8-10 予期せぬ再会
ご愛読、ありがとうございます。
今回は戦争の準備をする両陣営です。
オリンポスの方針が解り、ペルセポネは帝都に着任した。
帝都 アキラの店 <ペルセポネ>
私は帝都に着いた翌日の朝、アキラの店に来ていた。
レオンは昨日からこの店に来ているからまだ居るはずだ。ちょっとかまってやるか。
うん、何か出て来た。今日は休みで動きはないはずだが、幌馬車が出て来た。
私は普通の通行人を装って、すれ違ってみる。
猫獣人と狐獣人の少女が御者をしている。奴の従者だ、と言う事は馬車の中にレオンが居るに違いない。
どうする。馬車を追うか、店を探索するか。
店は明日以降でも探索できる。今日は馬車を着けよう。
探索が得意な狐獣人が居るから注意しなくては。私は同じ方向に行く馬車の下に潜り込み、ぶら下がる。
幸運なことに帝都の正門を出ても数百m離れて同じ方向に進んでいく。
暫く行ったところで前の馬車は森の中へ入って行く。
当然私がぶら下がっている馬車は真直ぐに行く。私は飛び降りるとレオンの馬車を追った。
くそ、私の自慢の黒髪も、昨日変装用に買った洋服も埃まみれだ。
「隠形!」
隠形を使えば目の前に居ても、見逃してしまうぐらい存在感が無くなる。
私は気配を消して、さらに後を追う。
<ここからコトネ視点>
「あれ、消えた」
御者をする私の横に座っているアンナが、変なことを言う。
「どうしたの?」
「一人、森の入り口に居たんだけど、急に消えたの」
「消えたってどういうこと?」
停まったとか引き返したんじゃなくて、消えたってどういう意味なのか解らなかった。
「うん、ずっと後ろの馬車にレベル4が居たから注目してたんだよね。森の入り口まで来たんだけど消えちゃったの。本当にプツンって感じで」
一つだけ思い付いたことがある。それはアヤメさんに教えて貰った・・・。
「アンナ、良い?私に注目して」
「うん」
「隠形!」
「消えた。探索情報が無くなったよ」
「やっぱり、そいつはまだ私達の後を着けているよ」
そいつは隠形を使って私達の跡を着けてる。
「アンナ、御者をお願い。多分敵だから見てくる」
私はワンピースを脱ぎ捨て収納庫に入れ、脇差を出す。
いつものスキンアーマースタイルだ。
「レオン様、追跡者を確認に行きます、先に行っててください」
「アタイも手伝おうか?」
ジェリルさんの声に答える。ジェリルさんのような存在感の大きな人には、この仕事は出来ない。
「これは忍者の仕事です」
「気を付けろ。無理はするな」
「分かりました」
私はレオン様の声を聴きながら馬車を飛び降りた。
一、二分でここを通るはずだ。私は木に登って身を隠す。
取敢えず拘束して、組織の事や狙いを聞き出さなきゃ。
・・・来た!。
見ていても見逃しそうになるくらい存在を消した少女は、道を追ってきた。
「誰だ!」
私は声を反対側の木の根元に飛ばした。声を任意の場所に飛ばす伝声の術だ。
少女は反射的に声の方、私が居る反対側を見る。
私は木から飛び降りて、少女の首に刀を当てる。
中身がない!、少女の服が頼りなく地面に落ちる。
「ちっ、空蝉の術か」
空蝉の術は着ていた服などを蝉の抜け殻の様にその場に残して逃げ、その場にまだ居ると勘違いさせる術だ。
下着姿になった少女はもう、逃げにかかっている。
「一式戦”隼”」
私は超加速で少女を追い越して振り返る。
その少女の顔を見た瞬間、時が止まる。
下着姿の少女は警戒してナイフを構える。
「クロエ姉ちゃん・・・」
私の口から彼女の名前が漏れる。
少女は怪訝な顔をして私を見た。
「・・・チャコなの?」
彼女は私の幼女時代の名前を言うと、すぐに逃げ出した。
私は追わなかった。いえ、追えなかった。
私より先に売られていった村の孤児の少女。
クロエ姉ちゃんが敵の組織に居るのか?
私はレオン様の元に戻ることにした。
昔のことが頭の中に蘇る。
七年前、村に兵隊が攻めて来た時、私達、小さな女の子は塊になって、少し離れた畑で仕事をしていた。
少し大きな女の子は草引きをしながら豆を収穫していた。私は背中に他所の赤ちゃんを背負ってあやしていた。
その頃私は茶色の髪の毛なので仲間内ではチャコと呼ばれていた。
私の村では小さな女の子に名前を付けることは無かったからニックネームを仲間内で着けていたようだ。
正式な名前は成人するか結婚する時にでも付けたのだろう
村で叫び声や煙が見えた時、私達は村へ帰ろうとした。
その時だった。クロエ姉ちゃんが言ったんだ。
「駄目だ!騒ぎが治まるまで隠れてるんだ。今行くと村の人の邪魔になる」
いや、クロエ姉ちゃんじゃなかったかもしれない。同じような歳の女の子はほかにも居たから。
私達は泣いて騒ぎが収まるのを待っていた。
ずいぶん長い時間に感じたことは覚えている。
皆、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。大きい子も小さい子も。
去って行く兵隊の声が聞えた。
私達の話す言葉とは違っていた。
他所の国から来たんだ。
兵隊の声が聞えなくなって、私達は村に帰った。
村は酷い有様だった。立っている人はいなかった。家は燃やされ、抵抗した人だろうか何人も死んでいた。
私達は涙も枯れていたが泣くしかなかった。
暫くすると逃げていた大人たちが帰って来た。
その中に私の両親はいなかった。
後片付けが済むと兵隊たちは村の収穫物を持って行ったことが解った。
村には食料が無い。
十歳以上の未婚の女の子は皆売られた。食料を買わなくてはならない。
暫くすると金が足りないことが解ったのだろう。クロエ達孤児の六から十歳の女の子も売られた。
私は残った孤児の中では一番上だった。
それから一月位経った頃だっただろうか。魔獣を討伐する兵隊もいなくなったのか魔獣が村を襲った。
村長は近くに居たヨシムネ様に討伐を依頼して、私がヨシムネ様に貰われた訳である。
しかし、三つ子の魂百までとは良く言ったものだ。あの頃一緒に居た女の子の顔はよく覚えている。
クロエ姉ちゃんはその頃八つか九つかだから、顔の変化が少なかったのもあるかも知れない。
私はクロエ姉ちゃんがどこに貰われたのか知らない。
もしかしたら聖金字教国かも知れないな。
いつもの訓練場に着いた私はすぐにレオン様に報告した。
「済みません。顔見知りだったので、咄嗟に動けませんでした」
私は正直に話した。レオン様に嘘は吐けない。例え怒られるとしても。
「良いよ、君が傷つかなければ、・・心もね」
レオン様は失敗しても私を気遣ってくれる。
「ありがとうございます」
「敵にも忍者が居るんだね。アキラさんにも伝えておかないと」
******
帝都 マイアの拠点 <ペルセポネ>
私は乱暴にマイアの執務室のドアを開けた。
「フー参った参った」
おばさんは私の格好を見て噴出した。
「何、あんた、その恰好。プフ」
私は下着の上に薄い布を巻き付けた格好だった。
「うるさいわねえ」
「なんだ、負けたのに元気じゃないか」
普段着に着替えながらおばさんを見る。
「アンタの情報が不正確。もっと正確な情報を集めなきゃ」
「何が違ってたって言うのよ」
「狐獣人の探索距離は数百m以上あった。多分一km以上よ。それに猫獣人の強さはアーレス・ヘスティア以上だ」
おばさんは驚いてる。自信があったのだろう。
「嘘よ。ヘルメスと私の手下が調べたのよ」
「猫獣人に顔を覚えられた。狐獣人にも私の特徴を覚えられたと見るべきね。レオンの情報収集は無理ね」
「どうするのよ?」
「レオン達がいなくなったらアキラの店を見張るわ。あそこも秘密が多そうだから」
ああ、初っ端から失敗しちゃったな。もっとも狐獣人が居る限り、誰がやっても接近は難しいわね。
「その隠形とかで近付けば良いんじゃない?」
おばさんは人の苦労を知らないんだ。
「隠形は一時間も持続できないの。二km手前から隠形使ってまた帰ろうと思ったら情報収集の時間が無くなるし、二kmって言うのが正しいかも判らないのよ」
おばさんは思い付いたような顔をした。
「そう言えば遺跡探索の帰りを襲った時に随分手前で見つかったって言ってたわね」
地図を出して覗き込み、ブチブチ言い出した。
「えーと、ここですでに陣地を構築っと・・・前衛部隊はその時点で・・・ヘルメス達は・・」
顔を上げて自信満々にしゃべりだす。
「そうね、あんたの言う通りよ。ヘルメスは二kmは手前で見つかってる」
非常に残念な奴だ。
「ああ、もう、何でそんなこと調べておかないの。解ってたら顔を覚えられるドジを踏まずに済んだのに」
「だってそんな事、考えられないじゃない」
駄目だ。私情を入れるようじゃ、正確な情報を取れない。
さて、どうするか、顔が割れてる以上チャコに近付く訳にはいかない。あっちの方が強いし、忍者の技まで使ってるし、あいつどういう育ち方をしたんだよ。
学校も行かせて貰ってるみたいだけどなにか企まれてるのかな?
十二歳で中等部二年って飛び級してるじゃないか。頭も良いのかよ。
待てよ、世の中そんな甘い話がある訳が無い。
ああ、心配になって来た。あいつ絶対騙されてる。助けてやんなくちゃ。
お姉ちゃん気質の抜けないペルセポネであった。
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ハーヴェル諸国連合 ヘルメス拠点 <ヘルメス>
ヘルメスは諸国連合の行政を自らを首長として作り上げ、ヘパイストスの生産拠点を作り、国民を徴用して軍隊、食料、物資の生産体制を整える。
彼にとっては本職と言える業務なので水えた魚の如しである。
部屋の戸がノックされた。
「入れ」
連絡兵が戸を開いたところで報告をする。
「本部より将軍がお着きです」
「そうか、こちらへ通してくれ」
ゼウス様にはポセイドンとアーレスの代わりを要請して置いた。さあてどんな奴が来たのやら。
俺は将軍はポセイドンとアポロン以外知らない。アポロンは正規軍を率いているから来れるはずがない。
一応、俺はオリンポス十二神なので立場的には俺の下になるか、もしくは新たに欠員の出来た十二神に入れたのか。
まあ、俺は自由にやらせてもらえるなら十二神でなくても良いがな。
「失礼します」
背の高い痩せたイケメン男と筋骨隆々の全身鎧のゴリラ男が入って来た。
「私は新たに十二神を拝命したプロメテウス。諸国連合軍を統括します」
鎧男はプロメテウスの隣に立ったまま微動だにしない。
「おい、挨拶をしろ」
プロメテウスに肘打ちされ、子猫の様にビクッとした。おいおい、大丈夫か?
「お、おで、へ、ヘラクレス」
名乗りを上げるとまた直立不動に戻った。
「こう見えてアーレス以上の戦闘力があります」
まあ、ゼウス様の人選だ。俺が文句を言う立場にない。
「おい、大尉を呼んでくれ。話は大尉から聞いてくれ」
戸の所で待っていた連絡兵に命令する。
「ああ、そうだ。戦闘はいつごろになりそうなのだ?」
俺は気になっていた点を聞く。
「ゼウス様は冬を避けたいので半年後位と聞いております」
「分かった」
食料が心配だが何とかなるか。
「あ、そうそう。裏の者を連れてきましたのでレオンハルト=イエーガーの首を取れとのことです」
「え、」
そんなこと簡単に言うなよ。
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この小説は水曜、土曜の0時にアップする予定で書いています。
次回は情報収集に奮闘するペルセポネとレオン達と裏の者の対決の予定です。