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9-3 襲撃前

ご愛読、ありがとうございます。

オリンポスの瓦解が始まり、ハーヴェル城への襲撃が前倒しになります。

 瓦解し始めたオリンポス本部、何も知らずハーヴェル諸国連合とエドゥアルト王国に残されたオリンポスは、どう動く。


 アキラの店 食堂

 冬の落日は早く、暗くなる前に訓練を斬り上げた面々が、様々な話に花を咲かせていた。

「レオンさん、クロエさんを従者にしたんですって?」

「ああ、それが何か?」

 ノアがレオンに突っかかっていた。


「じゃあ、私達も従者にしてくれても良いんじゃないですか?」

 後ろで残りの三人もそうだそうだと声を上げている。

「え、君達は神狼族に属してるじゃないか。御両親も居ることだし、簡単に従者に出来ないよ。クロエは孤児だから気にしなくて良いんだ」

「えー、そんなあ」

 と言いながらジェリルの方を見る四人。


 食事前だと言うのに拳サイズのパンを口に押し込んでいたジェリルが四人の視線に驚いた。

「ムッグッ、ぬうあんんだ?ぬあんで、・・・」

 水で薄めたワインでパンを流し込んだジェリルは目を剥いた。


「なんだ、何でアタイを見るんだ?」

「ジェリルさんが私達を連れて来たんだから責任取って下さい」

 ノアの後ろの三人もうんうんと頷いている。

「アタイに長老と話をしろって事か?」

「私達の親もです」

「なんでだよ。自分の親ぐらい自分で話せよ!」

「あんなケチな人たちが、現金を稼げるようになった私達を離す訳無いじゃないですか」


 何度も言うが神狼族のような何の産業も持たず、自給自足をしているような村は現金収入がほぼない。と言う事は普段は店員で稼ぎ、稀に傭兵で臨時収入がある子供は手離せないのである。それもこれもこの娘達に親族がぶら下がって、たまに来る商人から贅沢品(町では普通の品)を買えるからである。なんなら隣の家族にうちはこんな贅沢品を持っているんだ、すごいだろーと優越感に浸れるのだ。


 ジェリルは彼女達が来る前は一人でそれをやっていたので良く解っていたのである。この間も帰った時に娘をレオンに紹介してくれと長老宅に列ができるほどだ。その中には三歳児や身重の娘まで居る始末だ。それだけに彼女達をレオンに従属させるのは難しい。そんなことが出来るなら、自分がとっくにやっている。


「いやだよ。そんなことが出来るなら、アタイがとっくにレオンの従者になってるって言うの」

 ノアの申し出を断ったジェリルはフンと横を向いた。何時までも甘えてるんじゃないと言う事らしい。


「皆で里に行こうか?」

「今から?」

「ノルンさんに頼めば一時間で往復できるよ」

「そう言えばノルンさんいないよ」


 彼女達はレオンを囲んだ

「レオンさん、ノルンさん知りませんか?」

「ノルンはヤヌウニさんの用事で出かけてるよ」

「どこへ行かれたんですか?」

「内緒だそうだ」


 ******


 聖金字教国 本部教会礼拝堂

「アルテミス様、礼拝堂の火はもう落としましたが?」

 司祭の一人が礼拝堂に入ろうとするアルテミスを呼び止めた。

「良いのです。ライトの魔法を使います」

 振り返った彼女は疲れ切った顔をしていた。教皇は精神が壊れてしまったし、ここのオリンポスは実質彼女一人になってしまったのだ。


「危険があるとは思えませんが、私も付きあいましょうか?」

 危ないものを感じた司祭が同伴を申し出た。

「良いのです。集中したいので、一人にさせて貰えませんか?」

「判りました。お気をつけて」


 礼拝堂正面中央に配置される身長五mを超える若い女性の大理石の像、教祖ヤヌウニ=クラウスの像だ。

 ライトの魔法では胸のあたりまでしか見えない。


 私はどうすれば良いのでしょうか。心中でヤヌウニに問い掛ける。

 アルテミスは回想した。

 私は司教の家に生まれた。兄弟は無く、魔法に覚醒したのは十一歳の終り頃。

 身体強化強化のレベルを上げる魔法だった。

 しかし、なかなか発動しなかった。

 原因は解っていた魔力が不足しているからだ。

 発動には大きな魔力が必要だ。

 しかし私の魔力は必要量の半分に満たない。


 父は焦った。折角出世に繋がる様な魔法を持つ娘が生まれたのに、発動できないのでは意味がない。

 私の母に魔力を譲渡させようと私に抱き着かせた。

 発動した。

 被験者はレベルが1から3に上がった。

 その直後、母は倒れた。

 死んでいた。

 魔力を根こそぎ奪われて、耐え切れず死んでしまった。


 母が死んだのにも関わらず、父は大喜びで枢機卿に報告した。

 私は聖女に認定された。

 候補生でもなかった私がである。

 それから父には会っていない。

 恐らく、出世したのだろう。


 私の魔法が他の人の魔力の譲渡で発動することが解った教会は、魔力量の多い他の聖女や候補生を使って魔法を発動させた。

 複数人に同時に供給を受けたので彼女達は死ななかった。


 被験者の内、優秀なものはポセイドンとかアーレス、ヘスティアの名前を貰っていた。

 私もオリンポス十二神に祭り上げられ、アルテミスの名前を貰った。

 そんな時にヴァイヤール王国に大きな魔力を持った候補生が居ると話題になった。

 しかし、こちらに呼ぶ前に修行僧の一人が彼女に横恋慕をして偽情報で、彼女を脱走させてしまった。

 慢性的な魔力不足に悩む私としては惜しい人材を逃したものだ。

 同時に私が普通の娘として生きられたらとも思い、その候補生を羨んだこともあった。


 教皇から正規兵のレベルアップをしろと命令が下った。

 さすがに全員をレベルアップさせるには時間も魔力も足りない。

 数百人を一度にレベルアップすることにした。

 何回か繰り返すうちに私以外のの聖女や候補生は次々と死んでいき私が一人となった。

 正規兵たちは教皇に逆らったエドゥアルト王国を滅ぼした。

 聖女達の犠牲は無駄にならずに済んだ。


 教皇がハーデスの部下の獣人をギガンテスになぶり殺しにさせた。

 詳しく聞くとその獣人は教皇の為に働いていたのだと言う。

 私はヤヌウニ様の教えに背く教皇を責めた。

 皆に責められた教皇の精神は壊れてしまった。


 これから誰の言葉を信じ、行動すれば良いのでしょう。

 アルテミスは必死にヤヌウニに祈った。


「オホン、アルテミスよ顔を上げるが良い」

 像の顔の辺りから声が聞こえる。

「ヤ、ヤヌウニ様ですか?」

 アルテミスがヤヌウニ像を見上げると顔の辺りが光り、優しい表情も見えた。

「正真正銘、本物のヤヌウニ=クラウスである」

 ジュリア改めサクラの時に散々疑われたので、ややしつこい。


「私を導いて頂けるのですか?」

 アルテミスは孤児生活もしていないので、擦れておらず素直に信じる。

「ウム、残念ながら我教えは堕落し、私利私欲に利用されて居る」

「はい、分かります。その通りです」

「お前は我教えの通りに、この教会を正すことができるか?」

「幸い、私は教皇に次ぐ地位をいただいております。必ず改革して見せます」


 小一時間話したであろうか。

「では三日後のこの時間にまた来る。あまり急がずにやって見よ」

「はい、教祖様に恥じぬように皆を導きます」

 像の顔の光は消え、ヤヌウニの気配は去った。


 アルテミスは奇跡をその身に宿し、すっくと立ちあがった。

「アルテミス様、私は奇跡をこの目、この耳で経験いたしました。どうかこの身もお使いください」

 先ほど部屋の前で声を掛けてくれた司祭が聞いていたらしい。

「この若輩者を助けてくれますか。よろしくお願いいたします」

 アルテミスの背中には宗教者としての自信で溢れていた。


 ******


 アキラの店 食堂

 金曜の夜、ヤヌウニとアキラはレオン達を集め会議を招集した。

「オリンポスの本部は空中分解だ。取り敢えず金字教会はアルテミスに宗教だけを任せるつもりだ」

 ヤヌウニがオリンポス本部の状況を説明した。

「それで俺達は?」

 レオンが呼ばれた主旨を確認する。

「君達には、明日朝にハーヴェル城に襲撃を掛けて欲しい。ゼウスの不在が伝わる頃だ。諸国連合軍に反乱などが起きると無駄に犠牲が出てしまうし、レオン君が解放したという事実が欲しい」


「分かりました。ハーヴェル城に居るのはヘルメス、マイア、プロメテウス、ヘラクレスですね」

「そうだ。ヘルメスとマイアはここいらに、プロメテウスとヘラクレスはここらに居ると思う。ヘルメスとマイアには部下を含め、武力はほとんどない。未知数なのはプロメテウスとヘラクレスだ。彼らは強そうなので気を付けてくれ」

「ではプロメテウスとヘラクレスに集中した方が良さそうですね」


「しかし、諸国連合軍を動かそうとするかもしれん。コトネちゃんとノアさん、ナルさんの三人でヘルメス達に対処して貰おう」

「それ、コトネの代わりに私が行くわ。ヘルメスとマイアなら私の方が上よ」

「クロエ姉ちゃん!?」

「プロメテウスもヘラクレスも知らないけど、多分そいつらホムンクルスよ。私は役に立たないわ。従者通信なら私で上等でしょ」

「ではクロエ、ノア、ナルの三人で頼む」

 レオンはコトネに言い聞かすように言った。

「分かりました」

 その後細かい所を詰めて早めに就寝した。


 ******


 ハーヴェル諸国連合 ハーヴェル城  ヘルメスの執務室<ヘルメス>

 レオン達が襲撃に出発した朝の事だ。

「た、大変です!!」

 扉もノックせずに男が駆け込んできた。こいつはゼウスに使いにやった奴だ。一体どうしたと言うんだ。

 こんな時間に来るとは夜通し奔って来たのか。

「落ち着けって、なにがどうしたんだ」

 執務机で仕事をしながら応対した。


「ゼウス様が倒れました」

 はあ、あのゼウスが倒れただとぉ。隣の机に居たマイアも立ち上がっちまった。

「詳しく説明してくれ」

 まずいぞぉ。こんなことが公になったら、それこそ反乱が起きても不思議じゃねえ。

「三日前になりますがゼウス様がいきなり精神に異常を起こし、倒れました。私も一日様子を伺っていたのですが、悪くなるばかりで復帰は難しいようです」


「それで、オリンポスは誰が見ているのだ」

 アポロンなら何とかなるか?ハデスでは小物過ぎる。

「それが今オリンポス本部に十二神の方は見えません」

「はあ?!」

「アルテミス様は教皇代理として教会へ、アフロディーテ様、ハデス様は姿を隠しました。噂ではアポロン様、アテナ様、デメテル様も居なくなったと聞きました」

 逃げたのか?落ち着け、慌てたりしたらここもパニックになるぞ。

「分かった。今は戦時中だ。そのことは誰にも話すな」

「はい」

 男に口止めして下がらせた。


「どうするの?」

 マイアの顔色は真っ青だ。多分俺もだろうな。

「見捨てるつもりが見捨てられてたか」

 後継者のいない組織は瓦解する。それは間違いない。

「もっと詳しく聞かなくても良いの?」

「そんな余裕はない。逃げるぞ!用意しろ!」

「そんなプロメテウスたちはどうするの!」

 カバンに貴重品を詰めるヘルメスにマイアが叫ぶ。


「馬鹿!!そんなもん見捨てろ!時間との勝負だ!オリンポスが瓦解したのが、この国の奴らに解ったら反乱が起きる」

 怒りながらもヘルメスは逃げる準備を止めたりはしない。

 危機を感じたマイアも自分の部屋に向かう。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はレオン達がハーヴェル城への襲撃を開始します。

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