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9-1 クロエの決意

ご愛読、ありがとうございます。

九章はレオンが国盗りを始めます。今回はレオン達の準備の様子です。

 ハイデルブルグ学園の武闘会が終了する頃、季節は秋から冬に移って行った。

 ハーヴェル諸国連合は、昔はもともと大きな王国が四つに分かれた名残の国である。

 その中心であったハーヴェル辺境伯と四人の伯爵が建てた国である。ハーヴェル家が失政により凋落したため、四人の伯爵が王となり、対外的な軍事力を維持するため連合したのが諸国連合の始まりである。


 ******


 ハーヴェル諸国連合 帝国の近くの廃砦 <ジェリル>

「ではフィリップさんはハーヴェル辺境伯の子孫であられるのですか?」

 どうやら他の伯爵家はオリンポスに滅ぼされたが、没落していた辺境伯家は見逃されたようだ。

「アキラ殿、敬語はおやめください。今の私は聖金字教国に反抗する一勢力の長でしかありません」

 フィリップはなかなか男前で所作も上品だ。あたいの好みには筋肉が足りないがな。


「解りました。それでこちらの条件を飲んで頂けるのですね」

「はい、これまで通り支援して頂けるのなら、レオンハルト殿を首領として推戴し、聖金字教国を排除できれば王となって頂くことをお約束します」


 ここは赤や黄色に染まった葉を着ける木々に囲まれた帝国との国境にも近い、打ち捨てられた砦跡だ。

 そこの天井の無い部屋にアキラとフィリップが座っている。アキラの後ろには護衛としてアタイが立っている。フィリップの後ろにも三人の護衛が立っているが、アタイにかないそうな奴はいない。

 まあ、貧乏な組織だからな三人共女だ。スキンアーマーは鎧代をケチれるからな。


「ちょっと聞いて良いか?」

 フィリップにアタイは興味を持った。

「どうぞ、何でしょう」

「アンタら、レオンが王になって構わないのか?自分が王になりたくないのか?」


 フィリップはニコッと笑う。

「私達はアキラ殿の支援が途切れれば、すぐに飢えてしまう。この国の半分ぐらいは冬を越せないでしょう。それぐらい聖金字教国は国民から搾り取っているのですよ。ですから聖金字教国に奪われた食糧庫を開けてくれる人なら歓迎しますよ。

 それにレオンハルト殿はポセイドンやアーレスを倒した英雄だ。国民も受け入れやすいでしょう」

 言いたい!アタイもその戦いに参加していたと言いたい。


「今のハーヴェル諸国連合の状況を教えてください」

 アキラが話題を戻すように言うとフィリップが待ってましたと答える。

「まず軍はプロメテウスとヘラクレスがポセイドンとアーレスのポジションについて、軍を再偏していますが、帝国が警戒しているので、兵の実力も合わせて容易には動けないようです。占領政治はヘルメスが取っており、厳しく税を取り立てています。最近、部下にマイアと言う女が来ました。兵器などを製造する生産拠点は、ヘパイストスという男が指示をしています」


 マイアは帝都でレオンの情報収集をしていた奴だ。奴はギガンテスの襲撃の後、すぐに行方をくらましていた。

 ギガンテスのアジトを探した時に配下が数人摑まり、存在が解った。。


 アキラは敵の情報などはフィリップより詳しく知っているはずだ。なぜならヤヌウニがブラウニーを潜り込ませてるはずだからな。


 まあ、アタイはヘラクレスって奴が強そうだから、そいつとやることを考えるか。アーレスはコトネに取られちゃったからな。


 ******


 アキラの店 <コトネ>

「お早う御座います」

 勝手口を開けると、ちょうどシャラさんが居たので挨拶する。

「おはようって、もうお昼だよ」

「あ、済みません。昨日、試験勉強やってて寝坊しちゃった」

 私は顔が火照って仕方ない。恐らく真っ赤になってるんだろうな。


「お姉ちゃん入り口で止まってたら入れないでしょ」

「あ、ごめんなさい」

 私が脇に寄るとアンナとレオン様が入ってくる。


 二人はシャラさんに挨拶した。

「今日は遅いんですね」

「ノルンが居ないからね。一時間かけて歩いて来た」

「そっかー、旦那が乗っけて貰ってたんだ。忘れてた。ごめんなさい」

「いや問題ないよ。たまには歩かないとね」


 そう、今アキラさんはハーヴェル諸国連合の反抗組織の人と会ってるんだ。

 アキラさんが言うには、今がハーヴェル諸国連合を手に入れるチャンスらしい。

 一つは形がバルドゥール王国の時に似ていて、オリンポスの指揮系統を潰せば軍を無力化できること。

 一つは敵は城にいるため、中心部への奇襲に対して警戒が薄い事。

 一つは行政機関はほぼ無傷で残っており、解放後の復興が簡単なこと。

 一つは軍はほぼ無傷で手に入れる予定のため、解放後すぐに防衛体制が取れること。

 大きな利点はこの四つだがもちろん悪い点もある。


 聖金字教国に接しているため占領後、すぐに敵の正規軍が来るかも知れない事だ。

 この一点が四つの利点とほぼ同等である。

 もちろんこの点もアキラさんは考えているみたいだ。


「コトネ、昼ご飯を頂こう」

「もう、お姉ちゃん、最近ボーっとしてること多いよ」

「ごめんなさい」

 だってレオン様の飛躍の時だもの。私でも考えちゃうのは仕方ないでしょ。


 食堂に行くとクロエが居た。私はすぐに駆け寄って隣に座った。

「クロエ姉ちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん、いつまでも寝てられないよ。チャコもこんなに頑張ってるのに」

「よかったあ。でも私はコトネだからね。コ・ト・ネ、覚えておいてね」

「わかったよ。コトネ」


 クロエの雰囲気は暗い。

「ねえ、これからどうするの?隷属の腕輪は壊したから自由だよ」

「私はね、人も殺したし、盗みもした。いくら奴隷で命令を断れなかったとしても幸せになんか、なっちゃいけないのさ」

「そんなことないよ。だって逆らえなかったんだから仕方が無いよ」

「私に不幸にされた人はそんな事思わないだろ」


 クロエの記憶は戻っていた。戻った時は生きる気力を失くして、脱走や自殺を図ったそうだ。

 ヤヌウニさんが何度か説得したら生きることは承諾したようだ。

 敵の情報も洗い浚い話した。恐らくレオン様も共有しているはずだ。


「なあ、あんたのご主人様は世のため人のために戦ってるんだろう。私も使ってくれないかなあ?

 少しは罪滅ぼしが出来ると思うんだ」

「すごく危険だし、訓練も厳しいよ。スキンアーマー使える?」


「大丈夫だ。でもスキンアーマーはちょっと恥ずかしいかな」

「レオン様に覚悟が足りないって言われるよ。きっと」

「あんたの御主人様はエッチなのか?」

「まあ、ちょっとね」

 あ、クロエが笑った。


 二人で笑っているとレオン様とアンナがやって来た。二人は神狼族娘達と話をして居たみたい。

「何か楽しいことがあったのか?」

 ちょっと気まずいな。陰口じゃないからね。うん。

「女の子の秘密です」

 クロエが助け舟を出してくれた。


 レオン様は仕方ないと言う顔をする。

 たぶん、クロエに話しかけるきっかけを作りたかったんだと思う。

「クロエさん、調子はどうだ」

「はい、おかげさまで元気になりました。それと私はクロエと呼び捨てにして下さい」

 クロエは言葉を切って下を向き、覚悟をしたように再度レオン様に向き合った。


「レオンハルト様、私は助けていただく価値のある女じゃありません。でも、助かった以上あなた様に

 恩を返したい。どうかあなた様の手伝いをさせてください。お願いします」

 クロエの顔は真剣にレオン様を見つめていた。


「俺の身内になりたいのか?でも君には残念だが信用がない。すぐには無理だ」

 レオン様が否定する。ここには秘密がいっぱいあるから慎重になるのは判る。

「私からもお願いします。彼女には行く場所が無いのです」

 私もレオン様に縋る。


「なんなら私をあなた様の奴隷にして頂いても宜しいので、そうすればあなた様を裏切ることはございません」

 クロエの言葉にレオン様の顔が緊張する。

「君の情報リークは、契約魔法で縛っているはずだ。奴隷などと二度と言うな!」

 ああ、怒らせちゃった。まあ、クロエはレオン様が獣人差別をなくそうとしているのを知らないから仕方ないよね。

「彼女には私から説明します。お怒りを治めてください」

「分かった。頼む」

 フーッ、取り敢えず怒りは治まったみたいね。


 レオン様は神狼族娘達の方へまた行った。なにかお小言みたいね。()()何をしたのかしら。

 レオン様はクロエが信じられないのでしょう。そりゃ、つい最近まで敵の奴隷で敵対行為をしていたんですから仕方ないと思います。


 彼女は奴隷の拘束魔法のギリギリで、私達にギガンテスの事を伝えてくれましたし、敵の組織に裏切られてもいます。隷属の腕輪も壊したし、彼女が利敵行為をするとは思えません。

 どうすればレオン様に信用して貰えるのかしら。


「やっぱり、私なんか駄目だよね」

 クロエは落ち込んでしまって、目には涙を溜めている。

 まだ、情緒が不安定なようだ。

「そんな事無いよ。さあ、ご飯食べよ」


 昼食を食べ終わって、ちょっとゆっくりとしているとアンナがやって来た。

「中庭で剣術の訓練をやるんだって、お姉ちゃんも来る?」

「どうしたの?」

 今日はいつもの草原に行かないのかしら?


「えっとねえ、ノアさん達が基礎を忘れてるってレオン様が怒ってるの。お姉ちゃんは好きにしてていいって」

 何で今頃、ギガンテスの時は彼女たちは戦ってないから、その前はバルドゥール王国の時かしら?ずいぶん前だけど。

 まあ、良いわ。基本的な剣術だったらクロエが見たって問題ないわよね。


「クロエを連れて行っても良いよね」

「良いんじゃない。聞いとくよ」

 アンナは元気よくレオン様の元へ走っていった。


「クロエ姉ちゃん、一緒に訓練を見に行こう」

 中庭じゃあ精霊魔法もビーストグローも外気功も使わないだろうから、クロエが居ても大丈夫なはず。

 アンナがレオン様の横でOKサインを出している。

「私が行っても良いの」

「もちろん、信用して貰うには時間が掛かるわ。じっくり行きましょう」

 クロエの忍術は洗練されてたから、実力的には大丈夫だと思うのよね。

「うん」


 中庭に出て来たら、ノア達が怒られていた理由が判った。

 バルドゥール王国の時、かなり剣を痛めていたようだけど、それを今まで放って置いたのとその時に力任せに刃筋を合わせずに使っていたらしい。

 最近、コニンさんに手直しに出した時にバレたらしい。


 彼女達の双剣は片手持ちで使うので力が半減し、刃筋を合わせないと斬れるものも斬れなくなってしまう。

 彼女達は右で頭、左で小手、右で突き、左で胴を繰り返して木剣を振るう。

「ナル!左の刃筋がぶれてる!ロッケ!振りが小さい!相手まで届かんぞ!」

 レオン様の厳しい指導が続く。


「コトネ、すごいね!私興奮して来た」

 確かに去年の私が見ればすごいと思う。彼女達の上達には目を見張るものがある。

 クロエが目を見張るのも解る気がする。


 ノアとナル、ハビとロッケが試合形式で打ち合い始めた。

「もっと刃筋を意識しろ!」

 彼女達はいつものスキンアーマースタイルなので、木剣が当たったくらいではダメージは無いのでノンストップで打ち合いを続ける。


「コトネ!私もやりたい。私がこんなにこんなに武に惹かれるなんて」

「良いけどスキンアーマーの衣装がないでしょう」

 クロエは今までの訓練は強制的なもので、言わば仕事だったのだろう。凄く興奮し出した。

 自由になったから、武に目覚めたのかな。


 私とクロエは木剣で打ち合いを始めた。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回はオリンポスの瓦解が始まる予定です。

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