ゲーム
今回はジャック目線です
新入生歓迎会の日、会場に入る前から令嬢たちに捕まり始まる前から俺は疲れていた。会場の中でも囲まれ疲れるだけだろうと思いながら会場に入ると、いつもと違う。いつもなら集まる視線が会場のある一点に集中している。その視線の中心にいるのは今では学院中が知る2人、リュカ・ノヴィックとソフィア・アンダーソン。『パーティーに婚約者をエスコートせずにあの人は・・・』と呆れもう一度彼らを見ると、リュカの頬が腫れているのが見えた。
「よっ、ジャック!見たかあの顔。」
「久しぶりジャック!」
「ああ、久しぶりだな。」
話しかけてきたのはいつもの2人、チャーリー・ホバットとアンドレア・ペータース。
「あれね聞いた話だと数日前にハーボット嬢との婚約解消した時に殴られたらしいよ。」
「ついに言い出したか。それでハーボット嬢の父上にでもやられたか?」
「いや、まず婚約破棄を言い出したのはハーボット嬢だそうだ。学院が始まる前にケリつけときたかったんだろうな。両親に自分から話をしたらい。」
「でっ、弟のハリーからある程度話を聞かされてた父上様が怒って即解消の手紙をノヴィック家に出したんだって。手紙を受け取ったノヴィック家当主はビックリ。」
「本人に聞いたところ悪びれる様子もなく『ソフィアを心から愛しています』だの『サラは性格が悪い』だのほざいた上に、今アンダーソン嬢が着てるドレス、あれも勝手に作ってたんだと。」
「それで父上様にやられたって。」
「あの人、バカか・・・。」
あの人は何をしてるんだ。昔は目標にしようかと思うくらい凄く出来る人だったはずだ。それがアンダーソン嬢と距離が近づくにつれいい話は聞かなくなった。嫡男ともなればなおさら、後を継いだ時の事も考え人脈作りもこの学院に在籍している間にしなければならない重要な事なのに。
暫く2人と話をしているといつもの悪い遊びの話になった。
「今ならハーボット嬢いけるんじゃないか?」
「普段からスキが無かったから近づけなかったけど、リュカもいないし。平気そうに見えても結構落ち込んでんじゃない?」
「いや、さすがに学院の中でゲームはまずいだろ。」
俺たちは社交デビューをして以来、誰が一番女を落とせるかと時折ゲームをしていた。
「手出ししなきゃ大丈夫でしょ。今回はいつもみたいに関係持っちゃダメだよ、面倒事になるから。」
「相手がこっちに惚れたなと思ったらゲーム終了って事か?」
「そうだね。友達以上、恋人未満ってやつかな。でっ誰が行く?」
「ジャックだろ。俺らの中じゃ一番令嬢たちには優しい紳士って人気だしな。」
「しかし・・・。」
このゲームを止める事も出来ず、結局俺はハーボット嬢にダンスを申し込みに行った。
「ハーボット嬢、一曲踊って頂けますか?」
ハーボット嬢は差し出した手をただ見つめ固まっている。いつも何事もサラリと返す彼女には珍しい。渋る彼女の手を取り一曲踊る。ダンスをしている間中、会場の方々から彼女に対する陰口や鋭い視線が飛んで来ていた。
それ以降、普段の学院生活が始まっても彼女とよく話をするようになった。今まで周りにいた令嬢たちのように俺に媚を売るでもなく、本当に自然に接してくれる彼女に俺は惹かれていった。ゲームから始まった関係だという事も忘れて。
もうすぐ夏季休暇に入ろうかというある日の放課後、俺たち3人しかいなくなった教室でアンドレアが聞いてきた。
「ジャック、最近ハーボット嬢とよく一緒にいるよね。」
「サラ?そうだな。」
「えっ、いつの間に呼び捨て!」
「あー1か月ほど前かな?」
「そうなの?じゃあゲーム終了だね。」
「えー、落ちちゃったのかよ。ハーボット嬢だけは落ちないだろうなって思ってたのに。」
「落ちるって・・・、あっ!」
「負けた俺たちからのご褒美何がいい?」
「いや、それは・」
『今回はゲームは関係ない』そう言おうと思った時、廊下で人を呼ぶ声がした。
『サラー、忘れ物あったー?』その声が聞こえたと同時にドアからガチャと音がした。そしてバタバタと走り去る音。一瞬固まってしまったが直ぐにドアを開け走り去る彼女に叫んだ。
「サラ!サラ、待って!」
もちろん彼女は立ち止まる事無く立ち去った。
「あー、話聞かれたかな?」
「夏季休暇まで数日は気まずいけど、まあ休み前で良かったな。」
後悔だけが押し寄せその場から動くことすらできない。
「違うんだ。」
「ん?何が違うの?」
「ゲームじゃない、今はもう・・・本気なんだ・・・。」
今ここで本気だと伝えてもサラには聞こえない。
その日からサラは俺を避けるようになった。何とか誤解を解こうと声をかけようとしても、彼女の友達に邪魔をされる。そして最悪の状況のまま夏季休暇に入ってしまった。