10-1 帝国会議(1)
ご愛読、ありがとうございます。
10章はアルカディア王国建国物語です。
今回は帝国との一回目の交渉です。
ハーヴェル諸国連合、エドゥアルト王国、聖金字教国を解放したレオン達。建国に向けて皇帝と話し合うために帝国に向かうレオン。会って貰えるのか。
レオンはノルンに乗ってハーヴェル城から帝都に向かっていた。
「アルカディア王国ですか。素敵な響きです」
「かっこいいね」
レオンが新しい国の名前をコトネとアンナに打診する。概ね好評のようだ。
「レオン様、私達のうち一人が帝城に残らないとならないのですか?」
コトネは不安そうに尋ねた。それは慣れ親しんだフェリ達が居るとは言え、獣人の身としては肩身が狭い。
「そうだな。向こうからの要請やこちらからの面会予約の中継をして貰わないと、話をするだけで半年くらいは掛かってしまいそうだからな」
コトネはホッとしたようで胸を撫でおろしていた。
「それならば私が残ります」
「いや、残るのはアンナにしようと思う」
驚くコトネとアンナ。レオンの心中が理解できないのだ。
レオンにはコトネ、アンナ、ロキ、ゴロ、ヤヌウニ、ノルン、クロエの七人の従者が居る。アンナとロキは離せないし、ノルンは輸送に必要だから実質五人だ。ゴロがハーヴェル城、クロエがエドゥアルト城、ヤヌウニが聖金字教会に常駐している。残るはコトネとアンナだけだ。
「どうしてですか?アンナはまだ学校も行ってないのですよ」
食って掛かるコトネをじっと見るレオン。
「だからだ。帝国では俺は英雄だ。扱いも悪くはならないと思う。しかし、同じ交渉をヴァイヤールでもやらないといけない。ヴァイヤールでは俺の席次は低く、獣人差別も残っている」
そうなのだ、皮肉なことに帝国より故郷ヴァイヤールの方が、交渉は難しい物になりそうだ。何ならレオンの実家も獣人に取って、安全とは言えないし、未だにレオンはミソッカスの三男坊なのだ。
「お姉ちゃんが可哀そうだよ。私がヴァイヤールで良いよ」
反射的にコトネを庇うアンナ。
レオンは苦渋の決断をする。ここでコトネに一人で仕事をさせることで、自分で考えて行動することを学んで欲しい。
「アンナは帝国だ。交渉には2、3カ月は掛かると思う。コトネは学校を休学してヴァイヤールに行ってくれ」
「分かりました。いつ行くことになるのですか?」
コトネはかなり抵抗がありそうだが、せっかく新しい国を造れそうな流れになっているので、覚悟をしたようだ。
「でも、三か国とも聖金字教を国教として居た国です。そんな国で亜人差別をなくせるのですか?」
「元々金字教に亜人を差別する言葉はない。あれは貴族たちに迎合するために作り出した偽教義だ。今からそれを教会から是正させる」
レオンの国造りで難関の一つがこれだろう。根深い刷り込みを修正しないと差別を無くせない。
そうこうしているうちに、いつもの帝都郊外の広場にノルンは降り立った。
いつものおんぼろ馬車を出す。ノルンが馬に変身して馬車を引く。
コトネが御者をして荷台にレオンとアンナが座る。
馬車が進み始めて暫く経った頃、今まで冷静だと思っていたアンナが口を開く。
「レオン様、レオン様は私達に遠慮なんかしないで、レオン様はただ命令をすればいいのよ。私達は喜んで従うわ」
アンナは初めての政治の大きな仕事にプレッシャーを感じているようだ。
「アンナ、それは違う。お前達は奴隷じゃない。あくまで従者だ。いやなら断ればいい」
レオンが求めるのは奴隷ではなく、仲間であり家族なのだ。この機会を皆の力で乗り越えたいと思っている。
アンナは俯いて震えている。
「レオン様、ごめんなさい。解ってたの。レオン様の気持ち。でも押しつぶされそうなの。私が失敗すると皆に迷惑を掛けるわ。怖いの!」
「心配するな。フェリ様にようくお願いしとくからな。いつものお前のままで良いんだ」
「レオン様あ!」
アンナはレオンの胸に飛び込んだ。レオンの胸で泣くアンナの頭を撫でてやる。
アキラの店に着くとシャラとカリシュとレイニャとゾフィーさんが店番をしていた。
彼女達の仕事はブラウニーが工場でやってくれるので、神狼族娘達がいないときは店番をしているのだ。
挨拶を済ませると工場に赴いてコニン、マサユキ、キラとブラウニーを連れてハーヴェル城に行くように指示して、自分達は登城用の衣装に着替える。
レオンは儀礼服に勲章を着けた。コトネとアンナは一張羅のフォーマル風スーツに勲章だ。
厩に行くとツーレクが箱型の馬車を用意していた。
「レオン、早く乗れ。取り敢えずフェリシダス様の面会許可証は取ってある」
「レオン様、こんな豪華な馬車いつ買ったのお?」
さっきまで泣いてたくせに豪華な馬車を見たとたん燥ぎ始めるアンナ。
「ああ、俺も品位と勲章を貰ったからな、いつまでも幌馬車って訳にもいかんだろ」
「辺境伯様の時以来だね」
「そうだな。早く乗って」
アンナがレオンにくっ付いて離れない。いつもだったら注意するコトネも暖かく見守っている。
もうすぐ離れ離れになるからだ。
コトネは思い出していた。もう一年以上も前の事だ。
あの時、私とレオン様でヴァイヤールの王太后様を救うため、アンナをエリーゼ様に預けて白百合荘に向かった。私はレオン様に優しくされて嬉しかったけど、まだレオン様に預けられて日が経ってないアンナは寂しがった。事件が解決した次の朝、レオン様と会ったアンナは泣きじゃくって、レオン様に抱き付いたまま眠ったほどだった。
もうすぐ十一歳に成るけどまだまだ子供だ。帝城に着くまでの少しの間だけど、レオン様に甘えさせてあげよう。
帝城に着くといつもの叔父さんが窓口に居た。
おっさんはツーレクが入城許可証を見せるとレオンの事をガラス戸越しに見て来た。
おっさんは従六品の曹長、特正六品のコトネとアンナに抜かれちまったな。
帝城内の最奥部、皇族の住居に着くとメイドにフェリの部屋に案内される。
「おう、どうした。休みにワシの所へ来るとは珍しいのお」
フェリはレオン達の飾り立てた姿を見て、何事かと、やや警戒をしているようだ。
「はい、私はハーヴェル諸国連合、エドゥアルト王国、聖金字教国を平定して、国を建国することにいたしました。つきましては陛下に御取次ぎをお願いします」
レオンは一礼すると一気に告げた。
「ちょっと、おま、なに、え、え、えーーー・・」
フェリが絶句しているので、再度お願いする。
「陛下に御取次ぎ願えませんか?」
「み、水を・・・」
メイドがコップにポットの水を入れ、フェリに渡す。
さすがに帝城のメイドだ。主の慌てぶりにも少しも慌てず冷静に仕事をする。フェリからコップを受け取ると静かに片付ける。
水を飲んで落ち着いたのかフェリは話し始めた。
「説明せい!」
「はい、昨日三か国を支配しておりましたオリンポスが内部瓦解を起こしましたので、ハーヴェル諸国連合に赴きオリンポスの残存兵力を撃破、後を後援しておりました反乱勢力に任せて、エドゥアルト王国に移動しました。そこの残存兵力も撃破、同じく反乱勢力に後を任せました。聖金字教国についてはオリンポス瓦解により教会に原点復帰の運動が起こり、政治活動をすべて私に振りました。
よって三国が私の支配下となった訳です」
レオンの説明に首を傾げるフェリだが取敢えず飲み込んだようだ。
「要するにオリンポスが瓦解したので、その隙をついて三か国を手に入れたと言う事か」
「はい、ご明察です」
「経過が良く解らんが、現在はお前が実効支配していると言う事か」
「はい兵力二万以上が私の命令で動きます」
「はあー、で、陛下に何を言うつもりだ?」
フェリは冷静さを完全に取り戻したようだ。
「はい、まず建国の御挨拶、それから行政及び軍事の顧問の派遣要請、対等な同盟の検討ですね」
「まだ出来たかどうかも分からん国と同盟を結べると思うか?」
フェリが懐疑的になるのも仕方が無い。建国を確認する方法が無いのだ。
「私としましては大災厄で帝国、ヴァイヤールと共に戦うために、来年の中頃までに体制を整えたいと思っております」
「と言う事は前段階と考えて良いのだな」
「はい」
「分かった。陛下にお伝えする。待って居れ」
フェリは部屋を出て行った。皇帝は朝議が終わってこちらの執務室に戻っているはずだ。
皇帝 執務室 <フェリ>
「フェリです。陛下、よろしいでしょうか」
ノックをして陛下に伺いを立てる。
「ちょうど良かった。入れ」
陛下の声がする。
中に入ると宰相と陛下が居た。
「なんだ。レオンの話か?」
私の顔を見てすぐに言いました。
「はい、そうです」
「アハハハ、お前も隅に置けんな」
すぐにからかってきて、私を困らそうとするこの親父め。そうはいくか。
「そう言う色気のある話ではありません」
「何だ、聞こう」
私が真面目な顔を崩さないので陛下も襟を正しました。
私はレオンに聞いた話を陛下に話しました。
「本当の話なのか?」
「判りませんが、レオンが嘘を吐くメリットがありません」
「いずれにせよ。確認してからの話になるな。昨日の今日で何を慌てていると思う」
「大災厄に間に合わせようとしています」
「大災厄か。本当にくるのか?」
「天文方もほぼ間違いないと言っております」
宰相が顔をしかめる。やはり大災厄は来るのだ。心の中の不安が大きくなる。
「分かった。レオンを呼べ」
「陛下も御用があったのでは?」
陛下は苦笑いをした。
「レオンに連絡を付けてくれと頼むつもりだった」
ハーヴェル諸国連合の様子がおかしいので、偵察を頼むつもりだったらしい。
レオン達を連れて来て、私にしてくれた説明と建国の挨拶を陛下にして貰った。
「ふむ、なぜオリンポスの瓦解が帝都に居ながら分かったのかね?」
私もそれは不思議だった。
「これは秘密にして欲しいのですが、私には従者が居ります。特にこのアンナは精霊魔法が使えます」
「それがどうしたと言うのだ」
「私と従者は精霊魔法の従者通信と言う魔法で、連絡が出来ます」
「どういうことだ?」
レオンはコトネに顔を向けると言った。
「コトネ、私の後ろに向こう向きで立ちなさい」
コトネはレオンの座る椅子の後ろに回り、レオンとは逆の方を向いた。
レオンとレオンの正面に座る陛下は全く見えない状態だ。
「陛下、指を立てて数を現してください」
レオンは陛下に指で一二三と立てて見せる。
陛下は指を二本立てた。
「二本」
そう言ったのはコトネだった。
今度は四本だ。
「四本」
コトネがそう言った。
「ふう、もう良い。解った。従者にオリンポスを探らせていたと言う事か」
「左様です」
「君の情報がやたら正確で、早いのはこういうカラクリがあったのか。しかし聖金字教国との距離でも通信できるなんて・・・」
宰相が顎に手を当てて感心している。
「いずれにせよ。顧問の派遣はともかく、そちらの進行具合を見ながらでないと同盟の話は難しいね」
「それでですけど、私の従者を置いていくので、顧問の方と随時話し合って進めて頂くと言うのはどうでしょう」
「君が従者を置いていくならフェリ、お前が確認に行ってこい」
「ええ!!」
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は今回の続きが中心となりそうです。