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それぞれの決意①

 王宮から戻ったロレンツィオらを迎えに外まで出てきた執事オリバーは2人の異様な雰囲気に驚いた。


「おかえりなさいませ。」

「ああ、アリアとハリーを居間に呼ぶように。それとサラを自室へ送った後イライザとオリバーも来てくれ。」

「かしこまりました。お嬢様、自室へ参りましょう。」


 オリバーに抱えるようにして部屋に着いたサラはイライザに室内着に着替えを手伝ってもらいベッドに倒れ込むように寝転がった。



 イライザが居間に行くと既にみんな集まっていた。


「遅くなり申し訳ございません。」

「いやいい。サラは?」

「今はベッドでお休みになっておられます。」

「そうか。‥‥‥国王から王命が出た。」

「王命ですか?」

「5日の間にサラとジャックの婚約解消が決まった。そして15日の夜会でジャックとタージル国のオリヴィア姫の婚約が発表される。」

「なっ!」

「なんてこと・・・・。レオ、サラは・・・」

「2回目の婚約解消だ、あの子に何の落ち度はなくとも世間ではよく言われることは無いだろう。陛下が良き夫を見つけるとおっしゃった。」

「ジャックは何をしてるんだ!」

「ジャックも初めて聞かされたようだった。私たちと同じく動けずにいたよ。」



 その日サラは夕食にも姿を見せなかった。翌日も自室から出ることは無く、窓際に置かれた椅子に座り遠くを眺めていた。母やイライザが『あなたが本当に倒れちゃう。少しでも食べて。』と果物など食べやすい物を持って来るが、2口ほど口に入れやめてしまう。そして次の日の朝、食堂にやって来たサラは自分の決意を家族に伝えた。


「お父様、お母様。・・・・私、修道院へ参ります。」

「「サラ!」」


 悲痛な叫びのような声で父と母は娘の名前を呼んだ。


「王都にいるのが辛いなら領地に戻ってもいいんだ。」

「お父様・・・。目の前でお二人の姿を見るのも嫌、世間から噂を聞くのも嫌、辛いの。だから・・・、ごめんなさい、お父様、お母様、親不孝でごめんなさい。夜会までに修道院へ行きます。」


 それは相談ではなかった。サラの中では揺るぐことのない決意であった。普段何があっても、顔色を変える事のないオリバーや侍女たちも『何故、お嬢様だけがこんな思いを2度もせねばならないのか』と涙を浮かべ、拳は強く握られていた。





姉の決意を聞きハリーは王宮に来ていた。ジャックに一言言わなくては気が済まないのだ。

ジャックのいる宰相執務室まで来たハリーは普段ではありえないがノックもせずに扉を開いた。


「ジャック!あなたは姉さんを何故守れなかったんだ!」


 部屋に入り、そう叫びながらソファーに座るジャックに詰め寄った。今にも殴りかかりそうなハリーを部屋にいたチャーリーとアンドレアが慌てて止めた。


「放せ!俺はこの人を許せないんだ!姉さんをどん底に落とし、家族から姉さんを奪う!」

「ハリー、分かった。ちょっと落ち着け。ジャックだってこんな事望んでないんだよ。」

「でも!」

「僕たちも今、ジャックから話を聞いて驚いてたところだよ。王命って一言で片づけていい問題じゃない。姉さんをないがしろにされた君の気持ちも分かる。でも・」

「ハリー、俺はもう君たちからサラを奪う事出来ないんだ・・・。もう・・・。」

「ハリー、すまない。全ては私の力不足だ。」


 そう答えたのはロレンツィオだった。この場にロレンツィオがいた事にやっと気づき、ハリーは落ち着きを取り戻た。そして改めてジャックを見て驚いた。今までこんな弱々しいジャックを見たことが無かった。彼はいつも自信に満ち溢れ、スキのない男だったはずだ。ハリーの目から見てもジャックが今回の事で憔悴しきっていることは明白だった。でもジャックを責めることを止めれなかった。


「そう、あなたには奪われることは無くなった。でも姉さんは今朝、修道院に行くって決めたよ。父さんや母さんが何を言っても駄目だった。親不孝な娘でごめんなさいって。夜会の日までには家を出るって。・・・あなたとの婚約が無ければ姉さんは、こんな道を選ばなかった。やっぱりあなたが俺たちから姉さんを奪うんだ!」

 


「サラ嬢が・・・修道院に・・・」


 その場にいる者みんなが言葉を失った。


 ハリーが帰った後、チャーリーとアンドレアはジャックを家まで送り届けた。サラが修道院に行くと知り、一段とジャックの状態が悪化したためロレンツィオが家に帰したのだ。

 ジャックを家に送り届けた二人は顔を見合わせ何かを決意し互いに頷くと、馬を走らせた。



 二人が向かったのはマーガレットの邸宅だった。

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