0-1 三男坊 ダンジョンで出会う
中世ヨーロッパに似た世界にレオンハルト=イエーガーと言う男が居た。男は辺境貧乏男爵の三男だ。
戦闘能力を現す身体強化レベルが兄姉に比べ、とっても低いので、イエーガー家のミソッカスと言われている。
故郷を襲った災害により入学を取りやめられたレオンは、二人の獣人の少女をお供に自分の力で学校に行ってビッグになろうと故郷を飛び出た。
何かと寄ってくる姫達、彼と彼の家族を襲う陰謀や災難を乗り越えて、彼はビッグになれるのか。乞うご期待。
俺の名はレオンハルト=イエーガー。貧乏男爵家の三男坊だ。
俺は今、イエーガー領の外れの森に出来たダンジョンの前に居る。
ダンジョンと言うと外観は洞穴を想像して貰えばいい。深さはいろいろあるが、こんな辺境に出来るのは深くて5階層までだろう。
ダンジョンとは何かと聞かれると困るが、巷では魔界と呼ばれる異世界との通路と言うのが定説だ。
そしてその中には魔素が充満し、魔獣と呼ばれる獣のような姿をした化け物が居る。
俺の前には三人が並んで通れるだけの大きさの入り口が口を開けている。
「レオン坊ちゃんは俺達の後ろでカール達と一緒に歩いて下せえ」
従士長のペーターが俺の愛称で注意する。なんか俺を子守とか考えていそうだ。
父は十二人の従士を使っている。今日はそのうち半分の六人が来ていることになる。
「危ないようなら逃げることもあります、油断はしないでください」
カールも俺に注意する。一応俺に礼を尽くすが内心ではどう思っているのか解らない。
俺は兄弟のうちでミソッカスと影で呼ばれているからだ。
父は昔傭兵をやっており、手柄を重ねて貴族になった。ペーターはその頃からの生え抜きだ。
カールは生え抜きの一人の長男になる。
ダンジョンは時間が立つと大きくなることがあり、中に住む魔獣も強くなり、魔獣も増えて溢れて外に出ると言われている。
だからまだ小さいうちにボスの魔獣を倒してダンジョンを消滅させると安心できる。
と言うことでダンジョンを潰しに来たわけである。
俺でも一応二年間剣術の稽古もやって来たので、そこそこ自信があり、父に頼み込んで着いて来たのである。
「行きますぜ」
ペーター達三人は俺達に先行して洞窟に入る。
彼らは槍を手に持ち、剣は腰に差している。狭い洞窟内で剣を振り回すと味方に迷惑だし、ほとんどの魔獣は武器を持たないので、相手の間合い外から攻撃できる利点がある。
「我々も行きます」
カールが先頭で俺がその後ろだ。後ろの二人と俺を囲んで守ってくれているのであろう。
「ライト!」
カールが唱えると光の球がカールの前に浮かび俺達を照らした。
一番後ろの従士もライトの魔法を唱え、俺達の周りは明るくなる。
前の組も同じようにしているのだろう。洞窟の少し先に明かりが見える。
俺達は攻撃魔法は使えない。使えるのは多くの魔力を必要としないライトなどの生活魔法位だ。
攻撃魔法を使うのはほとんど女性だ。子宮が魔力袋になってると言う説もあるくらいだ。
ちなみにうちの母と姉は攻撃魔法の使い手だ。遺伝によるものが大きいので十歳の妹も恐らく使えるようになるだろう。
身体強化の魔法が使える者は男女問わずに居る。
ただ強化の強さでレベル分けされている。
父はレベル6、長兄がレベル5、次兄は何とレベル7、レベル3以上あれば兵士として引く手あまただ。
ちなみに俺はレベル1、ペーターとカールはレベル2だ。
おかげで俺はイエーガー家ではミソッカス扱い。力ではすぐ上の姉に負けるくらいだ。
「前の組が一階層に出たようです」
はば10m奥行き20mくらいの広場があり、前の組が叫んだり、走ったりしているように見える。
カールが前に出ない様に俺の前に腕を伸ばして、一階層を眺める。
俺の心臓は早鐘の様に大きな音で素早く鼓動を打つ。
カールに聞こえるとカッコ悪い、ビビってると思われてしまう。
「もう大丈夫です」
前の喧騒は収まっていた。
「ここにはもう魔獣はいねえぜ。すぐに二階層に降りるぞ」
ペーターが俺達の前に来て言うとすぐに踵を返す。
「何匹居たの?」
俺が聞くとペーターの後ろの奴が片手を広げる。
「五匹居たようですね」
カールが俺の緊張をほぐすようにニコッと笑った。
魔獣は魔界から来た異界の獣だ。いろいろな動物に似た魔獣が居るが、死ぬと魔石と言われる石を残して、魔素になって消えてしまう。
ペーター達は一階層の奥にあった通路を降りて行った。
俺達も跡を追った。
二階層もペーター達だけで制圧した。
ので俺の出番は無かった。
せっかく着いて来たのだし、俺も戦いたい。
三階層ではペーターたちが広間の入り口で中を伺っていた。
「カール、ここがボス部屋みたいだ。奥を見てみろ」
「身長2.5m以上のミノタウロスとオオカミ10匹ですか?とんでもないですね」
広間を覗き見たカールは、少し怯んだようだ。
ペーターは作戦を考えているようだ。
「まず全員でオオカミを出来るだけ倒す。ミノタウルスは足が遅いからこちらに来るまでに4、5頭は倒せるだろう。後はカール達が俺達の方に来ないようにしてオオカミを倒してくれ。ミノタウルスは俺達三人でやる」
三階層の広間は広くて20m、30m位ある。
皆でワッと広間に入ると、作戦通りオオカミが全速力でこちらに向かってくる。
俺は槍を投げて一頭を倒すともう一頭をすれ違いざまに抜き打ちにした。
俺だって十二歳から二年間先生に着いて鍛錬した。身体強化レベルは低いがそこそこ戦える。
一瞬で六頭のオオカミが倒され、作戦通りカール達が残りのオオカミをミノタウロスから引き離す。
遅れてやってきたミノタウロスとペーターたちの戦いが始まった。
ミノタウロスは巨大な戦斧を振り回す、槍でもその間合いに入ることは難しい。
俺はさっき投げた槍を拾って、ミノタウロスの後ろに回る。
そしてミノタウロスの太ももに体ごと思い切り槍を突き通す。
「GYAAAA!!」
ミノタウロスは俺目掛けて戦斧を振り下ろす。俺は槍を離して、後ろに跳んで間合いを取る。
ペーター達はその隙を逃さずミノタウロスの胸に三本の槍を突き刺す。
「GUAAA!!」
ミノタウロスの断末魔の声が聞えた。
俺が着地するとそこは三階層では無かった。
「なんだ、ここは何処だ!」
周りを見るとさっきより狭い部屋に居る。
「ペーター!!、カール!!」
呼んでみたが返事がない?
どういうことだ?
俺は何処にいる????
「ああ、うるさい!ちょっと静かにしてくれる」
女の声が聞えたので、振り向くと黒ずくめの服とのっぺりとした仮面を着けた女と獣人の子供がいる。
他に人間が居たことで俺は少し落ち着いた。
「君は誰だ?ここは何処だ?」
「人の名前を聞くときには自分から名乗んなさい!」
女は偉そうに腕組みした。
「済まない、私はレオンハルト=イエーガー、この領を治める領主の息子だ」
一応、貴族らしく答えてみた。
・・・・・・返答がない。
「おい!俺は名乗ったんだから、お前も名乗れよ」
俺が怒ると地が出た。
「もう気が短いわね。私はミラよ」
「ここは何処だ?」
「ここ?ここはダンジョンで言うと四階層よ」
返答に淀みがない。全く今の状態に疑問を抱いていない様だ。
俺は一階層落ちたのか?しかし上を見ても穴は無い。
「え!、じゃあお前は魔人か!?」
大きなダンジョンには魔人と言われる異界の住人が居る時があると聞いたことがある。
「お願いがあるからあんたを呼んだのよ」
ミラは仮面の下でどういう顔をしているのか解らないが、機嫌は悪くなさそうな声をしている。
「お願いだと?」
俺は警戒しながら聞き直した。
「あんた、偉い人の子供らしいし、そこそこ強そうだからこの子を預かって欲しいのよ」
「俺が強いって?それにこの子って、その獣人の子供?」
「あんた充分強いわよ。怖がっているからその変わった剣をおさめてくれる?」
「ああ、済まない」
相手が丸腰なのにいつの間にか剣を構えていた。しかし、俺が強いってどこを見てるのか?
別にビビッてたわけじゃねえし。と強がっておく。
「その剣は何処の剣、見た事無いわ」
俺が剣を鞘にしまう。ミラは剣に興味を抱いたようだ。
「これか、これは刀と言って東洋の剣だ」
「東洋の剣?なんであなたが持ってるの?」
「家庭教師の先生が急な用で故郷に帰らなきゃいけなくなって、小間使いの女の子が獣人だから、故郷では差別されるから引き取ってくれって言われて、その礼に貰った」
女は首をかしげて考えた。
「じゃあ、私も何かあんたにあげなきゃいけないってことね」
「まだ預かるとは言ってないけど」
一方的に俺が預かることになってしまっていた。
「じゃあ、勿体ないけど次元収納庫をあげるわ。よろしくお願いするわね」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
俺が手を伸ばして、一歩踏み出すとそこは洞窟があった場所、地表だった。
「レオン坊ちゃん!どこに行ってたん・・・・」
カールが俺を見つけて駆け寄ってきたが、俺の腰のあたりを眺めて絶句している。
俺もカールの視線の先を見ると獣人の子供がしがみ付いている。
「ええー、着いて来たの―」
ペーターたちにミラのことを言ったが誰も信用してくれない。
ダンジョンで突いて来た少女の正体は一体、
レオンは学校に行けるのか?