取材
──11月某日、いつものカフェ
「やはり年金問題は深刻で近々破綻すると?」
「えぇ、そうですね。この統計からみる限り、既に崩壊しているといって過言ではありません。数年以内に確定拠出型年金のススメという形で政府は──」
──パシャ! ピー、パシャ!
「すいません、ちょっとカメラに目を向けてもらっていいですか?」
「あ、はい──こうですか?」
「はい、そのままちょっとジェスチャー加えてみて下さい。……そうそう、それで自信に満ち溢れた様な表情で──もう少し顔の角度をそのまま上げてもらって──はい、そのまま~」
──パシャパシャパシャ……
──1時間後
「──ふぅ、これで終了です。お疲れ様でした。この内容は翌月発売の次号に掲載予定です。内容を事前に送りますので、もし訂正がありましたらご指摘お願いします」
「はい、分かりました。すいません、わざわざお越し頂いて。こちらから出向いても良かったのですが、ちょっと時間が取れなくて……」
「いえいえ、とんでもない! こちらこそわざわざお時間作って頂きありがとうございました。では、今後とよろしくお願いします」
──カメラマンと取材人が帰って1分後
「……えっと、な、何やってたんですか? 上杉さん」
「あ──ユキさん、ごめんね。ちょっと取材を受ける適切な場所、ここしか思いつかなくて。やっぱ迷惑だったよね、2時間弱こんな事してたら……」
「あ、いや、それはいいんですけど……取材って──しかもあんな大がかりな……上杉さん、ホント何者なんですか?」
「ん? フリーの占い師って──」
「話聞こえてきましたけど、占いの内容なんて話してなかったじゃないですか! 年金問題とか投資問題とか金融問題とか! しがないFPって言ってましたけど、絶対違いますよね!」
「ん~、ま、いっか。はい、一応、これが本業の名刺ね」
「──! えっと……IFAって何の組織ですか?」
「えっと、和訳をするなら独立系FAという感じかな。要するに、日本に留まらずに世界を股にかけてファイナンシャルアドバイスする人だよ、って意味」
「……全く分かりません!」
「え~っと。んじゃ国内FPの仕事の説明からね。FPとは────」
──30分後
「──という事。理解出来た?」
「えぇ、大まかには♪ それでIFAはFPとは違うんですよね。IFAの説明、今度はお願いします♪」
「正確にはIndependent Financial Adviserの略なんだけど──」
──45分後
「──という事。大まかには分かった?」
「大体は♪ 漸く加藤さん……いや、ジュンさんの正体が見えてきた気がしました。ああいう取材受けるくらいですから、やはりそれなりにお稼ぎになっていそうですよね」
「いや~、ちょっと特殊な立場のFPだから、ごく稀に取材受けたりするけど、取材費殆ど貰えないし、ホント実際は厳しいよ。出来れば本業1本で食っていきたいけど、中々、ね……」
「大丈夫、ジュンさん、きっと大成しますよ♪ 私が保証します♬」
「ありがと。ん~、ホントそうなったらいいんだけどね」
「今度──いつ来ます?」
「あ、暫く出稼ぎに出かけるから、半年は来れないかな……」
「あ、そうなんですか──もう少しジュンさんの話を聞きたかったのですが。私も受験があるので今月でここ辞めるんですよ……」
「ま、機会があったらどこかで会えるよ。受験はこの街でするんでしょ?」
「はい、●●大学を受験予定です」
「じゃ、今度ユキさんに会う時は大学生だね。受験──頑張ってね」
「はい♪ また今度♬」
──この様な軽い繋がりの場合、共通の場所がなくなれば二度と巡り合わないのが普通である。が、2人は意外な場所・シチュエーションで偶然にも再会する事となる。