9-4 ハーヴェル城襲撃(1)
ご愛読、ありがとうございます。
今回はハーヴェル城でのレオン達とオリンポスの戦いです。
いよいよ、レオンが国盗りを開始する。ハーヴェル城ではオリンポスの瓦解を知ったヘルメス達は逃げようとするし、プロメテウスとヘラクレスはそのことを知らない。ヘパイストスも忘れられている。
エドゥアルト王国 王城
ヘルメス達が逃げ出す準備を始めた頃、エドゥアルト王国、王城の玉座ではヘスティアが片膝を立てた状態で座っていた。
彼女の元には誰も情報を届けない。
「どうなってんだ。アポロンもアテナも帰って来ねえし、報告に行ったデメテルも帰って来ねえ。どうしろって言うんだよぉ!!」
部下達も恐れて近付かないので、彼女は一人で叫んでいた。
エドゥアルト王国ではすでに聖騎士と正規兵の殆どが聖金字教国に帰国しており、監視に必要な人数が残るのみであった。
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ハーヴェル城
レオン達はノルンの巨大黒鷲に乗ってハーヴェル城の上空に来ていた。
「アンナ!オリンポスの位置が解るか?」
アンナは目を瞑って集中する。
「ホムンクルスらしい反応は一階南側に。レベルの高い人はあまりいない」
「ヘルメスとマイアはレベルはそんなに高くないわ」
クロエが助言する。
「クロエ、君に頼るしかなさそうだ。二階の執務室付近を捜してくれ」
結局、ヘルメス達の顔を知っているクロエに頼るしかなさそうだ。
居ない場合広範囲を探さないといけないのでロッケに指示を出す。
「ロッケ、君もこちらの組に入ってくれ。レベルの高い奴はいないから大丈夫だろう」
二階の広場に着陸してクロエ、ノア、ロッケが飛び降りる。
当然、スキンアーマー状態でビーストグローで変身済みだ。
クロエが先行してヘルメスの執務室に向かう。
クロエの隠形術は目の前に居ても見逃しそうになるほどすごい。
出会ったオリンポスのエージェントたちは、声を発することも無く始末される。
「おいおい、ハーヴェル兵はいないのかよ」
ナルは確認もせずに始末するクロエに疑問を呈する。
「大丈夫よ、ここらに居るのはオリンポスだけ。言ってあるから近付かないわ」
執務室入ると中には誰もいなかった。
「ブラウニーさん、いますか?」
ノアが小人妖精を呼ぶ。
天井の板が外れて小人が顔を出す。
「ヘルメスとマイアがどこに居るか分かりますか?」
小人は首を振る。
「普段、ヘルメスとマイアがどこに居るか分かりますか?」
小人が大きな執務机と隣の机を指差す。
「ありがとう」
礼を言うと板が元に戻って小人の気配は無くなった。
「ナル、ロッケ、その机の主の匂いを追って」
ナルが執務机をロッケが隣の机の椅子の座面の匂いを嗅ぐ。
神狼族の嗅覚は非常に優れている。それがビーストグローで何倍にも増幅されているのだ。
「ヘルメスから捜索します。ナル、頼みます」
レオンの狙いはオリンポスの指揮系統の破壊だ。この城ではヘルメス、マイア、プロメテウス、ヘラクレスを倒せばオリンポスの影響を排除できると考えている。
ナルは匂いを追って廊下を進む。匂いはあちこちに分散するが新しい匂いを見つけて追って行く。
一階に降りるとロッケが鼻をひくひくさせる。
「マイアが合流したようです」
良く解るね、クロエは感心する。自分はマイアの匂いは解ってもそれが何時のものかは解らない。
その時、ドーンという音と振動がする。こちらは西側なので南側から聞えてくるようだ。
「向こうも始まったみたいよ」
恐らくレオン達が戦闘を開始したのだろう。
一辺が百m以上もある城なので、ノアは向こうの様子は解らないが自分達の仕事に集中する。
「奴ら、逃げてるのかも知れない。急ぐよ!」
少し離れた所に厩があり、そこに向かう大きなカバンを持った男女が見えた。
「あれよ!!ヘルメスとマイアだわ!」
クロエが叫ぶ。
その瞬間、ノア達が見失うような加速をしてヘルメス達を追う。
これが一式戦”隼”、すごいね。まだ会得してないクロエは感心する。
ヘルメス達は抜刀したノア達に囲まれると、大きな荷物を降ろして手を上げる。降参のポーズだ。
「殺さないでくれ。金ならある。全部出すから」
そんなことを言っている。
「クロエ!、あんたこいつらに恨みとかないの?」
ロッケがゆっくり近づいてくるクロエに聞く。
「まあ、恩も恨みも無いかな?解るか、ペルセポネだ」
「アンタがペルセポネ?」
マイアが驚いて叫ぶ。
ペルセポネはクロエのオリンポス時代のコードネームだ。
ビーストグロー状態では顔も毛で覆われるので、すぐには誰か分からないみたいだ。そんなことを考えるクロエであった。
「生きてたのね。ごめんなさい。私何も出来なかった」
マイアは泣き崩れた。
「立って、アンタが嚙んでないこと位知ってるよ。あれはゼウスの差し金さ」
流石のクロエもあれを思い出すと吐き気がしてくる。
ビーストグローの時で良かった。精神耐性が強くなってるから。
マイアの手を取って起き上がらせる。
「どうする。こいつらが居ては応援にも行けないよ」
「降参した奴を殺す訳にもいかないでしょ」
「これで縛って閉じ込めとこう」
ナルがいつの間に厩からロープを持ってきていた。
「アンタ達、逃げようとしてたんだから、オリンポスは見限ったんだよな」
「ああ、そうだ」
ヘルメスは縛られながら返事をする。
「しかし、誰もいないねえ」
「諸国連合軍の人達は避難させるって言ってたでしょ」
「ゴメン、聞いてなかった」
ハビに注意されてロッケが頭を掻く。
「出口に宿直室みたいなのがあったからそこに入れとこう」
ヘルメス達は猿轡を嚙まされているので喋れない。
二間続きの部屋で奥が宿泊用の部屋になっている。その奥の部屋に二人を入れて、扉の前にバリケードを築く。これで出て来れないはずだ。二人の荷物は適当に隠した。
「ちょっと手間取ったけど行くよ」
四人は南側で戦っているはずのレオン達の元へ向かった。
◇
その少し前。
南側の城の前に降り立ったレオン達だった。
「オリンポス出て来い!!レオンハルト=イエーガーがハーヴェル諸国連合を解放する!!」
レオンが城に向かって大声で叫んだ。
わらわらとオリンポスの構成員が出てくる。バッと上着を脱ぐとスキンアーマー状態となる。
ドーン!!
壁が吹っ飛んだ。
濛々と立ち込める砂埃、その中から現れる大きな影。
手に持ったトゲの付いた金棒をビュンと振ると砂埃が一気に晴れる。
濃い青色のフルプレートメイルに身を包んだ二mを超える大男が現れた。
「ワ、ワレはヘラクレス!し、勝負!!」
バッとこれまた大きな影がヘラクレスの前に踊り出る。
「アタイはジェリル!ガララトのジェリル!!お前の相手はアタイだああ!!」
大剣を上段に構えて突っ込むジェリル、金棒で受け止めるヘラクレス。
力と力のぶつかり合いだ。
「ああ、もう埃まみれになっちゃうよ。ヘラクレスよ、ちゃんと扉から出ようね」
今度は兜を小脇に抱えた金色のフルプレートメイルの色白金髪イケメン、でも身長は百八十cmを超える。
「黄金の騎士、プロメテウス参上。お前達やっちゃいなさい」
構成員に向かって命令するが誰も動かない。
「やっちゃってって言ってるの。聞えないの?」
バタバタと倒れる額に穴を空けられた構成員。上空にはニコッと笑う雷獣ゴロに跨る少女アンナ。
「私が相手をします。レオンハルト=イエーガーの従者コトネ参ります」
「ええ、僕が戦うの、いやだなあ。ちょっと待ちなさいよ」
コトネを押しとどめて兜を被り、細身の長剣を抜く。
構成員がやられたことに全く無頓着に構えを取る。
「さあおいで、野良猫ちゃん」
「野良猫ではありません!レオン様の従者だと言ったでしょ!!」
遠間から猛虎三連撃を撃つコトネ。不可視の斬撃をいとも簡単に跳ね返すプロメテウス。
「なんか私達、出番がないんじゃないですか?」
レオンに呟くハビ。
「じゃあ、あのヘラクレスに掛かって行ったらどう?」
「やめてくださいよ。あの金棒のスピード見ました?私のスキンアーマーなんか砕け散りますよ」
「じゃあ、プロメテウスは?」
「あんな、ぬるっとした剣は嫌いです。ノア達と行った方が良かったかな」
ヘラクレスの打ち込みは徐々に鋭くなるジェリルは押され気味だ。
「何て力だ!この野郎」
右手一本で重そうな金棒を振り回し、刃筋が関係ないので好きなように攻撃できる。しかも左腕の甲の部分が二重の盾となってジェリルの攻撃をことごとく止めていた。
ジェリルの上段からの打ち込みをヘラクレスは左腕で止めると、右手がジェリルの脇腹に金棒を抉り込む。
ビーストグローのスキンアーマーが破られる訳ではないが、その衝撃は大きく、数m後ろに飛ばされる。
「グウッ!」
「ジェリル!!」
レオンが叫ぶがジェリルは左手を着き出して、応援を断る。
「アタイにやらせてく・・・グフッ!」
衝撃が内臓を傷つけたのか、血を吹き出すジェリル。
「お、面白いぞ!」
ヘラクレスは兜の中で戦いに酔いしれているようだ。
ジェリルは手も足も出ない状況で不思議と追いつめられていない。
「ヘッ!こっちも面白く成って来たぜえ!」
こんな危機は子供の時に兄達にやられた時だけだ。あの時は命の心配は無かった。
何かがヘラクレスの向こうから呼んでいる。もう一段、階段を上がれるような感覚がする。
ここでやめるわけには行かない。
ジェリルの闘争本能がメラメラと炎を上げて燃え盛る。
「い、いいぞ。お、俺をもっと よ、喜ばせろ!」
竜巻の様に金棒を振るうヘラクレス。金棒を大剣で弾き、軌跡をずらして、かろうじて避けるジェリル。
それは、無意味で無謀な抵抗に見えた。
「ヘ、ここまで追い込まれるのはレオンかコトネしかいなかったのにな」
今度はジェリルの左肩に一撃が入り、片膝付いた所へ左腕にもう一撃入れられる。
今度は十mは弾き飛ばされる。
「レオンさん、ジェリルさんはなぜこんなに押されているのですか?」
手に汗握る展開にハビが心配する。
「一つは相手の攻撃速度が尋常じゃなく速い事だ。金棒を片手で振り回せる膂力と金棒ならではの刃筋を気にしない攻撃が、ジェリルの大剣とミスマッチしている。
ジェリルはいなす剣技”朧月”、弾く”山影”を駆使しているが、対処が追いついていない」
「ジェリルさんが負けてしまいます。助けてあげてください」
ハビは自分が応援しても事態は改善しないことは解る。ならばレオンを頼るしかない。
「それがジェリル自身が応援を拒否しているんだ。もう少し見守ろう」
ジェリルは相打ち覚悟で、一撃を入れているが霊力をコーティングした鎧に阻まれている。
「これじゃあ、一方的にダメージを食らっているアタイに勝ち目がない!どうすれば良い?」
勝つための道筋が全く分からない中、燃える闘志と今までの戦士の経験が戦闘を続けさせている。
「ジェリル!!、二式を使え」
我慢できなくなったレオンが叫ぶ。
そうか、ジェリルはアーレスとコトネの対戦を思い出した。魔力をコーティングした鎧を突き通すために、二式戦”屠龍”を先鋭化して鎧を突き通していた。
ジェリルは屠龍を大剣に纏わせる。先端を限りなく尖らせるイメージをする。
金棒が後ろに回った瞬間を狙って鎧の胸の中央を突く。ヘラクレスが体を少し開いた。
ジェリルの作戦に気付いたのか?刃筋がずれた状態になった大剣は中央から砕けてしまう。
「しまった!!剣が!!」
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はこの話の続きの予定です。