぞ!」
「はい」
レオン達は聖金字教国から王都に続く街道を王都に向かっている。まだ賊は王都から百kmも離れていないだろう。
ヘルメス達はノルンの存在やアンナの探知能力について正確にはゼウスに上げていない。
敵がオリンポスの残党なら、空からレオン達が捜索できることを知らないだろう。
チャンスはそこにある。日没まであと二時間。レオンはそれまでにケリを着けようとしていた。
〇ヴァイヤール王城 <コトネ>
ここは王太子様の執務室、ようやくルーカス様が戻って来られた。
「どうだ、何か分かったのか?」
「いえ、新しい事は何も・・・」
ルーカス様は憔悴されていた。誘拐が発生して三時間半、敵の馬車は二頭立ての幌馬車と聞く、まず王都からは百kmと逃げていないはずだ。騎兵が追いつくとしても二時間はかかる。
「ルーカス様、レオン様が捜索に掛かりました。今日中には敵と遭遇すると思います」
「レオンが?あの大きな鳥で捜索しているのか?」
俯きがちだったルーカス様が顔を上げた。
「はい、私にもすぐに迎えが来ます。御安心してお任せください」
「どういうことだ。説明せよ」
「はい、レオンの配下に大きな鳥の精霊が居ますが、それに乗ってレオンが誘拐犯の捜索に掛かっているそうです。レオンの配下には魔力の探索が得意なものもおりますので、比較的容易に発見できるのではないかと思われます」
「そんなことを聞いておるのではない!ヴァイヤールの事件になぜレオンがしゃしゃり出てくるのか!」
王太子様はヴァイヤールの事件を他国の者に解決されるのが嫌らしい。
「ですが、事件の被害者は奴の母親と妹です。奴が我慢できるとは思えません」
その時、ゴロが王城に着いたと従者通信が来た。
「迎えが来ました。言ってまいります」
そう言うと私は部屋を飛び出した。後ろで何か聞えるが気にしない。
『ゴロ!北側の三階の窓に寄せて来て』
私は顔の高さにある窓を開けて、ゴロを待つ。下には私を見上げる人が数人いる。ゴロが寄せて来たので窓から跳ぶ。ミニのワンピースのスカートが翻る。
ヤバイ、今日はスキンアーマーの服を下に着ていない。パンツが丸見えだ。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は捜索を開始したレオン達、母親たちは見つけられるのか。こうご期待。