それぞれの決意③
心を決めたジャックはさっそく準備に取りかかった。自分がいなくなった後、他の者が困らないよう仕事を整理するため次の日は今まで通り仕事に向かった。そして仕事を遅くまでこなし、邸に戻ったジャックは父と母へ向け短い手紙を書いた。
父上、母上 様
サラは陛下が取り持つと約束して下さった結婚より修道院に入る道を
選びました。
俺も何度も考えましたが、サラにそんな思いをさせてオリヴィア姫と
の結婚を受け入れる事が出来ません。どうしても断りを入れれない様
なので家を出る事に決めました。
そんな事くらいでと思われる事でしょう。
父上、母上にもご迷惑をおかけします。申し訳ありません。
ジャック
公爵でありこの国の宰相である父の息子が王命に背くのである、何のお咎めも無いわけがない。父や母に多大な迷惑をかける事は分かっていたが、どうしてもサラの事を諦める事ができなかった。
翌日、手紙を机の上に置き、大事な書類が置いてあるので部屋に入らぬよう侍女に告げ家を出た。王宮に向かう途中で『寄る場所がある。後は馬車を拾うから迎えは必要ない』と馭者に伝え馬車を降り、チャーリーに指定された建物へ向かった。中に入ると机の上に荷物と手紙が置かれていた。ジャックは用意された平民の服に着替え、手紙に書かれた場所へ向かった。
サラはマーガレットと会うべく カフェ モントレー へ来ていた。友人と最後の時間だからとイライザと馭者を一度帰らせた。イライザも普段ならサラ1人を残すことは無いが、あと数日で修道院に行くと決めた主の意向をくみ友人と2人になることを了承した。
「サラ、来てくれてありがとう。」
「ううん、最後にマーガレットに会えて私も嬉しいわ。本当はエレナやクロエにも会いたかったけどね。」
「サラ、聞きたいことが本当はたくさんあるの。でも時間が無いから率直に聞くわね。」
そう語る友人の顔は真剣そのもの、何かものすごい事を決意したかのような。
マーガレットは大きく深呼吸し、サラに語りかけた。
サラが修道院に入ると聞き、一昨日チャーリーとアンドレアがマーガレットのもとを訪れ、ある計画を持ちかけて来たと言うのだ。それはジャックとサラを駆落ちさせるというもの。ジャックはサラが修道院に入ると知って、全てを捨てサラと共に生きる道を選んだと言うのだ。
「でも、そんな事をすればジャック様が・・・・。みんなにも迷惑がかかるわ。」
「そんな事はどうだっていいの。今回の事はジャック様からお願いされたのでもない、私たちの方からジャック様に持ちかけた話なの。それだけ今回、陛下が下された王命に私たちも腹が立ってるの!」
「でも・・・・」
「サラ、あなたがジャック様や私たちの事を思い修道院に入ることを選んでも誰も文句は言えないわ。でも誰も喜ばないわよ。もしあなたがジャック様を選ばず彼のもとへ行かなくてもジャック様はたぶん家に戻らないわ。」
「えっ。」
「だって家に戻ればオリヴィア姫との結婚は避けられないでしょう。それだけは受け入れられないって、それだけの覚悟を持って家を出られたの。」
「マーガレット、私・・・・・、ジャック様と、一緒に・・いていいの?」
王宮で陛下から王命を聞かされ今まで我慢していた気持ちが溢れ、涙が止まらない。
席を立ち私を優しく抱きしめながらマーガレットは続けた。
「サラ、ジャック様がいなくなったと分かれば捜索隊が出されるでしょう。時間が無いの。ジャック様は町はずれのアリオスと言う宿で待ってるわ。裏口に場所を待たせているから、目立たぬようこれに着替えて行きなさい。」
「ありがとう、マーガレット。」
マーガレットが用意した服に着替え、店の裏口に止まる馬車に乗り込んだサラ。
「マーガレット、1つお願い。父たちに伝えてくれる?ごめんなさいって。」
「分かったわ。幸せになるのよ、サラ!」
先にアリオスに着いたジャックは宿主から手紙と荷物を渡された。
『夕刻までお前たちが帰らない事に気づくと捜索隊が出されるだろう。
ハーボット家の方はマーガレットが何とかしてくれる。サラ嬢が来たら
ブレイングのキャリーと言う宿まで行け。そこから2人で何処に行くか
この先の事を話し合え。
これは俺たちからの餞別だ。少ないが生活が安定するまでの足しに
使ってくれ。2人の幸せを祈っている。
2人の友人 チャーリー、アンドレア、マーガレット 』
ジャックが宿に着き2時間近く経つがサラはまだ現れない。
サラは自分と歩む道を選んではくれなかったのだろうか、不安に押しつぶされそうになった時、ドアを叩く音がした。