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2人の恋のはじめ方  作者:
第3章

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14/23

14.歳下の恋人

 彩那視点


 鍵を受け取ってくれた紫音ちゃんは、大切そうに握りしめて、俯いてしまった。

 喜んでくれるかな、と思っていたからこの反応は予想外だったけど、顔を上げた紫音ちゃんの表情を見て、愛しさが溢れた。


「なんか……嬉しくて言葉が出ません。合鍵を貰って、こんな気持ちになるなんて初めてで」

「うん」

「あっ、ごめんなさい、今の無し。無しで!」


 確かに今まで合鍵なんて渡され慣れていたんだろうな、とちょっと嫉妬もあるけど、紫音ちゃんの慌てようを見たらどうでも良くなった。


「伝わってるから、大丈夫」

「失言が多くてすみません……ほんと、嫌なことがあったらすぐに言ってくださいね。ずっと一緒に居たいって思ったのは彩那さんが初めてですし、ちゃんとした関係性が欲しいって思ったのも今までになくて。お互い後腐れのない関係というか、その場限りというか……あ、今のも無しでおねがいします……ちゃんと伝えたいことはあるのに……うう、どうすれば……」


 遂に頭を抱えてしまった紫音ちゃんは真っ直ぐで、私の気持ちに寄り添おうとしてくれる。嫉妬深い私に寄り添ってもらえるだけで有難いのに。

 過去にまで嫉妬されて、面倒くさいでしょ。それなのに、嫌な顔をされるどころか、嬉しがってくれている気がする。

 率先してスマホを見せようとしてくれたのには本当に驚いた。スマホの中身なんて、家族にだって見せたくないよね?


「ちゃんと、気になったことがあれば言うから。嫉妬はしない、って言えなくて申し訳ないけど、今の紫音ちゃんをちゃんと見たいなって思ってるから」

「はい。嫉妬は大歓迎ですけど、隠して爆発して私から離れる、とかは絶対に嫌です。それなら、束縛してくれた方がいいので遠慮なくどうぞ」

「あ、うん……」


 束縛して欲しい、と求められると逆に引いちゃう自分に気づいたのは、新たな発見かもしれない。


「そうだ。今日って美和子が仕事か分かる?」

「休みじゃないので居るはずですよ」

「そっか……紫音ちゃんは午後からだよね?」

「はい」


 美和子には色々お世話になったし、付き合うことになったと報告しないとね。まぁ、紫音ちゃんは分かりやすいから、報告しなくても気がつくだろうけど。


「美和子に報告しないとな、って思って。メッセージ送っておこうかな」

「そうですね……絶対ニヤニヤされます……」


 でしょうね。紫音ちゃん、頑張れ。私も次会う時覚悟しておかないと。


「あ、報告といえば……叔母に彩那さんを紹介したいのですが、会って貰えませんか? でも、すぐに紹介とか重いですよね……」

「紫音ちゃんの叔母さんって事は、真帆さん?」

「えっ、なんで知って……? 美和子ちゃんから聞いてました?」

「うん。実は、美和子から教えて貰ってて。馴れ初めとか聞いちゃった」

「あ、カクテルの?」

「そう」


 美和子から聞いた話を伝えれば、紫音ちゃんは納得したように頷いた。


「うちの両親は今海外に居るんです。祖母と暮らしていたんですが、亡くなってからは1人で……両親からは来るように言われたんですが断ったので、何かあった時には真帆ちゃんに連絡するように、って言われているんです」

「日本での保護者、って感じなんだね」

「はい。叔母といっても私の一回り上で、若いんですけどね」

「紫音ちゃんのお父さんもまだ30代って聞いたんだけど……」

「あー、そうですね。父が19歳の時に私が産まれたので……父は芸能関係の仕事をしていたんですが、母と出会ってすぐに結婚を申し込んだらしく……まぁ、断られたらしいですけど。うちの家系ってちょっと特殊で……その、諦めが物凄く悪くて。粘ってなんとかOKを貰えたものの、その頃人気が凄かったようで……事務所から考え直すように言われて、即引退を決めちゃって大変だったみたいです。母も相当巻き込まれたようで、遠い目をしていました……」

「そうなんだね」


 紫音ちゃんのお母さん、大変だったんだろうな……諦めが物凄く悪い、と言った時に私を見てちょっと申し訳なさそうな顔をしていたのが可愛かった。


「もし彩那さんが良ければなんですが、今度真帆ちゃんのお店に行きませんか?」

「うん。行く」

「良かった。金曜日の夜か、土曜日の夜がいいですよね。来週だと早いですか?」

「来週で大丈夫」


 美和子の彼女ということで会ってみたかったし、親族に紹介して貰えるっていうのは嬉しい。紫音ちゃんのご両親にも、何れ会えたらいいな。


「では、金曜日にしましょうか」

「私は金曜日で平気だけど、紫音ちゃんは土曜日も仕事でしょ?」

「今週は土曜日お休みなんです。なので、金曜日泊まってもいいですか?」

「もちろん。今度はお泊まりセット持ってきてね。家に置いておけるものは、置いてもらって大丈夫だから」

「はい! 嬉しいです。本当に……」


 そう言って嬉しそうに笑う紫音ちゃんに、私まで嬉しくなった。


「早速、真帆ちゃんに連絡しますね。真帆ちゃんもずっと会いたがっていたので、喜んでくれると思います」

「うん。ありがとう。私も楽しみ」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 穏やかに笑う紫音ちゃんの表情から、信頼してるんだな、って分かる。もちろん緊張するけど、楽しみの方が大きいかもしれない。


「そういえばさ、いつまで敬語?」

「え??」

「もう付き合ってるし、敬語やめないかなぁ、って」

「 彩那さんにタメ口……? ちょっとまだ無理ですね」

「なんでよ」


 歳上だから、ってことは無いでしょ? 美和子にはタメ口なんだし。


「なんかちょっと、まだ早いかなぁって?」

「彩那、って呼んでみて?」

「ぇぇ……あや、な……うわぁ、なんか照れる……」

「可愛い」


 照れながら名前を呼んでくれたけれど、時間をください、と保留されてしまった。




「ご馳走様でした。美味しかった」

「良かったです。ちょっと早めになっちゃってすみません」

「ううん。バイト前なのにごめんね」

「私が一緒に食べたかったので。あー、もう時間か……昨日と同じ服でいいかなぁ……そうすればもう少しここにいられるのに」


 お昼まで用意してくれて、少し早めのお昼を二人で食べた。毎回美味しくて幸せ。


 最低限の用意しかしてきていなかった紫音ちゃんは着替えのために家に帰らなきゃならなくて、少し早めに帰らないといけない事を嘆いている。


「またいつでも来て?」

「はい! ただ、今週は閉店までのシフトなんです……タイミング悪すぎて泣きたいです……ということで、次に会えるのは真帆ちゃんのお店に行く日ですね……はぁ、長い……」

「金曜日楽しみにしてるから頑張ろ」


 もっと早く会えるかと思っていたからちょっと寂しいけど、寂しいなんて言ったら無理してでも来るだろうから、できる限り明るく伝えた。


「はぁーい。ちょっと充電させてください」

「え? 今から? 充電何パーセント??」

「スマホじゃなくて、私ですー! はい、ちょっと失礼しますねー。はぁ、彩那さんいい匂いする」


 ソファから降りた紫音ちゃんが私の腰に抱きついて顔を埋めてくるからくすぐったい。


「あー、バイト行きたくない……ずっとここにいたい……でも彩那さんのヒモになる訳にはいかないから頑張る……」

「ふふ、美和子のヒモだもんね?」

「はい。美和子ちゃんのヒモです。あ、でももうダメですね。今度ヒモ返上しておきます。もう彩那さんのなので」


 私の、とサラッと言われたことにドキッとした。

 美和子に聞いたら、食費は紫音ちゃんが負担していたらしいし、今までも別にヒモじゃなかったと思うんだけど、ヒモだと言い続ける紫音ちゃんが面白い。美和子も、紫音ちゃんのこと自称ヒモ、って言ってたもんね。



「行ってらっしゃい」

「へへ、行ってきます。こうやって見送ってもらえるなんて、めちゃくちゃ幸せです」


 玄関まで見送れば、照れたように笑う紫音ちゃん。見送ったくらいでこんな顔が見られるのなら、毎回見送ろうと決めた。


「気をつけてね」

「はい。では、また」

「うん。あ、待って、忘れ物」

「え? 何か忘れてま……っ!?」


 1段低い所にいる紫音ちゃんに触れるだけのキスをすれば目を見開いた紫音ちゃんが動かなくなってしまって、もしかして引かれたかな、とちょっと不安になる。ベタすぎた?


「あー、もう、もっと行きたくなくなりました……可愛すぎますからね? 世の中の恋人同士ってこんなに幸せな思いしてたんですか? 彩那さん、もう1回……」

「んっ……ちょっ……じか、ん……」


 もう1回、って何だったの? というくらい口付けが降ってきて間に合うか心配になって伝えれば、ハッとして離れた。


「うわっ、やば……! 彩那さんが可愛いく誘惑するから……! でも大歓迎なので毎回お願いしたいですっ!! では行ってきますー!!」

「あ、うん、行ってらっしゃい」


 走って行った紫音ちゃんを見送って、歳下の恋人の可愛さに笑みがこぼれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがアングレカムに重なる。 ちょうど恋人なりたての甘ーい内容もw 重甘さのカップル対抗戦? 頑張れ紫音!侑より甘くイチャイチャしようw [気になる点] 紫音パパ元げーのーじん!…
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