幻の研修
「あ、そうそう、明後日1人でやるんだよね。本番前にちょっと研修させてよ」
「──え? 研修?」
「いや、実際ユキさんの代わりに俺がやり取りする事になるじゃん。どんな風にやっているか、雰囲気を味わっておきたいかな~と思ってね」
「あ、いいですよ。場所はxx店でやろうと思ってますので、15時集合でいいですか?」
「ん~、13時くらいにならないかな。16時くらいからちょっと用事入ってるんだよね。で、場所はどうせなら候補地の一つのC店でやらない?」
「分かりました。じゃ、明後日C店の13時に集合で♪」
「おぉ、ありがと。じゃ、明後日にー」
──当日13時少し前
「(ハァハァ)お待たせ~。ここ、ちょっと駅から遠いから予定時間に合わせる為に急いで来ましたよ。じゃ、早速行きましょうか♪」
「ユキさん……ご、ごめん! さっき連絡があって、予定が前倒しになって13時半になっちゃった」
「──え?」
「だから……その~、俺から言い出した事なのに申し訳ないんだけど……今日の研修キャンセルで明日からぶっつけ本番でいい?」
「……ま、しょうがないですね。では私は当初の予定通りにxx店でやりますので、せめてそこまで送っていって下さい」
「もちろん! ……ホント、申し訳ない!」
「あ、別にいいですよ~。明日は大丈夫ですよね?」
「明日は確実。どんな話来ても断るから。……怒ってない?」
「──え? 何でですか?」
「い、いや……何となくその笑顔の裏に修羅が見えた気がして……」
「な~に言ってるんですか~。この程度の事で怒る筈ないじゃないですか~。これくらいで怒っていては仕事なんて出来ないですから♬」
「おぉ、流石、強いね。今後はこういう事ない様にするよ」
「は~い」
急な用事が入って予定キャンセルにも怒る事なく笑顔で平然としていた様に見えたユキさん。──が、それはあくまでも表面上だけである事を、翌日嫌という程、知る事になる。
──翌日(初日)、ネカフェ内にて
「昨日はホントごめんね。で、昨日はどうだった?」
「いや~、散々でしたよ。この私が、成果ゼロでしたよ」
「あちゃ~、やっぱダメな時はダメなんだ」
「えぇ、誰かさんのせいであまりやる気になれなくて……」
「──え?」
「昨日は2人でやる心構えでいたんですよね~。それがいきなり誰かさんが、ね~。切り替えるのって難しいんですよね~」
「ご、ごめん……」
「いや、気にしないで下さいね。別にジュンさんを責めている訳ではないですから」
「う……」
「急用が入っちゃうのはしょうがないですよね~。私だって急用が入る事だってあるでしょうし、同じ事する可能性だってありますからね。ただ、ね~」
──以後、30分強ネチネチ精神攻撃モード継続──
「──だから、昨日なんてあれから夕方までに8回もカルボナーラとからあげクン食べる事になったんですよ」
「それ、食べ過ぎじゃ……」
「私、腹が立つ事がある度、お腹いっぱい食べる癖あるんですよね~」
「……うぅ、もうお許し下さいませ。二度と同じ過ちは犯しませんので……」
「いや~、そんなつもりで言ってる訳じゃないんですけどね~」
この経験で分かった事──表面上で怒っていない風に見えても内心は腸が煮えくり返っている事だってあるよ、と。表面に出さない人のが恐ろしいよ、と。ユキさんは典型的だよ、と。……ユキさんだけは怒らせてはダメだよ、と。