8-11 猫獣人の悲哀
ご愛読、ありがとうございます。
今回は新たな敵ギガンテスの登場です。
レオンから直接の情報を諦めて、アキラの店に標的を移すペルセポネ。
そしてゼウスはレオンに刺客を送る。
アキラの店 <コトネ>
クロエ姉ちゃんに会った次の日の朝、私達は朝食を摂って行った。
「お前ら!朝はちゃんと食わねえと力が出ねえぞ!」
ジェリルさんが神狼娘達に叫ぶ。
どうも昨日の訓練で、スタミナ切れを起こした彼女たちに不足を感じているらしい。
「はいはい、分かりましたあ!」
「はいは一回って、言っただろうがあ!」
適当な返事をしたロッケにジェリルさんが怒鳴る。
「お前達、他の人の邪魔になる!静かに食べろ!」
レオン様が低い声で注意をする。
ジェリルさんがビクッとなると、神狼娘達が下を向いて笑いを堪える。
「ゴメン」
どうもジェリルさんは週末しか私達が来ないので、暇を持て余しているらしい。
近くで魔獣狩りがあれば行けばいいのに行かないらしい。どうもやりがいを感じなくなったらしい。
神狼娘達は大災厄まで戦って貰う契約をしたが、ジェリルさんは契約をしていない。どうするつもりなんだろ?
朝食が終わった時だった。
「レベル4が一人で接近してます。昨日の人です。いきなり店の前に現れました」
アンナがいつになく焦っている。そりゃそうだ、未だかつて、こんなに接近を許したことはない。
「レオン様、私に任せてください。目の前に現れたことに意味があると思います」
「取敢えず俺達も行く。安全そうなら二人で話をしろ」
私はクロエが忍者で幼馴染であることをレオン様には伝えてある。
私は店の前で一人で待つクロエに向かって歩いていく。
今日は店は開いていないし、朝も早いので人もいない。
レオン様達は出口で待っていてくれる。
今日のクロエは顔を黒い布で巻いて目だけが出ている状態で、服も下は黒いショートパンツと黒いタイツ上は黒い長そでのシャツ、背中に剣を背負っている。
私を連れて五十m位離れる。声を聴かせたくないみたいだ。
「チャコ、よく来てくれた。お前にも新しい名前があるんだろうけど、今は昔の名前で呼ぶよ」
「何の話?クロエ姉ちゃん」
クロエは少し目を閉じてまた開いた。覚悟を決めたようだ。
「あんた、あの男から離れて、私に付きな。殺されるよ」
「嫌だけど。どうして?」
「薄々知ってるだろうけど、私達の組織はあんたのご主人様に何度も煮え湯を飲まされてるわ」
「うん、知ってる」
「首領が怒ってる。多分、あんたのご主人様に討伐隊を出すわ」
「私達は負けないわ」
「普通の相手なら私もこんなこと言わないわ。そいつらアーレスより強いし卑怯よ」
「どういうこと?」
「狙うのはあんた達だけじゃないって言う事」
「一般人を人質にしたりするって事?」
「これ以上は言えないわ」
クロエは苦しそうに見える。もしかして・・。
「クロエ、あなた隷属契約を?」
「私の味方にならないなら仕方が無いわ。覚悟することね。今度会う時には殺してあげる」
クロエはそう言い残すと、慌てて去って行った。
私は引き留めようと手を伸ばしたが、その手が彼女に届くことは無かった。
クロエは私を勧誘する振りをして警告をしたんだ。
馬鹿!そんなことして大丈夫なの?
隷属契約で逆らえないくせに・・どんだけ無理したのよ。
アンタは未だに私のお姉ちゃんとしてふるまうんだね。
「大丈夫か?」
レオン様に心配をかけたみたい。私はクロエの言葉を伝えた。
いつの間にか涙があふれて居たみたい。
「レオン様、クロエは隷属契約をされてるみたいです。私を助けようとしてくれたのに・・・助けられませんか?」
レオン様は難しい顔をする。
「俺の持ってる隷属契約とは種類が違うようだ。俺のは単純作業しかできないくらいに知性を奪うんだ。彼女は難しい事をやっていたようだ」
「オオオオッ!」
私は我慢しきれずに大きく嗚咽を漏らしてしまった。
ヘスティア達がやっていた隷属契約とは確かに違う。
「術者か主人を殺せば契約は解けるはずだ。チャンスを待とう」
レオン様が優しく頭に手を置いた。
私はレオン様に抱き着いて、また泣いた。
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帝城 謁見の間 <レオン>
三日後、バルドゥール王国での戦争の論功行賞の式に呼び出された。
結論を言えば
俺、赤龍勲章、特従四品、大金貨十枚だ。
赤龍勲章は軍の勲章で上から三番目だ。
特従四品は特は正式な任官ではなく外部の人間などに与える品位だ。従四品は軍で言えば少佐クラス
コトネ、アンナ、ジェリル、黄虎勲章、特正六品、金貨十枚だ。
黄虎勲章は真ん中ぐらいの勲章だ。
特正六品は准尉か曹長クラス。
神狼族、青六花勲章、特正五品、金貨二十枚だ。
六花の勲章は団体の勲章で上から四番目、正五品は大尉か中尉だ。
「レオンハルト殿、ありがとうございます」
戦勝記念パーティーのおり、神狼族の族長(ジェリルの爺ちゃん)からえらく感謝された。
神狼族に箔が付いたそうだ。
「ぶしつけじゃが、ジェリルを貰ってやってくれませんか。ああ、もちろん妾で結構です」
びっくりしたあ、爺ちゃんなんてこと言うんだ。そんな目でジェリルを見た事無かったからあわててしまう。
「いえ、まだ、学生の身。そう言う話は身を立ててからお願いします」
まだ俺は、何をすると決まってない。そんな状態で嫁を貰っても身を持て余してしまう。ましてや子供なんぞ出来た日には足かせになりかねん。
長男だと継ぐ家があるので、成人すると結婚するのが普通だ。三男坊にはそんな甲斐性は無いのだ。
爺ちゃんには神狼娘達に礼を言ってあげてくれと言っておいた。
神狼娘達はどうしたのかって、そんな所へは行けませんって全力で断られたよ。
コトネは前に王太后様にもらったドレスを着せようとしたが、頑として譲らずに居たのでアンナの分と一緒にカリシュさんにフォーマルのスーツを作って貰った。二人はパーティーの食事を楽しんでいたようで微笑ましかった。
問題はジェリルだ。彼女はフルプレートメイルをつけて騎士の格好で居る。もうちょっと色気出せよ。爺ちゃんが心配してるぞ。
さっきから娘さんたちが秋波を送ってくるのだが、どうしたものか。
俺みたいに品位を貰って、伯爵の三男坊だと引く手数多みたいだね。まあ、年金も貰えるからね。
もしかすると高位の職を与えられるかもと期待しているみたいだ。浮名を流すつもりもないので相手にしませんが。
フェリ様達は学園を休む許可が下りずに登校してる。明日は機嫌が悪いんだろうなあ。
夕方パーティーも終わって幌馬車で帰る時にジェリルに聞いた。
「ノア達にお金を渡さなくて良いのか?」
「ああ、良いよ。あいつらに金貨渡しても神狼族に行くだけだからな。小銀貨の方が喜ぶぞ」
大銀貨を四枚渡して置いた。
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マイアの拠点 <マイア>
「酷い!、なんで!なんで!こんなことするんだよ!仲間じゃないのかよお・・・」
床に裸で血まみれになった猫獣人が倒れていた。
私は涙を流しながら、部屋に居る男たちに文句を言った。
この男達はギガンテス、聖金字教に仇成す者たちを葬る暗殺集団だ。
昨日、諸国連合からこちらに来て、レオンハルト襲撃の作戦を練っていた。
そして今日、私がアイスレーベンから戻るとこうなっていた。
「ククク、獣人が仲間であるものかよ」
「情報はもう聞いたから、こいつは用無しだ」
「獣人とは言え、若い女だ。我らの役に立って貰っただけだ」
「隷属の腕輪がある限り、こ奴は我らには逆らえん」
右腕の腕輪を見せて、男は意識の無いペルセポネの体を蹴っ飛ばした。
彼女の体はまるで死体の様に転がった。
「やめなさいよ!、あんた達もなんで止めないのよ!」
後ろで見ているギガンテスの女たちに言った。
「だって、獣人だし。あいつらもガス抜きしとかないとアタイらが危ないじゃん」
なんて奴らだ。
私はペルセポネを抱えてこの子の部屋に運んだ。
この子は生意気だけど悪い子じゃない。それなのに獣人と言うだけでこんな目に会うなんて。
彼女の身体を拭いて、傷の手当てをする。幸い、深い傷は無さそうだが骨は何本か折れていそうだ。
ヘルメス、私もうやっていけそうもないよ。
ミイラの様に包帯だらけになった少女を見て呟く。
私はヘルメスの伝手で、ただ単に管理能力を買われて幹部に登用されただけだ。
こんな暴力にはついて行けない。行きたくもない。もう金字教に関わりたくない。
「ゴメンよ。ペルセポネ、私、何にもできないよ」
日付が変わろうかという頃、ペルセポネは骨折によると思われる高熱が出ていた。
「明日、治癒院に行こうね」
私の声も聞こえてはいないだろう。
その時扉が乱暴に開けられた。
「おい、まだ生きてるか?」
ギガンテスのリーダー、ギガースだ。
「何の用よ。騒がしくしないで!」
ギガースはペルセポネが生きていることを確認して抱きかかえようとする。
「やめて、死んじゃうわ」
私はギガースの腕にしがみ付く。
「うるさい!」
ギガースが腕を振ると私は壁まで飛ばされた。
「グゥ!何をするの!」
「夜襲を掛けるんだ」
「暗い中、襲ったら逃げられるわ」
「そのための人質だ」
ペルセポネを人質にすると言うの?
「ラッキーなことに、こいつは奴の従者の猫獣人の幼馴染だ」
ペルセポネをシーツで包むと、肩に乗っけて部屋を出て行った。
「ごめんなさい。・・・私にあなたをたすけられな・・い」
私は床に突っ伏した。
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ハイデルブルグ学園 学生寮 <レオン>
深夜、俺はアンナの声で起こされた。
「レオン様!レオン様!変なのが来るよ」
俺は飛び起きた。
「落ち着け、何が、距離と到着予定時刻は」
「えっとねえ。お姉ちゃんの幼馴染とレベルは0なんだけど霊力がとんでもなく強い奴が八人、距離は千八百m、約十五分で着く」
「良し、着替えろ。コトネとゴロとノルンを呼ぶ。ゴロとノルンはロキ連絡頼む」
『任されよ、御主人!』
「ここでは犠牲が出る。グラウンドに出るぞ」
本来なら帝都の外に出たいがそこまで待ってはくれないだろう。
グラウンドの周りの校舎には今の時間人はいない。
俺達が外に出るとコトネが合流した。そのままグラウンドに向かう。
「敵でしょうか?」
「まず間違いない。問題は君の幼馴染が居ることだ」
コトネは暫く考えた後、言った。
「私達は今戦争をしています。彼女を思いやることは出来ません」
コトネが割り切れるか心配だったが、大丈夫そうだ。
そうこうするうちにグラウンドに着いた。ゴロとノルンも到着した。
「アンナはゴロと相手の攻撃が届かない空中から攻撃してくれ」
「ノルンはこちらに敵を誘導、コトネは俺と地上戦だ」
敵がここに来るまで約五分、こちらの準備は出来た。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回はギガンテスとの戦いの予定です。