21.デート
彩那視点
紫音ちゃんのご両親とビデオ通話でご挨拶をした。紫音ちゃんに聞いていた通り、スマホに映る2人はものすごく距離が近かったし、紫音ちゃんのお父さんがお母さんの事を愛しげに見つめる視線には見覚えがある。私の事を見つめるときの紫音ちゃんにそっくりだった。
そしてトリセツにはどんな事が書いてあるんだろう……?
「彩那さん、朝からありがとう」
「ううん。ご挨拶出来て良かった」
「今日はどうする? 夕方からのシフトだから結構時間あるけど、出かける?」
「この前公開された映画見に行ってもいい?」
「もちろん。彩那さんとなら、どこにだって行くよ」
うん。やっぱりよく似てる。
「紫音ちゃん、ホラー映画苦手だったんだね」
「……そんなことないし」
「途中見てなかったでしょ」
「……見てた」
苦手だったら悪いから、チケットを買う前にホラー映画を見られるか確認をした。大丈夫、と笑顔で言われたから問題ないと思ったけど、ポーカーフェイスだったらしい。
途中でギュッと目をつぶっていたり、繋がれた手に力が入ったり、反応が可愛らしかった。
「じゃあ、今度お家でも見てもいい?」
「え」
「ん?」
「……彩那さん笑ってるじゃん」
「可愛いから」
「彩那さんが見たいならいいけど、ぎゅうしてて」
「かわい」
何この子? 可愛い。
「彩那さんがホラー映画好きだなんて知らなかった」
「怖いけど見たくなるんだよね」
「えぇ、私には分からないや」
「苦手だとそうだよね。見る前に苦手って言ってくれて良かったのに」
「だって、かっこ悪いじゃん」
ちょっと拗ね気味の紫音ちゃんがひたすら可愛い。紫音ちゃんには悪いけど、ホラー映画を見てよかったな、なんて。こんな紫音ちゃんが見られるなら、また一緒に見たいな。
「どんな紫音ちゃんも好きだよ」
「ーっ、それはずるい……」
「お昼食べに行こ?」
「うん」
先に立ち上がって繋がれた手を引けば、反対の手で顔を隠しつつ立ち上がった。
照れているらしい。可愛い。
「彩那さん、このお店チケットの半券見せるとデザート貰えるって」
「ここにする?」
「美味しそうだし、入ってみようか」
映画館に隣接しているショッピングモールの洋食屋さんに入って、窓際の席を案内された。
「彩那さん、何にする?」
「ハンバーグかな」
「じゃあ、私はナポリタンにしようかな。すみません、注文いいですか?」
「あ、はい! もちろんですっ!!」
隣の席の片付けをしていた店員さんを呼んで注文をしてくれているけれど、店員さんの目がハート。
片付けをしながらチラチラ紫音ちゃんを見ていたのには気づいていた。呼ばれて笑顔になってたし……
紫音ちゃんはチケットの半券で貰えるデザートの種類を教えて貰って、ありがとうございます、と笑顔を向けていた。あーあ……
「可愛かったね」
「そうだね。彩那さんに絶対似合うよ」
「え?」
「うん??」
店員の女の子のことを言ったつもりだったけど、似合う、って服のこと?
「さっき来てくれた女の子、可愛かったね、って」
「……彩那さんああいう子がタイプなの?」
「えっ、違う違う」
なんか誤解されて落ち込んでる……
「紫音ちゃんのこと見てたから」
「あー、そっちか。服可愛いなって見てたけど顔はあんまり見てなかったなぁ」
「服……」
「心配しなくても、私は彩那さんにしか興味ないからね」
「……うん。分かってる」
紫音ちゃんは相変わらず真っ直ぐだなぁ。
「お待たせしました」
「「ありがとうございます」」
紫音ちゃんは今度は笑顔を向けることはなく、店員さんの方を見ようとしなかった。
明らかに紫音ちゃんに向けて料理の説明をしていたけど、紫音ちゃんが視線を向けてくれないからか、諦めて戻って行った。
「彩那さん、少し食べる?」
「いいの?」
「もちろん」
さっきまでの無表情が嘘みたいに、優しく笑って小皿に取り分けてくれた。
「あーんする?」
「いや、それは大丈夫」
「ちぇ」
こんな所で食べさせてもらったら、店員さんから睨まれちゃう。そんなことになったら、紫音ちゃんが怒りそうだしな……紫音ちゃんのお母さんも、予想もつかない方向に暴走することがあるって言ってたし。まだまだ知らないことばかりだから、時間をかけて知っていこう。
「彩那さん、どれが欲しい?」
「紫音ちゃん得意なの?」
「うん。実は得意だったり」
ご飯を食べ終えて、紫音ちゃんに連れてこられたのはショッピングモール内のゲームセンター。かなり広くて、奥の方までクレーンゲームが並んでいる。
「一通り見てもいい?」
「もちろん」
「多すぎて迷うな……」
「これすぐ取れそうだけどいる?」
「うーん、これはいいかな」
「あれは? 彩那さんの好きなアニメだよね?」
「あ、うん。でもあれ、抱き枕だよ? 紫音ちゃん寝るところなくなっちゃうよ?」
「はい却下!」
焦ったように私の手を引く紫音ちゃんが可愛らしい。
「あ、これかわいい。でも大きいから無理そうだよね」
「んー、取れそうな気はするな」
「両替してくるね」
「さっき両替したから大丈夫!」
いつの間にか両替してくれていたみたいで、お金を入れて操作を始めた。真剣な横顔がかっこいい。
「えっ、凄い! あー、落ちちゃった」
「うん、これなら後2、3回くらいで取れそう」
「うわ、惜しい! あと半分だったのに……」
「かわい……よし、落ちた」
「えー、凄い!!」
「はい、どーぞ」
横で騒ぐ私を優しい目で見て、大きなぬいぐるみを差し出してくれた。
「大量だね……」
「はは、ちょっと張り切っちゃった」
これは無理、とすぐ諦めるのもあったけど、簡単そうに取ってくれるから私も楽しくなってしまった。最初に取ってもらったぬいぐるみ以外は、紫音ちゃんが持つ大きなビニール袋に入れられている。
「あれ、あの親子まだ頑張ってる」
「そうなの? 彩那さんよく見てたね」
「さっき隣の台だったよ?」
「そっか」
紫音ちゃんは全然見ていなかったらしい。
「あー、そっちか……」
「取り方が違う?」
「うーん、アームの位置がそっちだと、戻っちゃう」
「あ、ほんとだ……」
私には全く分からないな……紫音ちゃんが簡単そうに取るから、私も試したけど全然取れなかったし。
子供が泣きそうになっていて、紫音ちゃんがアドバイスしてくれたら取れるんじゃ、と思って見上げれば、頷かれた。伝わったらしい。
「こんにちは。ご迷惑じゃなかったら、アドバイスさせて貰ってもいいですか? と言っても、アドバイスするのは私じゃないんですが……」
「えっ? わ、凄い……お願いしてもいいですか?」
「これぜんぶとったの? すごい!!」
男の子のお母さんは私と紫音ちゃんを交互に見て、紫音ちゃんが持つ袋を見て驚いたように目を見開いた。男の子ははしゃいでいて可愛らしい。
「まず……お、いいですね。今度は角を押すような感じで……よし」
「わー、すごい!! とれた!!」
「ありがとうございます!!」
「良かったです。それでは。彩那さん、行こ?」
「うん」
ぺこ、と頭を下げて歩き出せば、おにーちゃんありがとー! と聞こえてきて思わず笑ってしまった。
「紫音ちゃん、お兄ちゃんだって」
「大人はどっちか迷う素振りをよく見るけど、子供は素直だからね」
「中性的だから余計にね」
「あとは、服装もあるかな。声も低い方だし」
「似合ってるし、紫音ちゃんの声好き」
「へへ」
照れたように笑う紫音ちゃんは急に可愛い。可愛いもかっこいいも兼ね備えていて、視線を引き寄せる。私が隣にいるから話しかけられはしなかったけど、1人だったら大変だったと思う。私と付き合う前の紫音ちゃんなら、きっとにこやかに対応していたんだろうな、なんて余計なことを考えてしまって、慌てて振り払った。
今は私しか見てないって言ってくれるし、態度で分かるのに嫉妬しちゃう私はやっぱり重い。
「私は彩那さんの全部が好きだからね」
「……っ、ありがと」
常に気持ちを伝えてくれる紫音ちゃんが私の不安を消してくれる。優しく微笑んで、そっと指を絡めてくる紫音ちゃんは、嫉妬したと伝えればきっと喜んでくれるんだろうな。




