9-9 レオンの行く道
ご愛読、ありがとうございます。
九章はこれで終わりです。今回は平定から建国に向けて動き出すレオン達です。
7/14修正、名前を間違えました。ハーヴェル→フィリップ
ハーヴェル諸国連合とエドゥアルト王国をオリンポスから解放したレオン達に、ヤヌウニは聖金字教国をレオンの新しい国に併合すると連絡が来た。
「どういうことですか?」
併合の連絡に驚いたコトネがレオンに詳細の説明を求めた。
「教会がオリンポスの事を含めて、腐敗していた。それを反省して一度原点に戻る必要を感じたらしい。それで国家経営を手放して、教義に真摯に向き合おうと言う事になった。
それで俺に国家経営は投げてしまおうと言う事らしい」
「それじゃあ、でかい国になるんじゃないか?」
ジェリルが豪儀だなと囃してくる。
実際、ハーヴェル諸国連合とエドゥアルト王国と聖金字教国を合わせると大きさはヴァイヤール王国に匹敵する。人口は山の多いヴァイヤール王国に比べれば少し多いんじゃないか。
産業はあまりないがアキラ、マサユキ、コニン、キラが育成する。
貴族はすべて殺されたが、それが幸いして農地解放がやり易い。
実務をやっていた役人はそのまま残っているので、喫緊の問題は立法司法の人員の育成だ。
「まず中央集権制で国を立ち上げて、議会民主制に移行するつもりだ」
「言葉の意味が解らん。そう言えば立憲君主制とか言ってなかったか?」
「まあ、まだこちら世界には無い物だからな。おいおい覚えてくれればいい。それよりも大災厄に備えるのが先になるな」
「大災厄ってどんなものなのですか?」
コトネが心配そうに聞く。
「ヤヌウニさんの話では、千年前に起きた大災厄と同じようなレベルになるらしい。その時は悪魔の軍勢が攻めて来て、文明という文明を破壊したらしい。人口も十分の一になったそうだ。
結果、文明は今より進んでいたが千年以上後退したらしい」
「アタイ達はその悪魔と戦えばいいのか?ビーストグローがあれば敵はないぜ!ウオオオオオオーッ!!燃えるぜ!」
ジェリルが興奮している。なんてバトルジャンキーなんだ
「そうなると思うけど、ヤヌウニさんも悪魔がどんな力を持つのか分からないそうだ。まだ一年以上あるから準備しないとな。帝国の初代皇帝が悪魔と戦ったらしいから、今の線で鍛えて行けば対抗できると思う」
その日は皆疲れていたので、早くに寝室に入ることになった。
レオンとコトネとアンナは王の寝室で、神狼族娘達は他の部屋で休むことになった。
「レオン様ぁ、王様になったら学校はどうするの?」
アンナがネグリジェに着替えて、レオンが腰掛けているベッドに飛び乗った。
「そうだな、順調に行くようなら週末だけこちらに来るか、こちらに居なきゃならなくなったら休学にするか・・・」
「レオン様、私達はどうなりますか。まえに言ってた歌を歌うのは、レオン様とは別行動になるのですか?」
コトネが切羽詰まった声を出す。
「なんだ寂しいのか?」
「はい、私はずっとレオン様と居たいです」
レオンはコトネが自分への依存が高すぎるのではないかと思っていた。
今までは子供だと思っていたから気にしていなかったが、コトネももうすぐ十三歳、思春期に入る年代だ。それを自分だけに向けさせていいのか。彼女の成長を阻むことにならないのか、不安がある。
事が事だけに相談できる人が身近にいない。レオンはゾフィーさんに娘さんが居たと思い出した。一度聞いてみよう。
そんなことを考えていたらアンナが膝の上で眠っていた。大きな狐の耳がピクッ、ピクッと動く。
レオンへの依存はアンナの方が少ないような気がする。
「あら、アンナがすみません」
コトネはアンナを抱き上げると自分達のベッドに運んだ。
「コトネ、これからの事は急がなくていい。ゆっくり考えて行こう」
「はい」
コトネはアンナの横に滑り込んだ。
レオンはライトの魔法をキャンセルした。寝室は夜のとばりに包まれた。
次の日の朝、レオン達は朝食を会議室のようなところで取っていた。
「申し訳ありません。調理人もまともな奴が居なくて」
フュルストは頭を下げる。
「気にしないでくれ。俺達は傭兵からの叩き上げだ。粗食には慣れてる」
豆だけのスープと硬いパンが今日の朝食だ。
アキラの店では結構豪華な食事が出るので特に神狼族娘達は不満げだ。
「この後ゴロとノルンはハーヴェルのアキラさんの所に行って貰う。ゴロには従者通信の拠点になって貰うし、ノルンは移動の要請があると思う。ナルとロッケもハーヴェルで護衛をしてやってくれ」
そう命令して四人の了承を得た。
ブラウニーが居なくなってるから連れてこないといけない。それにレオンもここにずっと居れる訳じゃない。
「なあ、ジェリル。お前は成り行きで協力して貰っているけど、このままでいいのか?」
始めは魔獣狩りで出会って、それからなんとなく一緒に行動してくれている。
「今更言うか。アタイは最初は面白いからだったが、一緒に居たおかげで金と名誉を手に入れ、故郷に錦を飾れた。それから権力もくれると言う。この間村に帰ったら家族に次期族長になってくれと言われたよ。あんな田舎に籠るのは真っ平だから丁重にお断りしたがな。
後、お前がもっと脳筋な奴なら嫁にしてくれって言うんだがな。お前は難しすぎると言うか真面目過ぎるぞ」
ジェリルは呆れて正直なところを話してくれた。
ジェリルが話してる最中にノアが寄って来た
「レオンさんは私達が仲間になるときに目的は、大災厄の対策と自分の野望のためだと仰いましたよね。もう野望は叶ったのですか」
それはレオンも考えていたことであった。
「本当は大災厄で活躍して、帝国で武力を持った政治家として活躍したいと漠然と考えていた。ヴァイヤール王国では兄達が居て実現しそうもなかったからね。
オリンポスのお陰と言ったら変だけど、彼らが暴走してくれたから、それに乗って国を持つことが出来た。これから保つ方が圧倒的に大変なんだけどね。
だからまだ野望の途中と言えるかもな」
オリンポスを操る者(多分ウラノス)が、バルドゥール王国の敗戦で、一気にオリンポス自体を見放した。その後のゼウスの失態でレオンは三か国を手に入れた。情報を仕入れたり、戦ったりはしたが、棚ぼた的な勝利と言えた。
オリンポスは施政者と言える王族貴族を皆殺しにしたので、オリンポスの行政スタイルを借りて、軍による自治体の管理を継承するようにした。もちろんこれは一時的なもので徐々に中央集権政権を作り上げる。今、アキラを中心としたスタッフが始動したが、圧倒的に人的資源が足りていない。近く帝国や周辺国にスタッフのレンタルをお願いしに行かねばと思っている。
特に軍上層部のスタッフが居ない。三か国それぞれの軍を統一して大災厄に備えなければならない。
問題山積みでレオンも頭が痛い。
「そうですか。私達がもっとお役に立てれば良かったのですが・・・」
ノアは申し訳なさそうにする。
「仕方ないさ、スキルがちがうからね。でも君達にはすごく助けられてるから威張ってて良いよ」
「私達はレオンさんに見出して貰わなければ、成人した途端に農家の妾にされて、一生こき使われて、何の希望もないまま死んでしまわなければなりませんでした。何でもやりますので申しつけてください」
ノアは元の生活には戻りたくなかった。あの夢も希望もないところには。
ゴロがハーヴェル城に着くと早速アキラから従者通信があった。
『ノルンを返すから一度ハーヴェル城に来てくれって。後、儀礼服を用意しておくようにって、アキラが言えって』
コトネに連絡内容を言うと困った顔をした。
「どう言う事でしょう?」
「多分、帝国で皇帝に会えって事じゃないかな」
「あ、帝国に行くのですか?」
「まず周辺国に認められないと王になっても苦労するからな」
「そんなもんなんですね」
「どう思ったのだ?」
「儀礼服を着て国民に挨拶するのかなって」
「それは少し恥ずかしいな」
ごたごたしているとノルンが迎えに来たので乗り込む。
「クロエ、君はここで従者通信を担当してくれ」
レオンはクロエに留守番を頼む。
「分かりました。ジェリルさん達と一緒に留守番致します」
クロエはここに来てまた塞ぐことが多くなってきた。手当をしてやれればいいのだが、レオンの女性に対するスキルは子供並みなので如何ともし難い。
ノルンがハーヴェル城に着いたのはちょうど昼時だった。
出迎えたアキラはせわしなく話した。
「ちょうど昼の用意は出来ている。食べながら話そう」
すぐに会議の出来る部屋に食事を用意された。
「あなたにはこの後、帝国に行ってもらいたい。皇帝にはアポを取っているが会えるかどうかは解らない。少なくともフェリシダス様には会って貰って、建国の報告と同盟を打診して貰いたい」
アキラは座るや否やそう言って紙の束を渡してきた。
「これには同盟の草案を記してあります。読んでおいてください。まあ、すぐに決まる者ではないので草案をぶつけるだけでも良いでしょう。それと国の名前を考えておいてください」
アキラが敬語でレオンに話している。レオンはそれだけで今までと違う事を意識した。
「国の名前ですが、日本の言葉で良いのは無いですか?出来たら理想郷みたいな」
「そうですね。日本の言葉ではないのですがユートピア、アルカディア、エルドラド、桃源郷などですか。マサユキならもっと詳しいかも知れませんが私だとこれぐらいしか出てきません」
「そうですか。まあこの中だとアルカディアが語感が良いですね。それと帝国には軍と行政のスタッフをお借りしたいのですが」
「それはいい案ですね。私も行政のプロと言う訳ではないので、専門家に相談できるとありがたいです。それとこれはお願いですけど、連絡用に従者を一人帝城に置いて来て欲しいのです」
「人質にしろって言うのか!!」
レオンは瞬間的に沸騰した。レオンにとってコトネとアンナは自分の一部のような物だ。
「違います。あなたは早急に政治的な力を獲得した国民に見せる必要がある。あなたは武の力を見せた個々の人達が戦うことも諦めたオリンポスを排除した。しかしニ、三カ月もたてばその力も薄まります。反乱が起きかねませんし、大災厄を共に戦うことも難しくなります。そこであなたは政治の力を、帝国とヴァイヤールと対等な同盟を結べば、彼らもあなたに従うでしょう」
「済みません。アキラさんの気持ちもわからずに、恥ずかしいです」
「構いません。私の言葉が足りませんでした」
「あのー、対等な同盟って、そんなの結んでくれる訳ないじゃないですか」
隣で聞いていたフィリップが立ち上がった。
「そりゃ、そんなことが出来るならすごいですけど。普通に考えたら会って貰えたら、幸運位じゃないですか。あなたはヴァイヤールの新興伯爵家の三男に過ぎない。それがどうして皇帝陛下に・・・」
「フィリップ、普通は君の言う通りだ。でも私達が担ぐこの方は違うと言う事です」
「フィリップさん、まあ見ててください。明日には皇帝陛下は会ってくれますよ」
レオンは自信満々だった。
「なんでこの人たちは、・・・いや、不可能だろう」
フィリップはとてもじゃないが信じられなかった。十年ほど前にハーヴェル諸国連合の代表が皇帝陛下に面会を求めたことがあった。しかし、謁見室でだったら会ってやると言われた。
つまり跪いて頭を垂れよと言って来たのだ。代表でさえこうなのだ。三か国を平定したとはいえ、無位無官の少年に対等の同盟を許すはずがない。
フィリップにはレオンが門前払いされる、暗い未来が見えて来た。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
九章が終わって、十章 建国編が始まります。