現場のおじさん
──1カ月後の8月某日
──カランコロン♪
「いらっしゃいま…せ? ──あれ? 上杉……さん?」
「あ、こないだはど~もね。いや~、暑い! 取りあえずお冷2杯持って来て。その後、ホットね」
「……な、何やってるんですか? 作業服着て……」
「ん? 今日はたまたま近くで現場仕事あったからね。その帰りにちょっと寄ってみただけよ」
「い、いや……何で現場仕事してるんですか? 占い師じゃなかったんですか?」
「あ、その日暮らしっていったじゃん。占いだけじゃ食えないから」
「……凄い苦労されているんですね。あれだけの才能──というか頭のキレがあっても、やはり占い師だけじゃ食べられないんですか……私の友達や知り合い、紹介しましょうか?」
「お、優しいねぇ~。ありがと、気持ちだけ貰っておくよ」
「──え?」
「あ、いや……ん~、ま、いっか。仮に俺がホントに占いだけで食べていきたいと思っているなら、その話は喜んで乗るけど、実際そうじゃないからね」
「──え??」
「趣味の一環というか本業の為の訓練というか、ね。色んな人を観察する事が意外に大切で、ね。それで、現場仕事もやってるのさ」
「……全く話が見えません」
「ま、色んな人の生態観察とでもいえばいいのかな? 言い方悪いけど、現場までいかないと、ああいう人達に触れ合う機会ないし、思考も読めないから──あ、ちょっと待って、電話だ」
「……」
「もしも~し、はい、森岡です。えぇ、先ほど現場出てます。……えぇ、ではお疲れ様でした、失礼しま~す。──と、ごめん、何の話だったっけ?」
「えっと……上杉さんじゃなかったでしたっけ? 今、森岡って……」
「あぁ、上杉は占いの時の名前、森岡は現場の時の名前ね」
「よく分からないんですが、なんで名前を使い分けているんですか?」
「まぁ、本業の兼ね合いでこんな事してるのがバレちゃいけないからね」
「……おじさん、ホント何者なんですか?」
「ん? 単なるその日暮らしのフリーの占い師兼現場仕事しているおじさんに過ぎないよ。──ふぅ、ごちそうさま。じゃ、また」
「は、はい……」