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10-7 少女達の大晦日

ご愛読、ありがとうございます。

年末のコトネ、ジェリル、クロエ、フェリの様子です。

 ヴァイヤールに同盟を求めにイエーガー家を訪ねたレオン達だが、ヴァイヤールにエドゥアルトを手に入れようと画策する者たちが居ることが解った。


 エドゥアルト城 <コトネ>

 城の練兵場にクロエを連れ出した。

「アンタがレオン様と別行動なんて珍しいね」

 クロエが私をからかう。私もアンナみたいに一人でヴァイヤールに留まらなくちゃいけない。慣れておかないと。


「ちょっと暇が出来たから忍術を習っておきたいの」

「アンタもアヤメって人から忍術習ったんでしょ」

 私は五歳から十歳の間にアヤメさんに忍術や学問や家事などいろいろなことを教わった。それこそ寝ている時以外はずっとである。


「私は習うことが多かったから逃げる術しか習ってないの。攻撃系の術を教えて欲しい」

 クロエは里から売られた先が忍者の集団だったので、忍術を仕込まれたのである。猫獣人で運動神経がずば抜けて良かったことから、忍術を中心に教えられ、オリンポスに壊滅された時には集団で一番の忍術使いとなっていた。


「まあ、良いけどさ。あんたならすぐに覚えられるさ。先ずはそうね、分身の術」

 クロエはブォンと言う音で輪郭がぶれたと思った途端、二人に分れた。

 どちらが本物かは解らない。


「どう、分かった」

 術を解いて私に聞いて来た。あれは同じ個所を素早く往復して、残像で二人に分れたように見せる技だ。

「うん、素早く動いて人数を増やすんだね」


「でもこの術は結局増えたのも実体だから攻撃されると当たるよ。まあ、相手をびっくりさせて攻撃したり逃げたりするんだ。人間相手だと四人までは増やせる。獣人は動体視力が優れてるから半分でやめときな」

「やってみるね」

 ブォン・・


 訓練しながらも頭の中は昨日のレオン様を怒らせたことへの後悔が渦巻いていた。

 レオン様の顔をまともに見れないから、理由を作ってクロエの所に来てる。

「ブレてるよ。もっと集中して」

 ポーズが違うらしくて残像がブレてしまう。


 三十分後。

「もう、やめ!やめ!」

 クロエが叫ぶ。

「えっ」

「アンタ、全然集中できてない。こんなんで練習しても意味ないでしょう」

「ゴメン」

 私は謝ることしかできない。どうしても昨日のことを思い出して・・・。


 クロエは練兵場の隅にある、木で出来た背もたれの無いベンチに私を座らせた。

「何があったの?お姉ちゃんに言って見なさい」

 恥ずかしかったけどこんなことを相談できるのって、クロエ姉ちゃんしかいない。

 私は昨日のことを話した。


「え、アンタ、レオン様のプロポーズを断ったの!」

 クロエは驚いて大声を上げる。

「シーッ、シーッ。声が大きい」

 私は唇に人差し指を当てて黙らせる。

「あ、ゴメン」


「アンタ達、まだ()()()なかったんだ」

「私、我慢できなくなって何回か迫ったんだけど、体が子供だから駄目だって。赤ちゃんが出来ると危ないって言うの」

 元々出産は命がけの行為である。体が幼ければ、それだけ危険が増大するのだ。


「それだけあんたを大切に考えてるって事でしょう。で、なんで結婚断ったの」

 クロエはため息を吐いて呆れてる。まあ、そうだよね相手が好きでたまらないのにプロポーズを断るなんて正気の沙汰じゃない。


「だって、私なんかと結婚して、レオン様が人間に侮られたら嫌、絶対に!」

「困った人だねえ」

 クロエは俯いた私の頭を優しくなでる。クロエは瞬時に私の心中を解ってくれた。

「ねえ、私どうしたら良いの」

 顔を上げてクロエに聞いた。私、切羽詰まってる。


 クロエは優しく笑った。

「このアルカディア王国を成立させるためにはフェリシダス様とそのエリーゼ様?、二人との政略結婚と同盟を結ぶ必要があるわ。そしてアンタとの結婚もね」

「どうして!私なんかと」

「アルカディア王国は獣人差別をしないって謳ってるわ。そのためにするのよ。だから妾や愛人じゃ駄目なのよ」


 私はレオン様の想いが伝わった気がした。でも、それでも。

「前にレオン様は私が成人するまで考えるって言ってたのに、なんで慌てて結婚するの。建国の宣伝のため?」

 クロエは遠くを見て、それから私を見た。

「レオン様じゃないから分からないけど、アンタの想いに答えるためだと思うよ。それに大災厄が終わって、二人共生き残ってるかは分からないわ」


「ああ」

 クロエの推測は恐らく正しい。レオン様はこんなに私の事を思ってくれてる。

「で、どうするの」

 クロエが私の顔を覗き込む。

「私はレオン様が侮られるのは嫌!大災厄で多くの人達を救って、レオン様にふさわしい女になって誰にも文句を言わせない」


「やれやれ」

 クロエは手の平を上にして両手を広げた。


<クロエ>

 猫獣人の女は情け深いと良く言われる。惚れたら身命を投げ打って奉仕するそうだ。本当かどうかは知らない。

 それにしても私の妹分は面倒臭い。なぜ自分の欲望に素直になれないのだろう。しかし、彼女の仲間と言うのが妙に心地よいのだが。


<ジェリル>

 城の中を歩いていると外のベンチに座ったコトネとクロエを見つけた。

「おーい」

 ちょうどいい、コトネに頼もう。


 出会った頃はアタイの方が強かった。でも最近はコトネの方が強い。

 アタイは三つも年下の女の子に負けていると言う事だ。これには訳がある。コトネにはすごい師匠が居る。

 アタイもその師匠に習ったらすぐに強くなれた。


 アタイが初めて出会った強い敵は、ヘスティアというオリンポスの女戦士だった。

 そいつと次に戦った時、すでに私の方が強かった。あえて勝負を着けなくても分かった。あいつの指導によるものだろう。しかし、コトネには追い越されてしまった。


 あいつは初めスピードと猫獣人特有のアクロバティックな動きで敵を翻弄することに特化して、その場に留まって対決することが苦手だった。それが私達との訓練で払拭されるととんでもなく強くなった。


 アタイはヘラクレスとの戦いで一段階強くなったと実感できて、これでコトネに並んだと思ったが最近その自信が揺らいできた。あの時、ヘラクレスの動きが突然遅くなったような感じがしたら、自分の動きも加速されたようになった。だけどノアやハビと訓練しても同じ感覚が再現しないのだ。

 コトネが相手ならあの感覚を取り戻せる。


「コトネ!アタイの訓練の相手をしてくれよ」

 しまった。焦ってコトネの都合を聞いてない。ああ、クロエに睨まれた。

 クロエはエチケットに厳しいんだよな。

 ノア達には優しいのにアタイには小さなことも怒ってくる。

 私が怒られるのを聞いていたマサユキさんが、ロッテンマイヤーさんみたいだって言ってた。ロッテンマイヤーって、多分日本で伝説の怖い人だぜ。


「ちょうど良いわね。コトネ、相手をしてあげなさい。ちょうどいい練習になるわ」

 あれ、怒られなかった。練習って何のだ??

 よく分かんないけど、相手をしてくれるならいいや。


 練兵場の広い場所に移って、木剣を持って五m位離れて向き合った。

 ビーストグローは無しで、念のためお互いいつものスキンアーマー状態だ。


 アタイは静かに構える。中央に立ったクロエが手を上げた。

「始め!!」

 まずはヘラクレス戦の様に相手に攻め・・ブォン!

 低い唸り音が聞こえた瞬間、コトネが二人に・・・なんだ!何が起きた!


 驚いて足が止まってしまった。コトネの木剣が首元に止まっている。

 アタイの負けだ。

「コトネ!お前なにをした!」

「分身の術です」

 コトネは剣を降ろす。


 完全に二人に見えて、アタイは硬直してしまった様だ。おそらく反復横跳びのように同じ個所を往復して残像を残して、こちらがびっくりした瞬間に近付いたのだろう。

「それで良いんだよ。アンタは実戦になると出来るんだね」

 クロエがコトネを褒める。くそ、これを練習してたのか。しかし、一回見てしまえばもう驚かないぞ。


「チクショー!もう一本だ。もう見たから通用しねえぞ」

「はい、親しき仲にも礼儀ありだよ。汚い言葉を使わない」

 アタイの言葉遣いにクロエのチェックが入る。小さいときに読み書きそろばんを教えてくれたお姉さんみたいだ

「あ、ごめん」

 どうもクロエには弱いのだ。逆らえない雰囲気が出てる気がする。小さいときのトラウマなんだろうか。


「始め!」

 クロエの号令で二戦目が始まる。

 コトネがブォンと言う音と共に輪郭がぶれる。アタイは小刻みに首を振り、コトネの動きを目で捉える。

 幾らコトネが速いと言っても視線を動かす方が速い。慣れれば眼球の動きで対応できるだろう。

 大体、神狼族の動体視力を舐め過ぎだ。こんな技は二度も通用しない。


 動きが変わった。

 アタイの慌てない様子を見て作戦を変えてきたようだ。

 残像を残しながら近付いて来る。

 ク、惑わされるもんか。

 これは一式戦「隼」・・。

 中間点位から消えるような加速を見せるコトネ。


 あっという間に攻撃の間合いに入ったコトネが木剣を面に振る。

 剣を上げ、迎撃の体制を取った。

 スッとコトネの姿が消える。残像・・この距離で分身だと。


 左脇腹にコトネの剣が当たる。

 やられた。まさか残像で視界を塞ぐとは。


「ハア、また負けた」

 今回もヘラクレスの時の感覚を再現することが出来なかった。あの時は何かに話し掛けられて感じだったんだが。


「ジェリルさん、何か悩み事でも?」

 私のはっきりしない様子にコトネが声を掛けて来た。

 アタイはヘラクレスの時に感じた感覚の話をした。

「そうですか。でもその感覚がすぐに手に入るかは、別の問題だと思います。焦らずに訓練をしていたらいつか手に入りますよ」


「簡単に言ってくれる。もう手に入らないんじゃないかとも思ってる」

 アタイは弱音を吐く。アタイはレオンやコトネみたいに天才じゃない。

「私やアンナも一歩下がって二歩進む、みたいな感じですかね。内気功を覚えるのは半年は掛かりました。ジェリルさんの方が早いですよね」


 そうだ、アタイは内気功は三カ月くらいしか掛からなかった。

「そうだな。あまり焦らないで行くよ。まだ付き合ってくれるか?」

「はい」

 コトネは明るい声でそう言った。何か良いことがあったのだろうか。

 この調子で大晦日まで付き合って貰おう。



 ハーヴェル城 <レオン>

「ワシも行くのじゃ」

 俺が帰省の話をしていると、いきなりフェリ様がイエーガー家に行くと言い出した。

「それはまずくないですか?帝国の姫君がヴァイヤールに来るのは」

 俺は慌てて制止する。彼女が来ると国中がてんやわんやになってしまう。


「フェリ様、何で行きたいんですか?」

 俺は嫌だぞと言う顔でウェルバルがしゃしゃり出る。

「お前は今の話を聞いていなかったのか?エリーゼとやらが第一夫人の座を要求したらどうするのじゃ」

「レオンハルト殿はそんな迂闊に約束する方ではありませんよ」

 アデライーデもウェルバルの後押しをする。


「確認するだけじゃ。お忍びだから良いじゃろう。嫁として夫の実家を知っておくことも重要じゃぞ」

「まだ結婚するとは決まっていませんよ」

「いや、毎日のアンナを通じての報告で好感触を得て居る」

 どう言う事だろう。彼女は皇帝に成る為に努力していたはずなのに、今は俺の嫁になろうとしている。


「フェリ様、あなたは皇帝を諦めるのですか?」

 俺は直球で聞いてみる。彼女の変節の理由が判らんからな。

「うむ、一つはジークがワシより皇帝にふさわしいと思ったからじゃ」

 ジーク様は彼女の弟で彼女と一緒に皇帝に成る為、日々努力している。


「もう一つはワシも女じゃった。レオンに惚れて居る」

 周りはそんなことぐらい知っていましたけどって、顔でフェリ様を眺める。

 フェリ様は顔を真っ赤にしている。


「仕方ありません。でも日帰りですよ」

 彼女の警護は俺とコトネが居れば何とかなるだろう。彼女にここまで言わせたのだ。男として責任を取るべきだろう。

 ウェルバルとアデライーデがなんだってと言う顔をしているが無視しよう。

「そうか連れて行ってくれるのか」

 まあ、フェリ様が喜んでくれているので良しとしよう。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はレオンの実家のお正月の様子の予定です。

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