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10-10 イエーガー家誘拐事件

ご愛読、ありがとうございます。

今回はマリアとリーナが誘拐されます。




 ヴァイヤール王国がレオンのアルカディア王国を同盟の為にエリーゼが視察することになった。コトネは視察の間の人質兼通信要員としてイエーガー家に駐留することになった。


 コトネがレオンの母マリア様に痛風の薬を送った翌日、マリアの痛風はすっかり快癒した。

 そのことを王太子様が知ると頭を抱えた。

「一体どうなってる。出来て一月にもならない国に、なんでこんな技術があるのだ。ルーカスどういう事だ」

 今日も私と王城に来たルーカス様が答える。

「いや、その知識と技術を持った者が、移住したのではないかと思いますが」

「それは帝国からか?帝国から見たら我々は未開人に見えているのではないのか?」


 王太子様の苦悩は解る気がする。私達が旧イエーガー領から出て来て、王都を見た時の感覚がそうではないかと思った。あの時はレオン様のお陰でホテル住まいが出来たけど、あのまま辺境伯領に行っていたらと思うと冷や汗ものだ。何せあの時は現金が銅貨一枚すらなかった。


「コトネ、本当の所はどうなのだ。帝国とヴァイヤールにそんなに差があるのか?」

 ルーカス様が王太子様を宥めるためだろう、私に話を振って来た。


「帝国は交通、農業、施政などでヴァイヤールに勝っていると思います。医学と言う事なら金字教が進んでいましたが、レオン様はさらにそれを進めて、帝都と金字教教会で治療しています。そのうち体系立ててアルカディア王国で、学校でも作るのではないでしょうか。

 ヤヌウニさんが治療方法を一般に公開したい野望を持っているのは知っている。今までそれを金字教が邪魔して来た。


「ならば、人を送れば良いのか?それで最新の科学が手に入るのか?」

「さあ、それはいつになるのか。何せ今は大災厄を生き抜くことを最優先しておりますので。アルカディア王国ではそれだけにとどまらず、錬金術からの科学やドワーフの生産技術なども進めております」

 これって最初にお話ししたんだけど、やはり実例が無いと説得力が無いのかしらね。


「そうか、同盟してうまく大災厄を乗り切れば、我々もその恩賜に与れるのか」

 王太子様は自分の理想とする政治が見えて来たのではないかと思う。

「そうだ、エリーゼに命じてこの先端科学を視察して貰おう。ルーカス、コトネ殿と相談して視察の優先順位を決めろ」

 私が勝手にやったマリア様の薬がこんなことになるなんて、レオン様に褒めて貰えるかも。


「ゴホン、殿下、決して結論を急いでは成りません。レオンハルト殿はイエーガー家の三男です。これ以上イエーガー家に実権を握らせることになっては王家の危機となりますぞ」

 この人、殿下のブレインの内、長老格の人だ。レオン様がヴァイヤールに手を出す訳無いでしょ。バッカじゃないの。


 ルーカス様もイエーガー家の事を言われると弱いみたい。

「イエーガー家は決して王家に弓引くことはしません」

「お前の父親やお前はそうだろう。しかし、息子は?孫は?」

 ルーカス様が裏切らないって言ってるのに、まだ解らんことでことで責めるなんて卑怯よ。


「今は大災厄を乗り切ることを考えろ。大災厄の後が危ないと考えるなら伯爵に勇退して貰う事もできる」

「殿下・・・」

 王太子様の言葉にルーカス様が寂しそうな顔をする。


 これがレオン様が言っていた大人の戦いなのかしら。大人は目の前の問題より自分の欲望を優先するって言ってたわ。この場合、アルカディア王国の事でルーカス様を優先するなって事を、言葉を変えて言ってるのね。本当下らないわ。でもレオン様が大人の戦いには加わるなって言ってたから、私は口を出さないで置きましょう。


 その日からエリーゼ様への質問と指示が三から五倍になった。エリーゼ様が訳が分からずあたふたしてた。レオン様を通じて理由を教えてあげたら納得して頑張るって言ってたようです。


 レオン様の御父上、ニコラウス様、レナ様も正月のお休みも終わって戻られたある日、リーナ様が私の部屋を訪れた。

「コトネちゃん、お母さんが快気祝いに何か買ってくれると言ってるんだけど、コトネちゃんも来る?」

「私は王城に呼ばれてますので行けません」

 マリア様と買い物なんてそれ拷問ですよ。さわやかな顔で私に話すリーナ様に言いたい。

 マリア様も痛風で半月ぐらい歩けなかったので、ちょっとリハビリをしてたけどそれも終わったみたい。


 私は準備をしてルーカス様の馬車に乗る。王城に入っても王太子様やルーカス様は朝議があるので、私は一人で待合室みたいなところに居る。午前中は暇なのでエリーゼ様と打ち合わせしたり、顧問団と共に戻ったアンナの話を聞いたりしてた。


 昼食時にはルーカス様と王太子様の質問について、先にある程度考えて置く。これによって質問に回答する効率と精度が上がるのだ。


 しかしその時間は食堂に飛び込んできた衛兵によって壊されてしまった。

「ルーカス様!大変です。お母上と妹様が誘拐されました」

「何!どういうことだ?何があった」

 ルーカス様は青い顔で叫んだわ。


「はい、詳しい事は警ら本部でお願いします」

 衛兵は詳しい事は話さずに王城内にある警ら本部に導いた。

「王太子様に連絡を頼む!」

 一緒に居た同僚に王太子様への連絡を頼むと、警ら本部に向かって走る。私は後を着ける。


 警ら本部と呼ばれる大きめの部屋に着くと、何人かの人間が出入りしたり、大声で話をしていた。

 資料が詰まれる大きな机に案内された。中年男が立ってルーカス様を迎えた。

「ルーカス殿ですね。説明します。お掛けください」


 ルーカス様は中年男の向かいに座り、私はその後ろに立った。

「私はこの事件を担当するライル警部です。今日午前十一時頃、お母上と妹御はここの通りを買い物に行くため馬車で走行中、ここで前後を馬車で挟まれ、脇道から出て来た犯人に拉致されました。御者と護衛は四人居ましたが全員遺体で発見されました」

 警部は自己紹介の後、地図を指差し、事件のあらましを語った。


「で、犯人は?母達は無事なのか?」

 ルーカス様の顔は蒼白で変な汗が流れていた。

「お母上、マリア様と呼びます。マリア様とカタリーナ様は犯人と一緒に行動されていると思われます」

「では犯人は何処にいるのだ!!」

「目撃情報によりますと正門を出て、西に向かった馬車が怪しいと見て、追跡しております」


「現場付近の捜索はどうなっていますか?匂いとか魔力は追えませんか?」

 つい口を出しちゃった。ああ、睨まれてる。私は小さくなる。

「この娘は?」

「三男の従者で今、例の件で王城に来ています。お前はこういう事件を捜査したことがあるのか?」

 ルーカス様が私の身分を答えて、やや厳しく私に経験を聞いた。


 捜査はアンナが得意なので、任せているから私はあまりやってない。

「こういうのはアンナが得意なので、私はあまりやりません」

「うちには匂いとか、魔力の痕跡を追えるものは居ません」

 警部さんは不思議そうに言った。まあ、こんな探し方をさせるのはレオン様だけだよね。


「確か、近衛に犬獣人が居ました。お願い出来ませんか。アンナを呼ぶ許可を下さい」

 私がそう言うと突然警部が不機嫌になって言った。

「そんな犬獣人を呼んでどうなると言うのかね。あまり捜査を混乱させると放り出すよ」

 うう、やっぱり信用して貰えない。


「そう言えばアンナは馬車の中の人数を言い当てたと聞いたことがあるが、いまどこにいるのか?」

「今はハーヴェル城に居ます。二時間ぐらいで来れます」

 ルーカス様の問いに私はすぐに答えた。


「馬鹿なことをハーヴェル城に知らせるだけでも早馬で二日かかる、そこから帰るのにもう二日だ。その頃にはこんな事件は解決してるぞ」

 警部は私の言う事は信じない。でもルーカス様はノルンさんを知っている。


「分かった、無駄足になるか分からんがアンナを呼んでくれ。なるべく帝都内にノルンを降ろせるようにする」

 ルーカス様は少し顔色は戻ったが緊張していることが解る。警部はルーカス様の言葉に呆れている。

 私は邪魔されないように廊下に出て、アンナに従者通信を送る。


『アンナ!アンナ!返事をして』

『・・・聞こえてるよ。なあに』

『マリア様とカタリーナ様が誘拐されたの。すぐにこっちへ来て捜査に協力して』

『ええ、大変!今ノルンさんが金字教会にエリーゼ様を連れて行ってるから少し時間が掛かるよ』

『分かった。なる早で来て』


 さて、レオン様にも連絡しとかないと・・・。

 その時、警らの部屋に駆け込む警官がいた。

「大変だ!誘拐犯を追跡していた警官が全員殺された!」

 怪しい三台の馬車を追っていた騎馬警官十数名が死体で発見されたそうだ。遅れて追いかけた警官がそれを発見したそうだ。


 現在騎兵を用意しているが見失う可能性もあるみたいだ。

 早く、レオン様に指示を仰がないといけない。


「コトネ、アンナはどうだ!」

 ルーカス様が追跡者全滅を聞いて私を追い掛けて来た。

「はい、現在ノルンはエリーゼ様と金字教会に居て、来るのにあと三時間ぐらいかかりそうです」

「そうか、今日はエリーゼ様に金字教会の視察を頼んでいたんだった。くそ、アンナだったらすぐに探せるかもしれないのに。時間が経つと捜査範囲が指数関数的に広がっていく」

 ルーカス様はかなり焦っておられる。普段の冷静さが失われつつあるようだが仕方が無い。イエーガー家の家族愛は深いのだ。


 私は一つの可能性を見つけた。敵の狙いを打ち破れるのはレオン様だけだ。

 ルーカス様が私の肩を掴み揺さぶって来た。

「コトネ!アンナを早く、敵が逃げないうちに、頼む!!」

「分かっています。ルーカス様、落ち着いて下さい。敵の思い通りにならないで下さい」

 この冷静さを失った人の相手をしている暇はない。私も行動を始めるべきだ。


「落ち着けだと!こんな時に落ち着けるはずが無いだろ!」

「申し訳ありません。あなたの相手をしている暇はありません。私は捜査を開始します」

 私の肩に食い込んだルーカス様の指を無理やり剥がすと走り出した。


『レオン様、レオン様!私はどうしたら良いですか?』

『コトネか!話はアンナからも聞いた。お前はどうするつもりだ』

『ルーカス様がパニックで冷静な判断を下せるとは思えません。だから私単独でと思ったのですが、足が無いと捜査が捗らないと気付いた所です」

『お前もかなり焦ってるな。先ず落ち着け。そして王太子様の所に行け。そして馬が借りられないか聞け』


 私は王城内を王太子様の執務室を目指して歩く、流石に走ると捕まってしまう。歩きながらレオン様にこれまでの経過を話す。

『・・・ですから敵の狙いはイエーガー家にあると思います。金銭が目的ではないと思います』

『そうだな、金銭ならもっと狙いやすい所はいっぱいあるからな。それに警官十数人を殺している所も自らの武力を誇示している所がある。しかし、計画した人間と実行した人間に思惑の違いを感じる』


『どういうことですか?』

『計画した人間は、恐らくお前がヴァイヤールに居ることを考慮していない。実行した人間はお前が居ることが解っているのに行動した』


『意味が解りません』

『まあいい。これは推測に過ぎないから気にするな。それより問題は犯人の要求だ。今日の夕方には発表するだろう』

 ちょうど私は王太子様の執務室のドアをノックした。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は誘拐事件を捜査するコトネとアンナ、発表される犯人の要求は?の予定です。

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