9-7 アポロン対レオン
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今回はレオンとアポロンが戦います。
急遽、エドゥアルト王国にやってきたレオン達、レオンとアポロンが戦うことになってしまう。
アポロンと対峙するレオン。緊張感が高まる。
「レオン様!私がやります。代わって下さい」
突然、コトネが叫びながらのレオンの横に来た。
レオンを失いたくない彼女の切実な願望だ。
「駄目だ!お前は俺の戦いを見届けろ。これは命令だ!」
レオンの厳しい言葉にコトネは涙を溜めて下がる。
本当は止めたい。コトネの心は引きちぎられそうだ。
しかし、レオンを困らせることは出来ない。レオンもコトネを思っているのだ。
「コトネ、涙は不吉だ。精一杯応援してやれ」
ジェリルがコトネの方に手を置いて言った。
「うん」
涙を拭くと真っ直ぐにレオンを見る。
もし、レオンが破れることがあったなら、コトネは大人しく帰ることはしないだろう。それはジェリルも解っていた。
「最後の別れは済んだかな?レオン君剣を忘れてないか?」
アポロンはレオンが剣を持っていない事に気付いたようだ。
彼は人間の感情についてつまらぬものだと思っている。居なくなるものに心を残してどうなる。そう思っている。
「必要だったら出すさ。それよりどうして俺達がここに来ることが解った?」
レオンは師匠からもらった刀を失う事を恐れている。極度に身体を強化した状態では武器の消耗は極度に早い。
「兵を返せばいずれ来ると思ってたよ。まさか今日とは思わなかったけどな」
つまり、レオン達は敵の策に乗せられた訳だ。
「政情不安で内乱でも起きるとまずいからな」
抑える者が居なくなれば、欲に駆られた人間の醜い争いが起きる。それを抑止するためにレオンは来たのだ。
「まあ、そうなるだろうな。俺としてはお前を殺せば、お前の父親が出て来易いと思っている」
「それが目的で待っていたのか?」
「それはそうだ。戦うために生まれたからには最高峰を極めないとな。その為なら例えイエーガー家のミソッカスだろうと相手してやるよ」
レオンを殺してその父親、西大陸最強を対等に戦える場所におびき出したいのだろう。
アポロンは剣を抜き正眼に構えた。
レオンは霊力で剣を形作る。
”相手が俺を馬鹿にしているうちに仕留める”レオンは覚悟を決める。
姿が掻き消えるような加速でアポロンの左脇を駆け抜けるレオン。
アポロンの腹を斬った・・。しかし手ごたえはない。
「どうした?何かしたのか?」
アポロンはレオンの方に振り返り、侮った質問をする。
「レオン様!プロメテウスと同じです。霊力や魔力を無効化してきます!」
コトネが叫ぶ。
「ほう、プロメテウスともやったのか。何時の事だ?」
「今日の朝だよ」
「プロメテウスやヘラクレスに勝ったからと言って図に乗るなよ。あいつらは所詮出来損ないだ。完全体の俺とは格が違うんだ」
それ位は解っているが改めて口にする必要はないだろう。
「ふむ、兵を引き上げたのも今日の朝だな。・・・と言う事はあのブラウニーが知らせていたのだな」
ブラウニーの情報収集活動がバレたみたいだ。
しかしレオンは口を閉じたままだ。
「ハーヴェルからここまで数百km。それを数時間とは空を飛んできたのか?そう言えばここへの現れ方も唐突だった。あの大きな鳥というのもあながち冗談ではなさそうだ」
「だから大きな鳥が人を運んだって言ったじゃん」
アポロンの言葉にデメテルが反応する。
レオンはノルンは既にバレてると思っていたが、オリンポスの中ではトンデモ情報扱いだったみたいだ。
「ああ、すまんな。信じてなかった」
レオンは敵が余裕を見せている間に収納庫からロングソードを出す。
レオンが剣を構えるとアポロンが問いかける。
「おや、いつの間に剣を出した。しかも刀ではないではないか。俺は刀に興味があったのに・・・」
「お前は喋らないと戦えないのか?」
レオンはずっと喋っているアポロンを牽制する。
「そう思うならお前が黙らせればいい」
アポロンは不敵に笑う。
その笑いは確かに強者の笑みではあるが、父親に比べるまでもない。あの時はこんなものじゃなかった。
「行くぞ!!」
レオンは父親に挑むというこの男を許せなかった。自分の憧れであり、超えるべき存在を汚された思いだ。
レオンは再度超加速でアポロンの左脇を抜ける。今度は実体剣で攻撃してダメージを入れるつもりだった。
ガキーン!!!
さすがに二度も同じ手は効かないか。相手の剣で弾かれてしまった。
少し距離を取りながら剣を見ると、中央あたりがVの字に半分掛けている。
剣はレベル6以上の打ち合いではすぐに駄目になるので、霊力でコーティングして傷が付きにくいようにしてある。アポロンは体だけでなく剣も霊力を無効化するみたいだ。
『さて困った。奴に有効なダメージを与える方法が思い浮かばんぞ』
レオンは収納庫の剣と傷ついた剣を入れ替えると振りむいて剣を構える。
『外気功の技は効かないだろうし、剣技で剣を合わせるとすぐに折れそうだ。あれをやってみるか』
レオンは考えをまとめると間合いを詰める。
「どうした?もう掛かって来ないのか?こちらから行くぞ」
今度はアポロンが打ちかかる。
レオンは上段からの斬り下ろしを足さばきで避けながら相手の首を斬る。
アポロンはしゃがんで避けながら剣を横に振る。レオンはバックステップで躱す。
上段に構えなおしたレオンを見て、アポロンは跳んで距離を取る。
「変わった剣技だな。後の先を取ると言う奴か。東洋の剣技だな」
それは違うんだけどな思いつつ、レオンは構えなおす。
「剣技”白夜”」
この剣技は、相手の剣を躱して相手のスキを誘って攻撃する物で、本来は複数の敵を相手にするときの技で、相手の剣と自分の剣を一切合わせない。どんな時も自分の剣を自由にする剣技だ。
「ふむ、ならば・・」
アポロンは面から小手、また面とコンビネーションを入れてくる。
コンビネーションで剣勢が弱まったこともあり、レオンは相手の剣の側面を自分の剣の側面で弾いて、剣筋を逸らす。
アポロンにはこういう玄人好みの地味な戦いは合わないらしい。
「ええい、ちまちまと。アテナ!!」
一旦離れたアポロンはアテナを呼ぶ。アテナは自身のショートソードを抜いてアポロンに投げ渡す。
剣を受け取ったアポロンは両手を開いて、右手に自身のロングソード、左手にアテナのショートソードをもって構えた。二刀流だ。
レオンもくるりと背中を見せ、アポロンに再度振り返った時、左右の手に一本ずつロングソードが握られていた。
「ウオオオオオオーッ!!!また手品かあ!!」
アポロンは叫びながら突進し、左右の剣を打ちつけてくる
ガンッ!、ギィィン!、ガッ!・・・・・。
今までの攻撃が五十口径の対物ライフルだとすると今の攻撃は重機関銃の様だ。剣の先端速度がゆうに音速の二倍以上。霊力の保護が無ければ、剣を合わせただけで砕け散ってしまう。
休みなく繰り出される剣はまるで颶風。レオンは防戦一方となっていた。
レオンの持つロングソードはアポロンに斬られて、その長さを徐々に短くしていく。
「レオン様ァ!!」
思わずレオンの危機に叫んでしまうコトネ。こんなことは初めてだった。帝国に入った時のアーレスとの戦いでも見て居れた。今は目を逸らしそうになる。
レオンの外気功の四式まで通用しない相手は今まで出会ったことが無かった。
レオンは両手の短くなった剣をアポロンに向け投げて、相手が払う隙に離れて一回転、また両手にロングソードを持っていた。
「お前、一体何本の剣を持っているんだよぉ!!」
アポロンは叫びながらレオンに突進し、またマシンガンの様に斬撃を繰り出す。
レオンは攻撃を返したいが、相手の能力によってダメージが通らない可能性が高く、返せないでいた。
また剣が段々短くなっていく。
『やはり、奴の能力を切裂けるのは刀しかないのか。しかし斬り込むまでにボロボロにされそうだしな』
その時、従者通信が入って来た。
『御主人、御主人、ワシを使ってくれ』
『ロキか、どう使えと言うのだ』
それはアンナに憑依する精霊ロキだった。
『刀にワシが憑依する』
『それでどうなる』
『奴の能力をワシが抑える』
レオンは話しながらアポロンと戦う。剣技では圧倒的にレオンが勝っている証拠である。
ただアポロンの能力で反撃が出来ないだけだ。
『そんなことが出来るのか?』
『アンナの莫大な霊力を管理して来た。それぐらい朝飯前じゃ。それにあの刀は特別じゃ』
アンナの霊力のコントロールをロキが手伝っていた。アンナの最近の伸びがすごいことになっていたのは、ロキの助けがあったからである。
『ロキ、上手にやんなさいよ』
『アンナか、任せておくが良い。御主人、刀を出してくれ』
『分かった』
アンナがコトネに内緒話をしている。このことを伝えたのだろう。
レオンが持っていた短くなった剣をアポロンに投擲、自身はバックステップで距離を取り、刀を収納庫から出す。
アポロンは霊力の盾で剣を弾き、そのまま上段から斬り下ろす。
「白夜!」
レオンは左足を下げると九十度体を捻る。アポロンの剣はレオンの顔面のすぐ前を通り抜ける。
その間に刀を腰に差し、鯉口を斬る。
アポロンが剣を引き上げると、レオンは居合切りの要領で腰を斬る。
アポロンは後ろへ回転して避けるしかなかった。
「ロキ!頼んだ」
「承知!!」
刀身から霊力があふれ出す。
一回転して立ちあがったアポロンは目の前の光景が理解できずにいた。
「なんだそれは!?」
「降参するなら命までは取らない」
レオンはアポロンに降伏勧告をする。
「何をまた手品だろうが!その手に乗るか!」
アポロンは右からの袈裟懸けの一撃を放つ。
レオンは刀でそれを止める。
刀身には傷一つ付いてなかった。
アポロンの左の剣がレオンの胸を突く。
レオンは左に捻ってそれを避ける。
「クソーッ、なぜ折れない」
アポロンが叫ぶと同時にレオンの上段からの振り下ろしが奔る。
アポロンは頭の上で両手の剣をクロスする。
アポロンの剣が中程で斬れて落ちる。
アポロンの顔の中心に垂直に赤い線が奔る。
「ぐう・・・」
「剣を斬った分、浅かったようだな」
それでも心臓の一つは斬ったはずだ。しかしアポロンの傷はすごい速度で治ってしまう。
「すごいな、もう再生したのか」
「何をのんびり眺めてやがる」
「もう君に勝ち目はないからね」
レオンは落ち着いて答える。
「おのれえ!馬鹿にしおって!!」
もう刀身が三分の一位しか残っていない剣を振り回す。
レオンは刀を横に振った。
アポロンの首が落ちた。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は戦後処理とヤヌウニの誘いの予定です。