10-8 イエーガー家の正月
ご愛読、ありがとうございます。
今回は主にフェリとエリーゼのさや当てです。
申し訳ありませんが帰省の関係で次回、次々回8月14日・17日はお休みします。
レオン達は正月の挨拶を兼ねて、同盟の視察に来ると言うエリーゼを迎えにイエーガー家に行く。
それに便乗するフェリ。混乱する状況に真っ向から立ち向かうレオン。
正月の挨拶にイエーガー家に来たレオン達は玄関に立った。
レオンにとってこの家はあまりなじみがない。と言うのも一昨年、陞爵した父達がここに越して来たばかりなのと母親の獣人差別を知って、簡単に尋ねられる場所では無くなったのである。
玄関を開けたのはヨハンではなかった。メイド長のゲルダだ。
「いらっしゃいませ。旦那様がお待ちです」
そこで後ろに立つフェリ様と護衛の二人を見つける。
「レオンハルト様、こちらの方々はどちら様ですか」
さすがに帝国近衛兵の鎧は脱いで武官の儀礼服を着るウェルバルとアデライーデとドレスで着飾るフェリがレオンとコトネの後ろに立っている。
「この方々は見なかったことにしてくれ。知れると大事になる」
口止めをしたがゲルダは貴族派と繋がっているかレオンは知らない。ここらは実質的にこの家を管理するルーカスを信頼するしかない。
客間に通されるとすぐに走ってくる足音が聞えた。
「レオン兄上!」
少女はレオンに飛びつく。妹のリーナだ。
「リーナか、大きくなったな。見違えたぞ」
リーナを胸の高さまで抱き上げる。
「私も十二になったからね。今年からアリストス学園に通うんだよ」
そうか、お前はいいな。俺なんか二年間も待たされた挙句、自費でようやく入学できたんだぞ。
一昨年の絶望していた日々を思い出すレオンであった。
「お前は良いな。兄さんなんか学校のお金は、銅貨一枚だって出して貰ってないんだぞ」
「だって、兄さんはお金持ちじゃん。私のドレスも買ってくれたし、あれだけで一年は軽く暮らせるでしょう」
そうだったこいつに拗ねられて金貨十枚以上の服を買わされたんだった。
「あれ、アンナは?あの服小さくなったからアンナに上げようと思ったのに」
「ああ、あの子は仕事で帝国のお城に居るよ」
アンナはフェリの人質みたいな形で帝城に居る。帝妃に可愛がられているみたいだから心配はしていない。
「へえ、あの子は仕事をしてるんだね」
後ろにいるフェリに気が付いたようだ。
「この人誰、紹介してよ」
「皆が来てからな」
ドアから父親を先頭に母親、長男ルーカス、長男嫁と姪、次兄、長姉、それとエリーゼとなぜおまえが居るエイトリッヒ。
「明けましておめでとうございます。御無沙汰しております」
レオンは立ち上がって家族に挨拶をする。挨拶を返して貰うと早速フェリを紹介する。
「こちらはリヒトガルド帝国第二皇女フェリシダス=リヒトガルド様です。現在、アルカディア王国との同盟のため、視察にいらっしゃっております」
フェリは立ち上がって見事なカーテシーを決める。
「ご紹介頂いたフェリシダスです。よろしくお願いいたします。あ、忍びですのでお構いなく」
跪こうとした父親たちを止める。
父親は服を整えると挨拶を返す。
「ヴァイヤール王国伯爵、そしてレオンの父親、フリードリヒ=イエーガーに御座います」
後ろでウェルバルが「あれが首狩り・・」と言っているのをアデライーデが肘打ちをして黙らせている。
「母親のマリアで御座います」
「長男のルーカスと嫁と娘です」
「次男で公爵の配偶者、ニコラウスです」
ニコ兄は公爵じゃないんだそりゃそうか。
「長女のレナです。まだ学生です」
「次女のカタリーナです。よろしくお願いします」
家族が次々と頭を下げる。
「ヴァイヤール王国第七王女エリーゼ=ヴァイヤールです」
「レオンの友人のエイトリッヒ=シュナイダーです」
紹介が終わって全員が席についた。コトネと近衛兵の二人は、それぞれの護衛対象の後ろに立った。
エリーゼには護衛はいなかった。イエーガー家と言う事なのだろう。
「それでフェリシダス様はなぜこちらに」
ルカ兄が早速フェリに訪問の理由を聞く。
「アルカディア王国の軍事力は帝国を上回る部分もあります。大災厄に向けて帝国はその軍事力が欲しいのです。同盟を結ぶかどうか判断するにあたり、ヴァイヤール王国の動きを知りたいと言うのが理由です」
フェリは澄ましてそう答えた。全く隙の無い答えだ。
「同盟が成ればフェリシダス様は、レオンハルト殿と結婚すると伺ったのですが本当ですか?」
エリーゼがそれが聞きたいとばかりに体を乗り出した。
「はい、その通りです。レオンハルト殿は同盟後初代アルカディア王に即位され、その戴冠式の後に結婚式を挙げたいと思っております。なにせ、建国できればヴァイヤール王国に匹敵する大国になるのですから」
オホホとばかりにエリーゼにマウント取るように笑うフェリ。グググッと悔しそうにするエリーゼ。
「視察をしていらっしゃるとお聞きしましたが、私共もエリーゼ王女に視察していただく予定ですが、アルカディア王国はどうでしょうか?」
「今の所、大きな問題はないと思います。以前より治安はよく、国民の暮らしは良くなっているようです。まあ、後半年は観察するつもりですが」
ルカ兄の問いに答えたフェリ。流石に、すぐに建国を認める気は無いらしい。
「それでヴァイヤール王国においてはどうお考えですか」
「まだ国論はまとまってないです。そこで私が三月までは余裕がありますので視察をして、結論を出す予定です」
フェリの問いにエリーゼが答える。言葉は丁寧だが火花が散るようだ。
当然フローラ姫の話はフェリの耳にも達している。フェリには貴族と言う弊害が必要なのか疑問を感じていた。
「エリーゼ様は同盟が成った暁にはレオンハルト様と結婚をお望みですか?」
エリーゼはフェリがレオンに様を付けたことを聞き逃さなかった。おのれ、もう嫁気取りか!と。
「もちろん、同盟が成らなくともヴァイヤールとの友好の懸け橋として、尽力致したく存じます」
ふん、同盟には、及ぼす力が無いか。妾の子では仕方あるまい。フェリはニヤッと余裕の笑みを見せた。
コトネがレオンの耳に口を寄せた。
「ちょっと怖いです」
コトネには政治的な話し合いも女のマウントの取り合いとかは、経験が無いので怖いみたいだ。
実際には帝国の帝妃の娘であるフェリと王国の妾の子であるエリーゼでは、嫁としての格は随分違う。政治的にも父に信頼されて情報収集をするフェリと単にレオンとの仲で視察に選ばれたエリーゼでは自国の扱いは違う。つまり、国の格、女性としての格、国の扱いの格、エリーゼは可哀そうだが全てにおいてフェリが勝っている。
「国王陛下や王太子殿下は同盟についてはどのようにお考えですか?」
レオンはあまりにエリーゼが可哀そうなので、国の方針を聞いてみる。これで国政に関与していると証明できるだろうとの思惑である。
しかし、答えたのはルカ兄だった。
「国王陛下はそれについて何も発言されていない。王太子殿下はまずエリーゼ様を視察に出して情報を収集したい考えだ」
可哀そうに発言の機会を奪われたエリーゼ様は俯いてしまった。ルカ兄は嫁さんに軽い肘打ちをされている。兄嫁は空気を呼んでくれたのだろう。しかし兄はなぜ肘打ちをされたのか分かってない様だった。「え、なに」とか言ってる。
それにしてもヴァイヤール王国の意思決定には時間が掛かり過ぎるな。何とか春までには道筋を立てて欲しい物だ。レオンは王国の貴族政治の欠点をまざまざと見せられた気分だった。
「さあ、難しい話はそのくらいにしてお食事にしましょう」
レオンの母が昼食の合図をした。
会場は立食のパーティ形式であったので、コトネをドレスに着替えさせた。
「レオン様、私はこのような姿は嫌です」
「おまえなあ、俺の嫁になるなら女らしい姿を俺の家族に見せておかないと。これは命令だ」
半ば無理やり着替えさせた。
前に王太后に貰ったドレスは小さくなっていたので新しく誂えた。コトネのパーソナルカラーの赤を基調にした華やかだが落ち着いた仕上がりになっている。
「コトネちゃん、すっごく綺麗だよ」
「やっぱり、コトネは赤が似合う。弟に買って貰ったの。あいつやるなあ」
コトネは会場に入るとレナとリーナに見つかり、早々に拉致されていった。
レオンはと言うとフェリとエリーゼに挟まれ、食事もままならない。
「レオン、私帝国に留学しようとしてるんだけど、あなたのお嫁さんになったら通えないんだよねえ。どうしようかな」
とエリーゼが言えば、
「同盟が出来なければ、結婚できませんから留学しておいた方がよろしいのでは」
とフェリに返される。
「そうだよ。エリーゼ様が留学しないと、俺も留学できなくなるから頼むよぉ」
エイトが横から口を出す。どうもエリーゼの護衛をすることで学費等を王国から受けられるらしい。
「エイト!あんたは黙ってなさい」
懐かしいやり取りをする二人。しかし、エイトにとっては死活問題だな。
「もし、そうなったら俺が面倒見てやるから心配するな」
レオンがそう言ってエイトを宥める。
「ええ、レオンが?あの四六時中、金がない、貧乏は敵だぁとか言ってたレオンが?」
レオンもアキラと言うスポンサーが着くまでは、確かに貧乏だった。
「無礼な奴だな。俺はもうじき王になるんだよ。お前が卒業したら雇ってやろうと思っていたのになあ」
「ホント、何で雇ってくれるの。騎士、役人?」
エイトが期待に満ちた目でレオンに食い下がる。
「今なら上の方はスカスカだからな。何でもいいぞ」
貴族や教会の政治部門を廃したことで幹部は兼任兼任状態になっている。募集はしているがなかなか埋まらないのが実情である。
「フェリシダス様はこの後どうなされるのですか」
エリーゼが自分と業務が重なると嫌なので聞いた。
「私はすぐに帰国して、政治や軍事の顧問を選定して派遣します」
「顧問団ですか?」
目的が良く解らなかったので繰り返した。フェリはそれを読み取って続けた。
「アルカディア王国はオリンポスが王族・貴族を粛清したため、政治や軍事の専門家が極端に足りません。帝国はアルカディア王国の要請を受けて、早急に対処いたします」
エリーゼも馬鹿ではない。フェリの視察の目的がそこにあったことを理解した。
建国宣言と同時に視察をしたのはそう言う事だったかと感心するのであった。
実の所ヴァイヤール王国はエリーゼに期待はしていない。なぜなら王国としては同盟もアルカディア王国にもあまり興味を持っていない。政治は外国に興味を持たずに過ごしており、軍事的にはイエーガー家が居れば問題が無いからである。言い方は悪いが事なかれ主義が蔓延していた。
エリーゼは期待されずに視察に行くことは解っていたが、何かしらの意見を持って帰りたいと思っていた。
申し訳ありませんが帰省の関係で次回、次々回8月14日・17日はお休みします。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。