32:母と元旦那
私は母の願いをかなえようと頑張ってきたが、やはり母のように侯爵家のことを大事なものだと思えなかった。
母は侯爵家に執着していた。一人娘の私は生まれた時から一人娘として厳しく育てられてきた。母は伯爵家の娘だったが父との恋愛結婚で侯爵家の妻になった。母は侯爵家の妻という肩書、権力と地位が大好きな人だった。そのために結婚したのだ。でも、母は最低限すべきことは全部していた。そう思えば元旦那よりだいぶマシだ。若い頃は生き生きしている母を見て少し憧れていた。親としてはダメだが侯爵夫人としては大丈夫だった。
そんな母へのあこがれが私を侯爵家に縛り付けていた。それを選んでいたのは私だ。誰のせいでもなくこの道を選んでここまで来てしまったのが自分なのだ。
泣き縋っている元旦那をぼーっと眺めながらそんなことを考えていた。
「お母さん?」
リロイが声をかけてきた。
「どうしたの?心配してるのかい?大丈夫よ。お母さんはもうあちらには戻らないわ。疲れるんだもの。」
そう言いリロイに向かって微笑む。
「なんで・・・なんでそんなこと言うんだ・・・私はエカテリーナの夫なのに・・・エカテリーナがいるべき場所は侯爵家なのに・・・なんで・・・なんで・・・」
床に項垂れている侯爵は静かに泣いて、私の方を虚ろな目で見ていた。
ここで終わりにすればいいものの往生際が悪いな。
「侯爵様、私達の離婚を認めたの誰だと思います?」
「知らない。・・・私は認めてない・・・」
「あなたが良く知っている方ですよ。」
「・・・国王様です。」
元旦那が黙っているとその秘書が代わりに答えた。
「こく・・・おうさま?なんでだ?なんで国王様が・・・あっ」
今更思い出したのだろうかこの阿呆は。国王の妃は父の姉で私の叔母だ。
母も元旦那も同じぐらいこの叔母が苦手だった。私は彼女のことが大好きだった。
小さい頃からたびたび侯爵家に来て私のことを気にしない母の代わりに私の世話をしてくれたり、先生をつけてくれたり、剣術を教えてくれる先生を紹介してくれた。私にとっては母のような人だ。
「叔母さんが離婚を認めてくれたんですよ。」




