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「援して何がいけないの?」~闇に舞い降りた天才援交少女~  作者: ジュン
最終章:人の3倍の速度で時間が進んでしまう少女
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結婚式ー最終話ー

「──では、新郎新婦の入場です」


 会場のライトが消え、後ろのドアにスポットライトがあてられる。結婚式の始まりである。全体で100人前後であろうか、今の時代にしては少し豪勢な結婚式となるであろう。


──高いお金出して、わざわざこんな結婚式しなくてもいいのに。そのお金を新婚生活で遣うとか新婚旅行に充てればいいのに。


顔は笑っているものの、内心そう思っていた。


「あなた、そんな顔しないで。今日はあの子にとって一番幸せな日なんだから。ほら、もっと笑顔で、ね」


いつもと変わらない笑顔のつもりだったが、知らぬうちに内心が表情に出てしまった様だ。ただ、一般の人では分からないであろうほんの小さな変化に気付くのは、さすが長年連れ添った妻という事だろう。


「ほら、あの子、あんなに幸せそうにしてる……ちょっと前にはあんなに小さい子供だったのに、ねぇ……」


定番の式の流れの中で所々でしみじみ独り言のようにしゃべる妻は既に半泣き状態である。


──今からこの調子じゃ、これからの思い出アルバムや娘のメッセージで号泣するだろうな……


と、ワインで軽く口を潤しながら思わず苦笑した。


 決して何も心に来るものがない、という訳ではないものの、別に今生の別れになる訳でもあるまいし、と、感慨にふけている人を少し冷めた目でみる自分はおかしいのだろうか?



「──それでは、新郎新婦の思い出の写真を紹介したいと思います」


 式は進み、気が付いたら半ばを過ぎクライマックスへと向かっていた。


──ふぅ、もう少しで式も終わりか。こんなものか、娘の結婚式というのは。もっと心に響くものがあると思ったけど、想像以上に冷静だ。それどころか、つまらないと思っている自分すらいるし。……親失格だな、俺。


 軽い失笑と共に、スクリーンに目を向ける。それと同時に会場の灯りが消え、スクリーンに否が応でも視線を奪われる。


「──これは新婦さんの中学生の頃です」


真っ暗の会場の中、スクリーンに流れる昔の娘の写真と共に流れる進行役の声。まるで催眠術にかかった様に、半意識状態で画面を見つめる。


────!


娘の写真の筈なのに、何故か《《彼女》》にすり替わった気がした。そして、走馬灯のようにあの時の彼女との出来事が頭に蘇る。


眼を瞑ってみる。彼女は消えないどころか、ますます鮮明な映像になり、瞼の裏を支配する。


 今まで心の奥底に閉じ込めていた思い・感情が一気に飛び出し、胸が張り裂けそうになる。コナン君の世界軸に憧れていた彼女、他の人の数倍の速度で時間が流れていた彼女、それに合わせるかの様に全力で駆け抜けた彼女、どんな苦境でも笑顔で乗り越えていった彼女、ギリギリまで平然を装って笑顔だった彼女──そして笑顔で旅立っていった彼女。


 ありふれた小さな幸せ、大好きな人と結婚して子供を作って静かに生きていく事が最大の夢だと言っていた彼女──それは叶わない夢だと諦めていた彼女。


 そんな彼女の幸せを祈っていた自分。見守る事しか出来なかった自分。話を聞いてあげるしか出来なかった自分。──何も出来なかった自分。


 様々な思いが溢れ出し──泣いた、アホみたいに。



「────た、──なた、あなた! 大丈夫?」


妻に話しかけられ、ふと我に返る。いつの間にか会場の明かりは戻り、アルバム紹介が終わっていた。


「やっぱりあなたも泣くじゃない。普通の立派な父親だよ、やっぱり」

「あ、あぁ……」


まさかホントの事を言える筈もなく、ばつが悪そうに横を向いて相槌を返す。


「ちょ、ちょっとお手洗いにいってくる。後、タバコも1本吸ってくるわ」

「──分かった。なるべく早く戻ってきてね。もうすぐクライマックスだから、ちゃんと見守ってあげて……」


そういう妻の言葉を背景に、会場から逃げる様に出ていった。



「ふぅー……」


 気が付けば2時間近くもタバコを吸っていなかった事もあり、やけに上手く感じる。ニコチンがいい感じに身体中にいきわたるにつれ、冷静さを取り戻していく。


「……はは、こんな時に彼女の事を思い出して泣くなんて、ホント、酷い親だな、俺──」


軽く自己嫌悪に陥りながら思わず独り言を呟く。式が進行中という事もあり、喫煙所にいるのは自分1人である。まぁ、式の終盤に抜け出す不謹慎な人は他に誰もいないであろう。


──バタン! コツーン、 コツーン・・・

(あれ? 式から出てきた人いるのか。お手洗いかな?)


背後の音で、振り向く事もなく判断する。


──コツーン、コツーン……


近づいてくる足音。

(フッ、俺と同じ様に一服しに来る人、いるんだ。不謹慎だなぁ。足音から推測すると、女性か)


振り向く事もなく、思わず苦笑する。


──コツン、キュッ!


足音が自分の背後で止まる。

(──? 何故俺の背後に?)


そして数秒経過、時が動き出す。


「こんにちは! お久しぶりです、ジュンさん!」

「────!!」


振り返って瞳に飛び込んできたもの、それは思わず見惚れる飛び切りの天使の笑顔だった。


Fin


※エピローグへ続きます。

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