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第3話 俺の転生した世界は“死霊魔術が発達したナーロッパ”

 朝日がだいぶ高く昇ってきました。朝霞(あさか)さん。

 俺はネクさんの実験を眺めながら、

 まだ眠りこけているであろう、朝霞さんの小さな体を思い浮かべていた。



 まあ、小さいといっても俺よりは大きいんだよね……。



 俺が転生してから4年(朝霞さん調べ)たっているようだけど、

 とにかく、この子どもの体は不便さの塊だ。


 まず高いところに手が届かないし、

 重いものを持ち上げるのも一苦労。


 前世のころは思いもしなかったが、

 単純なことができないのは、

 それだけ応用も利かないということなのだ。


 そもそも4歳のころの記憶なんてほとんどないけど。



 実験室へと移動した俺がそんなことを考えているうちに、

 ネクさんは、さっき俺が渡した獣人族の頭蓋骨(ずがいこつ)

 てっぺんから、かち割っていた。


「見たところ若年者(じゃくねんしゃ)の骨ですね……。

 こんな希少品、ロウはどうやって手に入れたんですか?」


 その希少品を躊躇(ちゅうちょ)なく割りながらネクさんが俺に尋ねる。


「もちろん違法品ですよ。

 俺がきのう殺してきた獣人の

 できたてほやほや頭蓋骨です」


 さすがにナーロッパ的世界といえども、

 この国での殺人は重罪だ。


 だけど、法廷制度が俺の前世からしたら、

 かなり特殊で、殺人罪はどうやっても

 死刑にならないらしい。


「ミスティがついてるから大丈夫なのでしょうが、

 人殺しは感心できませんね。

 インバース家の当主といっても

 私はこの国で、それなりに人道主義的な生き方をしてるんですよ?」


「それに法律だって遵守しています。

 もっとも、通報の義務はありませんから、

 あなたを憲兵に突き出したりはしませんけどね」


 うっすらと微笑みながら俺に話すネクさん。

 だけど、この言葉はほとんど嘘で、

 彼女の背後関係というか

 存在そのものが真っ黒だ。


 だが、このナーロッパ的世界では、

 あるいは俺の前世だったとしても、

 彼女が誰かに捕まることはない。

 

 それにはもちろん、名家の当主であることも影響しているが、

 なによりも俺以上に手際がいいのだ。




 何の手際とは言わないが、さすが推定100歳越え。




 ちなみに表向きの彼女は人道に逸れない

 立派な人物として社交界(上級国民層)に知られている。 


「まあ、助かっているのは事実ですし……。

 いまさら人殺しを(とが)める必要もありませんか」


「あなたがいろいろと実験材料を

 持ってきてくれるようになってから

 ここ半年、私の種族別骨密度表がかなり埋まりましたからね」



「ネクさんのお役に立てているならなによりです!

 いまのところ俺は、生きる目的が他にほとんどありませんから」



「もう、まだ小さいのにそんな世捨て人みたいなことを……。

 天才児ならそういうこともあるのでしょうか……」


 そういってネクさんは真っ赤に染まったキレイな瞳を俺に向ける。


 彼女の容姿は、この神聖ナロス王国でも非常に目立つ。

 サラサラの銀髪を短めに切り揃え、肌はくもりのない白一色。


 俺は最初にネクさんを見たとき、

 いわゆるアルビノってやつなのかと思っていたが……。

 実際にはインバース家の人間の特徴らしく、

 太陽がまぶしすぎるとか、日に当たると肌に異常が出るとか

 そういうことはないみたいだ。


 ネクさんに言われて思い出したけど、

 俺の素性は大体、天才児ということで通してある。

 そんな理屈がまかり通るほど

 この世界の年齢感覚はあやふやなのだ。


「ミスティのためだけに生きてるって

 最初は言ってませんでしたか?」



「いまはネクさんのためにも生きてます!」


 そう断言する俺に、ネクさんは生暖かい目を向けている。

 俺は本気で言ってるんだけどね。


 ちなみにミスティっていうのは、

 朝霞さんがこの世界の住民に名乗っている名前だ。


 ナーロスでは基本的に、

 英語っぽい音韻(おんいん)の言葉が共通語として使われている。

 そして、俺はこの世界で日本語のような単語を聞いたことがない。

 

 それなのに朝霞さんは漢字の表記と

 日本語のことを知っている……。


 一方、俺はどうやってナーロス語を

 しゃべっているかというと、

 意識せずとも伝えたい言葉が口からすらすら出てくるのだ。




 異世界転生さまさまだね。




 そうそう、それと……。

 

 朝霞さんもネクさんも、俺が読んでいた『異世界転生小説好きの俺がナーロッパに転生しちゃいました ~異世界のことをなんでも知ってる育ての親ロリババアのアドバイスで無双する~』にはいなかったな……。


 登場人物の齟齬(そご)が後々の伏線になってたら困るし、

 早め早めに考えておく必要があるかも。


「そうは言っても私に頭蓋骨を渡すためだけに

 獣人を殺したわけじゃ、ないんでしょう?」


 ちょっと横道にそれていた俺の思考を、

 ネクさんの声が引き戻す。


「死にたがってるやつがいるから殺しとけって

 朝霞さんに言われただけです。

 理由は朝霞さんに聞いてますけど、

 朝霞さんの意図はわかりません」


 俺の返答にネクさんは怪訝そうな顔をして

 作業していた手を止める。




 もっともそれは、朝霞という単語が連続したせいで

 話が聞き取りにくいことが原因だ。

 俺の言動を(とが)めるような反応ではないことを

 ネクさんと出会ってからの半年で、俺はよく知っていた。




 ところで、前世の知識があったとしても、

 ただの4歳児でしかない俺がどうして

 簡単に人を殺したりなんかできるのか。







 それは──

 ──死にたがってるやつを殺しているから。






 つまり、俺の前世でいうところの嘱託殺人(しょくたくさつじん)というやつだ。

 なんなら当人たちは、俺に害が及ばないよう前後の処理を

 事前にしてくれていることまである。


 彼らは死にやすいよう、殺されやすいよう

 準備をしてきてくれるのだ。

 

 しかし、そうはいっても誰かに見つかったときは、おおごとになる。


 だから、しっかりとした後処理の方法を

 物心がついたころから朝霞さんに、みっちり仕込まれているのだ。




 ときには、そうじゃない人を殺すこともあるけどね。




 とにかく、どうしてそんな殺されたがりのやつらがいるのか。

 ネクさんは、朝霞さんや俺が言わずとも、

 出会ったころから察しがついているようだ。


 けれどそのあたり、今日はいい加減ネクさんと認識を

 統一してもいいかもしれない……。


 そうして俺は一拍置いてから

 意味深に、もったいぶって

 続きを話す。


「あの人たちはみんな

 ネクさんがよく不細工と言っている死霊魔術

 “帰天”(きてん)をしたがっていたんですよ」




 それは死霊魔術が発達した世界独自の価値観だった。




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