プロローグ
大人になってから僕は、人生って結局は個人的なものなんじゃないかと思うようになった。どんなに多くの人や家族に囲まれて暮らしていたとしても、互いの心を全て分かり合うことは難しいから。だから人は自分自身との果てしない対話の中で生きることしか出来ないんじゃないかと。
どんな有名人でも権力者でも、あるいはどこにでも居るような一般人でも、みんなきっとその揺るぎのない事実の中で生きているのだと僕は思っていた。そして夜に自分の部屋に帰ってぼんやりと天井を見上げる時、布団にもぐり込んで静かにまぶたを閉じる時、人はそのことにふと思い当たるんだと。そんな瞬間って寂しくて孤独で、どこかに向かって叫びだしたくなる。まるで太平洋の真ん中に一人で取り残されてしまったような、そんな気持ちだ。気付けば心の中は冬の夜みたいに冷え切っている。絶望が、遥か遠くの方でその後ろ姿を見せている。
そんな時ってどうすれば良いのだろう?僕はいつも、布団をかぶってただ朝を待つことしか出来なかった。そして次の日にはそのどうしようもない事実を綺麗さっぱり忘れてしまおうとした。誰かと取り留めのないことで笑いあったり、騒いだりして。でもそんな孤独な瞬間は忘れた頃にいつもやって来た。だから僕はずっと探していたのだ。孤独な夜を乗り越えられるような、心の深い場所での誰かとのつながりを。けれど2020年にやって来たコロナウイルスは人と人とのつながりを分断した。そして孤独というものの本当の姿を思い出させたのだ。