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9-5 ハーヴェル城襲撃(2)

ご愛読、ありがとうございます。

今回は前回の続きです。

 レオン達はハーヴェル城を襲撃し、ヘルメスとマイアを捕縛し、ヘラクレスとジェリル、プロメテウスとコトネが戦いを開始した。そんな中、ジェリルの大剣が砕け散った。


 彼らは常人の数十倍に身体能力を上げて戦っている。その分、武器に掛かる力もとんでもない。

 ジェリルの放った突きは一直線に力を集中した。しかし、わずかにヘラクレスが体を捻ったことで剣に大きな歪みが起こり、結果、砕け散ったのだった。


 ヘラクレスはこれをチャンスと捉え、金棒を両手で持って、大きく振りかぶった。とどめの一撃を準備したのである。


 ジェリルは不思議と落ち着いている自分に気付いていた。体の奥底から語り掛ける息吹を感じていた。

 右手一本で20cm位しか残っていない剣を持ち、力をそこに集中させる。


 振り下ろされる金棒・・・ジェリルにはそれがスローモーションのように見えていた。

 左に回転して、避けたジェリルの体すれすれを通って行く金棒をしっかり認識していた。


 空振りをして僅かに前のめりになるヘラクレス。


 捻った体を戻すように、剣を拳の様にヘラクレスの顔面に叩きこむジェリル。


 剣に集中された霊力が爆発する。ヘラクレスの霊力シールドを突き破り、兜の面当てを突き抜け、彼の顔面を襲う。


 ヘラクレスの頭がザクロの様に割れる。溢れる血が兜の隙間から噴き出す。


 ジェリルは剣を引く。ヘラクレスは糸の切れた操り人形のように音もなく崩れ落ちる。

 さすがに頭を破壊すると再生できないみたいだ。ギガンテスみたいに復活はしない。


 この霊力の集中と解放、少し前のジェリルには出来なかった。


 語り掛けて来た息吹のお陰かも知れない。


 もしかしたら、はるか昔、神狼族の始祖となった言う、神獣人の遺伝子なのか。


 霊力も魔力も使い切ったジェリルのビーストグローは自然に解け、普段の姿に戻ったのだった。


 ◇


 ヘラクレスの死を確認したコトネは、プロメテウスに話しかける。

「ヘラクレスは死んだ。ヘルメスとマイアは捕縛されたわ。あなたも武器を捨てて投降しなさい」

 ヘルメス達の事はクロエから従者通信が入っている。


「うるさいですね。私は一人でも戦います。野良猫は黙ってなさい!」

 プロメテウスの剣はスキンアーマーや霊力シールドを切裂いて来る。二式戦”鐘馗”の盾も効かない。


 プロメテウスが突進してきたので猛虎三連撃で牽制する。彼は、剣でコトネの攻撃を迎撃する。

「そんなものは私に効かん!」

 その時、弾き損ねたコトネの攻撃が彼の鎧の脇腹辺りを傷つけていた。



「ギガースよりかなり硬いわね。もう少し」

 コトネが呟く。


「おのれえ!獣人の癖に私の黄金の鎧を傷つけるとは何たる無礼!!死んで詫びなさい」

 プロメテウスは縦から横に剣を振る。剣がコトネの腹を掠める。少し血が滲むがビーストグローの生命力が瞬時に治療する。


「フン、器用に逃げ回るだけの捨て猫が!!」

「私は捨て猫でも野良猫でもありません。レオン様の従者だと何度言ったら解るのですか?」

 距離を取ったコトネは愛用の脇差を収納庫から出す。


 左手に脇差を持つとプロメテウスに接近する。

「生意気なあ、死になさい!」

 プロメテウスが袈裟切りに斬りかかる。


 コトネが脇差でプロメテウスの剣を止める。そして右手で猛虎三連撃の零距離射撃を見舞う。


 プロメテウスの鎧が左肩から右脇腹に掛けて三筋に切り裂かれる。


「まだ浅いかあ」

 コトネはやれやれと言った顔をする。


「お、お前は、も、もしかして手加減をして、徐々に威力を上げているのか?」

 少しずつダメージが増えて行くことに疑問を持ったプロメテウスが激怒する。


「あれ、バレちゃいましたか。決してあなたを馬鹿にしている訳ではないので、お許しください」

 テヘッと笑ってごまかすコトネ。


「なぜ本気で来ないのです!」

 プロメテウスは少し冷静になったようだ。


「あなたは特に罪を犯したわけでも、ヘラクレスのようなバトルジャンキーでもありません。降伏してください。死ぬ必要はないでしょう」

 プロメテウスに優しく呼び掛けるコトネ。


「そんなことを言うとご主人様に怒られるんじゃないか?」

 ショックを受けたように動揺するプロメテウス。彼の中では自分は優しい言葉を掛けられていい存在じゃないと思っていた。


「レオン様は私の判断を尊重してくださいます」

 コトネは自信満々で返す。


「そういうことですか。羨ましいですね。残念ですが僕は戦うために生み出されたホムンクルスです。降参することは許されません」

 コトネの言葉に冷静さを取り戻したプロメテウスは、自分の言葉で語り始めた。


「どうしてもですか?」

「僕は君に勝てない様です。一思いにやってくれると、苦しまずに済んで有難いです」

 プロメテウスは人から嫌われるような話し方をわざとしていたのだろう。必要以上に距離を縮めないために。彼の覚悟がコトネに伝わる。後は武人として相手するだけだ。

「わかりました」


 コトネは脇差を使うことにした。これを使えば手加減の必要はない。

 霊力をまとった剣は相手の霊力シールドを切裂く。


「ウオオオオオオーッ」

 剣を振りかぶって突進するプロメテウス。


 彼は剣を上段から振り下ろす。剣技”山影”で剣を弾き、軌道をそらし、脇差を引いて袈裟切りで一つ目の心臓を破壊。返す刀で二つ目の心臓を斬る。


 即死である。

 プロメテウスの死に顔は満足そうであった。それだけがコトネの心を慰めてくれた。


 ホムンクルスに生まれたのはプロメテウスのせいではない。しかし、その生まれは彼の一生を人の道具であることを決めた。

 なぜ彼に対してはこんなことを考えるのだろう。

 ギガンテスやヘラクレスはおのれの欲望に忠実であった。

 でもプロメテウスは違った。彼はより人間らしい思想を持っていた。

 ふとした表情や言葉の切れ端に人間らしさを感じ、誘い水を向けると彼は優しさを前面に出すようになった。

 コトネは山賊や海賊を殺すのにいささかも憐憫を感じなかった。しかし彼には憐憫を感じ、殺したくないと思った。

 彼女はこの感情を持て余した。そうだ後でレオン様に相談しよう。コトネの悩みはこれで大体解決するのだ。


 城から離れた場所にアンナが穴を掘り、全員の遺体を埋めた。


 ◇


 ノア達は一度レオン達と合流したが、再度戻ってヘルメス達を連れて来た。

「ウグッ、ウー、ウー」

 ヘルメスがレオンに何か言おうとした。


「取ってやってくれ」

 ノアがヘルメスの猿轡を外した。


「お前がレオンか?」

 猿轡を取ったヘルメスはレオンを睨んだ。

「そうだ、俺がレオンだ」


「お前が帝国に来なけりゃ帝国は滅んでいたのに」

 少し、悔しそうにレオンを睨む。

「終わったことにタラレバを言って見ても仕方ないだろ」

「あーそうだな。お前には負けたよ。俺をここまで追い詰めたのはお前だけだよ」

 ヘルメスはなぜか嬉しそうに言う。変わった奴だなとレオンは思った。


「よし、ヘパイストスの所に行くぞ」

 ヘルメスはレオンがオリンポスのコードネームを良く知っていることに驚く。

「勝てないはずだ。情報収集能力がダンチだ」


 アキラとハーヴェルとノア達にとヘルメス達を頼んで、レオン達はヘパイストスの工房に向かった。

 ヘパイストスはわずかな護衛と共に工房に居た。

「誰だ!あんたら!工房は関係者以外立ち入り禁止だ!」

 ヘパイストスは叫んだ。


 ヘパイストスにゼウスが倒れた事やハーヴェル城が陥落したことを告げると、すんなり彼は降伏した。

「俺は軍人じゃねえからな。勝ち負けはどうでもいい。納得のいく作品が作れりゃ良いんだ」

 ヘパイストスはレオン達に言い放った。その後思い出したようにレオンに言った。

「ところであんたがアーレスを殺したのか?」


 特に恨みとかは感じなかったので正直に答えた。

「いや、俺じゃない。この子だ」

 コトネの背中を押した。

 彼女は、アンナから残っている人の中に強い敵はいないことを聞いて、ビーストグローを解いてメイド服に着替えていた。

 なぜかレオンと居る時はメイド服を着たがるコトネであった。


「はああ?!」

 ヘパイストスはのけぞった。

「こんな子供が?うそだろ・・・・お嬢さん、失礼だがお歳は?」

「十二歳です」

 無表情でそっけなく返すコトネ。

 身長はまあまああるが、体は細身な彼女を見て呆れるヘパイストス。

 これで不思議そうにコトネの後ろから眺めているアンナの事を知ったらどうなるのか。

 ちょっと心配になるレオンであった。


 アーレスの最後を聞いたヘパイストス。

「そうか人懐っこい奴だったんだが。もう少し頭があれば、また変わってたんだろうな」

 ヘパイストスは本部に居る時に、しょっちゅう彼の所に遊びに来ていたアーレスを失って少し寂しそうにしていた。


 帝国に来た時(約九カ月前)にはレオンとほぼ互角だったアーレスが、もうコトネの相手として不足していたことを思って、コトネは自分達がいかに常識はずれな成長を遂げたのかを改めて知った。


 工房には大量の武具が在庫されていた。理由を聞くとエドゥアルト王国軍の再編が途中で止まったらしい。

 アポロンとアテナが抜け、更にデメテルもいなくなったエドゥアルト王国だ。大雑把なヘスティアではどうしようもあるまい。


 ◇


 今後の事を話し合うため、ヘルメスの執務室だったところに集まった。

「じゃあ、まずは捕虜の扱いだ。君達に希望はあるかな?」

 アキラがヘルメス、マイア、ヘパイストスに聞く。オリンポスの構成員やヘパイストスの護衛達は金字教の教徒だったので食料を持たせて教国に返すことにした。


「なあ、この国はどうなるんだ」

「お前には関係ない話だ」

 ヘルメスの問いにアキラが答える。

「俺を使ってくれないか?もうオリンポスは瓦解しちまったし、金はあんたらに取り上げられたし、行く所も無いんだよ。元々亡国の民なんでな」


 そこに居た誰もがヘッって顔になった。あんたさっきまで敵だったんだよと。

「王族も貴族も潰したから人手が足りないだろう。俺が手伝ってやるよ。このマイアも優れた手腕を持ってる。ヘパイストスのおっさんもそうだろう。もともと俺達は働く場所が無いからオリンポスやってただけなんだ」


「良いんじゃないの。隷属魔法もあるし」

 レオンが軽く言う。

「やめてくれよ。隷属魔法ってヘスティア達がやってた奴だろう。あれは単純作業ぐらいしかできなくなるぞ。ってあの魔法使いは本部に送ったはずだけど」

 ヘルメスが焦っている。


「やっぱりお前らがさらったのか。ブロイセンからの護送途中に居なくなったのは」

「ああ、フランツ皇子に頼んで帝都に護送させるようにして、途中で襲った」

「やっぱりフランツ皇子はあんたらに通じてたのか」

「ああ、そうだ。知らなかったか?」

「いや、帝国は泳がしてお前らを捕まえるつもりだったらしい」

「それは良いから隷属魔法無しで使ってくれよ」

 ヘルメスは情けない声を出す。


「じゃあ、ティムします。なにかないと元ハーヴェル諸国連合の人も落ち着けないでしょう」

 レオンが簡単に言う。

「ティム出来る奴がいるのかよ。あれは行方不明になったヘラの魔法だろ。もしかしてヘラがいるのか?」

「まあまあ、おいおい分かりますよ」

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回は戦後処理をしようとしていたレオン達に連絡が入ります。

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