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1話の表

最初に思い付いたネタがこの部分でした。

でもこの部分で閉じないでぷりーず・・・


ゲーム内パートです。

テロン♪

〈12:02ログインしました。町門は本日14:00に開放予定です。〉


段々とボヤけが取れて昨日まで見ていた風景がまた見えてくる。

足元、石畳が環状に敷き詰められた町の広場。

背後には噴水があり、水の音が聞こえてくる。

正面に見えるのは2m程の石積みの塀と木製の門。

番人さんのデザイン・・・衣装も一緒だ。

そして鋭角の、煉瓦のような色の屋根を持つ窓が綺麗に並んだ町並み。

壁の色が一件一件違うので何処までがその家なのか判りやすい。

道は未舗装で土がやや凸凹している。

雨が降ると水溜まりになるのが芸が細かい。


見回していると、突然ダッシュで近づいて来た犬の顔が目の前に現れる。


「お、ユキさんここでは始めましてだね」

「うっわゲームの初回ログインで最初に見たのがギルマスとかショック」

「ログイン地点じゃないとうちのギルメン捕まらないだろ自由すぎて!」

「ならせめて犬っぽい正面近めは止めてください、私は猫派なんですっ!」


私はユキ。人属でサモナーメインでやってます。

本名、年齢、性別はネトゲ内では公表しない位の事は常識なので・・・

フード無しの白いローブは胸の所だけ紐で結ぶタイプ。

同色の少し厚みのあるベレー帽と短めの猫の手が招いている様な杖。

真っ白な服って汚れが完全に消えるゲーム内で着るべき服ですよね。

ちなみに銀髪蒼眼。


「ひどいな、リアルでの結婚式の前にゲーム内で結婚式した時、会場の準備とか物凄く大変だったんだぞ。そんなシステム無いから運営とかにお願いして・・・」

「うっわ個人情報晒された・・・」


実は先月半ばにネットで出会った方と結婚しちゃいました。

職業、専業主婦フフフフいや新妻?


「そう言いつつめっちゃにやけまくってるのは幸せなんだな爆発しろっ!」

「仲人頼めなかったのがほんっとーーーーーーに残念ですぅ」

「こ、言葉でクリティカル・・・いやエクスキュートされた・・・バタッ」


どう見ても〈伏せ〉をしているだけの赤い犬用っぽい服を着たこの人は、私の所属するギルド「いぬやしき」のギルドマスター。

名前は「犬小屋の主」。顔も犬(ダックス系)のタイプの獣人属。独身。

俗に言うケモナー限定のギルドだけどモフるのは犬限定ではなく何でもOK。

あ、もちろん私もケモナーですよ。


「こんにちは」

「あ、シルバーさんこんにちは。またお世話になると思いますので改めてヨロシクです」


横で声をかけるタイミングを待っていたのは旦那さん経由の知り合いの方。

シルバーさんは攻略系のトップクラスのギルドに所属している。

人属としてイケメンだし声も雰囲気も爽やか系。

金髪碧眼、銀色の鎧、盾、黄金の剣と装備はレアアイテムだらけ。

性能はもっと良い装備は有るのだがカラーリングにこだわりがあるらしい。

彼女いるかは・・・ノーコメントだそうだ。


「え、自分の所のギルマスより丁寧な挨拶・・・と言うかなんで攻略組のエースとユキが知り合いなの?」

「いや旦那様のギルドの人ですし、私もよくお手伝いに行ってましたし」


努力して強くなって、入り浸ってました。

私は努力の人なのです。



「事実なんですかシルバーさん?」

「ああ、クエスト中でも暇さえあればモフってたし・・・ギルド内でもモフり倒して・・・まさかネット婚までしてしまうとは・・・」


モフる為に努力して強くなって、モフる為に入り浸ってました。

私はモフる為なら何でもします。

但し猫以外はそこまでしませんが。

旦那さんは顔も猫のタイプの獣人なので全力確保しました。


「それでユキさん噂で聞いたのですが、クロニティが種族変更するって本当ですか?」

「はいっ!旦那様は猫獣人から完全なにゃんこになりますっ」

「心境の変化・・・ですかね?理由は聞いてます?」

「私がお願いしましたっ!」

「お願い・・・ってデメリットだらけなのに良く聞いてくれましたね?」

「何でも言う事を一回だけ聞く券、を使いましたっ!」


昔、クエスト中に召喚獣を使い潰して無理矢理攻略した事があった。

その時に貰った・・・と言うか口約束だったけど・・・券だった。


「あの券・・・それじゃ僕達にも責任があるな・・・本当に種族変わったら可能な限りフォローするよ」

「絶対に猫で来ますよ。結婚式の直前にお願いしましたから」

「それは断れない・・・ネットでの結婚式が水の泡に・・・」

「いえ、リアルの結婚式です」


え?なんで頭を抱えているんですシルバーさん?

結婚式直前に女の子からお願いするってよくあるシチュエーションじゃないですか。


「クロ・・・本当にすまない・・・」






しばらく待つと、紫ネームの黄色いTシャツにオーバーオール、今の時代にはあまり見かけない大型のビデオカメラを抱えた人が3人現れる。

「運営の撮影隊ですか。初日だから町中を録るんですかね?」

「シルバーさん達、この後なにか予定してます?」

「町の外門解放後にPK集団が大がかりな襲撃を予定しているらしくてね。その迎撃を攻略組のギルドが集まったクランで対応するんですよ」

「元PKも今は普通の白ネームだから赤染め祭りってとこですか。じゃぁ、その取材じゃないですかね?」


シルバーさん有名人だからその近くに撮影隊が現れたのは偶然では無いはず。

撮影隊の近くに新たに現れた、何故か白衣の別のスタッフっぽい人にシルバーさんが話しかけていた。

あれ?そのスタッフ(眼鏡かけた美人さん)をこっちに連れてきたよ?


「すみません、貴女、種族猫を作っている人の関係者?」

「はいっ、妻ですっ!」


あ、半歩引かれた・・・


「実は新サービスで導入された種族を紹介風に動画を作る予定なんですが、関係者も動画に出てしまう可能性がありまして・・・撮影許可を頂こうかと」

「え?初めての出会いが動画に?是非是非!でも没になっても動画は送ってくださいねっ!」

「で、ではよろしくお願いします」


また半歩引かれたままUターンして戻って行くスタッフの人。


「種族にゃんこ決定いぇーい」

「取材来たから本当に猫になったのか・・・クロさん、可愛そうな子・・・」

「ギルマス?可愛そう、じゃなくて可愛い、でしょ?」

「ユキ・・・恐ろしい子・・・」






さらに数分・・・

「遅いね・・・」

「身体の動かし方のチュートリアルで躓いているのかもしれませんね・・・」

「撮影は絶対シルバーさん達の事だと思ったのに・・・絵になるし」

「ゲームの変化としては新種族ですよ。でもクロさんが猫化とは」

「あ、モフモフっ!」


今回、前のデータをそのまま引き継いだPCはこの広場に出現。

種族や名前を変えてギルド等の登録を修正する必要があるPCは、町の門の所に出現する事になっている。


「違った、犬獣人さんだ・・・」

「いやギルメンでしょ?ちょっとは嬉しそうな顔しなさいって」

「ワンコがワンコ見てなんか吠えてる」

「いやさすがにギルマスの扱い酷くない?」

「はいはい、お出迎え行ってらっしゃい」


ギルドメンバーは緑の名前で表示される。

あ、わんこそばさん人属から犬獣人になっちゃったんだ・・・


「こう見てると、獣人に種族変える人多いなぁ」

「獣人の追加特典で同種のモブやNPCの好感度が上がりやすくなりましたからね」

「シルバーさん、それどこ情報!?」


検索中・・・


「猫獣人、いやせめて猫耳系にすればヨカッタアァァァァ・・・」

「見てなかったのですか?」

「はい毎日毎日、昨日も旦那をゲーム内でモフり続けてました」

「いきなり冷静に戻りましたか・・・ところでそれ・・・イチャイチャ・・・」

「いいえ、完璧にブラッシングして最高の毛艶を・・・」

「ゲーム移行打ち上げパーティー中に、ですか?」

「ええ、旦那様は挨拶してましたが私は背後でずっと・・・」

「ってそれうちのギルドのパーティーじゃないですか・・・」


自分のギルドを蔑ろにしている訳では無い。

うちのギルドは、モフれるNPCやモブの情報を交換するだけの、いわゆる「ゆるギルド」だからだ。

しかも大半が犬の情報で猫はオマケだった。

鳥好きな人も居たがほぼ情報皆無だったなぁ。



「そうだ、他の変更点は実感しました?」

「解像度は上がってますねー。町の風景とか細かい所まで作ってありますねー」

「これはどうですか?」

シルバーさんが差し出したのは二本のナイフ。

片方は使い込まれていて、もう片方は新品のようだ。

「うわっ、おんなじ木の素材なのに使い込んでツルツル。こっちは形は整えられているのに乾燥してる?」

「脳内からそれに近い感触を再生しているらしいのですが、そういった感触を覚えてないと木の感触、としか再生されずに同じに感じるらしいんですよ」

「加工されて表面平らな噴水の縁は・・・雨の日の縁石っぽい・・・石畳は・・・凸凹している筈なのに歩道の加工されたタイルみたいな・・・」

「どうしてそんな感触を経験しているのか・・・いや聞きませんが・・・」

「噴水の水は・・・流しに貯めた水と、蛇口から出てくる水・・・かなぁ?なんとなくぬるい・・・」

「私は湧き水の流水のように冷たく感じるんですけど・・・都会のインドアの人・・・にしては・・・」

「リアルでは色々あるんですあったんです聞かないで下さい記憶が蘇って・・・あれカメラさんここも撮ってるんですか?」


私と、町の門と、その中間辺りを狙える位置でカメラがスタンバイしている。

いや、既に回しっぱなしにしているので、名前の横に赤いランプが付いている。

今週の運営動画、とかサービスしているので録り逃さないように早めから録画しているのか。

場所取りも少し高いポイントだったり色々慣れてるなぁ。

ログからの再生はサーバー止めないと処理できない位大変らしいからなぁ。





そしてその時は訪れた。

町の門に新たに横向きで表示されたのは・・・黒い子猫。

上に白い文字で「クロ」と表示されているので間違いなくPCキャラ。


「クロ・・・クロちゃん?」


黒い子猫は声に反応し、こちらに向きを変える。

身体のバランス、と言うより頭が大きいので重心に慣れず、ゆっくりヨロヨロと向きを変えた。

胸に上弦の月の向きで白い月ノ輪の模様がある。

前のキャラもそうだった。

間違いない!

あれ?なんか・・・大きくない?とシルバーさんが呟いた気がするが気にしない。

もう私のテンションは振りきっている!


「クロちゃぁぁぁぁぁん!」


子猫が一瞬前足をよろけさせたがこちらに歩き出す。

ユキも待ちきれず歩き・・・走り出す。

子猫も少し左右によれながら走り出す。

二人・・・いや一人と一匹の距離は縮まり・・・


「クロちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


ユキは両腕を目一杯開いて待ち構え、子猫はジャンプして胸に飛び込む。










ドサッ

後ろに倒れるユキ。

その上にクロが立っている。







よく見るとクロの右前足がユキの胸に突き刺さって・・・

そしてメッセージが表示される。


〈Critical Execute!!〉

テロン♪

〈プレイヤー「クロ」は、プレイヤー「ユキ」を倒しました。〉


周辺に告知されるメッセージと共に、光の粒のエフェクトで消えていくユキ。

呆然とする子猫。

人の胸ほどの体高の猫を子猫と言うかは別にして・・・


テロン♪

〈プレイヤー「クロ」にPKフラグが立ちました。〉

〈これより、「クロ」は犯罪者として扱われます〉


クロ、と言う名前の表示がが白から赤へと変わる。

ユキのエフェクトが消え、どうすれば良いか判らないやらかしちゃった、な顔をした子猫が取り残される。


テロン♪

〈プレイヤー「クロ」には称号「初めてのキル」が与えられます。〉


あああ、と頭を抱えるシルバー。

回りからもうわぁ、等の声が・・・


ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が初のPKを達成し、称号「最初の殺人者」を取得しました。〉


今度はワールドメッセージが流れ、遠くの方から怒号が聞こえる。

こちらで流れるメッセージの称号は、ゲーム内で最初に達成した一人しか貰えないレアな物だ。

狙っていた人の怒りも尋常では無い。

誰だ、俺達より先にPKしたのはっ!

俺その称号狙ってたのにっ!

町中ではキルされないように普通はフレンドリーファイアの設定してんだろうが!

その手はPK連合でしないと、ってもういいそいつ見つけて潰せっ!

見せしめだっ!

・・・


そしてワールドメッセージは流れ続ける。

ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が初の一撃だけでPKを達成し、称号「究極の暗殺者」を取得しました。〉

ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が初の町中でのPKを達成し・・・〉

ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が初の装備品無しでPKを・・・〉

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が初の・・・〉

〈ただ今、プレイヤー「クロ」が・・・〉





辺りはまるで時が止まった様だった。

動いているのは、助けて欲しそうな顔をした子猫。

時折向きを変え、たまに心細そうにニーと鳴く。

クロって奴はどこだと近づいて来る怒号も近づいて来る。

そしてキャラは微動だにしないがツボにハマったらしく爆笑しまくる美人スタッフ。




その空気を打ち破ったのは・・・






「クロちゃぁぁぁぁん!」


子猫の背後から覆い被さるように抱きついた、まだリスポンの光の残滓を纏ったユキだった。


「やっとモフれたっ!復活待ちの時間がどれ程長かったことかぁ・・・もうままままみみばらくももまま・・・」


後半は完全に顔をクロの首筋に埋めて聞き取れない。

全身で感触を堪能しているようだ。






少しだけ和んだ様な気がする空気の中、ヨロヨロと二人?に近づく者が。


「お腹はあっ・・痛はあっ・・・あのっ・・・うんえっ・・・いのっ・・・」


爆笑から復活した・・・訳でもなさそうなスタッフの女性が側まで来る。


「今のっ・・事故っ・・・ぽいからっ・・・運え、事情聴取さ・・取り消・・・」


背後を取られたまま、クロが地面をペシッと叩く。


「いや、起こった事は仕方ないからPKのフラグを消す為に・・・」


美人スタッフは息が整ってきたようだった。

逆にクロは激しく地面をベシベシ叩き始める。


「あ、ごめんなさい。獣は喋れない仕様だったわね。地面に文字を書いて貰えます?」


クロは器用に一本だけ爪を少しだけ伸ばし、文字を書き始め・・・


「く・・・・る・・・・・」


身体から光のエフェクトが沸き上がった。


「あああああああ、クロちゃんが・・・クロちゃぁぁぁぁん!」


身体は大きいが所詮レベル1の子猫。

小柄とは言え体重乙女の秘密(かいたらコロコロする)の人が乗り続けたら・・・

生き物にリアルしか求めない運営は手を抜いていない。




テロン♪

〈プレイヤー「ユキ」は、プレイヤー「クロ(犯罪者)」を倒しました。〉

〈プレイヤー「ユキ」にはPKKボーナスが与えられます。〉

〈プレイヤー「ユキ」には称号「秩序守りし者」が与えられます。〉



ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「ユキ」が初のPKKを達成し、称号「最初の守り手」を取得しました。〉


ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「ユキ」が初の町中でのPKKを達成し、称号「町の守り神」を取得しました。〉


ピンポンパンポーン♪

〈ただ今、プレイヤー「ユキ」が初の装備品無しでPKKを達成し・・・〉

〈ただ今、プレイヤー「ユキ」が初のノーダメージでPKKを・・・〉

〈ただ今、プレイヤー「ユキ」が初の・・・〉




呆然とするユキ。辺りも再び凍りつき、聞こえていた怒号は消えていった。

再び行動不能になった白衣の運営スタッフの完全に壊れた大爆笑だけが響き渡っていた。


ピンポンパンポーン♪

ピンポンパンポーン♪

ピ・・・

あれ・・・モフったの数秒じゃね?・・・


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