9-8 エドゥアルト王国始末記
ご愛読、ありがとうございます。
今回はエドゥアルト王国での戦後の話です。
エドゥアルト王国に来てアポロンと戦って勝ったレオン。
「取敢えず、フュルストって人を探してきてくれる」
神狼族娘達にお願いする。こちらの解放側の代表者を探しに行かせる。
レオンは残ったアテナとデメテルに聞いた。
「それで君達はどうする?」
「解放してよぉ。私もうとっくにオリンポスやめたんだよ。それなのにアポロンが無理やり連れて来てさ」
デメテルは助けてくれと熱弁する。
「ああ、俺達に悪さをしないと契約するなら自由にしてやろう」
レオンはデメテルがオリンポスに居ても、悪事には深く加担していないと思っていた。
「するよ。する、契約」
こいつは良い、問題はもう一人だ。
「で、お前はどうする?」
ちょっと複雑な顔をするアテナに尋ねた。
「そうね、結婚してあげても良いかも」
そうしましょう、みたいな顔で言って来た。
「はあ???。何考えてんの???」
レオンは首を捻った。どう考えたらそんな答えになるんだ。
「だって、あなたはレベル7相当のアポロンを倒したのよ。私の旦那にふさわしいじゃない」
アテナは当然だと言う顔で平然としている。後ろのコトネの圧が怖い。
これはまともに相手をしていると時間が掛かりそうだ。
「ホムンクルスはまだ居るのか?」
話題を変えて振ってみた。
「もういないと思うけど。ウラノス様が新たに作ってるかは分からないよ」
ウラノス、ゼウスが言ってたやつだな。
「ウラノスって誰だどこにいる」
「残念、ウラノス様を裏切ろうとしたら私達死んじゃうんだよ。裏切ったら死ぬ呪いが掛けられてるの。あんたも見たでしょ。折角、生きる目的が出来たのにそう簡単に死ねないよ」
そう言う事か、今まで敵の事を話そうとするとポセイドンやギガースが不自然に死んだのは。
「ヘルメス達にも呪いは掛かっているのか」
それを聞いとかないと安心して使えないからな。
「うううん、あの子達は無改造だし、ホムンクルスじゃないから呪いは掛かってないよ」
ポセイドンは失った手が改造されていたからか。これでヘルメスはこき使えるな。
「オリンポスは無くなったが、これからどうするつもりだ」
「だからあんたと・・・」
「それは良いから、生活とかはどうするつもりだ」
レオンはアテナに全部は言わせず質問の方向を合わせる。
「そうねえ、アンタと一緒に生活しても良いけど、駄目ならウラノス様の所へ帰るしかないか」
「俺の仲間になって良いと言う事か?」
この子の能力は未知数だ。敵の懐に返すのも怖い。
「良いよ、ウラノス様と戦わなければ、どこで何やってても怒られないから」
よく考えて質問しないと死なれても困るし、敵の戦力になっても怖いからな。
「そのウラノスと俺達は戦わなくて済むのか?」
「多分ね。先のことは聞いてないけど。もうこちらの事は諦めたみたいだから」
ゼウスも見捨てられたとか言ってたそうだから、こちらにちょっかいを掛けるつもりは無さそうだな。
「じゃあ、デメテルみたいに俺達に悪さをしないと契約して解放するか」
「ええ、結婚は?」
寄り添ってくるアテナ。
「する訳ねえだろ!!」
コトネが怖いので突き放すレオン。
「離れたくない」
懇願するアテナ。
「じゃあ、国造りに協力するか?」
「仕方ない、契約しよう」
面倒臭いのか、スッと冷静な対応になるアテナ。何だよ。からかってたのか。
二人と契約を結ぶ。
「アンナ!契約魔法だ」
アンナが困った顔をしている。
「どうしたんだ?」
「ロキが居ないからコントロールできないよ」
契約魔法は細かい制約があるから複雑な手続きがいる。
「ロキ、まだこっちに居るのか。戻ってやってくれ」
『御主人、それが霊力量が多すぎて、戻るに戻れないのじゃ』
刀に霊力を集め過ぎたみたいだ。このままアンナの所に戻ると暴走するらしい。
「よし、ぶっ放すぞ」
刀を抜いて、空に向け、余った霊力を解き放った
ドーン!!
はるか上空で爆発が起きる。
『これで戻れる』
ロキはアンナの中に戻った。
「じゃあ、こっち来て」
アンナは二人とレオンを並ばせるとゴニョゴニョと何か呟いた。
「レオン様に迷惑を掛けると霊力が暴走して、爆発するから気をつけてね」
「ちょっと待て、もしかしてさっきみたいに爆発するんじゃないだろうな」
アンナの言葉にデメテルはブルっと震える。
「大丈夫だよ。ちょっと死ぬぐらいで、飛び散らないように加減してあるから」
「飛び散らないって」
デメテルは本格的にビビッてる。
「あ、言っとくけど。解除するには私並みの霊力が居るから」
アンナは念を押す。
「さあ、デメテル、どこへ行くのだ」
当たり前のように聞くアテナ。
「あんた、付いてくる気?!」
ビックリするデメテル。
「当たり前だ。私に生活力はない」
平然と言い放つアテナ。
「何威張ってんのよ!ウラノスの所へでも帰りなさいよ」
「まだ爆発するのは嫌だからな。お前について行く」
さも当然のように胸を張るアテナだった。
暫く考えていたデメテルは何かを思い付いたらしい。
「じゃあ、帝国に行って傭兵してくれる?魔獣狩りをしてくれたら、そこそこ裕福に暮らせるわ」
「良し、そうしよう」
デメテルはアテナに集る気満々だ。
「デメテル、背中に乗れ」
「なんであんたにおんぶされなきゃいけないのよ」
「今から出たら野宿になるだろ。お前をおんぶして走れば速いから、次の宿場町に日暮れ前に付けるぞ」
「そうかそれなら仕方ないか」
アテナの背中にしぶしぶおんぶされるデメテル。
「じゃあ、私達は行くから」
デメテルをおんぶしたアテナが走り出した。
「馬鹿!!速過ぎる。止めてえええ!!降ろしてええ」
速い!!デメテルの悲鳴がドップラー効果を起こして遠ざかっていく。
暫くすると神狼族娘達がフュルストを連れて来た。
彼の後ろには千人を超える兵が付いて来た。
フュルストは壮年の男だが、後ろの兵は他と変わらずほとんどが女性の様だ。
殺気は無いのでレオン達を傷付けるつもりはない様だ。
フュルストはレオンの前に立ち、兵たちは彼の後ろに並ぶ。
彼は跪くと後ろの兵もそれに習った。
「レオンハルト=イエーガー様!我らが王よ!我らの忠誠をお受けください!」
朗々とそう言ったのだ。
え、聞いてないよ。エドゥアルト王国も俺が治めるの????
レオンは驚いてひっくり返りそうになる。
「レオン様、ここはお受けにならないと」
コトネが耳元で囁く。
「お、おお」
「レオハルト=イエーガーである。俺は朝ハーヴェル諸国連合を解放し、今、エドゥアルト王国を解放した!俺はこの地に王道楽土を築くつもりだ!協力してくれ!!」
「オオーッ!!!」
〇聖金字教国 本部教会
ヤヌウニとアルテミスが応接室で話している。
「アルテミスよ。政治と宗教は切り離すのだ」
「ヤヌウニ様、それはどう言う事でしょうか?」
「宗教家が政治をすれば、どうなるか見て来たであろう。文明・学問は停滞し、腐敗する」
「教会はどうなるのでしょうか」
「教会は修行と信徒の幸福を叶える場とする」
「それは素晴らしいですわ」
金字教に従順なアルテミスは幸福を感じているようだ。
〇ヴァイヤール王国アリストス学園中等部学生寮談話室
エリーゼとエイトが何やら話をしている。
「卒業に必要な単位は全て取ったわ。入学試験の申込に一人行かせたから、後は三月の入試までに帝国に行くだけよ」
「いよいよだね。レオンがびっくりする顔を見たいよ」
「でもね。北周りの聖金字教国を通る道が戦争が有ったりして治安が悪いらしいの。だから南回りで時間が掛かるから、年明け早々には出発しないといけないわ」
「でもよく許可が出たよね」
「貴族が減って予算が浮いてるらしいから私の一人ぐらい何とでもなるみたい。あんたはどうなのよ」
「ぼくんちは兄さんに男の子が出来たから、僕は要らない子になっちゃったんだ。君の護衛でお金が出るから好きにしろって感じかな」
「レオンは向こうでも活躍してるみたいだから、なんか勲章貰ったみたいだよ」
「僕はレオンにくっついてたら、そこそこ良い待遇に迎えられそう」
「アンタは他力本願って奴ね」
「君だってレオンのお嫁さんになりたいんだろ。向こうに本命居たりして」
「うーっ」
エリーゼが涙目になる。慌てて謝るエイトであった。
〇エドゥアルト王国 王城
フュルストと今後の打ち合わせをしている。
「立憲君主制ですか。聞いたことが無いので分かりません」
フュルストは頭を抱える。
レオンとてアキラの説明で、頭には入っている物の、人に説明するのはまた別である。
「憲法と言う法律が国の基となるわけですね。国民に教育して自身で判断させて代表を選ぶと。はあ。え、王には権力は無いのですか?議会が代わりにと、はあ」
フュルストは頭は良いのだがこの世界には無い政治制度に頭を捻ってる。
「しかし、国民の教育に二、三十年掛かるでしょうから、それまでは帝国のような中央集権制で行きます。
大きく変わるところは知的生命の権利の保障です。聖金字教の布教によって人間以外の人類、特に獣人への差別が蔓延っています。それを早急に払拭する必要があります。
他の知的生命、精霊、妖精、幻獣などは人類と同じ権利を付与するだけですが」
「獣人差別につきましては根深いものがありますが、コトネ殿やジェリル殿を見て、その考えがいかに愚かであるかと悟りました。我々が率先して治安維持と共にその考えを広めましょう」
その日の夜。
王城に泊まることになったレオン達。
「なあ、バルドゥール王国に行くときから王様になることを考えていたのか?」
夕食後、王族の部屋で休憩していた時にジェリルが質問して来た。
バルドゥール王国はオリンポスがエドゥアルト王国と同時に攻め込んだ国で、帝国の崩壊を防ぐためにレオンが戦って救った国である。
「まあ、まったく考えてなかった訳ではないけど、うまく行けばくらいには思っていたよ」
「アタイも親衛隊長か。一気に出世したもんだな」
「オリンポスが崩壊してくれたから棚ぼたなところもあるよ。始めはハーヴェル諸国連合が手に入ればと思っていたけどエドゥアルト王国まで広がるとは思って見なかったな」
『レオン殿、今いいか?』
「ヤヌウニさんですか。いいですよ。どうぞ」
ジェリルの話を手で制してヤヌウニとの従者通信を始める。
『聖金字教国は解散して、レオン殿の新しい国家に併合されることになった』
「はあ!聞いてないんですけど!」
レオンが突然叫んだのでジェリルやコトネが何があったのかとレオンに注目する。
「どうしたんでしょう?」
コトネが心配そうにジェリルに相談する。
「さあ、分からんがヤヌウニさんは今、聖金字教国に行ってるんだよなあ」
「正規軍が戻ってくるとかでしょうか?」
「そうなるとアンタの御主人は、人死にが嫌いだからここを放棄するかもな」
「心配です」
コトネ達の心配をよそにレオンはゴニョゴニョと従者通信を続ける。
「そうですか。わかりました」
従者通信を終え、レオンは振り返った。
「聖金字教国も俺の国になったらしい」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回で9章は終わる予定です。10章はレオンの建国奮闘記の予定です。