堺 時雨と昔の恋
今回は3500。お楽しみを
少女は信じていた。人生に敷かれたレールを歩くだけで輝かしい人生が待っていると。そのレールは破滅への道だと知らずに。ただ純情に前を向いて歩くことは許されないのだと知らずに。
私は堺 時雨。自慢ではないですが堺グループの令嬢です。私の学力、家柄で今の学校に行くのは簡単でした。普通であれば私立のお嬢様学校に行くべきなのですが、この学校には鐘森グループの御曹司がいるとのことで父から半強制的に行かされることになりました。私がどれだけ頑張ろうとも父は褒めず、母は愛情を注いでくれませんでした。二人は愛し合っていて私がいないところでは仲良くしていますが、そもそも家に帰ってくることがほとんどなかったので両親との楽しかった記憶はほとんどありません。
両親は私のココアのような澄んだ瞳や混じりけのない漆黒の髪を政略結婚に使うと考えているのが分かっています。本当であれば高校に入学する前にお見合いを始めるつもりだったそうですが、この高校に鐘森グループの御曹司がいるとどこがで聞いたのか私に心を掴んでこい。という名目の元私は三年間お見合いをしなくて良いとなりました。
鐘森のお子様とは小学生の時に遊んだことがあります。瞳は深海のような青く、髪はクリームのようななめらかな色でした。彼自身が才能の塊のようなもので運動や勉学においては他者の追従を許さず、頭の回転や物覚えも一戦を画していました。
その頃の私は両親から何かアクションしてくることは無かったのですが彼の御披露目パーティーの際には私も連れていくことになり、嬉しがったのを覚えています。
「お父様。今日はどこに行くの?」
「なるべく敬語を使いなさい。これから日本で一番力のある鐘森グループのお子様の御披露目パーティーだ。粗相をした場合は…分かっているな?」
その時は小学3年生だったので、自分がどういう立場なのか分かっているつもりでした。父が私にほとんど興味がないことも利用されるだけだということも。
「本日は我が息子の御披露目パーティーにご臨席頂き有難うございます。我が息子ながら非凡な才を示す、鈴輝です。今回は私ども精一杯もてなす準備をいたしましたのでよろしくお願いします。それでは乾杯!」
鐘森 鈴輝様。最初に見た感想は手の届かないところにある、1輪の花でした。私も小学校のときには少女漫画や恋に憧れる乙女でしたが不思議と彼に惚れたりなどしませんでした。
「いや。堺さん今日は御越し頂きありがとうございます。先程紹介致しました息子の鈴輝です。どうぞこれからもよろしくお願いします。」
「いえいえ。この社交会の間も本当に落ち着いていらっしゃる。鐘森さんに似て才能を感じますね。娘の美甘です。ほら挨拶を」
「ご紹介に預かりました、堺 時雨です。」
鐘森さんは落ち着いた雰囲気の中に迫力がありました。牙を隠して近づいてくる野心家に思います。逆に鈴輝様の方は静かに相手を観察するような眼差しでした。まるで相手の力量を測っているように。
「お前、瞳が澄んでいて綺麗だな。」
突然の言葉にびっくりしてお冷やを溢してしまいそうになりました。この言葉に父も驚き、鐘森様は興味深そうにしていました。
「鈴輝。どういうことだ?それは婚約がしたいということか?」
「……………」
鈴輝様は何も仰いませんでした。私はじっと見られているので心臓が破裂しそうになってしまいます。この人に気に入られるということは父にとって嬉しいこと。このチャンスは成功させなくてはならない。そう思い至り緊張し強張ってしまいます。
「鈴輝。答えなさい。どういうことだ?」
「こいつ…いやこの人と話してみたい。婚約とかは後、今回のパーティーはパートナーを決める意味もあるけど、新しい事業のためにどこかと取引しないといけないのでしょう?この人がその相手になるか見定めたい。」
「!?」
父は驚きを隠しきれていませんでした。そして口元の口角が少し上がり、にやついていることも。
取引ということは手を結ぶということ。鐘森と縁を持っていれば相当力のある企業なのだろうと他の企業からも多く手を結ぶことができ、会社自体の知名度や力が倍増するだろう。これは一世一代の大仕事かもしれない。と考えているいるのでしょう。
「それなら向こうの方で話してきなさい。」
「分かった。」
父や私に有無を言わせぬ言動。それだけ力があり、逆らうことがねきぬのだろうと直感で感じました。
「…。時雨行ってきなさい。くれぐれも粗相がないようにね。」
「はい。」
少女漫画によくあるベランダ真っ黒で鐘森の趣味思考が分かります。野心家で貪欲、持てる力の全てを使って成り上がったことが分かります。
「堺 時雨と言ったな。世界は色を持って見えているか?」
突然の質問と質問の内容を理解し、回答するのに手間取ってしまいました。
「世界に色があるのは当たり前のことです。もし色がないのであれば目が悪い可能性がございます。お父様に相談されては。」
「ふん。面白くない女だ。色がないのは比喩表現だ。この世界はつまらないか、と聞いている。」
「この世界は退屈なのは認めます。でも何故その話を私に?」
「お前の瞳は色があるようで表面上どけのように感じた。類は友を呼ぶように同じように感じている人は大体分かる。」
彼の言っていることが余り理解できませんでしたが、私に意見を求めているということでしょうか?
「それで私はどうすれば宜しいのですか?」
「……。いやもう分かった。話はこれで終わりだ。」
突然終わりと告げられて私は失敗したと思いました。
ここで守りに入れば確実に彼は興味を失ってしまうでしょう。
ですが私は攻めに出ることが出来ませんでした。彼の有無を言わせぬ青い瞳は私に向けられていませんでした。
「お、帰って来ました。それではこれで。良い関係が築けることを祈っております。」
「はい。それでは。」
私がミスをしたと見れば分かるのに父はホクホクとした顔をしていました。そして私は他の人へ挨拶をしに行く鈴輝様を見て心がチクチクと痛むのが分かりました。そこで私も彼に惚れてしまったのだと分かりました。
私とほとんど同じ待遇。両親に愛されていなく、何をしてもすぐ終わらせてしまう。友達はいつも下にいる。楽しくない人生だと。同情している内に好きになってしまったのでしょうか?
それとも恋が初めてだったから一目惚れに気付けなかったのか考えても分かりませんでした。
それから先鐘森グループから連絡や訪問があったようには思えませんでした。私が失敗したために父は私に更に興味がなくなったようでした。
私は彼のことを余り覚えていません。顔つきや体つきも前とは全然違うでしよう。そして何よりこの学校にクリーム色の髪の人や深海のような青い瞳も持つ人は一人もいませんでした。
まだ登校せずに休んで要るのかもしれないと考えましたがどう考えても鐘森 鈴輝様はこの学校にはいないように感じました。
それでも三年間はお見合いをしなくて済むので私は嘘を付くことにしました。
「しぐちゃ~ん。一緒に帰ろう!」
彼女は丸山 沙耶さん。私の唯一の友達です。本当はもっと友達を作りたいのですが話しかける前に逃げられてしまいます。株式会社 堺は有名ですが何も避けることはないと思うのです。それにこの学校には鐘森 鈴輝様が居る筈なので私ごとき恐れるに足らぬと思いますが…
私は委員会や生徒会に入ることは今までしてきませんでしたが生徒会に入り、鐘森 鈴輝様と仲良くしていると説明しています。実際には居られませんが説得力の有るようにしています。
因みに沙耶さんには彼氏がいます。柊 彗也さんでしたか。第一印象や喋り方などほとんど鐘森の人間とは思えなかったのであまり関わりは積極的に持ってはいません。
そして沙耶さんの家は有名な不動産会社です。不動産会社の中では確か一番だったと思われます。ここで縁を持っておくのは大切だと思い、積極的に話しかけたりします。彼女は気さくな人なので友達も多い中私と話してくれます。家柄の影響だとは思いますが嬉しいものがあります。
「ねえねえ。しぐちゃん。デートのことなんだけどさ、お父さんにバレちゃって。付き人を二人とも連れていくことになったの。ミカンちゃんにお願いしても良いかな?」
「はい。喜んで。」
「ありかとう!彗也くんの方はね鈴…、笹田 鈴なんだけど大丈夫かな?多分二人でいることもあると思うけど。」
「大丈夫です。」
私もデートとはどのようなものか気になりますし、人見知りをしている場合ではありませ。これから先必要な技術となるでしょう。行って損はないです。それにお友達が増やせるのは良いことです。
「笹田さんも別に気になりませんので日程はどうなっているのですか?」
「今週の日曜なんだけど大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」
初めてお友達と遊びます。とても楽しみです。
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