第1話 俺の母親は“のじゃロリババア”
ごく普通のサラリーマン(異世界転生小説好きだが初心者。ロリババアが好きで熟練者)成田郎也は、通勤途中に事故で死んでしまう。 すると、彼は異世界“ナーロス”という中世ヨーロッパ風の世界に赤子として転生。 その後、朝霧朝霞と名乗る黒髪ウェーブの“のじゃロリババア”に育てられ、すくすくと成長していく。 4歳になった成田郎也は、理想のロリババアかつ、ナーロスのことをなんでも知っている朝霧朝霞のアドバイスで無双をするうちに、勇者パーティ(ロリババアはいない)と激突。 しかし、なんなく返り討ちにして死霊魔術で奴隷として使役することに。 そして様々な有能ロリババア(百合ロリババアもいるかも)と出会い、ナーロスの真実に迫っていく。
進捗予定→10話以内に勇者パーティ全滅。
俺の名前は成田郎也。
通勤電車の中で異世界転生小説を読むのが
日課になり始めた普通のサラリーマンだ。
そしてもちろん、今日もいつも通りに通勤電車で
異世界転生小説を読みふけっていた。
最近読んでるのはこれ。
『異世界転生小説好きの俺がナーロッパに転生しちゃいました ~異世界のことをなんでも知ってる育ての親ロリババアのアドバイスで無双する~』
めちゃくちゃ長いタイトルの異世界転生小説だが、
俺の目を引いたのは“ロリババア”という単語だ。
最近、巷では異世界転生や異世界転移を
題材とした小説がはやっている。
ジャンルを問わずに小説が好きな俺は、
こういった流行作品もチェックしていたが、ひとつ問題があった。
それは好みのキャラクターが登場する作品に
なかなか出会えないということだ。
俺の好みはいわゆる“ロリババア”と呼ばれるもので、
性癖と言い換えてもいいかもしれない。
だけど、現在は異世界転生や異世界転移がはやりにはやっているせいで、
こういった好みの題材を扱った作品を探すのも一苦労だ。
だが、この『異世界転生小説好きの俺がナーロッパに転生しちゃいました ~異世界のことをなんでも知ってる育ての親ロリババアのアドバイスで無双する~』は違った。
なにせ、タイトルに“異世界転生”と“ロリババア”が同時に入っているのだ。
非常にわかりやすい。
また、“ナーロッパ”というのは、中世風なのに近代技術も
ところどころに散りばめられたヨーロッパのことを言うらしい。
ネットの住民はわかりやすいような、わかりにくいような、だけども耳に残る言い回しを考えるなあ……と常々感じるね。
そんなことを考えているうちに乗り換え駅へと到着。
俺は通勤快速の電車から山手線に乗り換えようとホームを進んでいく。
毎日毎日、混みっぱなしの山手線ホームに向かうべく階段を降りていると……。
「うわあ」
なんだこの間の抜けた叫び声は……。
声は俺の背後から聞こえてくるが、ずいぶんと遠い。
すると、みるみるうちに……。
「うわ」
「ぎゃ」
「あ」
「え?」
「うおっ」
といった声が重なって聞こえてくる。
そして、どんどん違う声音も近づいてくる。
正直、俺はもう振り返るまでもなく、何が起きているのか気付いていた。
ふだんから、こうなったらやばいだろうなと考えていたから、
とっさの状況でも思い浮かんだのだ。
人間の将棋倒しだ。
ちなみに、なんとかペディアによると階段利用者が重なって倒れたときの群衆事故を“将棋倒し”とか“ドミノ倒し”とかって表記するのは、イメージが悪くなるからダメらしい。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺はトマトみたいに潰れて死んだ。
「死んだはずだったんだがなあ……」
「何をぶつぶつ言っとるんじゃ、バカが。
さっさと手を動かさんか」
ここは神聖ナロス王国の山間部。
神聖ナロス王国は、いわゆる“ナーロッパ”的な世界における主要宗教国家のひとつ。
そして『異世界転生小説好きの俺がナーロッパに転生しちゃいました ~異世界のことをなんでも知ってる育ての親ロリババアのアドバイスで無双する~』の舞台となる王国でもある。
つまり俺は異世界に転生したというわけだ。
階段で圧死して。
「さすがに4年も、この世界に生きてれば現実味が出てくるかと思ったけど
ぜんぜんそんな気にはならないなあ……」
「それはお前が前世でも、現実味がない生き方をしとったからじゃろうが」
「そうかなあ、ちゃんと手に職つけて……。そのときはサラリーマンね。サラリーマンやって、『異世界転生小説好きの俺がナーロッパに転生しちゃいました ~異世界のことをなんでも知ってる育ての親ロリババアのアドバイスで無双する~』を読みながら通勤して……。普通に生活してたよ、俺は」
「それが現実味がないということじゃよ。
いや、真剣味ということじゃろうか」
「とにかく、お前の性根がそんな感じだってことじゃな。
真剣味に欠けるとるんじゃよ」
「どうせ死ぬときにも晩飯のことでも考えながら、のほほんとしとったんじゃろう」
「さてね」
そう気の抜けた返事をしながら、俺は手を動かす。
俺の時代のブッシュクラフトナイフ(焚火とかするときのアウトドア用)に
限りなく近づけた自家製の短刀を持って、スルスル。
スルスルサッサッ。シュッシュ。
転生してから4年間。正確には3歳のころから1年間。
寝ても覚めてもやっている作業を繰り返していた。
スッ、ズッズッ、ズリッ。シューッ、シュル。
「まあ、その性根が転生してから随分と役に立っとるのは、事実じゃがな」
スッ、スッ、シュッ。
「へい、一丁上がり!」
と、すし職人みたいな掛け声で作業を終える俺。
バラした死体の数は全部で3体。
「三丁上がりと言うべきだったかな」
「いいからさっさと持って帰るぞ
わしはもう眠いのじゃ……」
俺の目の前に転がっていたのは、
頭、胴体、下腹部、足、肩、腕
の部位に分かれた人体パーツが3人分。
まずは、そんな3人分の腕と足を束にして、布をかけ、縄でまとめる。
頭は全部、馬車の中の樽にごろっと投げ込む。
そして胴体と下腹部は、必要な内臓と部位を陶器にしまってから、野に埋める。
何百回と繰り返してきた工程だから、
朝霞さんとしゃべりながらでも自然に体が動いていくのだ。
「いまだって真剣にやってるよ、お母さん」
「わしのことをお母さんと呼ぶな。名前で呼べといつも言ってるじゃろう」
「そうはいっても朝霞さん。真剣じゃなかったら、いくら治安が悪くて警察機構がろくに発達してないナロス王国だからといっても、こんなのはすぐにバレてるって」
「俺が真剣にやってるからこそ、
この4年間、しょっ引かれなかったわけでさあ……」
「作業のことで真剣味がうんぬんと言ってたわけじゃなかろうに……。
お前の生き方のことじゃよ。
真剣に生きようって人間は、こんなゲーム感覚で人殺しをせんわ」
「おっ、きたきた。きましたよ。
ゲーム感覚で人殺しってフレーズ。老害っぽいねえ」
老害といっても、俺の目の前にいるのは
ウェーブがかった長い黒髪をした8歳くらいの女の子なんだどけどね。
しかし、ここまでのやり取り通り、
目の前の少女の実年齢はその見た目に反している。
つまり、俺よりも(前世+今)年上の“ロリババア”というやつだ。
ありがとうございます。ナロ神さま……。
「そもそも朝霞さんはこっちの世界の人なのに、
なんでそういうこと知ってるわけ?
やっぱり俺と同じ転生者なのかな」
大好きなお母さん兼、
大好きなロリババア兼、
大好きな女の子に、俺は躊躇なく、そう尋ねる。
「わしが神じゃと言っとろうに?
お前をこの世界に転生させたのは、このわし。
そして、わしはこの世界のことをなんでも知っている。
つまり神なのじゃ」
「プッ(笑)。
確かになんでも知ってるみたいだけど、
できることがめっちゃ少ないよね」
「最初のうちは信じてたけど……。
朝霞さんが俺を転生させたっていうのは嘘みたいだし」
「ま、確かにそれは嘘じゃし、できることも少ないわな。
つーか、わしはほとんど何もできん」
「産まれてからこんだけ人間ぶっ殺して、
捕まらないように後処理をして……」
「お前は大した息子じゃよ」
俺の軽口をまったく気にすることなく
話し続けてくれるうえに、ほめてもくれる。
朝霞さんはとんでもなく心が広いのだ。
それとも年の功かな?
「それなのに俺の世界のことを知ってるってことは、
俺と同じ境遇だって考えるのが妥当だと思うんだよね」
すると、ほめ言葉(皮肉かも)とは裏腹に、
不機嫌そうな顔のまま朝霞さんは突拍子もない考えを話し始めた。
「お前の想像力がそんなもんじゃとは……。
もっといろいろあるじゃろう?」
「たとえば、実はこの“ナーロス”という世界が異世界ではなく、
お前の世界の未来で……」
「お前が前世で生きていたころから、
わしは生きている……とかな」
「それはちょっと無理があるかな。
俺がいた現代の痕跡がまったく見つからない」
「大陸の端から端まで歩いて測量したわけじゃないけど。
朝霞さんから聞いた“ナーロス”の地形だと、
主要大陸の形自体が変わってそうだよ」
「もしも大陸が変わるほどの未来だったとしたら、
朝霞さんが人格とか記憶を保ってるのは現実的じゃない気がする」
「お前に現実的がどうこうといわれたくないわ」
と、内容はともかく、
朝霞さんと楽しいおしゃべり(ただしゃべってるだけで楽しいのだ)
をしているうちに作業は終わっていた。
ずいぶん、夜も更けているし
朝霞さんも眠いって言ってたし。
俺も今日はよく眠れそうだな。
「じゃあ、帰ろっか。お母さん」
「わしのことは名前で呼ばんか。バカが」
そうして家路につく。
転生してからこの4年。俺の殺害人数は、ゆうに3ケタを越えていた。




