王命
この回よりしばらく、1話の中で色々な人の目線が入ってます。
卒業したジャック様は宰相補佐となり毎日王宮で忙しい日々を送っている。私もまた孤児院に出向いたりお茶会に出席したり、グルーバー家へ出向き公爵家について勉強したりと忙しくも充実した日々を送っていた。そしてジャック様はそんな忙しい中でも私との時間を大切にしてくれ、時間を見つけては顔を見に訪れてくれた。この時はこの幸せな日々が続くとお互いに思っていた。
夏、隣国タージル国との外交が少し怪しくなってきた。戦はさけるべく国の宰相であるジャック様の父ロレンツィオ様はタージル国へ出向くことが多くなった。それに伴い補佐を務めるジャック様もタージル国へ出向く。春まで学院で毎日顔を合わせる事が出来た。卒業してもジャック様が頑張って時間を作ってくれたので週2回は会う事が出来た。それが最近では月に2回会えればいいところだ。淋しい思いが募るが来年までと思い自分のできることを頑張っていた。
そんなある日思いもよらない話が持ち上がった。
「ロレンツィオ、ジャックとオリヴィアを結婚させないか?」
交渉のためタージル国王を訪れているロレンツィオにサーチス王は語りかける。
「うるさい大臣たちを黙らせるには一番いい方法だと思うんだがなー。我が国とミズリー王国宰相子息の結婚。」
「昨年、連絡させて頂きましたよね?ジャックには婚約者がいます。あなたも祝って下さったではないですか。お忘れですか?」
「もともとオリヴィアとジャックは結婚する予定だったろ?」
「何を今さら。」
「いや実はこの夏初めてジャックに会ったオリヴィアがジャックを気に入ってな、今では仕事でこちらに来るのを待ち望んでる。」
「そのようですね。」
ジャックが共にタージル国王宮を訪れた時にはオリヴィア姫がジャックにまとわりつき、仕事が遅れがちになっていた。
サーチス王には3人の子供がいるがオリヴィアは唯一の姫であり、サーチスは目に入れても痛くないと言うほど娘を溺愛している。その娘が願ったからと言っても破断をさせてまで娘の願いを叶えさせようとするのはいかがなものか。
「陛下、あえて友として言わせていただきます。あなたが娘を溺愛するのは自由だ、しかしその我が儘を聞くためには何人もの心を傷つけ、人生を狂わせる事になる事を忘れないで頂きたい。あなたは国王です。『冗談だ』では済まないのです。結婚という人生にとって大切な事をそんな簡単に言わないで下さい。」
さすがにその後サーチス王もこの話題を持ち出すことは無かった。
両国の関係も何とか落ち着き、ロレンツィオとジャックがタージル国を訪れる事も無くなった。
ミズリー王国では毎年12月15日に王宮で大きな夜会が行われる。その夜会を目前に控えたある日ロレンツィオとジャックは国王ベルスに呼ばれた。
「2週間後に行われる夜会にタージル国王夫婦とオリヴィア姫が来ることになった。ジャック、オリヴィア姫のエスコートをするように。」
「陛下!ジャックには婚約者がおります。エスコートは・」
「ジャック、分かったな。下がりなさい。ロレンツィオ、そなたにはまだ話がある。」
異論を呈すまでもなくジャックは下げられた。
サーチスが夜会に来る、しかもオリヴィア姫のエスコートをジャックにさせる・・・。以前サーチスから提案された結婚について、あの話をしてからもう2か月は経つ、あの話はもう終わったのではなかったのか。ロレンツィオは嫌な予感がした。
人払いをし部屋に2人きりになるのを待って国王ベルスが驚く提案、いや王命を発した。
「ロレンツィオ、ジャックとハーボット嬢の婚約を1週間以内に解消しろ。」
「!」
「そして2週間後の夜会でジャックとオリヴィア姫の婚約を発表する。」
「何故!タージル国王は以前私との話で結婚は諦めたのでは・・・納得したのでは・・・」
「お前の親としての気持ちはよう分かる。しかし外交がかかっておる。貴族に生まれたものならしょうがあるまい。」
「しかし、サラは・・・」
「ハーボット嬢の事もちゃんと考えておる。私がよき夫を見つけよう。」
「・・・」
「ロレンツィオ、これは王命である。明日、レオナルドと共にハーボット嬢にも王宮へ出向くよう使いを出してある。そなたもジャックと一緒に来なさい。」
王命と言われては何もできない。ロレンツィオは友のやり方に怒りがこみ上げ、また何もできない自分にも苛立つのであった。
結局ジャックには何も言えずに当日を迎えた。何も知らされぬままジャックは父と共に王宮の一室へと連れて行かれた。そこにはサラとその父レオナルドが先に来ていた。
「父上、なぜサラもいるのですか?」
そう聞いた時、国王が部屋に入って来た。
「みな揃っておるな。楽にせよ。今回集まってもらったのは、そなたたちの婚約について話があるからじゃ。・・・・、ジャックとサラ嬢の婚約を今日から5日の間に解消してもらう。そして15日の夜会にてタージル国オリヴィア姫とジャックの婚約を発表する。」
国王から語られた言葉にロレンツィオ以外の3人は目を見開き固まった。
この話を知っていたロレンツィオは悔しさと何も出来ない不甲斐なさで血が滲むほど拳を握りしめている。
国王はさらに話を続けた。
「サラ嬢においては2度目の婚約解消となってしまうな。あなたに何の落ち度も無いのもよく知っている。あなたには私が責任を持って良き夫を見つけると約束する。」
まだピクリとも動かぬ3人を見まわし
「話は以上だ。」
そう言って国王は部屋を後にした。
「サラ、とりあえず家に帰ろう。」
レオナルドはそう言い、サラの方を抱き抱えながら部屋を出ていく。部屋に残ったロレンツィオとジャック。
「うぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・!」
なんとも言えない声をジャックがあげた。ロレンツィオも息子のそんな姿を見るのは始めただった。