16:侯爵家、次期当主長男のアーサーがやってきた
髪を切った日の夕方、息子達は私の髪を見て絶句した。
リロイは「なぜ俺に髪を切らせなかったんだ!こんなの短すぎるだろ!」と言われキースは「ママの切った髪欲しいけど、どこにあるの?」とちょっと意味わからないことを聞かれた。「川の傍で切ってそのままにしてあるから、まだそこら辺にあると思うよ。」というと「行ってくる。」と一言いい出て行ってしまった。
「リロイ、キースはお母さんの髪を何に使うんだ?」
「...世の中には知らない方が幸せなこともあるんだよ。お母さん。」
...なんだろうか、凄く気になるけど聞いたら聞いたで後悔する気がする。
それから数日後、また侯爵家の馬車が家の前に止まっていた。
執着されてるって聞いたけど。本当に...何してるんだこいつ等は。侯爵家の人間はそんなに暇なのか。
「お義母様お久しぶりです。」
馬車から出てきた侯爵家の長男が私の前で跪いた。確か...アーサーっていう名前だった気がするな。
「侯爵家の次期当主であるアーサー様が平民に向かって跪くとは...次期当主としてやっていいことと駄目なことぐらい、知っているはずでは?」
「お義母様に言われてしまうとは、どうやらマナーの勉強が足りなかったようです。お義母様にまた教えていただけなければならないですね。」
笑顔のまま立ち上がって私の方をじっと見てきた。
何を言っているのだこいつは。
「お言葉ですが、私は田舎町で子供達にマナーを教えているしがない教師です。侯爵家の当主なら王都で他の先生を探せばよいのではないのでしょうか。」
「お母様が屋敷に戻ってくれるなら。もう一回マナーを学びなおす約束をしましょう。」
ッチ、面倒臭い。すっごく話が長そう。
「はぁ、話はこれで終わりですか?終わりなら帰ってください。」
「お義母様に久々に会えましたからいろいろと話したいですね。」
帰ってくれなさそうだ。
「では、家の中で話しましょう。」
アーサーは満足げに頷き私の後をついて家の中に入った。
一緒に入ってきた護衛の男たちは見知った顔だ。私がまだ侯爵夫人だったころよく一緒に剣の鍛練をしていた人たちだ。
護衛達はさっきから私だと気づいていたようでなんか嬉しそうだ。私も見知った顔がいて嬉しい。
家の中に入り私が座っている反対側に座らせる。
アーサーが座っている席はドアが真後ろにある。
「それで、お話とは?」
「お義母様、単刀直入に言います。侯爵家に戻っては来てくれないでしょうか?」
「遠慮しますわ。あちらには他の夫人が三名もいるのでしょ?私が居なくてもなんともなりますわ。今更、離婚した元第一夫人がいっても...ねぇ?」
偉いあなたならわかるでしょ?アーサー。
「お義母様...父上もあの時とは違います。他の夫人達のことも心配ありません。実質、侯爵家のほとんどの仕事をしている私がなんとかしてみせます。もし、お義母様が働きたくないというのならそれでもいいです。お義母様が屋敷にさえいてくれればいいのです。愛人が欲しいというのならお義母様の好みの人間、獣人、エルフなんでも用意します。どうか、どうか戻ってきてくれませんか?」
「お断りしますわ。」
アーサーが悲しそうな顔をしていた。
ってか屋敷にいるだけって...愛人も作りたかったら作ってもいいって...どんな生活したらそんなことが思いつくんだよ。
でも、こっちも可愛い息子達との生活がかかってるからね。
「なぜなのです。もしかして、子供がいるからいけないのですか?」
知ってたか。まぁ、家の場所知ってるなら子供もいるって知ってるよな。
「子供達は関係ありません。私はただ...あの侯爵家が嫌いなのです。戻ったところでやりたいこともありませんし、それに侯爵家は私ともうなんの関係もありません。」
私が何回も諦めるように言っても諦めない。
何その粘り強さ...どこからそんなエネルギー持ってくるんだよ。私もう疲れたよ。




