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8-13 決意

ご愛読、ありがとうございます。

今回はクロエの事から、レオンがある決意をします。

 ギガンテスの襲撃を退けたレオン達、命を取り留めたペルセポネ(幼名クロエ)。


 アキラの店 <コトネ>

 襲撃の次の日の放課後、私達はアキラの店にクロエの見舞いに来ていた。

「で、どうするつもりだ?」

「クロエが良ければ私達の仲間になって欲しいです。いけませんか?」

 治癒院に入る前にレオン様が私の意志を聞いた。

「まあ、本人次第だな」


 治癒院に入ると既に本日の治療は終わっていた。

「やあ、レオン殿も来たのか」

「はい、フェリ様に訳を言って、今日の訓練は中止していただきました」

「クロエはどちらに居ますか?」

 レオン様とヤヌウニさんの挨拶に割り込んでクロエの事を聞いた。


「まあ、慌てるな。今はサクラの部屋に居る。一緒に行こう」

 ヤヌウニさんの後をついてサクラさんの部屋の前に来た。

「暴れたりしませんでしたか?」

 心配だったことを聞いてみた。

「おとなしいもんだが・・」

 ヤヌウニさんの返事がはっきりしない。


 ヤヌウニさんが扉をノックした。

「サクラ、レオン殿達が来た。入って良いか?」

「はい、どうぞ」

 部屋の中からサクラの声が聞えた。


 部屋に入るとベッドが二つ置いてあって、窓際の方にクロエが居た。

 クロエはベッドに座って、腰までシーツを掛けていた。昨日の包帯はもう外してあった。

 え、クロエが私を見ても表情を変えない。どうしたって言うの。


「クロエ姉ちゃん、私だよ。チャコだよ」

 クロエは私の今の名前を知らないから幼名を名乗る。

「チャコは私より小さいよ。お姉ちゃん、だあれ?」

 彼女は屈託のない笑顔で聞き返した。


「え、」

 私はヤヌウニさんの顔を見る。

「体は治った。しかし頭がな」

「ど、どうしたんですか?」


 私は混乱した。

「どうも余程辛い目に会ったらしい。

 幼児退行してしまったようだ。クロエ、君は幾つだ」

「クロエは八歳だよ」

 クロエはニコッと笑う。


「そんなに・・売られる前に戻っちゃたの。そんなに辛い目に・・」

 ヤヌウニさんが耳元でささやいた。それは女性の最大の屈辱。


 私は泣いた。ベッドに突っ伏した。

「お姉ちゃん、どこか痛いの。クロエがヨシヨシしてあげる」

 クロエが私の頭を撫でる。


「彼女の頭が思い出すのを拒んでるんだ」

「治るんですか?」

「難しいな。それに思い出したとして、それに耐えられるのか分からない」


「どうしたら良いのですか?」

「そうだな、そのまま育つのが一番良いのだが、そのうち自分が八歳ではないことに気付くだろう。その時に精神の治療をするしかない」


「大丈夫ですか?」

「まあ、私も宗教家の端くれ、昔の経験を思い出すさ」


 レオン様とヤヌウニさんの話が遠くで聞こえる。

 クロエは獣人だから奴隷にされて、酷い事をされた。

 それを思うたびに心の中でどす黒い感情が渦巻く。


『そうだ許すな』

 でも、私には何も出来ない。


『敵は根絶やしにしろ』

 そんな力はないわ


『力が欲しいだろう』

 力が欲しい。悪を倒せる力が。


 心の声に反応する私、湧き上がる力が見える。


「コトネ、お前が責任を感じる必要はない」

「え、」

 ヤヌウニさんの言葉に私は現実に引き戻された。


「情けない事だがこんな事が世界中で起きているんだ」

「でも奴らに命令した奴を倒さないとクロエみたいな子が、・・・」

「お前はレオン殿と一緒に大きくなればいい。背伸びをするな」


「でも・・・」

 私の中で悪を許さない心が力を求めてる。神獣人の力を。

「その誘惑に負けるとレオン殿も離れていく。竜の神獣人のようになる」


 ドワーフの国に居た竜の神獣人ソーン。力を求め過ぎた結果、一緒に居てくれる者が居なくなって、一人で生き続けている。

「嫌、一人になるのは嫌」

 私は首を振り続ける。


「顔を上げて前を見ろ」

 私が顔を上げると泣きそうな顔で覗き込むアンナが居た。

「ゴメンね。心配かけて」

「お姉ちゃん。一人で行っちゃ駄目だからね」

 アンナは泣きながら抱き着いて来た。


 全く、私はどんな顔で悩んでいたんだろう。こんなに心配をかけるなんて。

 ふとレオン様を見るとニコッと笑ってくれた。

 それが私には愛おしくて堪らない。


 クロエを見るとキョトンとした顔で私達を眺めている。


 ******


 アキラの店 錬金室 <レオン>

 床にギガンテスの死体を出し、俺とアキラさん、ヤヌウニさんが囲んでいる。

「こいつらか・・・」

「内臓が少し変わっているな」

 ヤヌウニさんが死体を分解しながら呟く。


「これは人間じゃないな」

「うむ、確かに人工的だ」

 アキラさんとヤヌウニさんの感想に俺が反応する。

「どういうことですか」


「うむ、こいつはホムンクルスの失敗作だろう」

「え、ホムンクルス、失敗作」

 俺は驚いてアキラさんの言葉を繰り返す。


「うん、この構造からすると霊力を動力源とした超人を作ろうとしたようだ」

 アキラさんは大きくため息を吐く。

「話を聞く限り、期待された性能を発揮していない様だね」


「こんなのがたくさんいるんですか?」

「いや、そんなことはないだろう。ホムンクルスはお金が掛かるんだ」

 アキラさんは怒ってるみたいだ。シャラの事を思うと分かる気がする。


「でもあと数体は居るだろうね。完成体か、それに近い奴が」

「じゃあ、こいつらは試作品の出来損ないと言う事ですか?」

 アキラさんの言う事はとんでもない。こいつらより強い奴がいるのか?


「うん、設計目標はもっと高いと思うよ」

「何の為にこんな奴を作ったんでしょうか?」

「そりゃあ、君のお父さんと戦うためでしょう」

「そんなことが?」

 親父が標的って、そんなことが?でも強さを考えると分かる気がする。


「多分ね。君のお父さんと戦いを見た奴がオリンポスには居たんだろうね」

「じゃあ、貴族派の黒幕もオリンポスって言う事ですか?」

「証拠はないけど、そう言う事になるね」

 どうすれば良い、今回のクロエやヘスティアの奴隷狩りからして、オリンポスにこの大陸を委ねる訳には行かない。

 俺の理想とする獣人差別のない世界を実現するには、どうすれば良いんだ?。

 俺は帝国で地位を得て、目標の為に邁進すれば良いと漠然と考えていた。


「俺はどうしたら良いんでしょう?俺はコトネやアンナが安心して暮らせる世界を作りたかったんです」

「俺も帝国がここまで堕落しているとは思わなかった。このまま帝国の後押しをしていれば戦線は拡大し、大災厄に対応できないかもしれない」


 俺も結構ひどい事を言って帝国の尻を叩いているが、四分の一まで落ち込んだ軍事力を回復させるのに来年一年で、大災厄に間に合うのかと思っている。それにオリンポスの侵攻が加われば対応できる訳が無い。


 俺が何も言えずに顔を伏せているのを見てアキラさんが話し出した。

「一つ私達は準備していたことがあるんだ」


「何ですか?言って下さい」

「うーん、君の覚悟が必要なんだけどね。聞くと後戻りできないよ」

 アキラさんがニヤッと笑う。あー、なぜかヤヌウニさんも笑ってる。どういうことだ。

 二人は既に共有してると言う事だな。


 ゴクッ、俺は唾を飲み込む。

 この二人が笑っていると言う事は、コトネやアンナに今まで以上の危険があると言う事はないだろう。

「聞かせていただきましょう」


 ******


 ハイデルブルグ学園 練習場 <フェリ>

 今日はレオンの様子がおかしいのじゃ。何かを考え込んでおる様子じゃ。

「レオン、朝から変じゃぞ。心ここにあらずじゃ」

「あ、申し訳ありません。何処までやっていたのでしたっけ」

「それよりコトネはどこに行ったのだ」

「お姉ちゃんはクロエさんの所、レオン様は昨日の夕方からおかしいのよ」

 このメンバーは相変わらず騒がしいのじゃ。


 その日は型を使った打ち込みに重点を絞ってやったのじゃ。

「レオンどうしたのじゃ?ワシには言えぬことか?」

 この間のオリンポスの襲撃の時、クロエと言う猫獣人に何かあったみたいじゃ。


「はい、あ、フェリ様はなぜ皇帝を目指すのですか?」

「ワシか、ワシは皇帝の子として生まれたからは誰より国のため、人民のために働きたいと思うておる。それにはやはり、皇帝となって思う存分ワシの能力を発揮したいのじゃ。

 何じゃ、ワシの婿になってお主も政治をやりたいのか」

「いえ、帝国では間に合わないので」

 どういう意味じゃ?謙遜しておるのかな。


「帝国がオリンポスの相手をしていると、大災厄の準備が間に合わなくなると思っています」

 そう言う意味か。ワシがキョトンとしてたので、説明をしてくれたのだな。

「それならばどうしようと言うのじゃ」

「それを考えているんですよ」


 こいつは西大陸の危機を帝国を使わずに済む方法を考えていると言う事か。

 普通考えれば成人したばかりの男が、何を言っているのかと一笑に付されるに決まっている。

 しかし、こいつは今まで不可能と思われること自分達だけで何とかして来たではないか。


「もし、人手が居るならワシを使ってくれ」

 こいつの考えているのは本来なら帝国がやらねばならぬことであろう。

「フェリ様、そんなことは・・・」

「レオン殿、私も使ってくださいね」

「ルシーダまで」

「あ、私も、私もやります」

 マリーも手を上げる。


「じゃあ、俺も」

「ジーク、お前は駄目じゃ。お前まで死んだら誰が皇帝になるのじゃ」

「ここで俺一人参加しないと、なんかコトネに嫌われそうじゃないか!」

 ジーク様は地団駄を踏んで悔しがる。


「レオン様は良いお友達がいっぱいいますね」

 アンナがそう言ってくれたことで悩みが軽くなった気がする。

 近衛兵が迎えに来てその日は解散した。


 ******


 ハイデルブルグ学園 高等部学生寮 <コトネ>

 私はクロエの見舞いから帰って高等部の寮に来ていた。

「クロエは調子がいいみたいです。この分だと近いうちに思い出すのかもしれません」

「まあ、ヤヌウニさんが付いてるから問題ないだろう」


 私は簡単にクロエの報告をした。そして、レオン様に聞かなければならないことがある。

「レオン様、今日はずっと考え込んでおられましたよね。何を考えていたのか教えてください」

 レオン様がここまで悩むのは未だかつてない事だ。


 レオン様は居住まいを正し、アンナも呼んだ。

「アンナも聞きなさい。実はアキラさんに大変な話を聞いた。

 実はハーヴェル諸国連合をオリンポスから取り返すつもりだ。


 今、諸国連合の民はオリンポスの戦費調達のために重税にあえいでいる。

 その為、オリンポスに反抗する組織がいくつか出来ている。アキラさんはその組織に資金や武器を提供して、年末に大規模な反乱を計画している。


 その旗頭が俺だ。

 反乱が成功すれば、諸国連合は統一されて俺が国王になる」


「レオン様、王様になるの」

「アキラさんはそのつもりで動いている」

「レオン様、苦労は多いと思いますが、これは天が与えたチャンスだと思います。逃がさないでください」

私には本当にレオン様に天が用意した道に見える。絶対に逃がしてほしくない。

「王様になったところで学校はあるし、大災厄はあるし、そうそう王様をやってられないけどな。でもお前達の事もある。俺の野望に協力してくれるか?」


「もちろんです。私は死ぬまでついて行きます」

「ああ、お願いする」

「私にも来いって言って」

「アンナも一緒に戦おう」

 レオン様は私とアンナを抱き寄せた。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。

次回、7、8章の登場人物紹介をして9章に入ります。

9章でレオンが王になれるのか?

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