8-12 ギガンテス
ご愛読、ありがとうございます。
今回はギガンテスとの戦いです。
オリンポスの忍者ペルセポネはコトネを思って、ギガンテスが襲ってくることを警告した。
勲章を貰った夜、ギガンテスが学生寮に攻めて来た。
ハイデルブルグ学園 グラウンド
月明りの夜、人の姿は確認できる。
ノルンの化けた俺の跡を追って、そいつらはやって来た。
「ほう、いい度胸だ。俺達を待っているとはな」
グラウンドに入った途端、中央に待つレオン達を見てギガンテスは自信にあふれていた。
罠を仕掛けて各個撃破しても良かったが、報復による無差別攻撃を恐れて、レオンは正々堂々と迎え撃つことにしたのだ。
「ビーストグロー!!」
レオンの横に並んだコトネが獣変化の魔法を掛ける。
「おお、獣人が変身しやがった。力が一桁上がったみたいだな。おい、獣人!これを見ろ」
女のギガンテスが担いでいたシーツにくるまったペルセポネを地面に放り出した。
裸に包帯を巻いた少女を見てコトネの耳が後退角を付けた翼のようになる。俗に言うイカ耳で怒りや威嚇を現す。レオンでもその姿を見るのは初めてという、それほどコトネの怒りは激しかった。
「おーっと動くなよ、動けば、お前の幼馴染の首の骨を踏み砕く」
ペルセポネの首に足を乗せる女ギガンテス。
コトネはピタッと動きを止めた。
「その猫獣人は仲間じゃないのか!」
「へ、獣人の奴隷が仲間な訳ねえじゃないか」
こいつら許せない、殺してやる。コトネの心の中にドロドロとした感情が湧き出した。
コトネが怒りで震える姿を見てギガースが言った
「そうだ良い子だ。暫くそこで待ってろ。レオンをやれ」
ギガースと女ギガンテス以外の六人がレオンに襲い掛かる。
「三式戦飛燕!!」
レオンの体から無数の気功の刃がギガンテスに向かって飛んで行く。
気功の刃がギガンテスの霊力シールドに食い込む。
ギガンテス達はケガは無いがバランスを崩して停止した。
ギガースが思わずレオンの方を見る。
『お姉ちゃん、行くよ』
コトネにアンナの従者通信が入る。
女ギガンテスの胸が赤く光る。アンナのレーザーだ。
徐々に霊力のシールドを削るレーザー。たまらず女ギガンテスはレーザーを避けるため左に回る。
女ギガンテスの視線がコトネから外れた瞬間。
「一式戦隼」
次の瞬間、超加速で接近したコトネ!
女ギガンテスの胸に脇差が突き立っていた。
「ノルンさん!!」
コトネが叫ぶとノルンが背中に大きな翼を生やして、ペルセポネを胸に抱き上げ、飛びあがった。
これでクロエは助かった。後はヤヌウニさんに治療して貰えば・・・。
「暴れろ!飛び降りろ!!」
コトネが声の方を振り返るとギガースが腕を上げ叫んでいた。
腕輪が光る。
「アー!!、アーッ!!」
ペルセポネは突如暴れ始め、折れた左腕を振り回し、右足でノルンを蹴っ飛ばす。
全身ケガをしていたのでお姫様抱っこで、強く拘束していなかったノルンの腕を逃れて落ちる。
意識がない上に全身のケガで受け身を取れるはずもなく、グシャッと音を立てて地面に叩き付けられる。
十mも無かったはずだ、猫獣人なら平気で着地できる高さだった。
「クロエ!!」
「残念だったな。この腕輪は俺が生きている限り、奴隷に言う事を聞かせられる。アッハッハア」
ギガースは腕輪を掲げ、哄笑する。
「おのれえ!」
コトネの怒りは頂点に達しつつあった。
「お前のせいでこいつはボロボロになっちまった。まだ生きてはいるようだな。よし、こっちに来い」
ギガースはなおもペルセポネに命令する。
折れた手足を使って、必死にギガースに這い寄るペルセポネ。
「やめろー!!」
それを見たコトネの目の前は真っ赤に染まる。
それより少し前、六人のギガンテスに襲われたレオン。
二式戦屠龍で斬りつけても浅傷しか与えられず、しかもすぐに治ってしまう。
こいつら人間なのか?と思ってしまうレオンだった。
腕はレオンの方がはるかに上、速度はやや上、力は向こうが上だ。
「四式戦疾風」
疾風は気をある程度自由に操り、矛にも盾にもなる技だ。
浅い傷はギガンテスにはダメージとならないので、百歩神拳の強力版で殴りまくる。
流石の霊力シールドも衝撃は逃がし切れないらしく吹っ飛んで行く。
ただダメージが入っているかというとそうは見えない。
懲りもせずに殴られにやってくるギガンテス。
こいつらは学習能力がないのか、それとも経験がないのか。
まるで無数のゾンビに襲われているようだ。
『アンナ、イフリートを出せるか』
「ラジャーだよ。炎の巨人イフリート!!敵をやっつけちゃって!」
どこで覚えてくるのか、変な言葉を使うアンナであった。
ギガンテスの後ろに炎の巨人精霊イフリートが顕現する。
グラウンドが赤く照らされる。
イフリートの出す熱線がギガンテス達を焼くが、再生が早くダメージが蓄積しない。
「何て丈夫な奴らだ」
レオンが呆れてぼやく。
このままイフリートに攻撃させていてもらちが空きそうにない。
『アンナ!イフリートを戻せ。力を温存しろ』
「ウケタマワリー、イフリート送還」
数を減らさないと気を集中することが難しい。要するに大打撃を与える攻撃が出来ない。
ギガースはコトネの精神的ダメージを狙って、ペルセポネをいたぶる。
「猛虎三連撃(タイガ―クロー)!!」
コトネが右腕を振ると三本の斬撃がギガースを襲う。
ギガースは余裕で避けて見せる。
「それ、どうした?」
ギガースはコトネを怒らせてその隙を狙っている。だがペルセポネとの距離は空いた。
「一式戦隼!!」
超加速を使ってギガースの懐に入る。そして左腕で攻撃する。
「猛虎三連撃(タイガ―クロー)!!」
密着した状態からの攻撃をギガースは避けられない。
右脇腹から左肩に掛けて三本の斬撃が襲う。
そのまま、右手で背中に差した脇差を抜き、霊力を込めて胴を薙ぐ。
ついでに腕輪を斬って置いた。
ギガースは霊力を再生に回しているので動きが鈍い。
左脇を抜け、くるりと回って脇差を背中から心臓に刺す。
ギガースはその場に崩れ落ちた。
『油断しないでまだ心臓の音がする!』
従者通信でアンナから連絡が有った。
振り返るとギガースが目を開けていた。
「ふざけるな。なんで生きている!」
コトネが叫ぶ。
「へえ、こんなに暗いのによく見えるもんだ。猫と言うだけはある。」
呆れたギガースが立ち上がる。
「おのれ!」
「おいおい、俺ばかり見てていいのかよ」
ペルセポネの方を見るといつの間にか、女ギガンテスが復活して近付いていた。
「しまった!一式戦隼!!」
超加速の体当たりで女ギガンテスをはね飛ばす。
はね飛ばされた女ギガンテスにノルンが集中型ドラゴンブレスを放つ。
これはノルンが最近会得した技で直径十m位だったブレスを一mに集中して威力を増す技だ。
その間にコトネはペルセポネを抱いて離れる。
もう虫の息だ。
女ギガンテスを灰にしたノルンにコトネが叫ぶ。
「ヤヌウニさんの所へ、早く!!」
翼人のノルンはペルセポネを抱き上げて飛び立った。
ガン!!
かろうじて左腕で防御したが、いつの間にかギガースが後ろに忍び寄っていた。
「チッ、気付いたか」
「しぶとい!姑息!」
舌打ちするギガースをコトネが罵る。
人質が居なくなった以上ここに居る必要はない。レオン様と一緒に戦おう。そうコトネが決断した時だった。
「おい!!お前らあ!!寮に行って、ガキ共を片っ端からぶっ殺してこい!!」
「し、しまった!!」
ギガースの叫びにレオンと戦っていた六人が、バラバラに寮に目掛けて走り出す。
ハイデルブルグ学園には初等部、中等部、高等部、三つの寮がある。三人で六人の凶行を防ぐことは出来ない。
「アンナァ!!」
レオンが大声で叫ぶ
「土の精霊よ!!われの求めに応じよ!!ストーンドーム!!」
ゴゴゴゴゴゴという鈍い音と共にグランドの周囲に石の壁が出来る。やがて頭上に伸びてドームを形成した。
真の闇だ。コトネでも全く何も見えない。
「「ライト」」
誰言うとなくライトの魔法を全員が唱えた。
一挙に明るくなるドーム内に全員が閉じ込められる。直径百m、高さ五十mの巨大な半球型のドームだ。
ギガースが石の壁に向かっていく。
「こんな壁ぐらいで、閉じ込められると思うな!!」
ガキーンッ
ギガースの剣は大きな音と共に跳ね返される。
壁には傷一つ付いていない。
「リーダー、あれっ!!」
女ギガンテスがドームの中央を指差す。
そこには霊力の柱が立っていた。
地面から吸い上げられた霊力が柱となって、上空に居る獣に乗った少女に吸収される。そして少女から出た霊力がドームの頂点に注がれる。
よく見ると壁の表面に霊力が薄く高速で流れている。霊力が壁を守って居るのだ。そして霊力は地面に消えていく、循環しているのか。
「あのガキ、このデカいドームに霊力を・・・化け物か・・」
中央のライトの魔法が一つ、二つと消える。魔力の主を失った魔法が解除されている。
「しまった!!」
数で拮抗を保っていた戦闘が、人員をバラバラにしたため、レオンに各個撃破されているのだ。
「集まれ!!」
「もう、我々しか残っていません」
女ギガンテスが言った瞬間、顔の中心に赤い線が縦に走る。
頭を割られ、倒れた女ギガンテスの後ろからコトネが現れる。
「残りはお前だけだ!今度は生き返れないと思え」
ギガンテスは心臓が二つあり、一つをやられてももう一つの心臓を動かすことで死なない。だが死んだ心臓を再生するのに時間が掛かるので、心臓が再生するまで死んだふりをして凌ぐのである。
「お前、すぐに起き上がったから、死んだ心臓は再生できてないのと違うか?」
「な、何を言っている」
「もう一回刺してやろうか?」
ギガースは脂汗を流し始めた。戦闘中に霊力を心臓に集中する訳にも行くまい。
コトネは振りかぶって剣を振る。
ギガースは頭の上に剣を上げ、コトネの剣を受ける。
「二式複戦屠龍!!」
右足に気功の剣を発生させギガースの左足を斬る。
「グウワアアーー!!!」
ギガースの左足が太ももを切断されて飛んで行く。
バランスを崩して倒れたギガースの剣なり右腕も肘から先を切断する。
「グォーーー!!」
剣を手が届かない所まで蹴っ飛ばす。
「アンナ!!もう壁は仕舞って良いよ!!」
ドームが始めから無かったようにスッと消える。
「な、なあ、助けてくれ。お、お前達には二度と手を出さないと誓うから」
「お前には苦しみながら死んでもらう。クロエにしたようにな」
命乞いをするギガースにコトネは吐き捨てるように言う。
「お前オリンポスの事、話す気があるの?」
「レオン様」
「ああ、向こうの奴は話せないって言うから、死んでもらったけど」
レオンがコトネの横に来てギガースに話しかける。
「なんでもきい・・ききききき・・ガガガ・・」
ギガースが壊れた機械みたいな声を出し始めた。
「ああこりゃ駄目だね。ポセイドンみたいに爆発する気だ」
レオン様が手を横に振るとギガースの首が飛んだ。
ギガースの魔力の増幅は収まった。
「明日も学校だ。早く寝よう」
「でも、クロエの事が・・」
「大丈夫、命は取り留めたみたいだ。今は意識は戻ってないから、明日の放課後に行っといで」
「はい」
レオン達は寮へ帰ることにした。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はクロエのその後とレオンが決意を新たにします。次回で8章は終わる予定です。