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逃避行

「サラです。」


 待ちわびた人の声がした。声が聞こえた瞬間ジャックは駆け寄り勢いよくドアを開けた。そこには会いたくて会いたくてどうしようもなかった、サラの姿があった。ジャックは何も言わず腕を引き寄せサラを抱きしめた。


「会いたかった。もう二度と会えないかと思った。」


 暫く黙って抱きしめていたジャックだが時間がない事に気づきサラに聞いた。


「サラ、ここに来てくれたって事は、俺との未来を選んでくれたって事だよね?」

「・・・・ジャック様。・・・本当にいいのでしょうか。今なら・・・」


 サラにはまだ迷いが残っていた。自分は修道院に行くと決めていたから、もしこのままジャックと離れずにいれることは嬉しい。でも今まで親の後を継ぐべく努力してきたジャックの未来を本当にこのまま自分が潰していいのだろうか。そんなサラの迷いを察したかのようにジャックは答えた。


「さら、俺は君以外の人と未来を共にするつもりはないよ。もし父の後を継ぐために君と別れなければならないなら、全てを捨ててでも君を選ぶ。陛下から言われた時、余りの衝撃で何も言えなかった。そのせいでサラに辛い決断をさせる事になった。すまない、俺がもっと早く動けていれば、サラに修道院に行くなんて言わせずに済んだのに。自分が情けないよ。」

「ジャック様・・・、私・・・、足手まといにしかならないかも・・・・それでも・・・いいの?」

「俺の横で笑っていてくれるだけでいい。」


 気持ちを確かめ合った2人は宿主に礼を言い、用意されていた馬車に乗りブレイングを目指した。車中で友たちからの手紙を見せてもらったサラは涙を流し続けた。


 どれくらい走り続けただろう、目的地ブレイングの宿キャリーに着いたのは深夜だった。宿泊客を受け入れる時間はとうに過ぎていたが、宿主のカールはジャック達の到着を待っていてくれた。部屋に案内され、軽い食事まで用意してくれる。何故そこまで良くしてくれるのかと聞くと、チャーリーは自分の恩人だと言う。こんな自分でもやっとチャーリーの役に立つことが出来たと嬉しそうに語り、何でも協力すると言ってくれた。


 その晩は数日ぶりによく眠ることが出来た。手を伸ばせば手の届くところにお互いがいる安心感もあり2人は泥のように眠った。翌朝目が覚めた2人は遅めの朝食を取りながらこの後何処に向かうか話していた。サラの体力を考えると本来はもう1泊したいところだが、端とはいえまだ王都の中だ、いつ捜索隊が来てもおかしくないので早めに少しでも遠く離れる必要があった。あてが何もない2人、ずっと宿に泊まり続け旅をするわけにもいかない。ジャックが考え込む様子を見ていたカールが『ラセラはどうか』と聞いてきた。サラはもちろんジャックも聞いたことがない町だった。このブレイングから2日ほど馬車に乗る小さな町だが、その町にカールの従兄妹が経営する商会があり、そこで従業員を捜していると言う。『事務関係全般をこなせる人物が必要だが、小さな町で教育もまだまだ行き届いていないため人がいないんだ。あんたがいいなら従兄妹に紹介状を書くよ』そう言ってくれたカールの行為に2人は甘える事にした。

 荷造りをしている間に馬車と紹介状を用意してくれたカールに『いつになるか分からないが、必ずお礼に伺う』そう伝えキャリーを後にした。


 途中の町で1泊し、馬車も一度乗り換え、ブレイングを出て2日目の夕方やっとラセラに到着した。普段から仕事のため馬車や馬での長距離移動に慣れていたジャックとは違い、初めての長距離移動だったのに加え、1週間前に王命を受けてから食事もほとんど受け付けていなかったサラは、ラセラに着いた安堵感から体調を崩してしまった。

 翌日まだ体調が完全に戻っていないサラを宿に残し、ジャックはサンキスト商会へ向かった。


 町の中心部にサンキスト商会はあった。ドアを開け中に入るとカウンターがあり、女性が1人座っている。


「すみません、代表のセドリックさんはいらっしゃいますか?」

「失礼ですが。」


 代表を訪ねてきた見たこともない若い男を不信な目をして見る女性、


「私ジャックと申します。キャリーのカールさんに紹介して頂いたのですが。こちらがカールさんからの紹介状です。」

「少しお待ちください。」


 カールと言う名を聞き少し態度を変えた女性は、紹介状を受け取り店の奥へ入って行った。それから数分後、戻ってきた女性は奥の部屋へ行けと言う。女性に礼をし店の奥へ入って行くと、突き当りにドアがあった。軽く深呼吸し、ドアをノックする。


「どうぞ、お入りください。」


 耳障りのいい声が聞こえた。『失礼します』そう言いジャックがドアを開けると中には父ほどの年齢のふくよかな男性が『そちらにお座り下さい』と笑顔で招き入れてくれた。


「カールの手紙で大体の事情は分かった。うちとしては早急に計算なども出来る人材を探していたので、君が来てくれると助かるよ。」

「ありがとうございます。あの、お願いをしておいて言うのもなんですが、何も聞かずに雇い入れて頂いて本当によろしいのですか?」

「君の話はまたおいおいね。カールが恩人から頼まれた人だからと言ってるから大丈夫。ところで、手紙には女性も一緒だと書いてあるが?」

「はい。婚約者です。今日も一緒に伺う予定でしたが、初めての長距離移動で体調を崩してしまいまして、今は宿で休ませています。」

「そうか、それは心配だね。仕事の話だが、いつから働ける?」


 1日でも早く生活の基盤をしっかりと作りたいジャックは『明日からでも!』と答えた。笑いながらセドリックは『明日から来てくれると、うちも助かるが家も探したりせねばならないのでは?いつまでも宿暮らしではお金もかかってしまうだろう』とジャック達が住む家まで紹介してくれた。


「家の片づけや準備もあるだろう。彼女の体調も見ながら今週はこの町に住む準備を整えて、来週からうちに来てくれ。頼りにしてるよ。」


 セドリックと別れ宿に帰ったジャックはベットで寝ているサラに今日の事を報告した。


「明日体調がいいようだったら、家を見に行こう。」


 明日からサラと2人の新たな生活が始まる。


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